発達特性を有するお子さんを育てていると、お子さんのさまざまな課題に直面することが多いでしょう。
お子さんによって課題は異なりますが、学齢期のお子さんを持つ親御さんから多く相談を受けたものをピックアップし、どこまでその課題に向き合い、克服させるべきなのかということに関する考え方の例をお伝えしていきます。
漢字が書けない
計算ができない
忘れ物が多い
毎日の生活習慣も声掛けがないと一人ではできない
みんなと一緒に行動できない
これらの例を踏まえつつ、これら以外の課題においてもどのような視点を軸にして考えられるとよいかという考え方をお伝えしていきます。
この記事を書いた専門家
日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
目次
はじめに
発達特性を有するお子さんを育てていると、特に学齢期、小学校の時期は、周りと比べてできないことが目についてしまいがちになるかもしれません。
さまざまな発達の凸凹を抱えながら生きていかなければならないお子さんにとっては、苦手の克服ばかりではなく、得意を活かすということもとても大切なポイントです。
しかし、かと言って、苦手をやらなくてよいということではありません。
苦手なところと、得意なところのペース配分は変え、社会生活を見据えて必要なことは優先順位高く、学校生活の中で指導されることであっても将来の社会生活で使用頻度の低いものは優先順位を低く、という視点でスキル獲得のアプローチ方法を変えていくことが大切です。
その具体的な例を下記に示していますので、ご参考いただけたらと思います。
「〇〇できない」別の対応方法
勉強面
まず以下では、勉強面について「〇〇できない」場合の対処法をお伝えします。
漢字が書けない
漢字が書けないと一言で言っても、漢字を苦手とするお子さんが課題となるポイントはさまざまな状況があります。
・書けてはいるが、書き順がめちゃくちゃ
・バランスが整わず、形態が崩れる
・書き方が雑で読めない
この背景には、形を捉える力が弱かったり、目で見たことを手の運動へと伝達する力がうまく働いていなかったり、注意力が散漫になりがちで目の前の文字一つに集中できていなかったりなど、さまざまな要因が考えられます。
小学校の学習の中では、書き順やとめ・はねなどの書き方も細かく指導を受ける場合もあります。
一方で、大人になって、そのようなことをどの程度、正確に書いているでしょうか。
そもそも漢字を書く機会自体いかがでしょうか。字を書く機会すら学生の頃に比べて、かなり減っていると思います。
だからこそ、たまに書くと漢字が思い出せないという経験もあると思います。
今の時代は手書きがかなり減っており、パソコン入力が主流ですし、社会に出てからは書く機会が減るということを考えれば、書くことを完全に克服させる必要はないと言ってもいいと思います。
漢字を書けるようにすることを目的にするのではなく、苦手なことでも少しずつでよいから頑張ってみようという取り組む姿勢を育むという視点で、書くことにも取り組むことがベストです。
書くことのスキル獲得は、緩やかなペースで、少しずつ覚えられるように、焦らず長い目で見てあげてください。
書き順は大人になってから問われることはありません。
部分的に多少、書き順が違ったとしても、形態が整って、読める字になるのであれば、書き順を徹底して教え込む必要はないということです。
書き順を強調しすぎることで、漢字を書くことへの苦手意識や拒否感を強めてしまうと、それこそ緩やかにでも漢字学習に取り組むことが難しくなってしまいます。
社会に出たらパソコン入力が主流になっていると伝えた通り、書けなくても読めれば対応可能な幅はグッと広がります。
書くことは緩やかですが、読むことはそれよりもペースを速く進めていくことの方が大切です。
漢字そのものが読めることもそうですし、パソコン入力の際には同音異義語の適切な漢字の選択は必要になるため、文脈から判断して適切な漢字を選択できるかということも取り入れていきましょう。
学習障害(LD)や「漢字が書けないこと」について詳しく知りたい方はこちらもご覧ください
計算ができない
計算ができない状態の背景や要因としては、抽象的な概念を扱うことの苦手さがあったり、複数のプロセスを覚える力が弱かったりすることなどが考えられます。
最低限、1桁の計算はできておくといいという考え方でいましょう。
大きな数の計算は暗算や筆算を使ってする機会は大人になるとあまりありませんよね。
電卓を使うことができる、支払時に必要な欲しいものがこの金額で買えるかどうかの判断などができるなどで将来の生活は困らないという気持ちでいることをお勧めします。
時計が読めない
時計が読めない場合も、背景や要因として、抽象的な概念を扱うことの苦手さを有している可能性が高いです。
時計で目に見える形になっているようで、時間というものは目に見えないものであるため、抽象度が増しており理解が難しく、なかなか定着しない場合があります。
小学校の学習の中ではアナログ時計の学習です。
アナログ時計も世の中には溢れているため、読めるに越したことはないでですが、スマホもデジタル時計表示が主流です。
読めなければデジタル時計でも問題はないですし、アナログ時計の学習をするにおいても、1分単位や秒まで日常の中で読む気機会は少ないため日常生活においては5分単位の分が読めれば十分という考え方でいましょう。
生活習慣面
以下では、生活習慣における発達特性がゆえの「〇〇できない」について解説します。
忘れ物が多い
忘れ物が多いというのは、本人がどんなに気を付けようとしても、努力で克服できる課題ではありません。
