苦手なことやネガティブな出来事について、捉え方を変えたら前向きになれた、視点を変えたら解決法が見えたといったご経験はありませんか?そのように物事の捉え方を変えることを「リフレーミング」と言います。
リフレーミングをすると、新たな気付きが得られたり気持ちが楽になるだけでなく、前向きな行動やコミュニケーションにも繋がります。
この記事では、リフレーミングとは何か、子育ての場面での活用方法について詳しく解説します。

執筆:山崎 日菜乃
公認心理師・臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
リフレーミングとは
リフレーミングとは、物事を捉える枠組み(frame)を変え、違う枠組みを使って捉え直す、意味付けし直す(reframe)ことです。
例えば、「私は頑固だ」を「私は粘り強い」と捉え直したり、「今日は寒くてどこにも行けなかった」を「寒い日に家で温かく過ごせた」と意味付けし直すなど、きっとみなさんも自然にリフレーミングをしているのではないかと思います。
同じ絵や風景でもどこに注目するかやどんな額縁で飾るかによって印象が様々に変わるように、一つの出来事でも捉え方意味付けの仕方は無限にあります。
そして、捉え方や意味付けの仕方を変える(リフレーミングする)ことによって、感情や言動、人間関係にも連鎖的に変化が生まれます。
リフレーミングとポジティブ思考の違い
リフレーミングはポジティブ思考とは違い、ネガティブな意味付けをポジティブに変えることに限らず、今持っている枠組みを変えて別の捉え方をすること全体を指します。
ポジティブに捉えなければいけない、今までの価値観を手放さなければいけないなどと思うと、その思いが新たなとらわれとなってしまいます。
リフレーミングをするには、一つの枠組みにとらわれず、柔軟で自由な思考ができることがポイントです。
そして、リフレーミングの目的は”よい変化をもたらすこと”です。
例えば、これまで「子供が門限を破るようになったので親が厳しく叱るようになった」という枠組みで捉えていた出来事を、「親が厳しく叱るようになったので子供が門限を破るようになった」とリフレーミングするとします。
そうすると、これまでとは違った対処法やコミュニケーションの取り方が見つかったり、見落としていた側面に気付くことができるかもしれません。
この2つの捉え方はどちらかが合っていてどちらかが間違っているわけではなく、同じ出来事をどう捉えるか(どの部分を強調するか)に差があるだけです。
今の捉え方でうまくいかない時は別の捉え方や意味付けをしてみる、それによってよい変化が出てくるか確認してみる、そうした取り組みがリフレーミングです。
リフレーミングのメリット
新たな気付きが得られる
これまでとは違う枠組みで物事を捉えると、今まで気付かなかったことや注目していなかった側面に気付くことができます。
例えば、「この子は落ち着きがない子だ」という枠組みを、「この子は好奇心旺盛だ」「この子には行動力がある」のようにリフレーミングすると、お子様のもつ力に気付けたり、お子様の行動の見え方が変わってくるかもしれません。
リフレーミングができると一つの捉え方に固執しなくなるため、自分のもつ力やサポート源を見つけやすくなったり、物事を多面的に捉えることもできるでしょう。
気持ちが楽になる、前向きに行動できる
枠組みを変えることで物事の捉え方や意味付けが変わると、それに伴って気持ちも変化します。
例えば、何かに失敗して「やっぱり自分はダメなんだ」と意味付けすると落ち込んでしまうかもしれませんが、「ナイストライだ」「次への成長のチャンスだ」と意味付けし直すことで、辛さが和らいだり自分を認められたりするかもしれません。
また、そう捉えることでモチベーションや心のエネルギー、自信が保たれ、次回に向けて練習や工夫をしたりといった前向きな行動もとりやすくなるでしょう。
コミュニケーションが豊かになる
子育てにおいて、周りの大人の持つ枠組みがお子様に与える影響は大きいものです。
例えば、周りの大人が「この子は問題児だ」という枠組みで捉えるとお子様本人もその枠組みで自分や出来事を捉えるようになるでしょう。
リフレーミングのスキルを使うと、より多面的に自分や相手、物事を理解できるので対話もしやすくなります。
また、一つの枠組みにとらわれることがないので、相手の意見も柔軟に受け止めて豊かなコミュニケーションができるでしょう。
お子様が自然と素敵なリフレーミングをしてくれることも多々ありますよね(雨は嫌なものだという大人の枠組みに対して、今日は長靴はけるね!水たまりで遊べる!など)。
何気ない一言も、リフレーミングについて知っているとより素敵に感じられたり、楽しいコミュニケーションに繋げられるかもしれません。
リフレーミングのやり方:子育てでの具体例を紹介
場面1:「発表会で失敗しちゃった…」と子供が落ち込んでいる時
リフレーミングできそうなところを探す視点として、子供の話をよく聞くことが重要です。
「たくさん練習頑張ってたよね」などと声をかけてあげましょう。
そして、「頑張ったけど、緊張してうまくできなかった」という子供の気持ちを受け止めましょう。
