大人になった私たちも、年に数回は忘れ物をすることがあるでしょう。
しかし、「いつも忘れてしまう」「何度言っても忘れてしまう」など、子どもの忘れ物の多さに困っている親も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、療育や児童精神科勤務の経験を持つ臨床心理士が、子どもの忘れ物の理由と対策を紹介します。
この記事を書いた専門家
いけや さき
公認心理師、臨床心理士
精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。
子どもの忘れ物が多くなる原因とは?
忘れ物自体は、多くの人が経験のあることでしょう。うっかり忘れたり、調子が悪くて忘れたりすることもありますよね。
しかし「言われても何度も忘れる」「大事なものをよく忘れる」などの頻度が多い子どもには、大人が共に対策を考えてあげる必要があるでしょう。まず、対策を考える前に「子どもの忘れ物が多くなる原因」の一例を紹介します。
・整理整頓が苦手である
・聞き逃しや見逃しをしている
・置く場所が決まっていない
・準備時間が短い
・持ち物を把握していない
・記憶するための脳の容量が小さい
子どもによって理由はさまざまであり、本人の特性ではなく環境が原因である場合も考えられます。
子どもの忘れ物は「ADHD」と関係ある?
忘れ物が多いと聞くと、近年は「ADHDでは?」と考える人も増えました。
それほど、神経発達症(発達障害)が浸透してきたということですよね。
しかし、忘れ物の多さはADHDの特性の1つですが、「忘れ物が多い=ADHD」ではありません。
ADHDかどうかをご家庭や学校のなかで、まず考えるヒントとなるのは、
【忘れる物】【頻度】【認識】【ほかの特性】
と考えられます。
こちらの記事でワーキングメモリのことは詳しく解説していますので、ここでは割愛しますが、ADHDの特性の1つはワーキングメモリの低さです。
その場合、興味のあることは覚えていても、大人が大事だと思うものは忘れやすいことがあります。
忘れ物以外の特性もあるか観察してみましょう。
忘れ物が多い子どもへの対策3選
忘れ物の多い子どもは、どのような対策をすれば忘れ物を減らせるのでしょうか。
今回は大きく分けて次の3つのパターンの対策と、具体的なサポート方法を紹介します。
①ランドセルにチェックリストやメモを貼る
②入れる場所を固定する
③子どもに合わせた方法を模索する
それでは詳しく1つ1つ見ていきましょう。
対策①ランドセルにチェックリストやメモを貼る
小学生の子どもで忘れ物が多い場合は、ランドセルのフタの裏を活用してみましょう。
よく忘れがちな物を書き出したチェックリストやメモを貼り付けて、視界に入るようにするのです。
この対策を実行しても忘れることはありますが、少しでも防止するための方法として有効でしょう。
宿題や学校のプリントを持ち帰ることはできるけど、家から持って行く物を忘れることが多い子どもの場合は、部屋のドアなどにチェックリストを貼るのもおすすめです。
対策②入れる場所を固定する
保護者への手紙や、体操着などの洗濯物の出し忘れが多い子どもの場合、入れる場所の固定化がおすすめです。
きょうだいがいる場合、それぞれの名前を書いたボックスやファイルを用意して、1人ずつ入れられるようにするといいでしょう。
また、学校で提出忘れを防ぐために保護者の手紙返信用のファイルを別で作るなど、自分の持ち物と提出しなければならないものの区別ができるように工夫する方法も1つです。
対策③子どもに合わせた方法を模索する
①や②はよくある忘れ物のパターンですが、ほかにも忘れ物の理由や対策の仕方はあります。
子どもの特性や状況に合わせた方法を、子どもの様子を見たり話し合いをしたりしながら試していきましょう。
ファイルを変更する
授業で配られたプリントを入れるファイルと、提出物用のファイルを明確に区別してみましょう。
何でも1つにまとめられるファイルがある方がいい子もいますが、1つにすることでわからなくなる子もいます。
子どもに合わせて、次のような方法を試してみるといいかもしれません。
・「宿題」と書いたシールを貼ったファイルを作る
・ファイルの色、サイズ幅、種類を変える
サイズ幅を変える場合、提出物を入れるファイルは少し分厚いものを用意することで、荷物はかさばりますがランドセルの中で目立ちます。
種類を変える場合は、一般的なクリアファイルには授業プリントを入れて、ジッパー付きなど違う素材や種類のケースを忘れ物防止用にするとわかりやすいでしょう。
整理の仕方を変える
整理整頓していても、忘れ物が多い子どももいます。
この場合、子どもの特性と整理整頓の仕方があっていない可能性が考えられるのです。
