才能を見つけて発展させる「STEM教育」〜そして、「STEAM教育」へ〜

子どもたちの才能を観察し、引き出すために有用とされているのが「STEM教育」です。

STEM教育は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の領域を統合的に学ぶことで、子どもたちの才能を引き出し、彼らの好奇心と問題解決能力を促進するアプローチです。

このような活動は、伝統的な日本の知識偏重の教育方法とは異なり、子どもたちが現実世界の問題に対応するための、貴重な生きた学びの機会なのです。

本記事では、STEM教育の重要性や、具体的なSTEM教育の機会、そしてSTEMを発展させた「STEAM教育」についてもご紹介します。

まず、STEM教育を行うことで具体的に子どもたちにとってどのような学びの効果があるのでしょうか。

具体的なプロジェクトでいうと、例えば、水質汚染など環境問題を解決するためにはどのような方法があるのか、調べるような活動です。

子どもたちはまず住んでいる近所の水路の水がどれほど汚染されているか把握するという科学的な調査を共同または分担して行い、測定した数値やデータを比較し、議論し、デジタルツールなどの技術を使用してみんなで解決策を設計するという活動などです。

このような活動によって期待できる効果を以下のようなものが挙げられます。STEM教育の特徴とその効果がわかると思います。

  • グループワークや体験学習が多いため、他者と協同し異なる意見や見方に触れ合い多様性が育まれる
  • 決まったやり方や結論にこだわらず新しいものを探求するため創造力が育まれる
  • 子どもたちがもともと得意とすることや夢中になれることを取り入れるため、知的好奇心がさらに刺激され学びが広がっていく(科学的探究や数学的思考の能力が深まる)
  • 他者のアイデアや考え方も尊重しながら、協力やコミュニケーションのスキルを育む効果もある

このような活動の中で、子どもたちは、大人が想像する以上の成果を見せてくれることさえあります。

STEM教育は、ギフテッド・チルドレンと呼ばれるような特異な分野に突出した才能がある子どもにとっても有用です。

ギフテッド・チルドレンは、科学や数学に対して、非常に強い興味や高度な理解を示すことが多いためです。

特に、科学の分野で優れた才能があるギフテッド・チルドレンは、以下の特性があると言われています。

1. 科学的好奇心が高い
2. 明確な想像力を持っている
3. アイデアを表現する際に数字や図を使用する
4. 関連する質問をすることで好奇心を示す
5. 既存の答えに依存しない
6. リーダーシップがある

例えば、高度な数学的問題を解決したり、科学実験を通じて新しい理論を検証する活動は、ギフテッド・チルドレンが自分の才能に挑戦し、それをさらに発展させる絶好の機会なのです。

STEM教育を活用して、ギフテッド・チルドレンの高い知的好奇心と創造性を刺激することが重要です。

STEM分野は世界で急速に成長しています。将来、多くの職業がこのSTEM分野での知識が必要なためです。

また、STEM教育は、実践を重視するため、実世界の問題を解決するためのアプローチを学ぶための有用な機会です。

子どもたちは自分の周りの世界をより深く理解し、将来、どのような分野に進んでも成功するための基礎を築くこともできます

小さな子どもがキッチンで親と一緒に簡単な科学実験をしているシーンを想像してみてください。たとえば、重曹と酢を使った火山の噴火実験。この活動は、子どもに科学の基本的な原理を教えるだけでなく、なぜそのような反応が起きるのかを考えさせ、観察力と好奇心を刺激します。

学校や家庭でのプログラミングの授業があります。子どもたちは、コンピューターゲームやアプリを作る基本的なコードを学びます。プログラミングは、単にコードを書く技術以上のものです。問題を細分化し、段階的に解決する論理的な思考プロセスを必要とします。

子どもたちがクラスで橋やビルのモデルを作る工学プロジェクトに取り組むシーンを想像してください。物理学の原理を理解するだけでなく、どのようにして強くて安定した構造を作り出せるかを考えます。子どもたちはチームワークを学び、互いのアイデアを共有して最適な解決策を見つけ出します。

買い物をする際の割引計算や、料理のレシピの分量を調整することなど、数学は私たちの日常生活に密接に関連しています。子どもたちに数学の問題を実生活の状況に適用させることで、数学が抽象的な概念だけでなく、実用的なツールであることを理解させることができます。

