わたしたち人間が持っている特別な能力の一つに、「非認知能力」というものがあります。
「非認知能力」とは、学力やIQに代表されるような定量的に測定できる「認知能力」以外の能力のことです。
具体的には、社交性、自制心や協調性など、「社会的スキル」と呼ばれるような環境依存の能力で、定量的な数値化が難しいものと言われています。
非認知能力は、近年、教育経済学からも注目されていて、認知能力を伸ばす教育に投資するよりも非認知能力を伸ばす教育に投資することで、貧困に陥るリスクを回避し将来の社会保障費を削減できることが説明されているほどです。
本記事では、非認知能力の調べ方や伸ばし方、非認知能力を身につける効果についてご紹介していきます。
こちら。
非認知能力に関する記事一覧は「学びに向かう力」
非認知能力は、学力などの認知能力と相対するものではなく、相互に作用しています。
非認知能力を伸ばすと認知能力も伸びるという研究結果も報告されていて、非認知能力が学力を伸ばす要素の一つでもあります。
もっというと、個人の学習能力、問題解決能力、社会的適応能力などに大きな影響を及ぼすということです。
非認知能力は、勤勉性、自己管理能力、精神的安定性、協調性などを含み、学習プロセスや課題に取り組む際の認知プロセスをサポートする重要な要素になります。
たとえば、「勤勉性」が高い子どもは、スマートフォンの通知や友だちからの魅力的遊びへの誘いなど気が散りやすい要素から自分を遠ざけることができ、自分に必要な学びに集中することができます。
この集中力や自分をコントロールする力は、情報の処理、記憶、問題解決能力など、認知能力の多くの要素を向上させることにつながると言われています。
また、「協調性」が高い子どもは、グループ活動で周りと協力し、異なる視点や立場の情報を受け入れて、新しい知識を築いていくことができます。
それにより、批判的思考や創造性が育まれる土壌となりますし、より柔軟な思考を持ち、異なるアイデアを統合して問題を解決する能力も高まります。
これが、非認知能力が学びに向かう力とか、子どもが将来豊かな人生を歩んでいく上で大切な人間基礎力とも言われる所以です。
なお、EQ(Emotional Quotient、感情指数)ということばも耳にしたことがある人は多いと思いますが、非認知能力とEQは、両者ともに個人の成功や幸福に影響を与える重要な要素ですが、厳密にはそれぞれ異なる概念を指します。
こちらの記事で解説しておりますのでご覧ください。
非認知能力についての注目すべき研究
非認知能力研究の第一人者は、ジェームズ・ジョセフ・ヘックマン(James Joseph Heckman)氏ですが、彼の有名な研究の一つに、「ペリー就学前調査」介入研究があります。
非認知能力を伸ばす教育を行うことで、将来の職業生活、社会生活、健康面に影響を与え生活に関連するリスクを軽減できるとすることを報告した有名な研究です。
この調査は、1962〜1967年にかけてミシガン州イプシランティにおいて3〜4歳の就学前幼児で貧困地帯で生活していた58世帯を対象に実施されました。
集団を実験群と統制群に分け、実験群の子どもたちには非認知能力を高めるための幼児教育プログラムを毎日実施し、その後、約40年に渡る追跡調査が実施されています。
非認知能力を強化する教育プログラムを受けた子どもたちは、犯罪に巻き込まれる確率が低く、収入が高く、自己所有の家を持つ割合も高いことがわかっています。
この結果は、非認知能力の早期教育が子どもたちの将来の仕事、社会生活、健康などに良い影響を与え、リスクを減らすことを示唆しています。
また、ハーバード大学では、幸福度に関する研究で、約80年間にも及ぶ追跡結果を行われました。
この研究でわかったことは、幸せであるかどうかには「人間関係の豊かさ」が強く関係しているということでした。
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さらに、オックスフォード大学の研究では、ボランティア活動を通して地域のコミュニティで良好な人間関係を築いている社交性や協調性などの非認知能力が高い人の方が幸せな人生を歩んでいるということがわかっています。
世界中の名門大学でも、ボランティアなどの社会貢献活動の実績があるかどうか(≒非認知能力の高さ)を入学条件にしているところも増えてきました。
もちろん、経済的に満たされていることも幸せの一つの要素かもしれませんが、金銭的な豊かさや経済的な成功がある一定の水準を超えると、幸福度は横ばいになるという研究結果もあります。
家族や友人との良好な人間関係を築いていて、さらに社会に貢献しているということが幸福度の一番のポイントなのです。
非認知能力の調べ方
定量化することができないと冒頭でお伝えしましたが、非認知能力をある程度可視化する指標はあります。
その中の指標の一つの「ビッグ・ファイブ」が有名です。
ビッグ・ファイブは、人間の性格を記述するためによく用いられる理論で、性格を5つの基本的な次元で捉えます。
ビッグ・ファイブの各次元は以下の通りです:
