最近、子どもに喜びを伝えた場面はありましたか?親子で喜び合ったり、笑いあったりする時間、持てているでしょうか?
きっかけはどんな些細なことでもいいのですが、「嬉しいね!」「楽しいね!」という気持ちを親子で通い合わせることは、子どもの発達に欠かせません。
それが子どもの「共感性」「自己理解」「他者理解」につながり、高度な社会性を身に着けるための土台になっていくからです。
今回は、親が子どもに「喜ぶ」声掛けを伝えていくことがどうして重要なのか、そして具体的にどんな風に表現をしていけばいいのか、一つ一つ解説していきたいと思います。
この記事を書いた専門家
相楽 まり子
公認心理師、臨床心理士
小中学校のスクールカウンセラーとして教育現場で経験を積む。現場で子どものケアには周りの大人へのサポートが欠かせないことを痛感し、産業領域でのカウンセリングも開始。子育てと仕事を両立する働き世代へのカウンセリングを得意とする。2児の母。
目次
なぜ「喜び」を伝えることが大事なのか?
子どもに、ストレートに「喜び」を伝えていくことがなぜ大事なのか?それは親が喜ぶことで、子どもにどんな反応が起こるのかを観察すればおのずと分かってきます。
まず、子どもは、親が喜んでいると分かると、自分もなんだか嬉しくなります。
この現象を心理学では「情動感染」といいます。相手の出す感情に感化され、周りの人にも同じ感情が伝わる現象です。
親が喜びを伝え、子どもが嬉しくなって笑顔になると、それを見た親は更に嬉しくなる、このように喜びの感情は相乗効果を持って連鎖して高まっていきます。
これは、脳内で同じ運動部位が活性化するから起こる現象だと、近年の脳科学の研究では明らかになっています。
このように喜びの連鎖反応が起こると、お互いに同じような気持ちだということが通じ合います。
これが子どもの共感性の大事な基盤になると言われています。
共感性は、相手の気持ちを察したり、信頼関係を築いたりしていく上で欠かせない能力ですから、しっかり育ててあげたいですよね。
情動感染は悲しみや怒りといった感情でも起こるのですが、喜びは「非常にポジティブな気持ち」だという点と、なおかつ「幼い子どもでもシンプルに読み取りやすい感情」であるという点で、他の感情感染より重要です。
幼いころから親が喜びを声掛けとして使っていると、親子共にポジティブな気持ちで満たされる時間が増えます。
一方、怒りや悲しみといった感情を子どもに向ける時間が長いと、子どももその感情に巻き込まれ、親子でネガティブな感情に支配される状態が増えます。
ネガティブな感情を体験し、それがどんな感情であるのか学ぶという意味においては、ネガティブな感情が絶対的にだめだということはありません。
ですが、怒りや悲しみばかりを親子で共有しあうと、それはどうしてもストレスがかかります。子どもの頃からストレスがかかりすぎると、情緒面や行動面など、様々な側面に問題が出現しやすいです。
やはり、ポジティブな感情である「喜び」を通して、子どもが親と感情を共有し共感性を身に付けていくのが良いでしょう。
何を喜べばいいのか?
喜ぶ声掛けを増やす意味や効果については理解できたと思います。次は、ではいったい何に喜べばいいのか?ということを解説していきましょう。
実は、親の喜ぶ声掛けは何に対する喜びでも大丈夫です。親の趣味に関することでも大丈夫ですし、日常の中で起きた小さなラッキーを拾っても大丈夫です。
例えば、好きなスポーツチームが勝利したとか、応援しているアーティストのライブが当たったとか、好きなブランドのアイテムをセールで安くゲットできたとか、誰かからお土産で大好きなお菓子をもらったとか。
本当に些細なことで良いのです。自分が嬉しい!と思ったらそれをニコニコと表現して子どもに伝えてあげてください。
楽しそうに生きている親の姿を見れば、その感情が伝わり子どもも嬉しくなります。大げさに思えるかもしれませんが、この世界は喜びに満ちているのだなと、子どもはそう思えるのです。
もちろん、子どもに関することを喜ぶことも大事です。
子どもの成長や発達を喜ぶ声掛けは特にプラスです。何か成長が見られたとか、何かを作ったとか、何かをやりきったとか、日々の中で親が感じたこと、気づいたことを、喜びとして子どもにフィードバックしてあげてください。
自分のことで親が喜んでくれると、『自分には親を喜ばせられる力がある。』『自分は親を喜ばせられる存在だ。』自然にそう思えるようになります。
これは子どもの自己肯定感を育てるうえで非常に重要なことです。
どうやって喜びを伝えればよいのか?
