子育て中の保護者の方の心配の種の一つが、子どもの対人関係に関することだと思います。

小さい時はわが子が周囲と「仲良く」できるか、少し大きくなれば適切な対人関係を築くことができているか、トラブルに巻き込まれていないか等、毎日心配されながら過ごされている保護者の方も多いでしょう。

子どもがいくつになっても親の心配は尽きないという方が多くいらっしゃると思いますが、特に子どもの対人関係について心配される方が多いように思います。

年齢が比較的低い子どもの場合には、保護者の方から、お友だちと「仲良く」できているかなという心配をよくお聞きします。

子どものことだから子どもに任せるしかない、園や学校での出来事は先生に任せておけば良いという考えもありますが、それでも、やはり保護者としてできること、保護者だからできることがあるのも確かです。

また、保護者と先生や支援者が協力して取り組むことで成果を出すことができることもあります。

そこで、ここでは、私が子育て支援の現場でよくお聞きするような内容を提示して、保護者として何ができるのかということについて考えていきたいと思います。

この記事を書いた専門家

杉野

杉野 亮介


公認心理師、臨床心理士

教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。


回答:

子どもの対人関係において、「仲良く」するということがキーワードになります。

大人からは何度も「仲良く」しなさいと言われていますし、子ども達の多くは「仲良く」したいとも思っているのですが、なかなかうまくいかないことがありますよね。

それはなぜでしょうか?

「仲良く」という言葉は抽象的な表現であって、そこからイメージする状態や意味が人それぞれ異なることが原因の一つです。

皆さんは、「仲良く」とはどういう状態だと思われますか?

例えば、私が仕事の現場で出会う子どもの中には、児童虐待が原因で保護されている子どもがいます。

その子どもたちの多くは、自分が暴言や暴力の被害に遭うのはもちろん、自分の「親」に相当する人同士がケンカする場面をたくさん見てきていて、それが「普通の家庭」だと思っていたりします。

この子たちに「家族が仲良くするって、どういうことだと思う?」と問うと、親が言い合いをしていたり、親が子どもに暴言を吐くような状態を「仲良く」だと思っていることがあるのです。

信じられない方もいるかもしれませんが、この子たちは、誰かとケンカをしたり、悪口を言い合っても「仲良く」してると言っています。

これは極端な例でしたが、「仲良く」の意味が人それぞれ異なっているのです。

では、私たちは、子ども達にどう伝えて、どう関わっていけば良いのでしょうか。

ポイントは、「仲良く」という言葉を具体的な言葉に置き換えていくことです。

「こういう状況ではこうする、ということが「仲良く」しているということ」と明確に伝えてあげる必要があるのです。

以下では、「仲良く」をより具体的に描写していこうと思います。


回答:

物のやりとりに関するトラブルは多いのですが、ここでの「仲良く」は、【貸してと言われたらすぐに貸してあげる】という状態なのかどうかについて、よく考えておく必要があります。

貸してと言われたのに貸してあげないことはいじわるだと簡単に思ってしまいがちです。

遊びたいと思っている玩具を取り上げられた子どもの気持ちを考えると、貸してあげないことを大人が「意地悪だ」としてしまうことは問題です。

子どもが自分の玩具で遊んでいて、他の子から「貸して」と言われた際には、それを断るというのも子どもの立派な選択です。

もちろん、断り方も大切ですので、それに関しては「自分はこれで遊びたいから、貸してあげることはできない」ということを言語化するように促す必要があります。

子どもの発達を考えると、熱中して遊ぶことができるということは、とても素晴らしいことです。

一方で、その遊んでいる玩具が共有物や、他の子の物だった場合には、その子がずっと使い続けるのはルール違反の場合もあります。

その際には「貸してと言われたら貸してあげる」とか、「自分がもっと使いたいと思ったら、それを相手に伝えてみて、相手の意見を聞く」とか、「貸してと言われたら、~分以内に貸してあげるのか」等のルール的なものを設定してあげてましょう。

玩具を借りる側に対しても「貸して」と言ったからと言って、すぐに貸してもらえないことがあるということは、伝えておく必要があります。

「貸して」と言ったのに貸してもらえなかったと怒ってしまう子も多いのですが、子どもが怒ったら慌てて大人が介入して、半ば無理やり貸してあげるというのは最も悪いパターンです。

自分の思うようにいかないことがあるということを子どもたちも、その周囲の大人も理解したうえで、物の貸し借りを行う必要があります。

なお、物の貸し借り等でトラブルが多いのであれば、貸し借り自体をしないようにする、共有物を減らす等の工夫も必要です。


回答:

こういう場合は、ちょっかいをかけている子どもの多くは「仲良く」していると思っていますが、相手の子は嫌なことをされていると思って、トラブルになることが多いです。

実際にちょっかいをかける子に話を聞いても、相手が嫌がっているということを分かっていないことが非常に多いです。

この場合、やはりこの子に対して「仲良く」とはどういうものなのかを具体的に教えてあげる必要があります。

遊びたい相手にちょっかいをかけるのであれば、自分が遊びたいと思った時には相手に「一緒に遊ぼう」とか「~して遊ばない?」と声をかけるということが「仲良く」であること、いきなり後ろから突いたり、何も言わずに手を引っ張っていくのは間違っているということを教えてあげましょう。

