漢字の壁を乗り越える!漢字が苦手な子どもへの理解と学び方の工夫

「漢字が書けない」「漢字を覚えられない」。

子どもも親もつらくなって、お互いに悲しくなったり、イライラしたり、どうしたらいいのかわからなくなってしまいますよね。

このようなとき、学習障害の可能性を考える親御さんもいらっしゃるでしょう。

漢字を苦手とするお子さんを持つ親御さんにとって、この問題はただの学習の壁ではなく、子どもの将来に影響を及ぼす重大な懸念事項だと思います。

この記事では、漢字が苦手な理由と、それにどう対応すれば良いかを深掘りし、学習障害の可能性と具体的なサポート方法について詳しく解説します。

特に、学習障害(限局性学習症/SLD・LD)と、漢字が苦手なことに悩みを抱えやすい自閉スペクトラム症(ASD)にも触れ、WISCではどんな結果となると漢字が苦手になりやすいのかも合わせて紹介します。

発達グレーゾーン記事特集

この記事を書いた専門家

いけや さき


公認心理師、臨床心理士

精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。

子どもが、漢字を書けない原因を考えたとき、おそらく「学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)」の可能性が高いという記事が出てくることでしょう。

漢字

以下に、漢字が苦手な場合に考えられる原因を解説していきます。


学習障害(LD:Learning Disorder)/限局性学習症(SLD:Specific Learning Disorder)とは、読み書きや計算などの特定の能力が生活に支障をきたしている状態です。

前提として、全般的な知的の遅れがないことが条件です。

学習障害の種類は以下のようなものがあります:

・読字障害(ディスクレシア)
・書字障害(ディスグラフィア)※「ディスグラフィア」は医療用語ではありません。
・算数障害(ディスカリキュリア~)

漢字が苦手な子どもの場合、書字障害と読字障害のどちらか、もしくは両方の可能性があると考えられます。


自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)は、社会的コミュニケションや物事への関心の向け方に特徴がある発達障害の一種です。

ASDの子どもが漢字を苦手とする理由には以下のようなことがあげられます:

・細部にこだわり過ぎてしまう
・刺激に敏感で集中できない
・空間認知能力が苦手
・作業記憶(ワーキングメモリ)が苦手
・漢字には興味関心がない

これらは、ASDの子ども全員に当てはまるわけではありません。

また、ASDの子どもの場合、漢字を覚えることに明確な目的が見出せないと「なぜやらなければならないのか」にこだわってしまうこともあります。


LDとASDは、約26%程度の人が併発しているといわれています。

先程紹介したように、ASDはコミュニケーションやこだわりに関する特徴を持った発達障害です。

ASDとLDが併発している場合、LDのみを持つ子どもとは異なる特徴が現れるともいわれています。

writing

たとえば、漢字が1文字だけなら読めても、文章になると読めなくなる子や文章の理解が苦手な子などです。

また、本人の興味のあること(よくあるのは電車)に関する漢字は読めたり、書けたりしても、その他になるとできない場合もあります。

書けないからLDであるとか、書けるものと書けないものがあるからサボっている、などとは思わず、まずは本人の特性をよく理解してあげることが必要です。

お子さんについて、LDか気になる人は、まず以下の症状があるかをチェックしてみましょう。

アメリカ精神医学会の『DSM-5』では、書字表出障害という表記があるため、今回は書字表出障害の基準を紹介します。

読字障害/ディスクレシア

☑読んでいるところがわからなくなる
☑読み飛ばしが多い
☑「あ」「お」など1文字ずつ読めても「あお」の理解は難しい
☑小さい文字(「っ」「ゅ」など)が認識できない
☑音読みと訓読みの使い分けが苦手
☑知的に遅れは見られない
☑スムーズに文章を読めない
☑文字を読めても理解が難しい

書字表出障害

☑聞こえたことを文字にすることが苦手
☑単語を正確に書けない
☑板書に時間がかかる
☑文法の理解が難しい
☑作文・文章が書けない
☑助詞(は・が・の・を など)が正しく使えない

