子どもの成長や発達を考えた場合、大人による子どものしつけは不可欠なものです。
一方で、子どもが嫌がることをやらせたり、希望することを制止したりすることは、親としても、気持ちの良いことではありませんよね。
今回は第1回目として、「しつけ」に関する基本的なことについて解説し、次回はQ&A形式で具体的なお悩みについてお答えしたいと思います。
この記事を書いた専門家
杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
はじめに
嫌がることをやらなくて良い?
子育てをしていく中で、子どもが嫌がることでもやらせたり、やりたいことを制止する場面は必要です。
子どもがやりたいことをやらせておけば良い、「嫌がることをやらなくては良い」という考えは、子どもの成長や発達を考えた場合、不適切といえます。
例えば、歯磨きを嫌がるから歯磨きはさせない、どうせ乳歯は生えかわるから虫歯になっても良いという育て方をした場合、子どもの乳歯は虫歯でなくなってしまい、永久歯もなかなか生えず歯がない状態で何年も生活しなければならず、多方面に悪影響が出てしまっています。
その他にも、チャイルドシートを嫌がるからさせずに子どもが大けがをしたということも何度か聞きました。
「しつけ」を避けようとする場合、それは子どものためではなく、親のエゴと言われても仕方がないです。
小さい時からずっと必要なことをしない生活をしてきた子どもが、ある日途端に「必要なことをする」ようになるのはとても大変なことですよね。
子どもが嫌がったとしても、子どもの将来を考えた場合に、親としてしつけをする必要があるのです。
子どもが「嫌ならやらなくて良い」とか、「嫌がったらやらずに済む」という体験を積み重ねることで、その後の生活に悪影響が出るからです。
嫌がることをやらなくなった結果とは
保育園や幼稚園に入園したり、小学校に入学して集団生活が始まれば、自分が好きなことばかりをしてもいられません。
「やりたくないから」と色々な場面を避けてきた子どもは、必要な体験を積み重ねることができずに知的発達に悪影響が出てしまったり、周囲の子どもとトラブルになってしまって孤立してしまったりすることも少なくありません。
子どもが小さい時に、「嫌だなと思うことでも、やらないといけないことはある」「やってみたら、良いことがある」という体験を積んでおけば、その後の子育ての負担がぐっと軽くなるともいえるでしょう。
しつけをする時の基本
何が正しい行動なのかを伝える
まずは、子どもに対して大人がどのような行動を求めているのか、どのような行動や態度を「正しい」と判断するのかを子どもに伝えましょう。
この時に最も大切なことは、具体的に描写して伝えるということです。
例えば歯磨き。単に「歯を磨きなさい」では、子どもは磨き方は分からないです。
親が磨くのであれば、”大きく口を開けてじっと立っておくこと、磨き終わったら口をゆすぐこと”が正しい行動といえますし、自分で磨く段階に来れば、親や他の大人(歯科医など)から、どうやって磨くのが正しいのかを具体的に伝えることで「歯を磨ける」のです。
大人は、この具体的に描写して伝えるという段階をさぼりがちです。
「言わなくても分かる」「見れば分かる」「当たり前のことだから」等の言い訳をして、この段階を飛ばしてしまって、間違った行動が出た場合に「~してはだめ」と指摘してしまいます。
子どもからしたら、何をどうすれば良いのか分からずに試行錯誤してみて、それを叱られたらやる気がなくなるとなるのも当然です。
なぜ「正しい」のかを伝える
また、なぜそれが正しいのかを分かりやすく伝えておくことが必要です。
子どもは「なぜ?」「なんでなの?」と聞いてきますが、それは興味を持ってくれたという良いサインなので、まずは「どうしてだと思う?」「なぜかな?」と問いなおして、子どもの思いや考えを聞いてみましょう。
その上で、大人から理由を説明したり話をしてあげるのが良いでしょう。
子どもに伝わる!伝え方の工夫
子どもに伝える時は、以下の工夫をすると伝わりやすくなります。
自分にどんな得があるのか、メリットがあるのかを伝える
歯磨きであれば、歯医者に行かなくて済む、その時間を遊びに使える等がメリットですね。
少し難しいのが、友だちと仲良くする(暴言暴力をしない等)等の対人関係のことです。
「そんなこと言ったら相手が傷つくでしょ」等の相手のことを考えましょうという方向性で大人は話をしがちですが、「でも、僕は困らない」「私は傷つかない」と考える子もいます。
この子たちには悪意はなく、本当に、自分は何も困らないなと思っているのです。
こういうときには、
「お友だちが傷ついたら、あなたのことを嫌いになるよ」
「誰かを叩いたら、叩かれた子はあなたと遊んでくれなくなるよ」
「悪口を言ったり、暴力をしていたら、あなたのことを怖いと思われるよ。そうなったら、友だちがいなくなるよ」