カラフルなボックスで色分けした方がいい子もいれば、ボックスの種類は同じでも入れる物の名称が書いてある方がわかりやすい子もいます。
また、細かく分類しすぎることで考えることが増えて混乱する子どももいるでしょう。
その場合、3種類くらいなど少なくしてあげることで「どこに入れるか」がわかりやすくなることもあります。
ツールを活用する
「①ランドセルにチェックリストやメモを貼る」以外に、リマインダーアプリやキーホルダーなども活用できます。
リマインダーアプリは家でしか使用できないですが、タブレットやスマホを使って「準備する時間」を知らせてもらうことで、自分で覚えておかなくても思い出させてくれるでしょう。
キーホルダーとは、「忘れ物防止キーホルダー」「忘れ物チェッカー」と呼ばれているものです。
筆者が療育施設に勤めていた頃、何人かの子どもがバッグに忘れ物チェッカーをつけていて、自分で忘れ物を確認していました。
参考にAmazonで購入できるリンクを貼り付けておきます。
持ち物を工夫する
ADHDの特性を持つ子どもの場合、持ち物を工夫すると興味が出ることがあります。
たとえば、シンプルなファイルではなく好きなキャラクターのファイルにする、チェックリストにかわいいシールを貼るなど、テンションが上がる工夫がおすすめ。
「宿題忘れないようにする」ではなく、「好きなキャラのファイルを毎日家に帰ったら出して、学校にも一緒に連れて行こう」というイメージをさせるのです。
ほかにも、無くしものが多い子は大切にできるようにあえてキャラものにして、意識を高めさせるという方法もあります。
ただし、こちらの方法も合う子と合わない子がいるので、自分の子どもに合うか試してみてください。
興味を持てる目的を考える
ADHDもしくはASDの特性を持つ場合、こだわりや興味関心の影響から、忘れ物をすること自体にデメリットがない場合もあります。
大人からすると「忘れ物をしない」ことが当たり前という認識になりやすいでしょう。
しかし、発達特性のある子どもからすると、先延ばし癖やこだわりの影響もあり「忘れ物をしてしまうことが当たり前」「忘れ物をしないことのメリットがない」のです。
だからと言って開き直るわけにもいかないこともありますよね。
そんなときは、先ほど紹介した好きなキャラクターのものを持ち歩くように、本人が関心の持てる目的を考えてみましょう。
宿題をすることで、どんなことが得られるのか、学習面や将来の夢に繋げて目的を考えることなどがおすすめです。
忘れなかったときにできたことを認める
忘れ物をしやすい子でも、ちゃんと持って行くときや提出することもあります。その時を見逃さないようにしましょう。
もし忘れ物をしなかったときは「やればできるんだから、明日から~」「明日からちゃんとやってよね!」というような反応は、絶対にしないでください。
せっかく忘れ物をしなかったのに「色々言われた」という体験となって、やる気がなくなってしまいます。
代わりに「出してくれてありがとう!」「早めに出してもらえてお母さん助かる!」「ちゃんと提出できたんだ!やったね!」とできたことに目を向けて「認めて」あげましょう。
忘れ物をしない機会が0の子には、忘れ物とは関係なくても本人の得意分野を認めてあげましょう。
できることに目を向けてもらえる経験は、子どもの自己肯定感アップにつながります。
【番外編】忘れたときの対処法を教える
最後に、もし忘れ物をしたときに、どうすればいいかを教えてあげることも大切です。
子どもは「忘れたといわない」「隠そうとする」「誤魔化す」「逆ギレする」「泣く」などをしてしまいがちです。
涙は自然に出てくるものなので難しいですが、「(学校なら)先生に」忘れたことをどのように伝えるかルールを決めておくといいでしょう。
忘れ物があまりにも多い子の場合、先生の協力も得られるよう相談してみてください。
忘れ物以外に子どもの行動が気になったら
子どもの忘れ物は、工夫次第で減らすことは可能です。
しかし、工夫の仕方は子どもの特性や状況次第で異なるため、今回紹介した方法を試しながら「自分の子に合う方法」を見つけてみてください。
Gifted Gazeはすべての親子の味方です。忘れ物や発達特性のことでお悩みの保護者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
「注意欠如・多動症(ADHD)特性の理解」(2017)村上佳津美
「第Ⅲ部 通常の学級におけるADHD児の 実態把握と支援」(2004)独立行政法人 国立特殊教育総合研究所 情緒障害教育研究部
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