競争心を持つことは、子どもたちの成長において自然なことです。
しかし、「勝ち」にこだわりすぎたり、他人と自分を常に比較することで、時にはトラブルが生まれることも少なくありません。
私たち大人は、そうした競争の場面をどう捉え、どのように子どもたちに関わるべきでしょうか?
こちらの記事では子どもの「競争」との向き合い方を取り上げましたが、今回は相談が増えている「子どものマウント行動」について。
マウント行動をする子どもたちの心の状態や接し方について、公認心理師・臨床心理士である杉野先生に、実際の現場での経験を元にインタビューに答えていただきました。
インタビューに答えてくれた専門家
杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
子どものマウント行動について心理士インタビュー
編集部:
前回の「子どもの競争」に関する記事を読みました。
誰かより優れていることを重視したり、他人と比較してしまう子についての相談も増えていると聞きますが、これはいわゆる「マウント行動」の一つなのでしょうか?
杉野先生:
「マウント行動」と言えます。
特に小学生の男の子たちなんかは、会話の半分くらいが「自分がどれだけすごいか」という内容で、そういう話がエスカレートして喧嘩になることもよくありますよね。
子育て支援の現場では、子どもたちがトラブルから学ぶよりも、トラブルを予防して心地よい時間を体験することを私自身が重視していることもあって、「この発言は良くないな」と思った時点で介入しています。
例えば、Aくんがゲームの進行中に「僕はここまで進んだよ!」と自慢げに言うと、大人なら「すごいね」と返せると思いますが、子ども同士の場合は違いますよね。
Aくんには、「相手にそれをどう伝えたいのかな?」と問いかけるようにしています。
でも、子どもって素直に「自慢したかった」なんて言いませんから、「教えてあげたかっただけだよ」とか「特に意味はないよ」なんて言うことが多いんですよね。
編集部:
なるほど。子ども同士だと対抗関係になってしまいますね。そこでどう対応するんですか?
杉野先生:
そういうときには、「Aくんは教えてあげたかっただけかもしれないけど、相手の子はどんな気持ちになったと思う?」と聞くんです。
ここで、「嫌な気持ち」と答えられる子は良いのですが、不貞腐れたり、あるいはシンプルに相手の気持ちを察するのが苦手で「別に嫌じゃないと思う」「僕だったら、教えてくれてうれしい」とか言う子もいます。
編集部:
相手の気持ちを想像させることが大切とのことですが、期待する反応ではないときはどう対処しますか?
杉野先生:
たとえば、
「A君は、言われても嫌じゃないかもしれない。でも、相手の子は嫌な気持ちになったみたいだよ。聞いていて、私も良い気はしなかった。だから、今度からは、そういう言い方はやめようね。また、相手が嫌な気持ちになりそうな言い方をしていたら、今度は私が声をかけるようにするから。」
という感じで予防線を張っておきます。
その後、また同じようなことを言っていたら、
「ちょっと待って。前もこんなことあったよね。どうすればいいんだったっけ?」
というような声かけで介入します。
編集部:
相手の気持ちを想像してもらう、客観的にどう感じるかも伝える、今後の言動についてこちらとしても協力する姿勢を見せる、ということですね。
これは、まさに「物事を俯瞰的に見る力」を養うサポートですよね。
特に、発達障害を持つ子どもたちなどは、この「物事を俯瞰的に見る力」が弱いと言われていますが、そういうケースも多いでしょうか?
