学力やIQなどは「認知能力」と呼ばれていますが、この「認知能力」とは異なる、「非認知能力」というものが、子どもたちが将来幸せで充実した人生を送る上で非常に重要な役割を果たします。
最近では耳にする方も増えたのではないでしょうか。
今回は、この非認知能力の要素の一つである「精神的安定性」について解説してきます。
こちら。
非認知能力に関する記事一覧は非認知能力とは
「非認知能力」とは、学力やIQなどに代表される「認知能力」以外の能力のことで、人間の内面的なスキルです。
非認知能力は将来の幸せの指標とも言われており、子どもが豊かな人生を歩んでいく上で大切な「力」です。
非認知能力には様々な要素があり、それぞれの要素は周りの人との関わり合いの中で育み、時間と共に発達していくものです。
非認知能力は、能力という位置づけで捉えられたり、性格の一つの側面としても捉えられることもあります。
こちらの記事で詳しく説明しています。
非認知能力については「精神的安定性」について
「精神的安定性」とは、心の知能指数で、感情をコントロールする力を言います。
これはストレスや圧力の下でも冷静さを保ち、ポジティブな感情状態を維持する能力を指します。
「神経症的傾向」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、”精神的安定性が高い=神経症的傾向が低い”ということになります。
精神的安定性が高い人は、心理的な厳しい状況にも効果的に対処し、感情の落ち着きを保つことができる傾向にあります。
精神的安定性の特徴には以下のようなものがあります:
- 感情の安定性:日常の出来事に対して過度に動揺することなく、安定した感情の状態を保ちます。
- ストレス耐性:難しい状況やプレッシャーのもとでも、取り乱さずに、効果的に対処することができます。
- ポジティブ思考:ネガティブな出来事や挑戦にもかかわらず、ポジティブな見方をすることができます。
- 適応性:変化する状況や予期せぬ出来事に対して柔軟に対応し、適応する能力を持ちます。
精神的安定性を高める日常生活での実践方法
精神的安定性は、人間関係の質や社会的な結びつきの強さに大きく影響を与えます。
子どもの幸福感や将来の成功に直接的な影響を及ぼす可能性があるとも言われています。
具体的に、この精神的安定性をどう高めていけばいいのか以下にご紹介します。
1. 安定した環境を
子どもが安心して成長できるよう、愛情豊かで安定した家庭環境を提供してください。
発達途上である子どもにとっては、特に健康的な生活リズムが重要です。
例えば、無理のない範囲で朝起きる時間を決めたり、「朝ごはんは○時に食べる」など、規則正しい生活や定期的なルーティンを決めましょう。
子どもは、その時間に何をするか予測ができることに加え、習慣化することができるためストレスがなく健康的なリズムで安心感のある日常生活を送ることができます。
なお、睡眠不足や不規則な生活が子どもは、認知機能、注意力、行動のコントロールについて、ネガティブな影響が出ることを示している研究も多く、発達段階の子どもにとって規則正しい生活がいかに大切かがわかります。
たとえば、2014年に「Pediatrics」誌で発表された研究では、小学生および中学生の睡眠の質と量が学業成績にどのように影響するかを調査し、不十分な睡眠が学業成績の低下に関連していることが発見されました。※3
2. 感情を適切に表現する
自分自身の感情と上手に付き合っていくことが精神的安定性の重要なポイントです。子どもが自分の感情を認識し、適切にコントロールできるように以下のポイントをお伝えします。
自由に感情を表現する
まずは、子どもが感じた感情を自由に表現させましょう。
大人は、ネガティブな感情も受け止め、どんな状況でそう感じたのか、理解しようとすることが重要です。
じっくりでいいので、感情を言葉で伝えることとその効果を学ぶことで、客観的に自分の感情を捉え直し、コントロールしていく力が育まれるでしょう。
子どもが感情を自由に表現し、それを言葉で伝えることが精神的健康に及ぼす効果に関しては、感情の認識と調整能力を中心に研究されています。
この分野には「感情知能」(いわゆる「EQ」)や「感情の認識と表現」に関する研究があり、子どもたちが自分の感情を理解し、適切に表現する方法を学ぶことが、感情的なコントロールや社会的スキルの向上につながることを示しています。
子どもの感情に共感する
保護者が子どもの感情を認識し、それに対して共感的に反応し、感情を健康的に表現することが重要です。
この方法は、「感情コーチング」※2というアプローチで、感情コーチングを受けた子どもたちは、感情的に安定しており、社会的な問題を解決する能力が高く、学業成績においても良好な結果を示した研究もあります。
感情をラベリングする
感情を言葉で表現するという行動が、子どもの感情調節能力に与える影響を検討した研究も多く存在します。
特に、子どもたちが自分の感情を正確にラベリングして表現することは、感情を客観的に評価し、適切に対処する力を養うことに繋がります。
「感情の言語化」と精神の健康についての研究の一例としては、「書き出し療法」※3という方法があります。
これは、感情を抱える出来事について書き出すことで、感情を処理し、心理的なストレスを軽減する方法です。
この方法は大人に対してよく研究されていますが、感情を言語化することの重要性を示唆しており、子どもや青少年においても同様の効果が期待できると考えられています。
3. 子ども自身に考えさせる
