今回は、オーストラリアの教育の一つをご紹介します。
オーストラリアの教育システムは、長い間、伝統的な学習方法と「ワンサイズ・フィットオール」の方法に依存してきました。
「ワンサイズ・フィットオール」とは、その名の通り「一つのサイズ(ワンサイズ)で全員に合う(フィットオール)」という意味です。
教育の文脈では、全ての子どもたちが同じカリキュラム、教材、評価方法を用いることが適切だとする考え方です。
しかしこの方法は、子どもの個々の学習スタイル、興味、能力や必要性の違いを考慮しないため、批判の対象となることがあります。
日本でも伝統的に、テストの点数や順位ばかりが注目されがちですが、本当に大切なのは子どもたち一人ひとりの「個性」と「情熱」ではないでしょうか。
そんな中、「ビッグ・ピクチャー・エデュケーション・オーストラリア」という教育機関が登場し、教育界を一新しています。
本記事では、その特徴と効果についてご紹介していきたいと思います。評価方法も大変面白いので、ぜひ最後まで読んでみてください。
ビッグ・ピクチャー・エデュケーション・オーストラリアの概要
ビッグ・ピクチャー・エデュケーション・オーストラリア(Big Picture Education Australia、略称:BPEA)は、オーストラリアの教育機関です。
公式サイト:Big Picture Education Australia
1996年にアメリカのロードアイランド州でエリオット・ワショーとデニス・リトキーによってビッグ・ピクチャー学校が共同設立されたことに始まります。
ビッグ・ピクチャーの教育哲学である「ビッグ・ピクチャー・エデュケーション」は、カナダ、ニュージーランド、オランダ、英国、イスラエル、イタリア、インドを含む国際的な教育者ネットワークに発展しています。
BPLAは、そのビッグ・ピクチャー・エデュケーションのオーストラリア版で、2006年に設立されました。対象は、基本的には中学生から高校生向けとなっています。
以下では、この画期的なカリキュラムと評価方法についてご紹介します。
ビッグ・ピクチャー・エデュケーション・オーストラリアの特徴
まず、ビッグ・ピクチャー・エデュケーションの主な特徴は、子どもたち一人ひとりの興味、強み、情熱に焦点を当てた教育アプローチを展開しているという点です。
以下の通り、もう少し具体的にご紹介します:
個別化されたカリキュラム
それぞれの子どもに合わせた教育プランを作り、子どもが主体的に学習に参加することができます。
子どもたちが自分の好きなことや得意なことを生かしながら学べるよう工夫されています。
実践的な学習
教室での勉強だけでなく、実際の社会で役立つスキルや知識を学ぶことを重視しています。
実際に使える知識を身につけながら、学校の勉強を進めていくスタイルです。
教育者が地域社会と協力して、子どもたちが実世界に積極的に関わるよう促しています。
そうすることで、子どもたちがより広い視野を持ち、社会に出る準備のためにさまざまな経験を積むことができます。
それぞれの子どもが自分のペースで、興味や強みを生かしながら、実際に役立つ知識やスキルを身につけられる教育が実践できています。
画期的な評価方法:インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャル
もっと注目したいのは、その評価方法についてです。
ビッグ・ピクチャー・エデュケーション・オーストラリアには、「インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャル」という評価システムが導入されています。
インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャルとは
少し名前が長いのですが、「クレデンシャル」とは、証明、のような意味合いを持っており、子どもたち一人一人の学びのプロセスと学びの成果の証明書のようなものです。
このクレデンシャルには、「フラワーダイアグラム」と呼ばれるカラフルな絵が含まれており、それぞれの「花びら」が子どもたちの習熟度を示します。
従来の教育システムでは、決められたカリキュラムに沿って学び、テストでその理解度を評価するケースが多いでしょう。
しかし、先ほど特徴でご紹介した通り、ビッグ・ピクチャーは実世界での学びを重視しています。
インターンシップやコミュニティ活動など多方面での活動を通じて、子どもたちが社会で活躍するための「本物の学び」を重視した評価システムになっています。
その方法は、一人ひとりの情熱、目標、達成度を重視するものです。
他の子どもと比較することではなく、本人がどのように進歩し、学んでいるかを評価します。