このように、STEMのプロジェクトを通じて、子どもたちは新しいアイデアを生み出し、それが現実の世界とどう繋がるか、どのように活用できるかなどを考えます。

こうして創造性を刺激し、イノベーションの精神を育むわけです。

子どもたちが自分自身の強みのある領域に挑戦的な課題を組み込むことは、自尊心と自己達成感を高めることができますが、さらに興味を高め好奇心をより促進するためには、さまざまなツールを提供することも重要です。

愛媛大学教育学部の隅田学教授は、学ぶ機会の提供に加え、さらなる探求への機会についての重要性も語っています。


子どもたちが、STEM分野で自分の強みを発見し、自尊心と自己達成感を高めるためには、実践的なプロジェクトや体験学習の機会が不可欠です。

愛媛大学のキッズアカデミアでは、子どもたちが自らの興味に基づき、独自の科学実験を計画し実施することで、科学的探究過程を深く理解し、同時に学びへの興味をさらに深めることができます。

活動について、以下10のガイドラインを掲げていますので参考にしてみてください。

Kids Science Academy: Talent Development in STEM from the Early Childhood Years-Manabu Sumida

日本では、従来の学習指導要領に基づく教育から、より創造性を重視する教育へのシフトが少しずつですが進んでいます。
2020年度の新学習指導要領の全面実施により、プログラミング教育の必修化など、STEM教育の要素が強化されました。

近年では、「STEM教育」をこれを発展させ「STEAM教育」というものが子どもたちの学びにおいて重要な役割を担っているとされています。

「STEAM教育」とは、STEM教育にアート(Arts)の要素を加えたもので、科学、技術、工学、芸術、数学の分野を統合的に学ぶアプローチです。

STEM教育も、先に説明した通り創造性を育むことができるのですが、STEM教育が科学技術の知識と技能に重点を置いているのに対し、STEAM教育はそれに加えて創造性やイノベーション、デザイン思考をさらに重視します。

芸術を通じて、科学や数学をより深く理解し、創造性やイノベーション能力をさらに高めることを目指しているのです。

アートを組み込むことで、子どもたちはより広い視野を持ち、科学技術に対する新たな視点を獲得し、多角的な思考が促されるという考え方が強調されています。

例えば、分かりやすい例だと、工学と美術を組み合わせたプロジェクトで、子どもたちは技術的なスキルを活用しつつ、美的感覚を養い、独自の製品やアートワークを創り出すプロセスを通じて、両分野の統合的な理解を深めることができます。

このように、デザイン思考や創造的問題解決能力を育てます。

文部科学省は、「STEAM教育」の推進を図り、学校でのアート教育と科学技術教育の融合に向けた取り組みも進めています。

子どもたちの創造力や問題解決能力を養うためのプログラムの導入や地域社会と連携したプロジェクトや産業界との協力による教育プログラムも増えていきているように感じます。

科学技術の知識の習得だけでなく、実社会や他の分野にも広げられる創造性や表現力を養う機会を得ることを重視した動きと言えます。

今の世の中は、単なる知識を身につけることだけでは、予測困難で不確実、複雑で曖昧な時代(「VUCAの時代」)を柔軟に生きていくことが難しいとされています。

この、変化のスピードが速い時代で、STEM教育やSTEAM教育は、子どもたちの将来の可能性を広げるためのより強力なツールとなっています。

子どもたちと一緒に、散歩中に植物や動物を観察し、なぜそのように生えているのか、どのように動いているのかを話したり、季節の変化や天気の変化について話し合い、それらが生物にどのように影響を与えるかを探ってみてください。

料理をするときに、温度変化や材料の混ぜ合わせによって食品がどのように変化するかを観察し、化学反応について話してみましょう。YouTubeで科学実験や宇宙、動物についての興味深い動画がたくさんあります。子どもたちが楽しむだけでなく、一緒に観てみてください。

子どもを特別なプロジェクトに参加させなくても、身の回りにもSTEMを実践できるツールがこんなにもあるのです。

子どもたちは、日常の中でも、大人が問いかけると驚くようなアイデアや見方を私たちに提示してくれるかもしれません。