と、”あなたが損をする”ということを明確に伝えてあげると、理解しやすくなります。
正しい行動を評価する
何が正しい行動なのかを伝えたら、次は、その行動が出た場合に、注目して評価(褒める)してあげましょう。
ここで大人が「できて当たり前」と思ってしまって、正しい行動はスルーして、間違った行動に対して反応(叱る)をすると、子どもとしては、きちんとやっても無視される・間違えたら叱られるとなって、その行動を取るメリットを感じなくなってしまいます。
歯磨きで言えば、楽しいことをする時間を削って、せっかく歯磨きをしに来たのに、そこでも嫌な思いをすれば、歯磨きをしたくなくなるのも当然と言えるでしょう。
やらないのか、できないのか
親が子どもに何らかの行動や態度等を求めたのに、子どもがその行動等を取らなかったとします。
その場合、どこに原因があるのかを考える必要があります。
多くの大人は「やればできるのに、どうしてやらないの?」と思いがちなのですが、子どもからしたら「できるわけないよ」ということが起こりがちだからです。
子どもが正しい行動をとらない場合に、大人は「この子どもは、やらないのか、できないのか、どっち?」と振り返る必要があります。
そのためには、以下の要素を踏まえて判断しましょう。
1. 子どもに教えたかどうか
上記のように、何が正しい行動なのかを、具体的に描写的に行動として伝えたかどうかを振り返りましょう。
2. 子どもが理解しているかどうか
大人が伝えたことと子どもが理解している内容が異なったり、あるいは、子どもが理解できていないことがあります。
子どもとして、どう理解しているのかを聞いてみて、子どもに言語化させることが必要です。
どうしても大人は、自分たちが説明して、最後に「分かった?」と確認しがちですが、多くの子どもは「分かった」としか言いません。
そういう時に「じゃあ、私が説明したことを言ってみて」と聞き返すことは有効な方法です。
3. 子どもが出来るかどうか
大人が求めている行動を、その子どもが実行できる能力があるのかどうかについて考えます。
たとえば、小学校1年生の子どもに、「毎日、一人で2時間勉強しなさい」と大人が言っても、一人でじっと2時間勉強し続けることができる子どもはほとんどいないでしょう。
もう一つの例は、ある親が子どもに「毎日寝る前に一人で歯磨きをしなさい」と伝えました。
子どもは毎晩洗面所に行くので、親は歯磨きをしているものだと思っていたが、学校の歯科検診で虫歯がいくつか見つかり、歯磨きも全くできていないと指摘を受けました。
親が子どもに「どうしてウソをつくの?」「歯磨きをしなさい」と叱って、その日から一緒に歯磨きをしようと洗面所に行ったところ、子どもの身長では届かないところに歯ブラシがあることに親は気付いたそうです。
この子が「歯ブラシ、届かないんだけど?」と言えたら良かったのですが、この子は言えなかったようです。
これは極端な例と思われるかもしれませんが、実は自分も子どもに似たようなことをしていないかと考えてみてください。
3. 大人が見本を見せているかどうか
どれだけ言葉で伝えるよりも、実際に見本を見た方が子どもは理解しやすいですし、大人がやっていることには興味を持ちやすくなります。
「自分のお部屋は、自分で片付けなさい」と言われても、家の中が散らかっていれば、子どもには、片付け方が分かりません。
歯磨きでも、大人がどうやって磨いているのかを子どもが見ることができれば、磨き方も分かるようになります。
おわりに
子育ての中で、しつけは避けては通れない道であり、「うまくできているのか」「これでいいのか」「叱り過ぎたかも」「他の家は、もっとうまくやっているのに」と不安や葛藤がありますよね。
その不安や葛藤は、親としてあるべき姿ではないかと思っています。
子どものことを思うが故に悩んだり葛藤するのであり、その不安や悩みを投げだしてしまうことは良くありません(もちろん、そういう衝動にかられることはありますし、それが自然な姿だと思います)。
ほとんどの方が「私だけ、うちの家だけ、うまくいっていない」「他の家の子はみんなできているのに」とおっしゃるのですが、多かれ少なかれ、「なぜ、私だけうまくできないの」という思いは多くの方が持たれているのが現実だと思います。
子育ての本や情報を見ていると、「これで悩みが解決した」「不安がなくなった」と書いてありますが、子どもの向き合っていれば、そんなことは起こり得ないということが分かります。
「なんで私だけ」「どうしてうちの子だけ」と思ってしまうのも含めて、子育てだと言えるのだと思います。
「みんな、そう思ってるんだな」「うちだけじゃないんだな」と思ってもらえると、嬉しいです。
もちろん、どうしてもしんどい、不安が強くて生活に支障が出るという場合には、専門機関への相談をお勧めします。
一人で抱え込む必要はまったくありません。
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