- 外向性(Extraversion):外向性が高い人は社交的、活動的、話好き、エネルギッシュといった特徴を持ちます。反対に外向性が低い人は内向的で、静かで、ひとりでいることを好む傾向があります。
- 協調性(Agreeableness):協調性が高い人は他人に対して友好的、協力的、同情的です。低い人は批判的、競争的、自己中心的な振る舞いを示すことがあります。
- 誠実性(Conscientiousness):誠実性が高い人は組織的、責任感が強く、信頼できると評価されます。低い人は無計画、怠惰、または注意散漫と見られがちです。
- 神経症的傾向(Neuroticism):神経症的傾向が高い人は情緒が不安定で、より多くのストレスや不安を経験しやすいです。低い人は感情的に安定しており、冷静さを保つことができます。
- 開放性(Openness to Experience):経験への開放性が高い人は好奇心が強く、創造的で新しいことへの興味が高いです。低い人は伝統的で保守的、新しい経験に対して消極的かもしれません。
ビッグ・ファイブの理論は、人材管理、心理療法、教育など多くの分野で応用されていて、行動、感情、対人関係のスタイルを理解するのにも役立ちます。
このビッグ・ファイブの各要素のポイントが高いほど人生への満足度が高いと言われています。
非認知能力は、他者との関わり合いの中で育み、時間と共に発達していくものですが、それぞれの要素は、発達段階で形成されていく性格の一要素でもあります。
先ほど、子どもの非認知能力の早期教育の重要性を述べましたが、実は非認知能力は、何歳になっても伸ばすことができます。
各要素が低いことは決して悪いことではないですが、非認知能力のそれぞれの要素を一定水準高めていくことで、異なる背景をもつ人々との交流が加速され経験に深みが出たり、価値観が広がり、社会に出た時にいい影響をもたらす可能性が高いと言われています。
非認知能力の伸ばし方
先に述べたように、非認知能力は、単にテキストを読んだり覚えたりすれば獲得できるものではなく、他者との関わり合いの中で育み、時間と共に発達していくものなので「taught by somebody」(誰かに教わるもの)とも言われます。
「能力」とか「スキル」というよりも、個々の特性に応じながら、環境に対する適応能力である「コンピテンス」(competence)という言葉が用いられることも多くなってきました。
非認知能力が育まれないと、子どもが発達していくために必要な社会行動(目標を立てる、達成する、がまんする、他者と協力するなど)が十分にできずに、学習にも影響が出てしまうなど、学校生活でのトラブルが生じやすくなる可能性も考えられています。
では、子どもの非認知能力を高めるには、どうしたらいいのでしょうか。
ここでは、一番基礎的なポイントを共有したいと思います。
それは、発達段階に合わせて脳を育てる、ということです。
幼少期は過度な知育よりも、たっぷり遊んでしっかり寝るなど健康な心身の基礎となる生きるための脳を育てることが重要です。
規則正しい生活や運動習慣を通して健康な身体をつくり、小学生に入ってから、ルールのある複雑な遊び、勉強、技術の必要なスポーツなどに取り組むなど知性を伸ばす活動に取り組むというステップです。
そうして、感情のコントロールや他人に対する思いやりを身につける土壌をしっかりと築いていくのです。
受験のための学習や学力を重視した教育、つまり認知能力の獲得に傾斜してきた学校教育の弊害として、「生きる力」である非認知能力が育まれていない若者の増加が報告されるなど、社会的課題としても問題化しています。
受験に成功し高学歴であることは努力の結果でもあり素晴らしいことですが、卒業後に職業生活、社会生活に上手く適応できない人も広く認識され、認知能力だけではなく非認知能力の必要性が認識され始めています。
私たち大人も、今からでも非認知能力を高めることでより心豊かになるかもしれません。
非認知能力を調べてみる
「才能発掘診断」では、「ビッグ・ファイブ」に「自己肯定感」を加え、現時点での非認知能力を推測することができます。
「自己肯定感」は、特に学齢期の子どもが社会的スキルを身につけていく中で変化の大きな要素です。学びに取り組む意欲につながる重要な要素として追加しています。
他者と関わりながら成長し、社会の中で生きていくための人間力を育んだり、効果的な学び方のヒントにもなるので、興味がある方はやってみてください。
才能発掘診断は、Gifted Gazeが提供する、子どもの才能や特性を発掘する診断テストです。
親御さんがお子さんについての約100問の質問に答えて、「多重知能理論」(「MI理論」)に基づく知能特性と非認知能力を推測することができます。
才能発掘診断で、お子さんの個性や才能、そして、ぴったりの学び方を見つけてみましょう。
参考文献
【アメリカ】 ペリー幼児教育計画-50歳時の追跡調査への準備
こちら。
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