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特別支援級ってどんなところ?子どもに合った学びの環境を選ぶためのガイド

子どもたちが日々、学校でどれだけ自分らしくいられるか、これは非常に大切なことです。

学校生活が子どもたちの個性や能力に合っていなければ、本来の才能が十分に発揮されることはありません。

特に、普通級のクラスでは対応が難しい場合、特別支援級への移行が考慮されることもあります。

しかし、この重大な決断をする前に、保護者が知っておくべき重要なポイントがいくつかあります。

本記事では、この重要なポイントや法改正を踏まえた状況をお伝えしていこうと思います。

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この記事を書いた専門家

鈴木 なつこ


公認心理師、臨床心理士

主に公立小中学校のスクールカウンセラーとし て教育相談に従事している。不登校と発達障害の支援、集団不適応へのサポートを専門とする。

子どもたちが、今置かれているクラスや学校でどれくらい馴染めているかを考えたことはありますか?

これは、子どもたちがそれぞれ持っている能力を伸ばすために必要な環境が、どれくらい整っているか?と同義に捉えてよいと思います。

勉強のできる・できないに限らず、すべての子どもたちに共通するのは、本人にあった環境で学びの機会を得られているかどうかです。置かれている環境によって、本人の成長が大きく左右されます。

たくさんのクラスメートに囲まれて、ワイワイ賑やかな雰囲気でいる方が自分の個性を発揮しやすいという子どももいれば、少人数で先生にじっくりみてもらいたいという子どももいます。

子どもたち

お子さんの能力を最大限に伸ばしていくために、まずはお子さん一人一人のニーズを把握し、その子にあった教育環境へおいてあげることが、周りの大人が出来る大事な一歩だといえるでしょう。

そしてそれぞれの子どもに合わせた教育の場として知っておきたいのが、特別支援学級の存在です。


「発達障害者支援法(2004年)」や、人権法の観点から作られた「障害者の権利に関する条約(2008年発行)」の流れから、これまで日本ではインクルーシブ教育が推進されてきました。

情緒面(発達障害/神経発達症など)や知的面(知的障害/知的発達症)に課題のある子どもたちのために、指定された学校にある特別支援学級に通級するかたちでなければ利用できなかったところを、もともと在籍している学校の中に支援級を設置し、定型発達の子どもたちと同じ学校へ通いながら、必要に応じて特別支援教育を受けられるようになったのです。

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その後、自分たちが普通級のペースではついていけない科目のみ支援級に移動して授業を受けたり、低血圧や起立性調節障害などの理由から登校できる時間帯が皆とずれてしまっても、負担のないタイミングで登校し、まずは支援級で過ごすという、スポット的な利用の仕方が認められ、広まっていきました。

また、一度在籍したからといって、卒業までずっと在籍し続けなければいけない決まりもありません。

必ずしも何らかの障害や精神疾患などの診断がついていなくても、支援級を利用することが適していると判断されれば、利用できます。

発達の特性が強く出てしまい、集団に不適応を起こしてしまう子どもや、精神的な理由から普通級で過ごすことが難しい子どものサポートを担うことがあり、支援級の存在が心強いものであると保護者の方たちには周知されつつあります。


支援級へのニーズが増え続け、全国の小中学校では今も支援級を増設しつづけていますが、文科省は令和4年、各自治体の教育委員会に対して、支援級に在籍している場合、週の半分以上を支援級で過ごすよう通知を出しました。

これは、本来支援が必要な子のために作られた支援のプログラムが活かせていないためで、本人の希望する時間だけの利用では十分な効果がみられないと判断されたためでした。

一方で、この考えは「インクルーシブ教育と反するのではないか?」といった声があがり、賛否を呼んでいます。

ほとんどの小中学校に支援級を設置している大阪の弁護士会は、この文科省の考えに反対する保護者らからの意見をまとめ、週の半分以上の授業時間に出席するよう求めたことに対して、国に撤回を求めています。

