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音楽の力で育む!〜言語能力から感受性まで〜子どもの才能を引き出すヒント

子どもにとって、音楽教育が良い効果をもたらす、ということを大人は漠然と知っていると思います。

しかし、子どもにとって音楽教育が具体的にどんな効果をもたらすか、正確に答えられる人は少ないでしょう。

今回は、子どもの頃から音楽教育を受けることで、子どもの知能にどのような影響を及ぼすかについて、多重知能理論(MI理論)の観点や実際の療育での事例も踏まえてご紹介していきたいと思います。

この記事を書いた専門家

水谷愛

水谷 愛


公認心理師、臨床心理士

精神障害者デイケア、スクールカウンセラー、就労支援、療育現場、就労継続支援B型作業所で合計約25年間心理士として医療・福祉・教育分野にたずさわり、主に子どもから成人までの発達障害、精神障害の方のサポートを行う。

子どものときに音楽にたくさん触れることによって、子どもにとって良いことがたくさんあります。

赤ちゃんのときにお母さんが歌を歌ってあげたり、保育園や幼稚園で先生が歌ったり、先生が教えて子どもたちと歌ったりすることで、子どもたちの発達が自然と促される場面を私たちは多く目にしています。

それでは、具体的に子どものどの部分の発達につながるのでしょうか。


赤ちゃんは、周りの音を聞くことでさまざまな言葉を習得していきます。

母などの養育者の声、父やきょうだいの声、親戚の声、お友達の声など。

そのひとつに「音楽」があります。

さまざまな「音」を聞き分けることによって、子どもは少しずつ言語を習得していくのです。

音楽を聴くことで、子どもは音の高低、抑揚、発音などを学ぶことができます。

特に、5歳ごろまでにたくさんの音や歌などを子どもが吸収していくことで、言語能力の発達が促進されるのです。


音楽には、リズムがあります。

リズム感は、運動能力に直結します。

音楽に合わせて手を叩いたり、足踏みをしたり、歩いたり、ジャンプするには、音に体の動きを合わせないとできません。

リズム感が養われると、右脳と左脳の連携がスムーズに行われ、「耳と手の協働」「音を聞いて手と足を同時に動かす」など、2つ以上のことを同時に行うことができるようになります。


音楽を聴いて、さまざまな音に親しむことができると、音の高低やリズム、抑揚を聞いていくことで、聴覚が発達していきます。

聴覚が発達すると、母語はもちろん、外国語の発音の聞き取りも得意になると言われています。

言語能力が音楽によって発達するのは、母語だけではありません。

さまざまな発音を聞き分けられるようになり、細かい音も聞き分けられるようになるのです。


音楽に接するとき、赤ちゃんだと親などの養育者と一緒に楽しみます。

もう少し子どもが育ってくると、先生を中心に複数の子どもたちで一緒に歌を歌ったり、踊ったり、音を鳴らしたりして楽しむことができます。

こうすることで、一緒に音を合わせることの楽しさや、音を通してみんなで楽しむことを子どもたちは体得します。

一緒に音楽を共有し、楽しむことで、子どもたちの協調性が養われていくのです。


音楽には、楽しい音楽、悲しい音楽、穏やかな音楽、激しい音楽など、さまざまな曲調があります。

このような、さまざまな曲調の音楽に触れると、脳の中にある「扁桃体」が活性化されます。

「扁桃体」は、情動と感情の処理や直感力、ストレス反応に重要な役割を果たしている部位です。

ここが発達することによって、感受性が豊かになっていくのです。

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小さいころから音楽に親しんでいると、音感がきたえられます。

絶対音感がいちばん育つのは4〜5歳と言われています。

このころまでに音楽にたくさん触れ、子どもが音を認識できるようになると、音感が身につきます。


MI理論は、アメリカのハーバード大学の教授、ガードナーが提唱しました。

「知能は単一ではなく、主に8つあり、人はそれらすべてを働かせて生活している。8つのうちどの能力が優れているかが、個性につながる」という理論を展開しています。

多重知能理論

MI理論における「8つの知能」とは、主に以下の8つの知能を指しています。

そして、言葉の音の高低やリズム、音の数にとても敏感です。

何かを覚える時に無意識のうちにリズムや抑揚をつけて覚えることがあります。

文章を書くと、自然に韻を踏んでいる、ということもあります。


MI理論の考え方を教育にもたらすことで、従来の「一斉授業」の考え方ではなく、子どもたちの多様な才能を引き出して、子どもたちの強みを伸ばしていこうという方向にシフトしてきています。

