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専門家が教える!〜子どもが本当のリーダーシップを育む方法〜

リーダーシップとは特定の人にのみ備わっている特別な能力ではなく、誰もがその萌芽は持っています。

リーダーとして活躍できるようになるためには、どんな能力を育てれば良いのでしょうか。

「自己決定する力」「自分の思いを相手に伝える力」「相手の思いを聞く力」「異なる意見をまとめていく力」

を例にあげ、それぞれの能力について特定の集団体験で育むのではなく、普段の子育ての中でいかに育んでいくかについてご紹介していきます。

この記事を書いた専門家

杉野

杉野 亮介


公認心理師、臨床心理士

教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けたお子様や、発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援や、生活のケアを行う。児童相談センターや教育機関等との連携も行い、教育機関の研修を担当。

色々な年齢や発達段階の子どもたちと接していると、集団の中で自然発生的にリーダーとなって、周りを巻き込んで、上手にリーダーシップを発揮できる子どもに出会うことがあります。

一方で、リーダー役になったけれども、うまく力を発揮できなくて悩んでいる子どもやその保護者さんに出会うこともよくあります。

こういう場合に、この子はリーダーシップが「ある」とか「ない」という表現をされることがあります。

しかし、リーダーシップが「ない」と言われている子どもたちを見ていると、本当はリーダー的な役割をしてみたいのだけれど、どうしたら良いのか分からないと困っていたり、どうせ自分にはできないと諦めているように思うこともよくあります。

私の経験では、リーダーシップが「ある」と言われている子どもたちには共通した特徴があり、それらの能力は特定の人にのみ備わったものではなく、本来はどんな子どもも持っているものであるように思われます。

リーダーシップとは、「ある」か「ない」かではなく、その能力をどれだけ発揮できているか否かということであり、家庭でのちょっとした配慮によって、その能力を発揮できるようになると思います。

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リーダーシップを育むと聞くと、何らかの集団体験の中で自分がリーダーを体験する、大人や他の子がリーダーとして活動する姿を見て学ぶ、ということを頭に浮かべるのが一般的ではあると思います。

もちろん、これらの活動が必要であることは間違いありませんが、それらの活動の前段階として、リーダーシップを発揮するための力を日々の関わりの中で育てて行かないと、リーダーシップを育むことは難しいと言えます。

そこで、ここでは、リーダーシップを発揮できるような子どもを育てるために、配慮しておくと良いというところを伝えていきたいと思います。

ここでは、リーダーシップを発揮するために必要な力として、「自己決定する力」「自分の思いを相手に伝える力」「相手の思いを聞く力」「異なる意見を調整し、まとめていく力」を掲げて、それぞれの力について、家庭でどう育てていけば良いのかについて触れていきます。


一つ目が「自己決定する力」です。

まずは自分がどうしたいのか、どう思っているのかということを明確にできるようになる必要があります。

この力を育てていくには、何かを決定したり、選択する必要がある際に、必ず子どもにどうしたいのかを問い、子どもなりに答えを持つまで待つ必要があります。

例えば、スーパーのお菓子売り場に行った際に、「どのお菓子が欲しいの?一つ選んでいいよ」と自己決定する場を設けます。

時間がなかったり、子どもがなかなか決められないと親が「これにしときなさい」と選んでしまいがちですが、こういう体験を繰り返すと、自分で決めることを放棄して、誰かの指示を待ってしまうということになってしまいます。

また、子どもが自己決定したことに関しては、ある程度それを尊重してあげる必要もあります。

自分で決めたけれど大人に否定されたという経験を繰り返してしまうと、自分で何かを決定する自信を失ってしまいます。

もちろん、初めから自分で全てを決定することは難しいこともあります。

そういう時は選択肢を出してあげて、どちらにするかを選ばせてあげるところから始めるのも良いでしょう。

子どもが下した決定や選択に対して、大人からすると言いたいことがたくさんあるとは思いますが、まずは子どもが決めるということができたことを喜んであげましょう

自分で決定したことに関しては、子どもは自分で責任を感じることができます。自己責任という感覚もここで育むことができます。


二つ目が「自分の思いを相手に伝える力」です。第一段階として自分で何かを決定したとしても、それを黙っていては、相手や周囲には伝わりません。一昔前であれば、リーダーは黙っていても周囲がそれを察して動くということが求められたのかもしれません。

しかし、今の時代に、そういうタイプのリーダーは求められていません。いかに正確に自分の思いを周囲に伝えることができるかということが、リーダーに求められる能力の一つです。

親子の場合は、子どもが何を考えているかを親が察知しやすいことが多いので、言わなくても分かるという状況が生まれやすいのですが、そういう状況でも、「あなたがどういうことを考えているのかをお話しして」という形で、自分の思いを相手に言葉で伝える体験を繰り返していくことが必要です。

また、その際には、同じ内容を伝えるのでも、言い方次第で伝わりやすいか否かが変わってくるということも、伝えていきましょう

例えば、子どもが「おやつ」と一言だけ言う場合と、「お腹がすいたから、おやつ食べたい」と言う場合では、聞く側の印象は大きく変わります。

ここでは、自分の思いを言葉にして相手に伝える、そして、そうすれば相手に聞いてもらえるということを、親や身近な大人と繰り返し体験することがとても重要になってきます。

