母子分離不安とは、その名の通り「子どもが養育者から離れる状況に強い不安を感じること」です。
小学校入学時は、多くの子どもが期待と不安を抱えていますが、不安が強すぎて体や心に影響が出てしまう子もいます。
今回は、学校への行き渋りや母子分離不安の適切な対処法をご紹介します。
後の生活にも影響が出て、不登校になるケースもあるので、心配な親御さんはぜひ最後まで読んでみてください。
この記事を書いた専門家
いけや さき
公認心理師、臨床心理士
精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。
\あわせて読みたい/
発達障害の記事一覧
夏休み明けの行き渋りの記事
不登校に関する心理士Q&A
目次
母子分離不安ってなに?
母子分離不安とは、子どもが養育者から離れる状況に対し、強い不安を感じることです。
未就学児にとって、母親から離れることへ不安を感じるのは当たり前のこと。
しかし、小学校に進学しても、強い不安や行き渋りがある場合を「母子分離不安」といいます。
なかには「先生怖い」「友達いない」など、小学校へ行きたくない理由を訴える子もいるでしょう。
いじめられていない場合でも怖がる子どもはいます。
医療で診断をつける際は「分離不安症」といい、不安に感じるのは母親に限らず子どもにとって愛着のある人物が対象です。
(幼少期の主な養育者は母親になりやすいため、母子分離不安と現在でもいわれています。)
原因は、環境要因やストレス耐性の弱さ、性格などの気質も原因の1つと言われています。
いくつかの原因が重なっている場合も多く、子どもによって異なることも多いでしょう。
母子分離不安の特徴-小学校低学年-
小学校低学年の母子分離不安は、以下のような特徴が見られます。
・親の注目や愛情を得ようとする
・親から離れることに強い不安を示す
・親を独占したがる
・スキンシップが多く、赤ちゃん返りがある
・見守られていれば、友達と遊べることもある
・養育者がいないと眠れない
・不安が身体症状(頭痛、胃痛、腹痛、夜尿など)に表れる
・登校できない、行き渋りがある、学校の話題を避ける
全ての小学生に当てはまるわけではありませんが、症状が1ヶ月以上続き、生活に支障をきたしているときに分離不安症と診断されます。
母子分離不安でやってはいけないこと
親からしたら「小学校へ行ってほしい」「小学生なんだから」と感じるのは当然です。不登校にならないかも心配ですよね。
この時、以下の注意点に気をつけないと、母子分離不安を長期化させてしまうこともあります。
・不安を無視する
・注意する、怒る
・無理やり学校へ連れて行く
・心配しすぎる
・話を聞かずにいじめを疑う、甘えと決めつける
・送迎時、逃げるように去る
・スキンシップを親の都合で拒否する
最終目標は、安心して小学校へ行くことです。
しかし、短期目標に「早く小学校へ行かせる」「一人で大丈夫になる」を設定してしまうと、親の焦りや不安が子どもに伝わってしまいます。
不登校を防ぐ、母子分離不安の対処法
母子分離不安は母親のせいとは限りません。
さまざまな理由で複雑化しているケースも多くあります。
まずは、母親のせいと思いすぎないこと。
子どものこれからのためにも、以下の方法を試してみましょう。
1. 発達年齢に合わせたスキンシップ
幼児期のスキンシップは、ぎゅーっと抱きしめ合ったり顔を近づけたりなど、距離が近いものだったと思います。
しかし、成長するにつれてスキンシップは変わります。
成長に合わせて、ハイタッチや握手など、小学生同士でもできるスキンシップを親子間でも増やしましょう。
いきなり、抱きしめる機会をゼロにする必要はありません。
また、徐々に親子のコミュニケーションの時間を作れるといいでしょう。
一緒に料理をする、1対1でゆっくり話をする、買い物するなども大事な親子のコミュニケーションの1つ。
発達理論によれば、6歳ごろからジェンダーの恒常性が確立され、男女の区別がわかってくるそうです。
自分の置かれた環境の中で、現実を構築する力も芽生えるといわれています。
関心事も養育者から自分自身に変化していき、自立していく年齢です。
発達年齢に合わせて、スキンシップやコミュニケーションを工夫して自立のサポートをすることが分離不安を解消する方法の一つです。
2. 勇気と安心につながる声かけ
「大丈夫!」「平気!」「怖くないよ!」
これらは母子分離不安タイプの子どもには逆効果。
「ママは私(僕)の気持ちをわかってくれない」と不安や不満が増し、注目を集めようとします。
「小学校が嫌なんだね」「緊張するのかな」など、気持ちを代弁して寄り添いましょう。
そして、子どもが話すことに耳を傾け、「話してくれてありがとう」「お母さん嬉しいよ」などと伝えてあげてください。
寄り添いと感謝の言葉は子どもを勇気づけます。
3. 自己決定力をつける
なんでもしてあげていませんか?あれこれ指示していませんか?