杉野先生:
もちろん全員に当てはまるわけではないですが、たとえばASD(自閉症スペクトラム)の子どもたちの中には、その特性上、物事の先を見通したり、他者の気持ちを考えることが苦手な子もいます。
だからこそ、大人が「このままだと喧嘩になりそうだね」「相手は今どんな気持ちだと思う?」といった具体的な声かけをして、子どもにその視点を与えることが重要です。
多くの人にとっては、「これを言ったら相手はどう思うかな」とか「これをしたら、まずいことが起こるかも」と考えた上で行動することは自然なことですよね。
ただ、一部の子どもたち(や大人)にとっては、そういう習慣がないので、行動する前に考える習慣をつけてもらうために声をかけることが必要です。
編集部:
一度の声かけではなかなか変わらないかもしれませんが、繰り返し問いかけていくことで少しずつ変化が見えてきそうですね。
杉野先生:
そうなんです。
例えば、AくんがBくんに対して何かマウントを取ろうとしている場合、「どうなるか考えた上で行動した?」ということをAくんに対して繰り返し問うことで、Aくんは「物事を俯瞰的に見る力」が徐々に身についていきます。
マウントをとられたBくんに対しては、
「今、どう思った?」
「ちょっと嫌な気持ちになった?それで良いと思うよ」
「でも、言い返したり、手を出したら君も悪くなるから、嫌だなと思ったら、その気持ちをAくん本人か大人にしっかり教えて」
と伝えたり、
「Bくんも他のゲームをクリアしたって言ってたよね!」「すごいよ!」
とフォローします。
編集部:
マウントをとられたときも、大人のフォローの仕方次第で、子どもにとって「自分はこうだから」と前向きに捉えるスキルを身につける大切な機会になるんですね。
杉野先生:
そう思います。
「今、絶対Bくんが怒ってケンカになると思ったけど、ならなかったね。Bくん、すごいね!」
と褒めてみたりもしてます。
いずれにせよ、「私としてはこう感じたよ」とか「こうなると思うけど」とか「ここが良かったね」とか、とにかく子どもに対して大人が言語化してあげることが大切ですね。
特に、学校、施設やフリースクールなど、子どものグループを相手にする時には、少し大袈裟で演技的なぐらいに分かりやすく言語化してあげるのがより効果があると感じています。
編集部:
では、誰かと比較しすぎてズルをしたり、負けたら怒る、などの行動が出る子どもたちに対してはどう対処していますか?
杉野先生:
見通しを持たせる、ということが効果的です。
例えば、人生ゲームをする前に、以下のようなことがポイントです。
①みんな勝ちたいと思っているけれど、負ける人が必ずいることを伝える(勝ちたい気持ちを持つのはとても良いことだけど、負けても良い)
②負けて悔しいのは良いが、暴言や暴力は絶対にダメということを伝える(もしやったら、次は参加できない)
③悔しい気持ちになったら、クールダウンをするように伝える(クールダウンの方法も伝えておく)
④ルール違反のペナルティを決めておく(ルーレットをズルしたらどうするか、順番抜かしをしたらどうするか、等)
⑤ルール違反かどうかを判断するのは誰か(職員とか、先生とかの大人など)を明確にしておく
⑥上の①~⑤のような内容を確認したうえで、それでも参加したいのかを子どもに確認する
⑦トラブルなく終わることができたら褒めてあげる
編集部:
確かに、これで予防線を張っておけそうですね。この方法で、実際に効果は感じられますか?
杉野先生:
たとえば、プレイセラピーで対戦ゲームをしていると、初めは子どもがズルをしてでも勝ちたがるんですが、次第に「それだと面白くない」と気づいて、ルールを守るようになってきます。
そして、最終的には勝ったり負けたりする方が楽しいことに気づいてくれる子が多いです。
編集部:
子どもたちが、「マウントを取るためにズルをして勝ってもおもしろくない」「けんかになるよりも、楽しく遊んだ方がおもしろいな」と思ってくれたら良いですよね。
杉野先生:
そうですね。「僕ってすごいんだぞ」「私のここは、良いところでしょ」と思うことはとても良いことなので、大人が子どもの自慢をしっかり聞いてあげて「すごいやん」と褒めることも意識したいですね。
自分の話を大人が聞いてくれないとか、しっかり認めてくれないから、子どもは子ども相手(特に、聞いてくれそうな自分より年下の子など)にやっているような気もしてます。
編集部:
なるほど、そういう過程を通じて、優劣や勝ち負けにこだわりすぎず、何事も楽しむ心を育てていけるんですね。
今日は本当に参考になるお話をありがとうございました。
編集部から
誰かに勝ちたい、誰かよりも優れていたいという気持ちやマウント行動は、子どもの成長過程で自然に現れるものですが、健全な競争心を育むためにはそれをどのように受け止めるか、そしてどのようにサポートするかが重要だということがわかりました。
大切なのは、大人がしっかり過程を評価し言語化すること、子どもが物事を俯瞰し、見通しを立てる機会を提供することです。
そうして子どもたちが互いの気持ちに配慮しながら成長できる環境を作っていけるのだと感じます。
私たち大人が、言葉を通じてその過程をサポートし、子どもたちがより豊かな心を育む手助けをしていけるよう、日々の関わり方のヒントになれば嬉しいです。
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