【心理士監修】勉強嫌いを克服!学ぶ楽しさを引き出す秘訣とは #01

子どもの学びに関する不安や悩みは、学力に関するものだけではなく、幼少期からの早期教育に関することや、習い事に関することまで幅広いですよね。

子育て相談等の場では、単に学力向上に関する悩みから学びに関すること全般まで幅広いです。

特に小学校以上ともなれば、テストがあったり、通知表があったりして、勉強ができるかどうかということが可視化されてきますよね。

また、勉強が苦手なことで自信を失って無気力になってしまったり、そのイライラを他者にぶつけてトラブルになったり、他者から馬鹿にされたりいじめられてしまうこともあり、保護者としても不安が募るところだと思います。

この記事を書いた専門家

杉野

杉野 亮介


公認心理師、臨床心理士

教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。

今回は、学力向上のためにどんな学習をすれば良いのかという内容にはあえて触れず、【子どもが学習や学びとどう向き合っていくか】という内容について触れていこうと思います。

学習や学びとどう向き合っていくのかということは、乳幼児から高齢者になるまで我々の人生全般にわたる課題です。

子どもの学びはもちろん、ご自身の学びに関しても、何らかの方向性を見出せるような機会にできたらと思います。

なお、この場で紹介させていただく質問に関しては、私が現場でよくお聞きするものをまとめて再構成したもので、どなたか特定の方からいただいたものではありません。


回答:好きなことや得意なことから取り組みましょう

多くの子どもたちは残念ながら、勉強や学習があまり好きではありません。

「残念ながら」と言うのは、子どもの姿勢を批判しているのではなく、子どもをそうしてしまった、大人の関わりへの批判です。

子どもが勉強や学習を嫌うのは当たり前だと思っている大人もたくさんいます。
はたして、本当にそれが子ども本来の姿なのでしょうか。

子ども達の幼児の頃を思い出すと、多くの子どもは目にするものの多くに興味を示し、「これ、何?」と聞いて回ったり、図鑑などを用意してもらうと目的の物を自分で必死で探したりしています。

これも立派な学習ですが、この時点では、多くの子どもは勉強や学習を嫌なものだとは認識していません。

では、子ども達の多くは、どこで、勉強や学習が嫌になってしまうのでしょうか。

私が現場で出会う子どもたちは、いわゆる勉強は苦手で、成績もよくない子が多いです。

この子たちに共通しているのは、「自分は頑張ってもできない」「どうせできないなら、やらない方がいい」という思いを抱いていることです。

考えても分からないし、教えてもらっても分からないから、と勉強を放棄しようと思っています。

この子どもたちは、学びの場で「自分には分からない」「勉強は苦痛だ」という体験を積み重ねていると言えます。

勉強が得意な子もいれば、苦手な子もいるのだから、苦手な子どもが勉強を嫌がるのは当たり前だと思うかもしれません。

勉強が苦手な子どもたちの中には「私は頭が悪いから」と言うこともありますが、専門機関で知能検査などで知的能力をアセスメントしてみると、知的能力から想定される学力よりも実際の学力(学校などでの成績)が低いということがよくあります。

この状況は、その子どもの能力を大人がうまく引き出せてあげていないということが原因です。

では、大人が子どもの能力を引き出すためにはどうしたらいいのでしょうか?

苦手な分野を克服していくのか、得意な分野を伸ばしていくのか、ということになります。

もちろん、両方バランスよくやる必要がありますが、まずは得意な分野から取り組むことがおすすめです。

多くの子どもは、初めは「自分はできない」と思い取り組むことすら拒否します。

そのため、その子が興味を持つような教材を使うなどして、少しずつ始めてみると「あれ?けっこうできるな」という思いを子どもが持ち始めます。

一方で、多くの子どもは興味を持ち出すことを表現しません。それを言うと、もっと勉強させられると思っているからです。

まずは、周囲の大人が「勉強は嫌なもの」「嫌だけど頑張らないといけないもの」という思いを捨ててみてください

そういう大人の思い込みが子どもに伝わっているという側面もあるのです。

子どもとしては、別に勉強は嫌いでもないのに「嫌でもやりなさい」と何度も言われれば、勉強って嫌なものなんだなと学んでもおかしくありませんよね。

その上で、まずは好きなこと、できることから取り組んでみましょう。

これは今後の質問の回答全てに関係してくることだと思うのですが、子どもが「できた」「楽しい」「もっとやりたい」という体験を積み重ねることが何よりも大切なことです。


回答:学びという体験を大切にしましょう

確かに、大人としては、まんべんなくやって欲しいというのが本音です。

しかし、なぜ、まんべんなくやって欲しいのでしょうかと問われると、皆様はどう答えられるでしょうか?

