自然災害や戦争、事件や事故など毎日のように悲しいニュースがありますよね。
それらの出来事を自分が直接経験していなくても、何度もニュースを見聞きしたり、辛い話をたくさん聞くことで、心がすり減ったり辛くなってしまったことはありませんか。
その辛さを理解しケアするには「共感疲労」の知識が役に立つかもしれません。
今回は、共感疲労について、そのサインや予防・ケアのアイデア、お子さまへのケア方法なども含めて解説します。
この記事を書いた専門家
山崎 日菜乃
公認心理師、臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
共感疲労とは?
共感疲労とは
共感疲労とは、他者の気持ちや状況に共感しすぎて心が消耗し、辛くなってしまう現象です。
もともとは医師や看護師、心理士など、対人援助職のストレスを説明する言葉でした。
人の気持ちを想像したり、相手の立場に立って考える共感能力は対人関係において大切な力です。
しかし、他者の辛い状況や気持ちに共感しすぎると、場合によっては自分の心がダメージを受けてしまうこともあるのです。
共感疲労とインターネット/SNS
現代では、インターネットやSNSを通して誰でもリアルタイムに世界中の情報を得たり発信することができます。
そのように情報発信・収集がしやすくなったのは便利なことではありますが、その分情報と適切な距離をとることも難しくなってしまいました。
例えば、トップニュースやおすすめとして表示されたり、過去に検索したニュースの関連情報が何度も表示されるなどして、自分から収集しようとしなくても情報にさらされてしまうこともありますよね。
また、SNSやネットニュースでは攻撃的なコメントをして誰かを”叩く”現象が生じることも多く、そうしたやり取りを見てさらに辛くなってしまったことのある人も少なくないのではと思います。
また、離れていてもいつでも友人や家族とコミュニケーションをとることが可能になったことで、もちろんそれがプラスに働くこともあれば、時に相手の辛い状況や気持ちに巻き込まれてしまう要因になってしまうこともあるでしょう。
このように、インターネットやSNSが発展した結果、辛い情報に必要以上に触れすぎてしまったり、身の回りの出来事以外も自分のことのように感じすぎたりして、対人援助職の人だけでなく誰でも共感疲労を感じ得るようになったと言われています。
共感疲労を感じやすい状況
人の辛い気持ちや辛い状況を繰り返し見聞きする状況で共感疲労を感じやすいです。
例えば…
・人から辛い話を聞きすぎた時
・災害や事故、戦争などの痛ましいニュースを繰り返し見聞きした時
・身近な人が怪我や病気、悩みで辛い状況の時
などです。
共感疲労のサイン
これらは一例に過ぎませんが、以下のような症状を感じて辛かったり、心や体が疲れて何だかいつも通りに過ごせないと感じる時は、共感疲労がたまっているのかもしれません。
◯心のサイン
- 落ち込む、不安になる、イライラするなどの感情の変化
- 見聞きした辛いことについて繰り返し考える
- 楽しいはずのことやしたいはずのことをする気になれない
- いつも通りの日常があることに罪悪感を感じる(例えば、「今も大変な思いをしている人がいるのに…」と思うなど)
- 無力感や無価値感を感じる(例えば、「自分は何もできない」「自分はいてもいなくても同じだ」と思うなど)
◯体のサイン
- よく眠れない
- 食欲が減る
- 疲れやすい
- 腹痛や頭痛などの体の痛み
- 活動量が減る
子どもと共感疲労
人の気持ちを想像したり相手の立場に立って考える力である共感能力は4〜5歳頃に身に付くといわれています。
そのため、子どもも共感疲労を感じたり、共感疲労に限らず、悲惨なニュースや周りの人の辛い状況を見聞きすることで不安や恐怖を感じることがあります。
子どもは情報を客観的に捉えるのが難しく、ニュースで見た映像が身の回りのことなのか遠くの出来事なのかがよく分からなかったり、同じ出来事が何度も報道されるとその出来事自体が何度も起こっていると思ったり、「きっと自分も同じ被害に遭うのだろう」と思ったりと、大人とは違ったポイントで不安や恐怖を感じることもあります。
また、感じたことを言葉で表現するのが難しいことも多く、例えば地震ごっこ、津波ごっこなどの遊びを通して気持ちを解消しようとすることもよく見られる反応です。