LDは、知的な遅れがないことを前提とした状態です。

そのためWISCを受けたのちに、必要に応じて学習障害の精査を行うことが一般的です。

以下では、WISCの検査項目別の状態について見ていきます。


漢字に限らず、勉強が苦手な子どものなかにはワーキングメモリが低い子もいます。

memory

文字の形を正確に理解するには、空間認知能力や視覚処理の力が必要です。

知覚推理は、目で捉えたことを理解し、処理や推論する力のことです。

つまり、知覚推理が低いと、漢字を正確に捉える力が弱いことになります。

知覚処理

漢字は、全体的な形として捉えられていれば読めることもあるでしょう。

しかし、書くためにはどこに何を書くかを、正確に把握する必要があります。


「符号」という見本の記号を書き写す検査項目が苦手な子もいます。

この「符号」に必要な能力は以下のような物があります。

・視覚的短期記憶
・形を正確に把握する力
・認識した形を正確に書き写す力
・見たものを素早く処理する力

ここまでで気づいた人もいるかもしれませんが、処理速度は「板書する力」や「字を書く力」などがあるかがわかる検査項目と言ってもいいでしょう。

板書

処理速度にはもう一つ「記号探し」という項目がありますが、そちらは書き写しではなく素早く判断する力が問われる検査です。

知能検査の結果に「符号」のことが細かく書かれていなかった場合は、検査者に聞いて支援方法を考えてもいいかもしれません。

漢字が読めない・書けない理由はさまざまですが、以下の方法を試してみましょう。


・絵カードや写真を活用する
・穴埋めや漢字探しクイズで楽しく覚える
・漢字の成り立ちを教える


・漢字を分解して部位で覚える
・覚えやすいストーリーを考える
・書く際のポイントを音声で覚える

いきなり漢字のみを見せたり、ドリルで反復練習をする方法では、ストレスがかかる可能性が高まります。

無理させない、得意を活かす、楽しむを大事にしてみてくださいね。

以下で、それぞれについて詳述していきます。


絵カードや写真を活用する

ひらがなが読める子であれば、絵カードとひらがなと漢字をセットにしてもいいでしょう。

たとえば、小学校2年で習う「雲」であれば雲のイラストを見せて名称を聞き、その文字が「くも/雲」であることを教えるといった感じです。

見るだけでなく、音読をするのもいいでしょう。

また、家にあるものや最近行った場所に関連する漢字を教えるのも、楽しみながら勉強することにつながります。

穴埋めや漢字探しクイズ

ふりがなが振ってある漢字と、ふっていない漢字を見せてヒントがある状態で読む感覚を覚えるのもおすすめです。

また、いくつかの漢字が書いてある一覧とその中の2~3個を書いたプリントを用意し、「歌、という字を探す」という方法も有効でしょう。

漢字の成り立ちを教える

漢字にはできた理由や意味があります。

クイズや物語のように漢字のできあがった理由を教えることで、思い出すヒントをつくったり、興味を持つきっかけにする方法もあるでしょう。

特に、ASDの子どもは「なんで?」「どうして?」に強い興味を示すこともありますよね。

教えることをきっかけに漢字に興味を持つかもしれません。

漢字を分解して部位で覚える

「へん」「つくり」「かんむり」「かまえ」などに分解したカードを組み合わせて漢字を覚える方法です。

プリントでも見かけますが、カードにして実際に組み合わせてみると、ゲーム感覚で楽しく覚えられますよ。

カードをつくるときも、子どもと一緒に工作感覚で準備しても楽しいですね。

覚えやすいストーリーを考える

先程紹介した「漢字の成り立ちを教える」ではなく、本人が書く際に覚えやすい方法を考えるのもおすすめです。

漢字

実際の意味ではなくても、「はち」が飛んできて「むっとなった」で「公」など、語呂合わせのように思い出しやすくする方法も楽しいでしょう。

書く際のポイントを音声で覚える

特に「はらい」「とめ」が苦手な子や、見本があっても書くのが苦手な子におすすめです。

例「横棒が1、2、3、4…くーち、よーこ、たーて」と言いながら「計」を書く

応援したい気持ちやなるべく早くどうにかしたい気持ちは、とてもよくわかります。

子どもの将来について親が不安や焦りを抱えるのは当然のことですよね。

しかし、子どもからすれば「やればできる」はやれなかったときに「自分はできない」と自己肯定感を下げるきっかけにもなります。

特に、学習障害やASD、別の記事で紹介したADHDの子どもにとって反復練習は苦痛でしかないことが多いです。

子どもの気持ちや特性に寄り添い、1人ひとりにあった工夫をしていきましょう。

参考文献

岡 牧郎.LDと自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症(併存障害).児童青年精神医学とその近接領域 58(2);236─245.2017

佐囲東 彰.アスペルガー症候群を有し漢字習得に困難さがある児童への書字指導.教育実践研究.195-200.2019

奥住 秀之 (監修), 小池 敏英 (監修).これでわかる学習障がい.成美堂出版.2019

発達グレーゾーン記事特集