「受験で必要だから」という現実的な意見もあれば、「人格的に偏りそうだから」という意見も聞かれるでしょう。

しかし、今の時代は特定の科目だけで受験できる学校もたくさんありますし、特定の科目だけを勉強すれば人格的に偏るとも限りません(少なくとも、精神医学的にそんな病気や障害等の診断がつくことはありません)。

何となく、そう思うけれど、決定的な理由というものは、見つからないのではないしょうか。

まずは、好きな教科があるということが素晴らしいことであるというところを再認識し、子どもにも伝えましょう。

大人としては、学者になりたいなら外国語の文献を読むためには外国語が必要とか、色々と理由をつけて、他の教科も勉強させたくなるのですが、まずは、今頑張っているということを評価してください。

【勉強や学習が楽しいという体験をしていること】を大切にするのです。

このタイプの子どもは、子ども自身が必要だと思えば、他の教科も勉強するということがよくあります。

もちろん、全ての子どもがそうなるとは言い切れませんが、まずは今頑張っていることを評価して、サポートしてあげることが大切です。


回答:こうしたらいいんだよということを教えてあげましょう

子ども個々の成長や発達のスピードは異なりますし、集中力を持続できる時間も子どもによって異なります。

高学年ぐらいになれば、向き不向きもあって、学力の差が生じてくるのも事実です。

それぞれのペースで学んでいけば良いのですが、園や学校は集団生活でもあって、完全に自分一人のペースで学ぶことは難しいと言えます。

大切なことは、子どもが「分からないな」「困ったな」と思った時に、【子どもはどうしたら良いのか】を教えてあげるということです。

「分からなかったら先生に聞いて」だけでは、先生が話をしている時に急に質問をしてしまう子どももいますし、複数の子どもが同時に質問して「私の言うことは聞いてくれない」と怒ることもあります。

自分が分からないからと言って大きな声を出したり立ち歩くのは間違っていることも含めて、適切な方法というのはどういうものなのかについて、大人から子どもに具体的に教えてあげる必要があります。

分らないし、先生もすぐには来てくれないとなれば、その場でボーとしておいても良いし、プリントの裏に絵を描いていても良いのではないかと私は思います。

自分も周囲も傷つけず、困らせずに過ごすことができたら、それは素晴らしいことです。

授業中に不適切な行動が見られる子どもと話す機会は多くあるのですが、話をしていると、「自分は勉強ができないから、叱られる」「叱られるから、勉強したくないんだ」とよく聞きます。

この場合、先生としては子どもが大きな声を出したことに対して注意をしているのに、子どもは勉強が分からないことで叱られていると認識している、ということになっています。

学校の先生とお話をしていて、このように「分からない時は、こうしたら良いということを具体的に教えてあげてはどうですか?プリントやノートに絵を描いて待ってたらダメですかね?」という話になると、「そんなことを言ってしまうと、さぼりたい子はみんなそうしてしまいますよ。だから、せいぜい、分からなかったら手をあげて、になるんですよ」と言われてしまうことがあります。

そもそも、子どもがさぼりたくなるような授業はどうなのかは別問題として置いておいて、このような考え方は現実に即していないです。

どうしても集中できない、どうしても分からないということは、人間誰にだってあるはずです。

そういう時に「自分で考えなさい」とか「頑張りなさい」ではなく、こうしたらいいんだよということを教えてあげることも、教育だと思います。


回答:子どもの思い込みを事前に修正しましょう

誰かが思いこませたわけでもないのに、「失敗は絶対にしてはいけない」という強い思いを持っている子どもがいます。

100点を取らないといけないと言って必死で勉強してテストに臨む子どもがいる一方で、全然勉強していないのに100点を取ることができないから嫌だと怒ってしまう子どももいます。

いずれにせよ、このままでは、今後の生活においてしんどくなってくることも予想されますので何らかの対応です。

短期的に結果が出やすいのは、テストの前に全体の場で「今日のテストはとても難しいから80点を取れたらすごいと思うよ」等、100点でないといけないという思い込みを事前に修正してあげる方法です。

子どもは見通しを持つのが苦手なことが多いので、大人が前もって見通しを提示してあげることが有効です。

可能であれば、個別で「100点を取れたら嬉しいけど、100点じゃなくても良いんだよ。分らない問題があっても、怒らずにできるかな」と確認してあげるのも良いでしょう。

長期的には、大人がテストの結果など、結果にこだわりすぎていないかを振り返り、結果よりも過程を評価していくことです。

結果だけに注目すると、テストの場合は一発勝負なので「できるかな」「できなかったらどうしよう」と子どもの不安もどうしても高まってしまいます。

過程に関しては、日々の積み重ねですし、失敗もまた積み重ねの一つであると伝えておけば、結果にこだわりすぎることもなくなります。

今回は主に学校での学びに関することについて触れてきました。

学校は学びの場であるということに異論はないと思います。

勉強も、遊びも、対人関係もたくさんのことを学んでいきますし、その中には楽しいことも嫌なこともあるでしょう。

それでも、やはり、子どもたちには「楽しい」と思える体験から多くのことを学んでほしいですし、実際に子ども達の頭に入り、身になるのは、「楽しい」と思える体験です。

今回の記事でも何度か触れましたが、大人の工夫次第で、どんな子にとっても、学ぶことが楽しいと思えるようになるはずです。

我々大人は、勉強は苦しいもの、嫌々やって当たり前、という思い込みを捨てるところから始めていきましょう。