相手が何らかのリアクションを取ってくれることが嬉しくて、それを「仲良く」だと勘違いしている子もけっこういます。

また、自分から誘ったからと言って必ずしも相手が「いいよ」と言うわけではないことも理解する必要があります。

誘いを断ることは意地悪ではありません。

誘っても断られたからと言って、相手の子があなたを嫌いというわけではなく、その子はその子で遊びたいことや相手が別にいたので仕方ないと伝えてあげましょう。

もちろん、断り方も具体的に教えてあげる必要があります。

もう一つの大切な視点としては、相手の気持ちを考えることです。

年齢や発達段階にもよりますが、相手の気持ちを考えて行動するということは、子どもにとってはなかなか難しいことです。

こういう話をすると、親御さんから「でも、ケンカした後に、子どもに、相手の子はどんな気持ちだったと聞けば、嫌な気持ちと答えますよ」と言われることがあります。

しかし、これは、トラブルが起こった際に先生から「相手の気持ちは?」と問われれば「嫌な気持ち」と答えることが正解であるということを学んでいるだけということが非常に多いです。

特に、トラブルを起こし慣れている子どもは、その対応にも慣れているので、この質問にはこう答えたら正解という知識だけが増えていることがよくあります。

相手の気持ちを考えるという視点は非常に大切ですが、言われたからすぐにできるわけではありません。

トラブルになってしまいやすい子どもの中には、頑張って考えてみても、自分以外の人の気持ちを想像するのが苦手な子もいます。

こういう行動を取ったら相手は嫌な気持ちになることが多いから、そういう行動を取るのはダメで、代わりにどんな行動をとれば良いのかを教えてあげる必要があるのです。

また、「相手の気持ちを考えて」の派生形で、「自分がそんなことをされたら嫌でしょ」という問いかけもありますが、これも効果がある子と効果がない子に分かれます。

もし自分がそんなことをされたらと想像するのが苦手な子もいますし、「されても嫌じゃない」と思う子(それを口にするかどうかは別にして)もいます。

そう考えると、「今回のあなたのこういう行動が相手の子を嫌な気持ちにさせたので、その行動はやめないといけない、代わりにこういう行動を取ろう」ということを具体的に伝えてあげる必要があります。

それに加えて、「相手が嫌な気持ちになったら、相手はあなたのことを嫌いになってしまう、そうなるとあなたが遊ぶ相手が段々といなくなってしまうという」形で、子どもに対して「損をしてしまう」というトーンで伝えてあげると比較的理解しやすいことが多いです。


回答:

子どもの中には「仲良く」するが、身体的に触れ合ってベタベタすることだと理解している子もいます。

また、子ども同士で体を触りあうことに抵抗がない保護者もいらっしゃると思います。

まずは、体を触りあうことが「仲良く」することではないということを明確にしておく必要があります。

これは、スキンシップやプライベートパーツに関わることで、非常に大切な視点です。

子ども同士だから、相手が小さいから、体を触っても良いという考え方は非常に危険です。

簡単にお伝えすると、水着で隠れるところ(あるいは、それらに加えて、顔のパーツ等)はプライベートパーツと言われるもので、他人に見せない・触らせない、他人のを見ない・触らない、という考え方です。

子どもが自分達の体を守るために絶対に必要な考え方ですので、親子で共有していただきたいと思います。

また、プライベートパーツはもちろんですが、それ以外の部位であっても、他者の体を触ることや他者から触られることに関しては、慎重になる必要があります。

まずは、自分の子どもに、体を触られることは良くないことであり、触られたら「やめて」「嫌だ」と言うように伝えていく必要があります。

もちろん、うまく言えないこともありますので、保護者がフォローして触ってくる子どもに「嫌って言っているから触らないでね」とか「うちの子は、触られるのが嫌だからやめて」と明確に、嫌なのでやめてほしいと伝えることが必要です。

お節介かもしれませんが、プライベートパーツについて説明してあげても良いのかもしれません。

ただ、それが良くないことであると明確に伝えることで相手や相手の保護者から反発があると厄介ですし、保護者という立場からそういうことを伝えることに抵抗があると考えられる方も多いと思います。

まずは「私や、うちの子にとっては、それは嫌なことだからやめてください」と伝えるのが良いでしょう。

相手が小学生だから大丈夫という考え方も改める必要があるでしょう。

相手の子に悪気があるのかどうかは分かりませんが、この相手なら大丈夫、この相手は危険と予測するのは子どもはもちろん、大人にもそれは難しいことです。

どんな人が相手であっても、体を何度も触られたり、プライベートパーツを触られるようなことがあれば、それは良くないことであるということを子どもたちに伝えていく必要があります。

「お友だちと仲良くする」が良いことであるということについて、異論はないと思います。

しかし、これまでも何度も触れてきましたが「仲良く」という言葉から想像するものは、人によって異なります。

「仲良く」の意味について、親と子で、保護者と先生とで、子ども同士で、共有しておくことが非常に大切であるということは、今回の記事を読んでいただければ分かっていただけたかと思います。

お子さんと、あるいは、ご家族と、「仲良くするって、どんな意味かな?」と一度お話されてみてはいかがでしょうか?