小児科医が解説!子育てはいかに「やらないことを決める」かだ!

「習い事どうする」問題。「お受験するのか」問題。

シンプルに子どもの世話をするだけでも大変なのに、最近の子育てって、やることが多すぎる・多く見えてしまう構造だなと感じます。

子育ては「やらないこと」を決めるのがカギ。

これは小児科医として、2児の母として、私が最も大切にしている子育て軸の一つです。

今回は、子育てにおいて「やらないことを決める」こととその効果を小児科医が具体的に解説していきます。

白井沙良子

やっててよかった、公文式!

みんなやってる、公文式!

という感じで、地域にもよるかもしれませんが、いまだに公文式は根強い人気だなぁと感じます。

ベビークモンから始まり、幼稚園・保育園、そして小学校入学後とずっと続けているご家庭もあると思います。

中学受験のためには、小学校全学年のプリントを、4年生までに終了させること!と指導する流れもありますよね。

決して公文式を否定するわけではありませんが、こういう「なんかみんなが当たり前のようにやっていること」こそ「本当に必要か?」という問いを立てられるのは、子育てにおいて大事だと思います。

年間200〜300冊の読書フリークの私は、公文式に関する本も複数読んだうえで、そして我が子達の特性を踏まえたうえで「公文式はやらない」と決めました。

まずは長男が「せっかち」だから。

「小学生低学年あるある」かもしれませんが、長男は文字を読むという行為をめんどくさがり、問題の冒頭の文章を読み飛ばす傾向があります。

公文式の算数はいわゆる「計算練習」なので、文章を丁寧に読む必要がありません。

もともとせっかちで文章を読みたがらない長男が、公文式によって、ますます「文章を読まずに解く」という習慣がついてしまわないか?という懸念がありました。

実際に「見直しをしようとせず、とりあえず先生や親に教えてもらおう。丸をつけてもらおう。」とするクセがつく欠点の可能性については、書籍でも紹介されています。(おおたとしまさ、受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実、新潮新書、2018年)

また「公文のプリントは、紙がうすい。筆圧が強い子は、プリントが破れる。」(おおたとしまさ、なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?、祥伝社新書、2017年)のを見て、「あ、長男、プリントぐしゃぐしゃになるわ」と思ったのも一つの理由です(笑)。

そして一番大きな理由は、私が見ていて、「楽しそうじゃない」と思ったからです。

親の主観で、子どもの習い事に制限をかけてしまうの?と思うかもしれません。

もちろん、プリントをやるのは、子どもです。

「子どもが」好きか嫌いか、が大事なのは、百も承知です。

しかし年齢が低いほど、プリントのチェックや管理、教室に行く時間、子どものモチベーションを高めながらサポートしたりするのは、全部親の仕事です。

特にフルタイム共働きの私たちにとって「親も楽しい!」と思える教材じゃないと、私は続かない!と思いました。

「ベビークモンから頑張って通わせていたのに、泣いて嫌がるようになって、小学校入学前に辞めることにした」

「子どもが自主的にプリントをやらないので、なんとかやらせるのに毎日必死で疲れる」

といった声は、身近でもよく聞きます。

もちろん公文式が合っているお子さんなら良いのですが、明らかに合わないな、親がしんどいな、と思った時点で、「やめる」という選択ができるのも、親の一つの仕事だと思います。

今でこそ「やらないこと」を決めるのが大事!と偉そうに書いている私ですが、やはり長男の就学前は「最低限の読み書きができないと、小学校に上がったときについていけないんじゃないか」「朝に勉強する習慣を作らないと」と無駄に焦っていた時期がありました。

例えばZ会の通信教育です。

幼児コースもあるんだ、と知ってなんとなく申し込み。

冊子だとやりたがらないだろうから、1ページずつ切り離して、毎日2ページくらい。

できたらシール…みたいな感じで、3歳から4歳までやっていました。

ところが5歳をこえたあたりから、教材をみると「…パズルやってから…やる…」「1こだけ…やる」のように、明らかに嫌がるようになってきました。

一時的なものかな?と思ってみていましたが、おさまる気配はありません。

3か月ほど、私もなんとか長男の気を乗せながらダラダラつづけていました。

しかしある日、朝起きた瞬間にパッと気づいたんです。

「私、ちゃんと反抗できる子に、育てたかったんじゃん!」

今まで100冊以上読んできた、ありとあらゆる育児本。

「子どもは、親のものではありません」「子どもが嫌がることをやっても、身につきません」「子どもをよく観察しましょう」。

頭では分かっていたつもりだったけど、はじめてこの瞬間に、腑に落ちました。

子どもからしたら、別に親に反抗した、というよりは、単純にめんどくさい・つまんない・むずかしい、とか単純な理由だったかもしれません。

でも私にとっては、子育てに対する「自分のものさし」を持ち直す、貴重な機会になりました。

そもそもZ会を始めたのは、「私の不安」から。思い切ってやめました。

その後息子は毎日、朝に自分の好きなこと(LaQ、レゴ、絵本など)ができるようになって、ハッピー。

私も毎月の教材の整理や、今日も嫌がったらどうしよう…という不安がなくなって、ハッピー。

ちなみにその後小学校に入学し、学校の宿題や朝のプリントなどを通じて、毎日の学習習慣は自然と身についていきました。

Z会の悪口をいいたいのではありません。

ただし、いやだと感じたときに、子どもが自分からいやだと言える親子関係か

そして、親が自分で潜在的に持っていた不安に気付けるか

これが大事なんだと思います。

小学校入学前になると「就学前準備コース」などの案内チラシが届きませんか?
我が家は上記のように年長の時点でZ会コースをやめたのですが、今度は小学生コースのはがきがバンバンくるようになりました。

もちろん、これも無駄だと言っているわけではありません。

時期と内容がお子さんにフィットして、小学校での学習への良いステップになれば素晴らしいと思います。

しかし一方で、通常範囲の知能指数と発達特性の子であれば「特別な就学前準備は不要である」というのは、一小児科医として、一母親として強く感じます。

実際に就学前の早期教育については、必ずしも効果がない・むしろ逆効果の可能性もあるというのは、「子どもの「遊び」は魔法の授業」(キャシー ハーシュ パセック、アスペクト、2006年)で紹介されています。

なお我が家もZ会を途中でやめましたが、その後、保育園でのお友だちとのお手紙交換でひらがなを、そしてポケモンの図鑑でカタカナを学び、問題なく小学1年生のスタートをきりました。

また「入学のタイミングで、新しい習い事を始めない」のも、我が家の軸にしていました。

というのも、子どもにとって入学とは、親が思っているより、ドラスティックな変化だと感じるからです。

40分間も座って授業を受ける。友だちも先生も変わる。クラスの規模も変わる。大人が大きな転職をするようなものですよね。

いかがでしょうか。

あくまで私見ですし、この方法が絶対に正しい、ということではありません。

「みんながなんとなくやっている」ことに対して、親である自分がどれくらい不安を感じているのか、そして本当にやる必要があるのか

自分軸を持って考えられると、子育ては最終的にラクになるなと感じます。

白井沙良子