「音楽的知能」を持つ子どもは、耳から入ってくる情報をキャッチするのが上手です。

もちろんその子の得意不得意や気質もあり、耳よりも目から情報をキャッチするのが得意な子もいます。

子どもの「音楽的知能」を育てたいと考えるのであれば、赤ちゃんのうちから母親(を含む養育者)が子どもに積極的に話しかけたり、歌ったり、歌を聴かせることが大事です。

ただ、「ちゃんとした音楽を」と思い込む必要はありません。

親がそんなに好きではないのに、必死でクラシックを聞かせても意味がありません。

親も子もリラックスできるような曲や、一緒に聴きながら「楽しいね」と語りかけられるような曲を選ぶことも大事です。

まずは子どもが「音楽って楽しいね」と思えるようなかかわり方をしていきましょう。

また、幼いころから楽器を習わせることも多いですが、これも親子ともども「苦しい」としか感じられないようであれば、無理に習わせるのはやめましょう。

親子ともども「苦しい」となってしまうと、のちのち子どもが音楽自体を嫌いになってしまうおそれもあります。

次は、実際に音楽教育を子どもに行った例をお話しします。

音楽教育は保育園や幼稚園でも行うことが多いですが、障害児への音楽教育をみるとよりわかりやすいので、障害児の例を挙げてご説明します。


①子どもの特徴を理解する

障害児とは言えど、子どもによって障害の程度、現れ方、種類、育ってきた環境などが違います。

親からの聞き取りや子どもの様子を観察しながら、その子どもの特徴をしっかり把握し、その上で計画や意図をもって療育を行っていきます。

②個別目標を設定する

どんな音楽教育をしたら、どんな効果が得られるのか。

目標を明らかにし、その子どもに効果がしっかり出ているのかをきちんと把握することが大事です。

障害児の個別目標は、「歌がうまくなること」や「楽器がうまく演奏できること」という目標にはなりません。

音楽を通して、何を得たいのかをはっきりさせておきましょう。

など、子どもによっていろいろ目標が出てくるでしょう。

集団療育を行うときも同じく、個別の目標を設定して療育にのぞむと、効果が出やすくなります。

③「力を引き出す」ことを意識する

それぞれの子どもには、それぞれの力があります。

子どもたちには、必ず良いところがあります。

療育を行う側がそれを信じて、子どもの良いところが療育中に出てきたらすかさずほめたり、良い雰囲気を作ったりすることがとても大事です。

集団療育であったとしても、最後には全員に「がんばったね!」「よかったね!」「うまくできたね!」とほめましょう。

また、個別療育であっても集団療育であっても、先に立てた個別目標に沿って引き出すべきところを引き出す努力を療育者はしていく必要があります。


集中力が続かず、落ち着きのない子どもの例を挙げます。

普段「静かにしなさい」と言われている子どもに、ここでは大声で歌って良いとすることで、自由に大声を出すことができます。

また、音楽を聴いて反応することで、指示を聞く練習や集中力を高める練習につなげていきます。


次は、言語コミュニケーションが難しい子の例を挙げます。


音楽療育を行う際に注意することは、以下のことです。

子どもの間違いに対して否定的な言葉を親や先生がかけると、子どもは音楽が嫌いになってしまいます。

正しい・正しくない、ではなく、まずは「音楽が楽しいね」という雰囲気を作ることが大事です。

いかがでしょうか。

音楽教育にはさまざまな効果があり、音楽を楽しむことで言語能力や感受性を育むなど、多くの能力が開花します。

だからといって、親が早期教育を意識しすぎて子どもに対してストイックに音楽を子どもに教え込もうとしたり、子どもが興味を持っていないのに習いごとを強制的に行うのは避けましょう。

あくまで、子どもが音を楽しめるように、自然に音楽を導入していくことが音楽教育のコツです。

子どもの頃から音楽に親しみ、身近なものとして子どもがとらえることができたとき、子どもの能力が大きく伸びていくのです。