喜ぶのが苦手、感情を表すのが難しい、そう感じる方もいるかもしれません。で
も、伝え方に関しても、難しく考えなくて大丈夫です。喜びを伝える言葉は基本どんな言葉でも大丈夫です。「お母さん嬉しいな!」「すごく楽しくてワクワクしたね」「ご機嫌な気持ちになったなぁ」など。とにかく喜んでいるよ!ということが伝わればそれでよいのです。
伝わればよい、という意味で、実は言葉以上に大事なのは表情や動作だという説もあります。
喜びは、他の複雑な感情と比較すると子どもに誤解なく伝わりやすい感情ではありますが、表情・動作もしっかり使って、全身で喜びを表現すると、より鮮やかに子どもに気持ちを伝えることができます。
表情で言えばやはり笑顔です。しっかり口角を上げて、目を細めて、顔をくしゃくしゃにして、思いっきり笑顔で喜びを伝えましょう。
動作で言えば、軽く飛び跳ねたり、握手をしたり、ぎゅっと抱きしめたり、一緒に踊りだしたり、バンザイしたり、、、とにかく一緒に体を動かしてみましょう。
きっと、言葉以上に雄弁に喜びを共有することができると思います。また親の喜びの表現は、子どももきっとマネするようになります。感情豊かで愛される人に成長していくことでしょう。
喜びを歪ませる「謙遜」には要注意
日本人は自分の子どもが褒められた時に、素直に嬉しいです!と言えない親が多いという問題があります。これは日本の文化やマナーの影響です。褒められた時にはまず謙遜するのがマナー、礼儀、、、そんな雰囲気が正直ありますよね。
でも、これには問題があって、親が謙遜している様子を子どもが見ているということです。
例えば、「お宅のお子さん、とても優秀よね!」と褒められたとします。
それに対し親が謙遜して、「そんなことないです」「うちの子なんて全然…」と子どもを否定する言葉を発していたら、それを聞いている子どもはどう思うでしょうか?それが謙遜である、なんてことは、幼い子どもには分かりません。
だから、(え、、、ママはそんな風に私のことを思っていたの?) と、ショックを受ける場合があります。
子どもには謙遜のような複雑な心理や謎のマナーは分かりませんから、本当に親は自分のことをそう思っている、全然ダメだと認識しているのだと誤解が起きてしまいます。
それで深く傷ついてしまう、このような悲しい誤解があちこちで起きています。
子どもの目の前で行われる謙遜は、親の建前のために子どもを傷つけている行為です。
謙遜で子どもを下げたりけなしたりするような言葉を使うのは、子どもの前ではくれぐれも注意しましょう。
理想は、子どもが褒められたら「ありがとうございます!」「褒めてもらって子どもも嬉しいと思います!」と親がまず素直に喜びを表現することだと思います。
親が自分のことで喜びの表現を返している様子を近くで子どもが見ていたとしたら、子どもはとても嬉しくなるし、たくさん勇気づけられることでしょう。
喜ぶ声掛けを増やして子どもが自ら成長できる基盤を作る
今回は喜ぶ声掛けの重要性について解説をしました。
喜びの感情は、子どもが読み取りやすいシンプルな感情のため、親の喜びが子どもに伝わりやすく、同じ気持ちだと共有しあえることで子どもの共感性を高めることができます。
共感性は、自己理解や他者理解に欠かせない大事な能力であり、この能力を幼いうちから育てることは、子どもが成長してから集団の中で社会性を発揮できるかどうかを左右します。
また、喜びの共有は親子がポジティブな気持ちでいられる時間を増やしてくれる効果もあります。
自分がただ存在しているだけで親は喜んでくれるのだという基本的な信頼感や安心感を育むためにも重要です。
何も難しいことではありません。些細な喜びをキャッチしたら、言葉だけでなく表情、身振り、手振りなど、全身を使って、喜びを子どもに伝えていきましょう。
そして親子で喜び合って、自己肯定感や基本的信頼感といったその後の成長を支える基盤とも言える部分を、どんどん高めていってあげましょう。
参考文献
池田 慎之介(2022) 「マスクを装着した表情からの感情認識に社会的感受性が及ぼす影響」 日本認知心理学会第20回大会
高野 牧子(2010) 「幼児期の感情表現および意識的な身体表現による母子間のコミュニケーション」 山梨県立大学人間福祉学部紀要
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