子どものやる気を引き出すコミュニケーション~「やる気スイッチ」は大人の関わり方次第!

「何度言ってもやらない!」

「毎日同じことを言っているのに、一向に自分でしようとしない…」

「子どもが言うことを聞かない!」

お子さんが言わないとやらない、好きなことばかりでやるべきことをやらないとイライラを抱えている親御さんは多いことでしょう。

家事、育児、そして仕事もしていると、目のまえのやるべきことに追われすぎて、「あれしなさい!」「これしなさい!」と指示中心のコミュニケーションになっていることが多いです。

そのようなコミュニケーションを続けていれば、言ってもやらないとさらにイライラが募っていきますよね。

この記事では、お子さんが自分で行動するようにするには、どのようなコミュニケーションを取れるとよいのか、お子さんのやる気を引き出すためのコミュニケーション方法をお伝えしていきます。

この記事を書いた専門家

日塔 千裕


公認心理師、臨床心理士

発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。

毎日、子どもに怒ってばかり…という方もいらっしゃるかもしれません。現代の子育てを取り巻く環境は、核家族が多く、シングルの家庭も増えている。

そして、家事・育児だけでなく、共働きの家庭も多い。そこに加えて、お子さんの習い事をしていたり…など、親も子どもも忙しい状況です。

昔は祖父母が同居していたり親のきょうだいも同居か近くにいたり、隣近所との関係も深く地域で子どもたちを育てているような環境で、子ども一人の子育てに関わるマンパワーがとても多かったです。

それが、現代では子育てのマンパワーが減っているので、時間に追われてしまっている傾向があります。

そんな中でもやるべきことは多く、短い時間で多くのことを子どもにやってもらわなければならないので、親としては「早くしなさい!」「〇〇しなさい!」と怒ってやらせるしかないという悪循環に陥っていることが多いことでしょう。

そもそも、毎日同じことを言っているのに自分でやろうとせず言われないとやらないというのはなぜなのか。そのようなお子さんの背景を少し考えてみましょう。

大人である親御さんは、おそらく何時に寝るから、何時までにこれを終わらせて、その前にこれをやらないと…とゴール地点から逆算して考えていたり全体の時間から各活動に必要な時間という細部に落とし込んで考えたりしていることと思います。

意識的にそのような考え方をしているという認識がなくても、無意識のうちにそのような考え方で生活のプランニングを行っていることでしょう。

当日の数時間はもちろん、翌日まで含めて考えるなどの広い視点で物事を考える力や複数の活動を順序立てるプランニングスキル、各活動に必要となる時間を計算する時間感覚、やりたいこととやるべきことのコントロールスキル…。

日常生活の中では、実際はこのような高度なスキルを総動員して人は生活をしています。

それらを意識的に行っている人はいないし、人により得手不得手はあるものの、大なり小なり、このようなスキルを駆使しているのです。これらは、大人になるまでの成長の過程で、さまざまな経験を通じて身につけ、スキルを高めてきています。

それに対して、お子さんは、いずれにスキルにしてもまだまだ成長途上で未熟な状態です。

お子さんの年齢によっても成長段階は異なりますが、大人である親御さんに比べたら未熟な状態と言い切れます。親御さんが時間プロセスの直線で物事を考えているとすれば、お子さんは今という点で物事を考えているような違いがあるとも言えるでしょう。

お子さんは目の前のことに必死なので、先を見通しての行動まで至っていないが故に、毎日という状況でも昨日という点と今日という点が線で繋がっていないことがあり得るのです。

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お子さんの思考プロセスや経験値などの背景から少し難しくお伝えしましたが、もっと単純に考えることも可能です。

親御さん自身が自分のことに置き換えて考えてみましょう。

たとえば、仕事で、上司から「あれやって!」「次はこれやって!」と次々と指示をされたらいかがでしょうか。考える間が与えられず、指示だけ次々と伝えられてくると、「言われるから仕方なくやっている…」とやる気は生じない状況にならないでしょうか。

お子さんにとっても、「〇〇しなさい」「〇〇やったの?」などの指示中心の声掛けではやる気を低下させることになってしまうのです。

お子さんの年齢が低いうちは、そのような関わりでもまだなんとかなります。それが年齢が上がって思春期になると、反抗的な態度が強くなり、お子さんとの関わりが非常に難しくなる…なんてこともあり得ます。

