「小さい時はわが子が周囲と”仲良く”できるか」
「少し大きくなれば適切な対人関係を築くことができているか」
「トラブルに巻き込まれていないか」
子育て中の保護者の方の心配の種の一つが、子どもの対人関係に関することですよね。
こちらでは、学齢期低年齢子どもの「仲良くする」ことについて詳しいQ&Aをこちらの記事でご紹介しましたが、特に年齢が上がってくると、子どもの問題にどう保護者が関われば良いのかと悩むことも増えますよね。
「子どもの問題に親が出てくるなんて過保護だと言われるのではないか」
「こんなこと言ったら、モンスターペアレントだと思われないか」
などというお悩みも多いです。
そこで今回は、私が子育て支援の現場でよくお聞きするような内容を提示して、保護者として何ができるのかということについて考えていきたいと思います。
なお、この場で紹介させていただく質問に関しては、私が現場でよくお聞きするものをまとめて再構成したもので、どなたか特定の方からいただいたものではありません。
この記事を書いた専門家
杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
子どもの対人関係についてのQ&A
トラブルは「経験の積み重ね」?
質問:うちの子どもが通っている園は、トラブルが起きても子ども同士で解決させる方針らしいのですが、子どもの話を聞いていると、毎日泣かされているようです。先生に話をしても「子どもはケンカして学んでいくので大丈夫ですよ」と言われてしまいました。確かに経験を積み重ねることは大切なことだと思うのですが、どう思われますか?
回答:「安全な環境」が大前提です
大人が頭ごなしに話をするよりも、子どもが経験から学ぶことの方が大切だという考え方自体には共感できます。
ただし、全ての子どもが安全で安心な環境にあることが重要です。
まず、毎日特定の子どもが泣いているような環境は、安全と言えるでしょうか。
一部の子どもにとっては、自分達の好きなように周囲を動かすことができたりするわけですから、”自由”な環境(あるいは、自由の意味を拡大解釈している環境)では、居心地が良いものかもしれません。
しかし、それが教育や保育の場であれば、大人によるネグレクト(放置)とも言える不適切な状況です。
何のために大人がいるのか、ということを考えれば、それは安全で安心な場を保つためです。
大人は常にそこを意識し、そういう安全な環境を子どもに提供した上で、子どもたちが自分たちで問題を解決できるように見守ることがベストです。
また、「子どもは経験さえ積めば良い方向に成長していく」という考えも間違いです。
一つ経験すればそこからたくさん学ぶことができる子どももいれば、経験を般化して理解するのが苦手で、一つの経験で一つだけ学ぶことができる子どももいます。
子どもが経験したことを、子どもに理解しやすいように大人が噛み砕いて、「今回のこういうところが良かった・良くなかったから、次はこうしていこう」と具体的に伝えてあげないと学びにくい子もいるのです。
また、良い見本がなければ、子どもは適切な行動を学ぶことも難しいです。
子ども同士でトラブルがあって、力が強い子が弱い子を泣かせて終わりとなれば、子どもは嫌なことがあったらケンカしたら良い、自分より弱い子は支配しても良いと学習してしまいます。
他者とどう関わるのが適切なのかが分からなければ、相手を支配しようとしたり、あるいは支配される側に回ろうとして、良い対人関係がなかなか作れない場合もあります。
このように、経験から学ぶという形の教育や保育に関しては、そのやり方で伸びる子もいれば、伸びない子もいます。
「失敗をたくさんしよう」という声も最近多いですが、失敗を繰り返してしまうと、学ぶことを放棄してしまうこともあります。
どんな子どもにとっても安全安心に、多くのことを学ぶためには、成功体験を積み重ねた方が良いはずです。
時にはケンカすることも必要かもしれませんが、みんなで仲良く穏やかに過ごせる時間を増やしてあげて欲しいですし、そのためには、大人がある程度仲介してあげる必要もあるでしょう。
保護者同士のつながりが苦痛
質問:私自身が人間関係を負担に感じやすいので、保護者同士のつながりが苦痛です。いわゆる公園デビューも苦痛でしたし、今でも、子どもと公園で遊ぶのは好きですが、保護者同士で話をしたりするのが苦痛です。それでも、子ども同士が仲良くなるためには保護者も仲良くする必要があるのかなと思うところもあって、何とか周囲の保護者と話をしたりしています。これは親の仕事だと思って諦めて、他の保護者と付き合うしかないのでしょうか。
回答:自分のできる範囲でやればいいと考えましょう
このような、保護者同士のつながりについてのお話もよく聞きます。
多くの方は「仕方ない」と諦めていて、相談というよりも、愚痴という形でお話をうかがうということが多いのが特徴です。
明確な正解というものはないと思うのですが、子どものために親が我慢するという構図には無理がありますし、どこかでひずみが生じてしまいます。
なので、【無理のない範囲でやる】というのが理想です。
例えばこの場合、公園に行くのは楽しいようなので、公園に行って子どもと遊ぶことをメインにして、他の保護者と仲良くしようとする必要はないです。
子どもが~さんと遊びたいと言ってきたけれど自分の家に来られるのも相手の家に行くのもしんどいな、と思えば、公園で遊ぶことを提案してみてはどうでしょうか。
保護者同士の付き合いで悩まれる方の中に、「うわべだけの付き合いは良くない」「適当にやりすごすことができない」という方がけっこういらっしゃいます。
真剣に付き合わなければいけない、相手の申し出を断ってはいけない等と考えすぎてしんどくなってしまうことがありますよね。