この一連の流れ以降、インクルーシブ教育とはなにか、特別支援とはなにかをそれぞれの保護者がいま一度考えなおさなければならない流れが出来たように思います。

支援級は何のためにあるのか、そして有効な利用の仕方はどのようなものでしょうか。


これまでスクールカウンセラーとして様々な自治体で支援級の実態をみてきた中で、私個人の考えをいわせていただくなら、最も効果の出やすい利用の仕方は、従来通りの方法だといえるでしょう。

その子ども本人や保護者が希望する時間での利用を続けることが、高いモチベーションを維持しやすくなり、本人の精神面にとっても負担が少ないため、望ましいといえます。

国語は普通級でついていけているので、算数だけを利用したいという訴えもよく聞きます。

国語が普通級の授業ペースで大丈夫なのであれば、普通級でどんどん伸ばした方がよいでしょうし、長時間の集中が困難なお子さんもいますので、やはり十把一絡げに一律にしようとくくるのではなく、それぞれのお子さんに合った利用の仕方にこだわった方が、効果が見えやすいと思います。

論理

支援級に対して過度な期待は禁物ですが、それでも少人数でじっくりと見てもらえることで学習への理解が進むことが考えられますし、他の子どもたちのペースについていけない、落ち着かない場合などには、焦ることなく自分のペースで過ごせるので精神的に楽だというお子さんも多いです。

支援級ではテストや宿題も本人に合わせた内容(分量、範囲)で出してくれるので、本人の自己肯定感を不必要に下げずに済むという点も大きいといえるでしょう。


一方で、支援級の利用を検討する際に、注意しておくべき面もあります。

支援級を担当する先生の専門性にばらつきがあること、そして支援級を増設する数も学校によって制限があることを知っておかなければいけません。

また、支援級に在籍する子どもたちの顔ぶれは、毎年変わります。

特に、小学生の場合は1年生として入学した当初から入るケースは実は少なく、はじめは普通級で過ごしていたが、本人や保護者が支援級を希望して、2年生や3年生から支援級に移る子どもの方が多い傾向があるといえます。

お子さんが支援級に在籍することにしたタイミングは、他の在籍児童・生徒との相性的な問題がある場合もあります。

例えば、ADHDやASDは、男の子の有病率の方が高い傾向があると言われていますが、情緒学級と知的学級が1つずつしかなかった場合、多動型のADHDやASD(自閉スペクトラム症)の発達障害(神経発達症)を持っている男の子が情緒学級に複数人いることもあります。

そこへ大人しい性格であったり、感覚過敏のある女の子が加わるとなると、女の子は果たしてその支援級の環境を存分に生かすことができるでしょうか。

情緒学級が2クラスあれば、学年ごとや特性ごとに分けて対策をたてることは可能ですが、1つのクラスしかない場合には希望する子どもが全員同じクラスで学ぶことになりますので、少人数である分、余計に相手の言動が目につきやすいという相性上のデメリットも出てきてしまいます。

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学校側がそういった部分を汲み取ってくれると、なるべくぶつかり合わないように配慮したり、時間割がかぶらないように対応してくれることもありますが、そういった点も、担当している先生の力量や先生の数(学校の規模)にも寄るところがありますので、どうしても在籍してみないとわからない部分というのが出てきてしまうのが実情だといえます。

また、支援級を担当する先生に教員としての経験年数や、特別支援に関する資格の有無は必要条件とされていないため、先生のキャリアには一貫性がありません。

加えて、先生方は毎年異動する可能性があるため、その年度ごとに支援級の雰囲気や教え方などが若干変わってしまう可能性もあるのです。

必ずベテランの先生が受け持つことになっている学校もありますが、教員の若年齢化に伴い、まだ経験が浅い先生や講師の先生が担任になることも珍しくありません。

子どもの学びの場を普通級から特別支援級に移す決断は、多くの疑問や不安を伴うものです。

しかし、正しい情報と適切なサポートがあれば、この選択が子どもたちの学びや成長にとってベストなものとなることでしょう。

子どもたち一人一人のニーズに焦点を当て、できる限り最大限に能力を発揮できるような環境を提供することが、私たち大人に求められます。

普通級と比べてメリットが大きそうな場合には、ご家庭でよく話し合い、ぜひ支援級のご利用を検討することをおすすめします。

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