「そっかぁ、悔しいね。よく頑張ったね」と子供の様子を見ながら、リフレーミングの声かけをしてみましょう。
「緊張するくらい一生懸命チャレンジできたんだね」や「最後まで発表できたね、たくさん練習したからかな?」など。
リフレーミングは一度ではまらないこともあります。
子供も、「うん、でももっと上手にできる子はたくさんいるよ」というような時には、できたことやどうしたいかに目を向けるような声かけもいいでしょう。
「そうだねぇ、今回の発表でよかったところ/できたことはあるかな?」「○○ちゃんはどんな風に発表できたらうれしい?」など。
また、「お母さんは/お父さんはこういうところがよかったと思うなぁ」という風に個人的な意見を伝えてあげるのもいいですね。
リフレーミングのポイント
本人の気持ちに寄り添いつつ、今回の経験に対して「失敗」や「緊張は悪いものだ」といった意味付けだけでなく、
などにも視野を広げつつ、別の意味付けにも気付けるよう、サポートできるといいですね。
まずは本人の感じ方を否定せず受け止めることが大切です。
その上で、本人の様子を見ながら、無理のないペースでより心の支えになるような意味付けができるようサポートできるといいですね。
場面2:「私はダメな親なんじゃないか…」と落ち込んだ時
まずは、悩みを少し具体的にしてみましょう。
例えば、「”ダメ”って具体的にはどういうことだろう?」と考えてみると「子供にすぐ怒鳴っちゃうし、子供の好き嫌いも直せていないし…」ということが具体的になっていくと思います。
パターン①:例外を探してみましょう。”すぐに怒鳴らない時はない?”
「子供にやるべきことや危ないことがない時はすぐには怒鳴らないかも」ということが考えられると「ダメな親っていうより、子供がやるべきことをやらないのが心配だったり、子供の安全を守りたいのかもと、根本的な理由に気づくことができるかもしれません。
パターン②:自分のことじゃないとして考えてみましょう。”家族や親友が同じ状況だったらどう声をかける?”
→「子供のことを真剣に思ってるんだね」「子供のために色々試行錯誤して頑張ってるんだね」「好き嫌いを自由に言えるのも親を信頼しているからかもね」などと声をかけるかもしれないと思ますよね。
そうすると、「ダメな親っていうより、私は子供を大事に思っているからとにかく心配なんだな」「ダメなところがある自分も子供は信頼してくれていて、のびのびと好きなことを言えているのかも」と考えることができるようになります。
リフレーミングのポイント
「ダメな親」などのぼんやりとしたレッテルがあると、何もかもをそこに結びつけてしまい苦しくなってしまいやすいです。
リフレーミングをするためにまずは自分の思考を具体的にしてみましょう。
しかしながら、自分ではなかなかリフレーミングをするのが難しいこともあります。
そういう時は誰かに出来事や思ったことを話してみたり、一緒に考えてもらうのもおすすめです。
相手のふとした言葉やリアクションから、新しい気付きが得られることもあるでしょう。
リフレーミングのアイデアの集め方
自分以外の考え方に触れる
同じ出来事を経験しても、他の人が自分とは違った捉え方をしていて驚いた経験がある方も多いのではないでしょうか。
自分がいつもしている捉え方とは別のものを取り入れるには、捉え方や意味付けのバリエーションにたくさん触れておくことが役立ちます。
日頃から、いいなと思った捉え方や意味付けをメモしておくと、気に入ったものをリフレーミングに使えるかもしれませんね。
また、お子様の柔軟で素直な思考がリフレーミングのヒントになることも多いものです。
こんな捉え方や意味付けもあるんだなぁという視点を持って過ごしてみると、リフレーミングに役立つだけでなく、相手に対する新たな発見があったり人間の面白さがより感じられるかもしれません。
出来事や考えを人に話してみる
特に自分の考えをリフレーミングする時は、別の捉え方や意味付けに気付くのが難しく行き詰まってしまうこともあるかもしれません。
そういう場合は、誰かに出来事や考えを話したり、リフレーミングのアイデアを出しあってみるのもいいですね。
人に話すことで出来事との距離がとれて自ら新たな捉え方に気付けたり、相手の言葉やアイデアからリフレーミングのヒントが得られることもあると思います。
また、必要に応じて専門家と一緒に取り組むのも一つの方法です。
話しやすい人や信頼できる人と会話しながら取り組むと、リフレーミングへのモチベーションが保てたりアイデアも生まれやすいでしょう。
リフレーミングは身近にある!
リフレーミングという言葉は聞いたことがなくても、ほとんどの方がこれまでに自然にやったことがあるのではないでしょうか。
なので、新しい方法だと構えすぎずに、気軽に取り入れてみていただけたらなぁと思います。
ご家族やご友人とどんな捉え方があるか考えたり、お互いの素敵な捉え方を見つけてみるのも楽しそうですよね。
ぜひこの記事を参考にリフレーミングにトライしてみてください。
参考
The Skill of Reframing The Center for Parenting Education
How Reframing results in happy parents (and kids)
「リフレーミングの秘訣」東豊 日本評論社(2013)