共感疲労を予防・ケアする方法
共感疲労を感じた時や、共感疲労を感じやすい状況に置かれた時は、予防やケアのために以下のような方法を取り入れてみるのもおすすめです。
ご自分に合いそうなもの、やってみようかなと思えるものを選んでやってみましょう。
生活に支障が出ていたり、2週間以上辛い状態が続いている場合は医療機関を受診するようにしてくださいね。
1. 辛くなる情報に触れすぎないようにしましょう
- 見たくないニュースは無理に見ない、聞きたくない話は無理に聞かない(見ない・聞かない=薄情では決してありません。まずはあなたの心を守るのが最優先です。自分自身の健康があってこそ他者をサポートしたい時にサポートすることもできます)
- 情報収集の媒体を選ぶ(画像や映像がない新聞紙面やラジオだと、情報を得る負担が軽減されるかもしれません)
- ニュースをチェックする時間や辛い話を聞く時間を決めてそれ以外では見聞きしないようにする(夜ではなく明るいうちに見聞きするようにするのもおすすめです)
お子さまのケアにもおすすめ
- テレビニュースをつけっぱなしにしない(意図せず同じ情報に何度も触れることを防げます)
- ニュースは一人ではなく誰かと一緒に見る(お子さまと一緒にニュースを見ることで、適切な説明を加えたり、きちんと救助や支援がされているということも伝えられたり、ニュースについて感じたことを話し合うきっかけにもなるでしょう)
- 一定時間スマホやテレビから離れて過ごす(食事の時はテレビを消す、○時から○時はスマホを使わない遊びをする、スマホを置いて散歩に行くなどで、情報や連絡から離れて心を休ませることができます)
2. 自分に意識を向けましょう
- 自分だけの時間を作る(辛い状況に置かれた人のことを考えすぎてしまう時は、意識的に自分がしたいことをしたり自分のために過ごす時間を作ってみましょう)
- リラクゼーションやマインドフルネスをする(ゆっくり深呼吸をするだけでも少し心が落ち着きますよ)
- 無理なくできるサポートをする(負担にならない範囲の寄付や手助けなど、できる範囲の行動をすることで、自分にできるのはここまでと気持ちを切り替えやすくなることもあるでしょう)
お子さまのケアにもおすすめ
- 自分の気持ちや状態を確認する(他の人の気持ちばかり想像してしまう時は「私は今どんな気持ち?」「疲れてない?痛いところはない?」などと自分に意識を向けてみましょう。お子さまにそれらを問いかけてあげるのもいいですね)
- いつも通りの日常生活を大切にする(何かを我慢したり自分まで苦しい思いをする必要はありません。お子さまには「ここは安全だよ」「何か起きたら私たちが守ろうと思っているよ」などと伝えて安心感を与えてあげるのもいいと思います)
3. 気分転換をしましょう
以下は、お子さまのケアにもおすすめです。
◯気持ちを話す
辛いニュースや話を聞いてどんな気持ちになったかなどを、話しやすい相手に話してみましょう。
そういう時に様々な気持ちを感じるのは自然なことで、どんな気持ちも感じて大丈夫です。
お子さまの気持ちを聞く時も、お子さまの感じ方を否定せず、どんな気持ちを持ってもいいと伝えたり態度で示してあげましょう。
◯楽しいことやしたいことをする
心が煮詰まりそうな時は体を動かしてリフレッシュするのもおすすめです。
何かに集中すると心もリラックスできますよ。
お子さまはいつもより甘えるようになったり、悲惨な出来事を遊びで表現したりすることも多いものです。そうした振る舞いも否定せず、受け止め見守ってあげられるといいです。
おわりに
情報がどんどん身近になり、離れた相手ともいつでもコミュニケーションがとれる現代では、心の健康を守るために辛いニュース・辛い話とうまく付き合う必要性が増しています。
必要な情報を得つつ心を守れる、共感や協力をしつつ自分の心も大事にできる、というような、それぞれにとってちょうどいい距離感を見つけられるといいなと思います。
参考文献
「共感疲労」とは?つらいニュースから心を守る対処法 (ストレスチェックマガジン)
共感疲労とは?情報過多社会が引き起こす弊害と対策をご紹介 (PATCH THE WORLD)
共感疲労がもたらす影響:カウンセラーが解説する対処と対策 (心理オフィスK.)
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