子どもの言い方が不十分だなとか良くないなと思った時には「そんな言い方したらダメ」ではなく、「そういう時には、こう言ってね」と具体的にどう言えば良いのかを教えてあげれば、子どもには伝わりやすいですし、次に活かしやすくなります。

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三つ目が「相手の思いを聞く力」です。自分の思いがどれだけ強くて、それを相手に伝えても、相手には相手の思いや考えがありますので、相手の思いを聞く力を育てていくことが必要です。

子どもにとって最も身近な相手は、多くの場合は親やきょうだいとなりますので、親子やきょうだい間のやりとりを通して、この力を育てていく必要があります。

子どもが意見を表明した際に、そのことに対して、大人やきょうだいがどう思ったか、どう感じたかを言語化して素直に伝えてあげることが大切です。

「あなたはそう思っているんだね」「私はこう思うけど」という具合にやりとりをし、ここで大切なことは、自分と相手、どちらかだけが正解というわけではないというところは伝えていく必要があります。

意見が異なるということは悪いことではないですし、どちらかに合わせないといけないというわけではありません。どちらかに同調しろということでもありません。

この辺りを育ててもらえていない子どもは、自分と異なる意見に対して過度に敵対的になって排除しようとしてしまう形をとりやすいです。

自分は自分、他人は他人で、意見が異なることは悪いことではない、むしろ、多様な意見や思いが出ることは良いことであるという感覚を育てておけば、冷静に話し合うことができる子どもに育っていきます。


四つ目が「異なる意見をまとめていく力」です。ここまで来ると、ある程度の年齢にならないと難しく感じますし、実際に同年齢ぐらいの子ども同士の中で、この力を発揮することはなかなか難しいところがあります。しかし、家庭で、この力を育んでいくためにできることは、それほど難しいことではありません。

三つ目に「相手の思いを聞く力」をあげましたが、ここは、その発展形と言えるでしょう。

自分と相手との思いや考えが異なった時に、異なったままで良いこともあれば、それをどうにかして一つにまとめていくことが求められることもあります

例えば休日にお出かけするプランを立てる際に、子どもにどこに行けば良いのかを聞いてみます。その際に、時間的あるいは経済的などに子どもの思いを実現することが難しいこともあります。

そういう場面で、あなたの意見は分かったと伝えた上で、親としては「そこは遠いから行っても早く帰らないといけないよ」とか「お金がたくさんかかるから、そこに行ったら来週はお出かけはできないよ」などの親側の意見を伝えます。

頭ごなしに「そんなのできるわけないでしょ」ではなく、子どもなりに理解できるような説明をしてあげることが効果的です。

この次の段階として、子どもの思いと親の意見を双方聞いた中で、子どもとしてはどうしたいか、どうしたら良いと思うかを再度聞いてあげます

ここで面白いなと思うのは、ほとんどの子どもはここでかなり真剣に考えてくれます

子どもなりに考えて、大人が思いつかないような解決策を考えてくれることもありますし、「どうしても行きたい」と自分の思いを伝えることもありますし、「じゃあ、今日はやめとく」と親の意見を受け入れることもあります。

ここでは、どのパターンが正解かではなく、子どもなりによく考えたということを評価してあげましょう

そして、その選択を実行してあげることで、子どもの中に、それまでの過程を評価されたという感覚が生まれます。

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これは、どの段階でも言えることですが、子どもが何かをやった、あるいは、やろうとしたことに対して、十分に評価して褒めてあげる必要があります。

初めからうまくできる子どもはなかなかいません。

結果に注目しすぎて、成功したか失敗したかだけに大人がとらわれるのではなく、自分でやってみようとしたということを評価してあげれば、自然と失敗しても良い、また挑戦しようという姿勢が生まれてきます。

以上、子どものリーダーシップを育てるための家庭での関わり方について触れてきましたが、思っていたよりも普通だな、リーダーシップってもっと特別なものだと思っていたという感想を持たれている方もいらっしゃると思います。

そこが子育ての面白いところであり、奥深いところであり、何か特効薬的なインパクトが強い取り組みを少しすれば子どもが変わるということはあまりなくて、周囲の大人の普段のちょっとした関わりや配慮が積み重なって、子どもの力は発揮されるのです。

ここまで紹介してきた取り組みは、リーダーシップを育むことに特化して有効であるわけではなく、それぞれの力は子どもが自分の力を発揮するにあたって必要なものですので、リーダーシップに興味がない方もぜひ参考にしていただきたいと思います。

最後になりましたが、子どもにどれだけリーダーシップを伸ばして欲しいと願っても、子どもの最も身近な存在である親や先生がうまくリーダーシップを発揮できていなければ、モデル不在となってしまって、効果も半減となってしまいます。

皆さんご自身も、日常生活の中で、ここで触れてきた力について少しだけ意識して生活してみてはいかがでしょうか。