というのも、ワーキングメモリーという脳機能が働きの弱さが影響しているからです。
「忘れ物をしないように気を付けよう」と根性論的なことを押し付けても改善はされないですし、親御さんが準備してお膳立てしすぎてしまうと大人になってからお子さん自身が困ることになってしまいます。
学齢期の時点で忘れ物が多いタイプだと気付いたからには、少しでも忘れ物をせずに済むための方法・環境作りを時間をかけて習慣化していくことが大切となります。
ワーキングメモリーの働きの弱さとお伝えしましたが、その機能が弱いことにより、その時に必要な場所に注意を向けるといったコントロール機能がうまく働いていない状態なのです。
そのため、目に入る情報量が多ければ多いほど、注意があちこちに向いて、忘れやすくなってしまいます。
お財布やICカードを入れるパスカードなどなくしては困るものは、カバンや洋服から離れないようにチェーンなど繋げられるものを取り付けておくとよいでしょう。
持ち物など準備をする際には、チェックリストに慣れるように練習を重ねていきましょう。
その準備をする際も、別の部屋など取りに移動しなければならないのであれば、移動を極力最小限に抑えられるような順番にリストを作っていくことが大切です。
動きをシンプル化すると考えてみましょう。移動が多くなると、その分、移動時に目に入る刺激が多くなり、他のことに気を取られ、準備が滞ってしまいます。
「忘れ物をなくす」ということではなく、「何があれば忘れ物を減らすことができるか」という視点で補う方法をお子さんに身につけられるように心掛けていけるとよいでしょう。
声掛けがないと一人ではルーティーンができない
親からすると「毎日やっていることなんだから分かってるでしょ!」と思うことでも、声掛けで行動しているので、どのタイミングで何をしているかまではお子さん自身が考えていない可能性があります。
親からすると大変なことではありますが、こちらもスケジュール表などを記載して「見て」と何時に何をする必要があるのかを、お子さん自身に考えさせるように促していきましょう。
時間が守れない
次の行動のことまで意識に留めつつ、目の前の好きなことをやるということは、発達途上のお子さんでは難易度の高いことです。
注意をコントロールする力が弱く、やるべきことと、やりたいことでの意識の切り替えが難しくなっていることが予測されます。
何かに夢中になっていると時間を忘れてしまうことはお子さんは特に多いです。
時計を見るように習慣化することも大切ですが、意識のコントロールの未熟さはあるため、時計だけに頼りすぎず、タイマーを活用しましょう。
お子さんに自分で設定させて、音が鳴るようにしておけば、夢中になっていても、音は耳から入って気付くことができます。
そこですぐに切り替えることはできないことも多いとは思いますが、まずは切り替える時間になったと気付くポイントを作ることが大切です。
みんなと一緒に行動できない
学校は集団行動のため、みんなと同じように一緒に行動ができないと目立ってしまったり、注意を受けることが多くなってしまったりすることがあるでしょう。先生とのやり取りで親御さんが疲弊してしまうことも多いケースかもしれません。
勉強内容などすでに分かっていてなぜやらないといけないのかと感じていたり、みんなと同じにするということ自体になぜなのかと感じていたり、じっとしていることが苦手だったり、音に敏感でちょっとした人の動きによる音や物が落ちた音などのザワザワする環境が苦手であったりするなど、お子さんによって背景要因は異なるでしょう。
ただ、社会生活を考えてみてください。5時間も6時間も、クラス単位のような集団で同じことをし続ける環境がどの程度、あるでしょうか。職種によってはそういうことが求められる職種もあるかもしれませんが、そうではない職種の方が圧倒的に多いかと思います。
協調性を育んだり、集団の中の一人としての行動規範意識を育んだりするために、集団行動を意識させる機会もあってよいとは思います。
ただ、学校生活すべての時間でそれを求めることはお子さんにとって非常にしんどい環境かもしれません。
この時間だけはみんなと一緒に行動することを目的に練習していこう。
その他の時間は、お子さんのペースで、お子さんのできることをやっていこう。
などと、時間であったり空間であったりで区切って、お子さんの苦手な集団行動へのアプローチと、お子さんの得意を伸ばすアプローチとのメリハリをつけていけるとよいでしょう。
おわりに
学校の先生の指導方針や考え方によっては、うまく理解が得られないこともあるかもしれません。
それはまた別の問題として考えていくことが必要とはなります。
ご家庭での方針として、お子さんへの向き合い方の軸をどうするかということも大切です。
その軸の置き方として、社会に出たときにはどの程度使用するか、どのような使い方をしているかという視点を持って、時間と労力をかけるところのメリハリをつけるように心掛けていただけるとよいかと思います。
「苦手なことは克服させないと!」とか「苦手だからやらなくていい」といった考え方ではなく、苦手なことはスローペース、できること・得意なことはハイペースとお子さんの得手・不得手に合わせて習得のペース配分を変えていきましょう。
苦手なことも社会に出たときに重要なスキルの場合は“できるようにする”という視点も入るかもしれませんが、“できることにする”ことを目的にするよりは、「〇〇があるとできる」というツールや補う方法を見つけたり、苦手なことでも向き合って頑張る姿勢を育んだりすることを目的に考えておけるといいですね。
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