では、このような状況を打開するためには、どうすればよいのか。ここからは具体的なお子さんへの声掛けの仕方や関わり方をお伝えしていきます。

今までのご自身のやり方を変えていく必要があるため、最初は親御さんにとって、大変さや難しさを感じることもあると思います。

お子さんと言えども、一人の人であることを忘れないことが大切です。

人を直接的に変えることはできないので、自分の行動を変えることで、その反応としてのお子さんの行動に変化を与えていくということになります。

そのため、まずは親御さんである自分自身の行動の変容を意識していくことが重要なのです。

ただ、冒頭でお伝えした通り、親御さんも非常に忙しい中で時間に追われながら日々の生活を過ごしていることと思います。その中で自分の行動を変えるというのは簡単にできることではありません。

1回やってすぐ変わるというわけではないので、継続することも重要となります。

一度にすべての場面で変えようとするのではなく、まずは「休みの日だけ意識しよう!」とか「夜の時間だけは、これを気を付けよう!」などと時間や場面で区切って、ご自身が取り組みやすいと思われるところから始めることをお勧めします。

朝の時間の対応に苦慮している方は多いですが、朝は時間が短い中で多くの活動が求められるため、初めに取り組むのはもう少し時間や心のゆとりがある場面で始めて、その場面で慣れてきたら朝の場面も試してみるというステップを上げるように考えていくことがよいでしょう。

指示ではなく、お子さんに行動してもらうための声かけのポイントは、以下の3つです。

  • お子さん自身に決めさせる
  • 指示ではなく、問いかける
  • 声掛けは、お子さんの注目を惹きつけてから

小学生にもなれば自分で決められる子が増えるので、宿題、ゲーム、おやつなどのやるべきこととお子さんがやりたいことがあれば、何をどの順番でやるかをお子さん自身に決めさせるのです。

親としては帰ったらまず宿題をやってほしいという気持ちもある方もいると思いますが、今までそれで指示してやってうまくいかなかったという状況があるのであれば、お子さんにその流れは難しいと考えた方がよいでしょう。

親の思う通りではないにしても、お子さんが決めたことを見守っていくことが大切です。

お子さんが自分で決めたからと言って、すぐにその通りに行動できるわけではないので、前の活動から次の活動への少し移行期間の時間はあると考えておいた方がよいです。

低年齢のお子さんであれば、自分で決めるのはまだ難しいので、選択肢を提示して選ばせるようにしてみてください。

たとえば、着替えることでも、1着の服を用意して着替えさせるのではなく、「赤と青の服、どっちがいい?」と選ばせてお子さん自身に決めさせる。たったこれだけのことでも、お子さんの行動力は高まります。

次に声掛けの仕方ですが、お子さん自身に決めさせた後、次の活動に移行するタイミングのときに「〇〇しなさい!」「さっき〇〇するって言ったでしょ!」という指示は呑み込んでください。

「△△の次は何するんだっけ?」「次に何したらよかったっけ?」といった問いかけでお子さんに投げかけてみましょう。

それをすることで、お子さん自身が自分の頭を使って考えることになるので、長期的目線で見た時の考えて行動する力を高めることに繋がっていきます

この際、親御さんのペースとお子さんのペースが合わないこともあり得ます。

あまり矢継ぎ早に言ってしまうと、問いかけでも指示と変わらない圧を加えることになってしまうので、一度伝えたら3分待つなどお子さんを見守る時間というのも重要となってきます。

そして、最後の「声掛けは、お子さんの注目を惹きつけてから」ですが、お子さんが親御さんに注目が向いていなくてテレビやゲームなどの他のことに夢中になっていたり、お子さんの視界に入らないところから親御さんが声掛けをしたりすると、どうしても親御さんの声が大きくなり怒っているような口調になってしまいがちです。

指示ではなく問いかけをと伝えたような、問いかけの表現で伝えていたとしても、口調や声量で怒られているような感覚になる場合があります。

そのため、声掛けする際には、お子さんの視界に入り、お子さんの注目を親御さんに一度惹きつけて、穏やかな口調で問いかけを行うということが重要なポイントになるのです。

先にもお伝えしましたが、これらの関わり方を長期的に継続していくことが大切なので、ご自身の中で取り組みやすい一場面を決めて、少しずつ取り組んでみてください。

親御さん自身の中にも「できた!」と思える体験を積み重ねていくことが大切です。

小さな目標を少しずつ達成できるようにして親子間のサイクルの変容を促していきましょう。