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「子どもが嘘をつくんです…」

「すぐに分かるような嘘ばかり…」

親御さんからの相談で何度もそのような発言を聞いてきました。

親御さん自身、「嘘はいけないこと」と教えられ、お子さんにもそう教えていることでしょう。

親御さんが子どもの嘘に悩んでいるのは一般的なことですが、その背景には様々な理由が存在します。

この記事を通じて、子どもの嘘をつくという心理を深く理解し、より効果的な子育てのアプローチをご紹介していきたいと思います。

この記事を書いた専門家

日塔 千裕


公認心理師、臨床心理士

発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、1,460組を超える親子をサポート。電話相談でも、学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、10,000件を超える相談に応じる。

お子さんの“嘘”への対応をするにあたっては、お子さんへのアプローチはもちろんですが、親御さん自身の言動の見直し、意識していただきたいポイントがあります。

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お子さんへのアプローチとご自身の言動の見直しの両輪で進めることが、お子さんの“嘘”を改善するための近道なのです。

そのため、『子どもが嘘をつく【前編】』をお読みいただいてから、この先を読み進めていただくと幸いです。

嘘にはいくつかの種類があります。

その種類の分け方はいくつかのパターンがあり、人によって異なる分け方をしているのですが、お子さんの嘘を考えるうえでは下記の分け方が考えやすいのではないかと私は感じています。

(1)親の注目を引くため嘘

(2)その場逃れのための嘘

(3)周囲への思いやりを含めた嘘

(4)自分をよく見せるための嘘

(5)現実検討ができておらず、結果的に嘘と周囲に取られてしまっている

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子どもは、親に構ってほしくて、親の気を引くための行動をします。

大人からすると、ちゃんとした行動、よい行動をすればいいのにと思うかもしれませんが、ちょっとしたよい行動ではあまり注目してもらえず、悪い行動をした方がすぐに親が気付いてくれるということで、悪い行動を増やしていることがあります。

大人からすると“注意”をいう関わり方でも、子どもからすると“親に構ってもらえた”“親が気付いてくれた”という気持ちなのです。


お菓子を勝手に食べたのに「食べてない」と言い張ったり、宿題をやっていないのに「やった」と言ったりするような嘘ですね。

親御さんが「嘘をつく」と相談される場合には、ここが一番多いように思います。

「勝手にお菓子を食べることはいけないことと分かっているけどやってしまった…。怒られる…」

「宿題やりたくない…。今はゲームしたい!」

というようなお子さんにとって嫌なことを先延ばしするための嘘です。

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親御さんからすれば、そんな嘘はすぐバレて、先延ばしにも何もならないのにと感じることもあるでしょうが、親御さんが見ている時間の長さに比べて、お子さんの見えている時間の長さは短いために「すぐバレる嘘」になっているのです。


相手を傷つけないため、傷を最小限に抑えるための嘘ですね。

大人も円滑な人間関係のために日常的に使用していることはあるでしょう。

相手からの誘いに本当は予定はないけど、今日はちょっと気乗りしない、体調があまり優れないから「今日は、予定があって…」などと伝えて誘いを断ったりするようなことはありますよね。

正直に言って相手から嫌われたり反論を受けたりなどを避けるような自分の身を守るという視点もゼロではないかもしれませんが、相手を不必要に傷つけないような配慮や相手と自分の両者を含めた関係性を守るという意識のうえに行っていることでしょう。


少し年齢が上がってきて、概ね小学校中学年頃になると、周りにどう見られているかということを気にし始める子が出てきます。

身だしなみにとても気を配るようになり、オシャレを始めます。

その程度なら何も問題はないのですが、子どもたちに人気のゲームやオモチャを持っていないのに「買ってもらった!」と言ったり、行く予定もないのに「夏休みに家族で海外旅行に行く」などと自分を大きく見せようとする嘘をついて周囲からの称賛や羨望を得ようとします。

「(1)親の注目を引くための嘘」に類似するところはありますが、こちらの方が年齢が高いお子さんが行っており、自分の言動で周りがどのような反応をするか理解して行っているところがあります。


現実検討とは、自分の行動・考え、周りの行動・考えなどを整理して客観的に理解する力のことです。

そのような客観的に状況を把握する力が弱いと、大人や周りからの発言に誘導されて、発言内容が変わっていくことがあります。

これは決して本人が嘘をつこうなどの思いはなく、嘘という意識もなく、無意識に相手に迎合している状態なのです。

お子さんの年齢によって、もちろん客観的に判断する力の未熟さはありますが、5~6歳頃になれば自分と相手を区別して見聞きしたことを伝える能力が高まってきています。

しかし、その力が弱いと小学生になっても、周りからの聞かれ方や聞かれるタイミングなどによって、お子さんの言うことが変わることがあります。お子さんとして嘘をつく意識はないですが、周囲は「前に言ったことと違うじゃないか!嘘をついている」と嘘と捉えてしまうことがあります。