徐々に自分で決められる力(自己決定力)をつけてあげましょう。
例えば、小学校の話題や登校ができる子なら…
「何時に家を出発する?」
「今日はどの靴下がいい?」
など、選択する力をつけ、お母さんがいなくてもできるという自信につなげていきます。
自信をつけるための環境づくりが親の役割です。
学校の話題自体を嫌がる子に対しては、買い物や家の手伝いなどで選択肢を提示してみてください。
自己決定力は子どもの自信になります。
4. 段階的に離れる練習をする
親子だけで頑張ろうとせず、先生たちにも協力を依頼しましょう。
正門まで一緒に登校していたら、離れる時間を短くし、次は正門が見える電柱や曲がり角など、徐々に距離をあけていきます。
ただし、登校を嫌がる子に無理強いはよくありません。
まずは学校の話題が家でできるようになるまで気分の安定が最優先。
また、身体不調を理由に登校を嫌がる場合は1日休ませてあげてOK。
翌日も同様に訴えた時は、医療に行く提案をしてみてください。
家で元気になっても不安を助長させる声かけは避けるようにしましょう。
離れる練習の際は、担任や養護教諭、スクールカウンセラーなどと協力して、子どもが安心できる場を増やす工夫を忘れずに。
5. 不安の言語化を手伝う
不安の言語化は親だけでなく、担任やスクールカウンセラー、医師などにもできるようにするのが目的です。
母子分離不安の子どもは、こわさを感じた時、幼少期の経験から泣いたり怒ったりすることが意思表示と認識している子もいます。
親以外と適切にコミュニケーションできるように、代弁したり確認して、不安の言語化を手伝ってあげてみてください。
親は、子どもが不安な時にどう言えば周りに伝わるかを理解し、実行するためのサポートの役割を担いましょう。
発達障害の子どもの母子分離不安
「母子分離不安=発達障害」というわけではありません。
しかし、コミュニケーションの取りにくさや多動性・衝動性など、発達障害の子に見られる特徴が気になる場合は、早めに専門家へ相談してみてください。
特に発達障害があると、先の見通しのつかない状況や対人関係、臨機応変な対応、新しい環境などで不安を感じやすくなります。
母子分離不安対策は不登校の確率を減らます
母子分離不安は長期化すると不登校となるリスクも高いですが、焦っても不登校になる可能性があるほどデリケートなものです。
分離不安自体は多くの子どもが通過します。
しかし、不安が強すぎる、身体症状に出る、年齢よりも幼く母親にべったりなどの特徴に心当たりがある場合は、今回紹介した対処法をまずは実践してみてください。
一方で、近年の小学生の不登校は母子分離不安では説明できないケースも増えていると指摘されています。
いじめや学業不振など、複雑化していないかを確かめるために、学校や医療と協力して子どもの不安の原因を見つけ、取り除いてあげましょう。
参考文献
ディー・C・レイ(著)セラピストのための子どもの発達ガイドブック:0歳から12歳まで 年齢別の理解と心理的アプローチ,誠信書房,2021
滝川一廣,子どものための精神医学,医学書院,2017
田中康雄,イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本,西東社,2014
\あわせて読みたい/
発達障害の記事一覧
夏休み明けの行き渋りの記事
不登校に関する心理士Q&A