あくまでも主役は子どもであり、子どもが少し大きくなれば保護者なしで付き合うようになるので、それほど深刻に考えず、「自分のできる範囲でやれば良い」と思ってみてください。
一人が好き or 一人遊びができない
質問A:うちの子は基本的に一人で遊ぶのが好きなようで、学校でも、自由時間は一人で外で遊んだり、本を読んだりして過ごしているようです。このままでは対人関係をうまく結べない子になるのではないかと心配です。
質問B:うちの子は、家に一人でいても「暇」「誰かと遊びたい」といつも言っています。とにかく誰かと一緒にいたいようで、一人でいるよりはマシだと言って、それほど仲良くない子とでも遊びに行っています。このままで良いのかと心配です。
回答:親としての考えは伝えた上で、子どもの行動を見守りましょう
この2つの質問はペアになっていると思います。
隣の芝生は青く見える的なこともあって、こういう保護者同士がお話をされると、相手の子が羨ましいとよくおっしゃいます。
一つ目の質問の保護者からすれば、そんなに積極的に友だちを誘うような社会性が羨ましいし、二つ目の保護者からすれば、一人で過ごせるような強さがあって羨ましいという感じです。
ただ、不思議なもので、では、相手の子のようになって欲しいかというと、そうではないようです。
やはりずっと一人でいるのは心配だし、かと言って、誰から構わず遊ぶ必要があるのかと言われると疑問という感じだと思います。
どちらの方が正しいということはできませんし、どちらにもそれぞれ良いところがあります。
つまり、まずは子どもの現状の良いところを認めてあげて、評価してあげるのが良いということです。
「一人で時間を過ごせるというのは良いことだね」「色々な子と遊べるのはあなたの良いところだね」と伝えてあげてください。
保護者として「こういうことを心配している」ということを伝えるのは悪いことではありませんが、その考えを聞いた上で子どもがどう行動するかを見守ってあげましょう。
友だちから無視をされたり陰口を言われている
質問:小学生の娘が、友達同士の些細なトラブルから、無視をされたり、陰で悪口を言われたりしているようです。うちの子にも原因があるとは思うのですが、子どもにどう声をかけたら良いでしょうか。
回答:保護者として、子どもを徹底的に守る立場でいましょう
子どもに関わる大人としては、「いじめられる側にも非がある」という考え方は絶対にしてはいけません。
どんな理由があっても、いじめ行為を正当化することはできないということを明確にしたうえで対応していきましょう。
どんな理由があっても、相手を無視したり、悪口を言うのは相手に非があることで、あなたは悪くないのだということを子どもにきちんと伝えて、保護者は子どもを絶対に守るという意思を伝えてあげてください。
いじめの多くは、いじめられる側の何らかの反応を期待して行われています。
そのため、少なくとも子ども同士であれば、相手に反応しないことが理想的ですが、それで相手の行動等がエスカレートするのであれば、学校を休むなどして避難しましょう。
いじめと戦うことに力を使うのではなく、傷つきから回復して次のステップに行くために力を使ってもらいたいと思います。
親友がいない/自分だけ浮いている
質問:中学生の娘が「私には親友が一人もいない」「他の子はみんな仲良くしているのに、私だけ浮いているように思う」と話をしてくれました。本人なりに悩んでいるようなので、何か声をかけてあげたいとも思うのですが、どうしたら良いでしょうか。
回答:不安に共感し、自分のことを一番に大切にするように伝えましょう
このような質問や悩みは、思春期の子どもたちからよく聞きます。
その子たちからは、「中高生になれば、少なくとも親友は数人いるべき」「友達は多い方が良い」「みんなには友達がたくさんいるのに、自分にだけいない」という内容が共通して出てきます。
個人の価値観によるところもあるのですが、中高生の時点で親友はまだいなくても良いのではないか、友達は多くても良いが少なくても良いのではないか、と思います。
子どもたちは不安ですので余裕がなくなっていて、「親友はいるべきだ」「友達は多い方が良い」「みんなには友達がたくさんいる」と思いこんでいるところがあります。
そうじゃなくても良いかもね、という視点を保護者から与えてください。
子どもが不安を話してこれば、まずは「それは不安だよね」と共感してあげてください。
その上で、子どもの思い込んでいる部分を少しほぐしてもらえたらと思います。
子ども達のこういう悩みは思春期によく表れてきますが、その準備段階として、大人は「親友と呼べる存在は人生を通してめぐり逢えたら良い」とか「友達はたくさんいても良いけれど、少なくても良い」とか「周りの人のことよりも、大切なのは自分のこと」などの話を子どもが小さい時から伝えていくのが良いのかもしれません。
おわりに
子どもの対人関係に限ったことではありませんが、「こうあるべき」「そうなれない自分はダメだ」という思い込みが子どもや大人を苦しめていることが多いように思います。
ある子どもが私の所に来て、「私は小学生なのに、友達が100人もいないから駄目なんだよ」「友達100人できるかな?っていう歌あるでしょ?」と話してくれました。
「別に100人もいなくても良いんじゃない?」「今の友達を大切にしてみたら?」「友達と一緒にいる時、楽しそうだよ」と返すと「確かにそうだね」と納得してくれたことがあります。
多くの悩みはこんなに簡単に解決することはないのですが、それでも、まずは「今のままのあなたで良いんだよ」というメッセージを発するところから始めることが大切ではないでしょうか。
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