嘘をつく背景には、お子さんなりの理由があります。

お子さんにしても、嘘だと分かっていて言っている場合もあれば、嘘と思わずに言っている場合もあります。

『子どもが嘘をつく① 日常は些細な“嘘”に溢れてる!大人から学習している子どもの嘘』でお伝えした通り、親御さん自身も嘘をつく気はないものの、結果としてお子さんには嘘と捉えられている場合もあります。

そのため、「嘘」そのものに注目することには、あまり意味がありません。

「嘘をつかないの!」という注意ではなく、下記のポイントを意識した対応をしてみれるとよいでしょう。


お子さんの気持ちとしては、どんな形であれ親御さんに構ってほしいという気持ちが故の行動です。

本当に些細なことであっても、よい行動ができていることに声を掛けてあげましょう。

たとえば、「ご飯しっかり食べてるね」「いっぱいお話してくれて、ありがとう」「お皿運んでくれて助かった」「歯、きれいに磨けたね」など。

あたり前のことがあたり前のようにできていることに関しても、できていることに注目して、やっている途中には「〇〇できているね」、終わったときには「〇〇できたね」と、こまめな声掛けをしてあげましょう。

できていないこと・悪い行動への注目ではなく、できていること・よい行動への注目を増やすことで、自然と悪い行動が減っていきます。

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その場逃れをしようとすることへの理由を考えてみましょう。

勝手に食べてはいけないお菓子を食べたのに「食べてない」という嘘をつくのであれば、そのルールの見直しが必要でしょう。お子さんがどのようなルールなら取り組めるか、お子さんの希望も確認しながら考えてみましょう。

やっていない宿題を「やった」というような嘘に関しては、そもそも宿題に取り組めない理由が何かを考えることが必要でしょう。授業についていけていなかったり、宿題が何かが分かっていなかったり、やるべきこととやりたいことのコントロールが苦手でやりたいこと優先になりがちであったり…。

授業についていけていない場合や宿題が何か分かっていないような場合には、学校の先生と相談して、家庭と学校で連携しながらの対応も必要かもしれません。

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やりたいことが優先になりがちのタイプの場合、お子さんによって、先にやるべきことを終わらせて後はご褒美がある方がよいタイプと、先にご褒美があった方が後でやるべきことに取り組みやすいタイプがいます。

やるべきことが終わるまでのご褒美タイム(やりたいことができる時間)は時間を制限して、タイマーなど音で終了時間が確認できるようにするとよいでしょう。

やるべきことが終わってからの時間は、就寝時間の制限はありつつも、ゲームなどを何時間と決めるのではなく、「○時に寝るまでは自由にしていいよ」とメリハリがあるとよいでしょう。


(3)と(4)は、親御さんから手が離れてきているお子さんの人間関係で起きていることが多いので、親御さんが気付きにくいことが多いでしょう。

周囲への思いやりを含めた嘘も、回数が多いと、それがバレてしまうと、周囲の信用を失うことに繋がります。

もしお子さんがこのような嘘をついていることに気付いた場合には、お子さんの話をしっかり聴くようにしてください。

お子さんがどんな気持ちでそのような嘘をついたのか、お子さんがどのように考えているのか、否定せずにはまずは「うんうん…、そっか、そう考えてたんだね」とありのままを受け止めてあげてください。

親御さんの考えや気持ちを伝えるのは、お子さんがしっかりと話をした後です。

親御さんの考えを伝える際にも押し付けにならないように注意が必要です。

「そんな風に嘘をつかれたら、あなたはどんな気持ちになる?」                                                    

「もしお母さん(お父さん)が、あなたからそういう風に言われ続けたら悲しい気持ちになるな」

「嘘つかれていると、あなたの話の何が本当か分からなくなって、本当に助けてほしいときに助けてあげられないかもしれない」

などと、お子さんの気持ちや考えを受け止めながらも、親御さんの気持ちをベースに正直でいることのメリットを伝えていきましょう。

叱責や注意にならない話し方を意識してくださいね。

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このタイプのお子さんは、繰り返し聞くことで、前の答えがいけなかったから聞かれているのかなと答えを変えてしまうこともあります。

聞く回数は最低限にする。

紙に書いて視覚的にも分かるようにしながら聞く。

などの工夫があるとよいでしょう。

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年齢に比べて、言語理解力・説明力の遅れ、勉強面の遅れなどが見られるようになっている可能性もありますので、嘘という側面ではなく、全体的にお子さんにとってどのような関わりがあるとよいのかを考えるために、心理検査を受けたり専門家に相談したりすることがあるとよいかもしれません。

嘘を5種類に分けて説明しましたが、お子さんの言動でキレイに5種類に分けられるものではありません。

2種類のどちらとも判断できるような状態であったりするようなものもあります。

嘘の種類を分けることを目的にするのではなく、「嘘」にはこんな背景があるのだなと考えていきましょう。

小さな嘘を可能な限り減らすための親としても小さな嘘にならないように注意するということと、お子さんの嘘は嘘そのものではなく、その背景へのアプローチを考えていくという視点で考えていけるとよいでしょう。