子どもが何か問題に直面した時に、自分でどうその問題に対応するか、その方法を学ぶ機会を大切にしてください。
小さなことでも、自分自身が直面している物事としてしっかり状況を受け止めることで問題から逃げない姿勢に導くことができます。
そして、小さな問題の一つ一つにしっかりと向き合った経験が、自信を持つことにもつながり、様々な状況に適応する力と自己効力感も高めます。
自己効力感とは、自分自身の能力を信じ、特定の状況や課題に対処することができるという信念のことで、アルバート・バンデューラの社会的学習理論において重要な考え方です。
バンデューラは、自己効力感が人々の行動・思考パターン・感情的な反応に大きな影響を与えると指摘していて、子どもが自ら問題に立ち向かい、解決策を考え出すプロセスを通じて、自己効力感が強化され、適応力が高まることを示唆しています。
4. リラクゼーションを取り入れる
子どものリラクゼーションについてはあまり聞いたことがないかもしれませんが、例えば勉強を始める前に深呼吸をしたり、目を瞑って1分間何も考えないような時間を作るなどの小さな工夫で、場面を切り替えて感情をコントロールしたり、できるだけストレスの少ない環境で集中力を高めるポイントとなります。
瞑想についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
非認知能力の調べ方
2012年にハワード・ガードナーが提唱した「多重知能理論」(「MI理論」)は、人間の知能が一つではなく、様々な形で現れると示したものです。
この理論に基づく研究では、子どもたちが様々な活動に参加することで、異なる種類の知能が刺激され、全体的な学習能力と創造性が高まることが示されています。
多様な経験が子どもたちの知的好奇心を養い、新しいスキルの習得に対する意欲を高めることが確認されており、精神的安定性のみならず、他の非認知能力の要素も高められるのです。
「才能発掘診断」では、非認知能力を測定するメジャーな指標「ビッグ・ファイブ」に、子どもたちの学びに向かう姿勢に影響する「自己肯定感」を加え、精神的安定性はもちろん、他の非認知能力の要素の状態も推測することができます。
他にも、上記のMI理論に基づいて、もともと持っている知能のバランスを踏まえて個性や才能を見つけ、効果的な学び方もお伝えしています。
他者と関わりながら成長し、社会の中で生きていくための人間力を育むヒントしてみてください。
才能発掘診断から子どもたちへのメッセージ
現時点の協調性が高くても低くても、それぞれのいいところがあります。
ただ、非認知能力の各要素を一定水準高めていくことで、異なる背景をもつ人々との交流が加速され経験に深みが出たり、価値観が広がり、社会に出た時にいい影響をもたらす可能性が高いと言われています。
子ども自身のペースや性格を尊重してバランスをとりながら身につけていくことがよいでしょう。
精神的安定性が高い子どもたちへ
あなたは自分の感情を上手にコントロールできよりも、あらゆる状況で冷静さを保ち、ベストな方法で物事に対処できるでしょう。ストレスが高まるような状況でも、落ち着きを失わずに解決策を見つけることができます。
必要に応じてストレスに対応できる能力は、心とからだの健康を保つ上でとても大切なことです。あなたのように自己管理能力が高い人は、いろんな人生での挑戦に対しても柔軟に、落ちついて、そして前向きに対応することができます。
困難な状況を乗り越えるための大きな力になるでしょう。あなたの感情をコントロールする能力とストレスへの強さは、あなたの人生をより豊かで、充実したものにするための貴重な特性なのです。
精神的安定性が高くない子どもたちへ
緊張や不安、ストレスを感じやすいことは、あなたがとても感受性が強く、周りの環境や人々の感情に対しても敏感であることを示しています。これは、あなたが深く思慮深く、他人に対して深い共感の力を持っているからこそです。
感情面で不安定になりやすいと感じる時も、それはあなたが自分自身と周りの世界に真剣に向き合っている証拠です。ストレスや不安を感じた時には、自分自身を大切に扱い、心と体の両方に対して優しくあることが大切です。
また、感情を表現することも忘れないでください。自分の感情を理解し、受け入れることで、感情の波に対処する力を育てることができます。あなたの繊細さ、敏感さは、周りの人と深くつながるための貴重な特性です。その感受性を大切にしつつ、自分自身のペースで進み、自分の内面の声に耳を傾けてください。自分を理解し守る方法を学ぶことで、あなたはより強く、より豊かな人生を歩むことができるでしょう。
おわりに
精神的安定性が高い人は、精神的および感情的な健康を維持しやすいとされ、ストレスや逆境に対して効果的な対処ができるでしょう。
一方で、精神的安定性が低い人(=神経症傾向が高い人)は、日常のストレスや挑戦に対してネガティブな反応を示しやすく、不安、悲しみ、イライラなどの感情に圧倒されたり、振り回されすいでしょう。
子どもの頃から、少しずつ精神的安定性を高めるためには、感情を上手に表現する方法を身につけたり、ルーティーンを活用することで子どもなりにストレスに対処できるようになります。
色々な感情を持つことは、人として素晴らしいことです。
その感情を上手に使って、幸せや喜びに気付きやすい状態を作っておくことで幸福感と生活の質も向上させることができるでしょう。
参考文献
こちら。
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