なお、この評価方法は、教師の判断が中心となりつつも、メルボルン大学の評価研究センターによって定期的にチェックされるなど第三者によってモデレーションが行われています。
インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャルの構成要素
以下で、「インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャル」の主な構成要素を通して、その特徴を見ていきましょう。
子ども自身で評価指標を表現できる
クレデンシャルの中の「Student Statements」(スチューデント・ステートメント)の箇所です。ここには、情熱、目標、学習上の成果を子ども自身が簡潔に記載します。
子どもたちは自分の能力の豊かでカスタマイズされたプロファイルを持ち、自らをどのように表現するかに関しても大きな自主性を持つことができます。
ビッグ・ピクチャーの子どもたちは、それぞれが興味に基づく独自の学び方を持っているため、子どもたちの特徴的な学び方、成果、能力、潜在能力を公正かつバランス良く表現することができるとされています。
子どもたち自身のことばで記載されるため、自己表現力と自己理解力を育むとともに、教師や保護者が子どもたちの内面を深く理解する手がかりにもなります。
学びのエビデンスが見える
クレデンシャルの中の「Live links」(ライブ・リンク)というエリアです。
子どものオンラインポートフォリオやビデオプロフィールへのリンクが含まれており、具体的な学びのエビデンスが集められます。
子どもの学習過程をリアルタイムで追跡して視覚的に確認することができます。
周りとの比較による評価でないことが明記されている
クレデンシャルの中の「Criterion based」のエリアです。
他の子どもとの比較ではなく、定められた基準に照らして個別の評価します。個人の成長と達成を公平に評価することができます。
以上のように、インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャルは、「人」を教育評価の中心に戻すことを目的としています。
インターナショナル・ビッグ・ピクチャー・ラーニング・クレデンシャルの具体的な評価方法
とはいえ、評価は評価です。
どのような基準・指標で評価が行われるのかというと、以下の6つの枠組みで行われます。
学習方法の知識
どれだけ効果的に学習する方法を知っているかが評価されます。
具体的には、学習目標を設定し、情報を取得し、それを統合し、新しいスキルや知識を獲得するための戦略を選択する能力が重視されます。
重要なのは、何を知っているかという知識の観点ではなく、どれだけいろんな方法を活用して学ぶことができるかというプロセスを大切にしている点です。
経験的推論
過去の経験や実践から得た知識や洞察をどれだけ活用できるかが評価されます。
実際の状況に対処し、問題を解決する際に過去の経験を利用する能力に関連しています。
単なる知識の取得ではなく、未来に活かすことができる経験や考え方をしているか、という観点です。
数量的推論
数値やデータを分析し、意思決定に役立てる能力を評価します。
数値データを正しく解釈し、パターンやトレンドを識別し、その情報を活用して問題解決や意思決定を行う能力が求められます。
社会的推論
周りの人との関係や社会的状況を理解し、適切に対処する能力が評価されます。
これには、周りの人の感情や視点を理解し、協力し、コンフリクト(対立)を解決する能力が含まれます。
コミュニケーション能力
効果的に情報を伝え、周りの人との対話や協力を円滑に進める能力を指します。
言語、非言語、およびデジタルツールを使用して、意見やアイデアを明確に伝え、周りの人とのコミュニケーションに積極的に参加する能力が評価されます。
いかがでしょうか。従来の成績表では表現しきれない個々の才能や達成状況を、多面的に捉えることを可能にしているといえるでしょう。
おわりに
ビッグ・ピクチャー・エデュケーション・オーストラリアは、子どもたちが自ら学びに積極的に関与し、自分の興味や情熱を追求することで、学ぶ喜びを実感できるシステムと言えます。
そして、子どもたちが実社会で必要とされるスキルを身につけることができるため、教育現場から実社会への移行がスムーズにできることも期待できます。
評価方法についても、子どもの実世界での経験、個人的資質、学びの豊かさを反映するよう設計されていて、個々の子どもの情熱、目標、成果に焦点を当てた学びを重視していることが明確ですね。
子どもたち一人ひとりの興味や情熱、主体的な関わりという2つが、学びへの高いモチベーションを維持する最大の秘訣だと感じます。
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