子どものスポーツ活動との向き合い方を心理士が解説

心身の発達において、スポーツ活動が良い影響を及ぼすであろうことは周知の事実ですよね。

しかし、心身に過度な負担を与えるような活動を経験することで燃え尽きてしまう場合や、経済的理由等によって活動を断念せざるを得ない場合があるなど、親子が困難な場面に遭遇することもあります。

そこで、子どもの心身の発達という観点から、子どものスポーツ活動に伴う疑問やお悩みについて、Q&A形式で答えていきたいと思います。

この記事を書いた専門家

杉野

杉野 亮介


公認心理師、臨床心理士

教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。

子どもの心身の発達について考える時、スポーツ活動が良い影響を与えるであろうことは、多くの人が理解されていると思います。

将来的にスポーツ選手を目指すかどうかは関係なく、何か運動をやらせた方が良いのではないかと思うのは自然なことです。

同級生が何かスポーツを始めたと聞けば、「自分の子が乗り遅れるのではないか」、「うまくできなくて惨めな思いをするのではないか」、「うちもやらせた方が良いのではないか」と不安を抱くこともあると思います。

スポーツ

スポーツ活動と聞いて思い浮かべるような「クラブに属する」という状態ではなくても、放課後にボール遊びをしたり、自転車を乗り回したり、鬼ごっこをして走り回ったりすることも子どもの心身の発達には有意義な活動です。

体を動かすことが嫌いな子もいますが、子どもは自然に生活していれば、体を動かします。

家でゴロゴロしていても、学校や幼稚園や保育園では体を動かす活動はたくさんありますし、小学生以上であれば、登下校だけでも良い運動になっている子もいるでしょう。

私自身もそうでしたが、保護者は子どもが小さいときには「スポーツ活動を絶対にやらせた方がいいはず」「今やらせないと子どもが困る」と思って焦ってしまったり、スポーツ活動をやらせていない自分を責めてしまったりもしますし、同じような思いを持ったことがある方もいると思います。

が、焦らなくても大丈夫です。

子どもの心身の発達を考えても「スポーツ活動はやっても良いし、やらなくても良い」のです。

それぐらいのゆとりのあるスタンスで考えていきましょう。


あるいは、

回答:

スポーツ活動に限ったことではありませんが、特にスポーツ活動においては、保護者の意向というものが強く表れることがあります。

始める時には「自分がこのスポーツをやっていたから、子どもにもやらせたい」あるいは「自分はこのスポーツをやりたかったのに、やらせてもらえなかったから、子どもにはやらせてあげたい」時には「子どもをこのスポーツの選手にしたい」ということも。

保護者が子どもに対して多様な思いを抱くことは自然なことですが、あくまでも活動するのは子どもであり、最終決定するのは子どもであるということは忘れてはいけません。

親としての思いをきちんと言語化した上で、子どもの思いも言語化するように促し、両者が納得できる結論を導きましょう。

このように親子で意向が異なる時は、子どもにとって【きちんと言語化したら聞いてもらえる】という体験にする必要があります。

子どもが嫌々やらされても良い体験にはなりません。あくまでも自分の意思でやるというのが必要です。

スポーツ

回答:

確かに、子どものスポーツ活動は多様な活動形態があって、保護者の負担が軽くて済むものから負担が大きなものまでありますね。

その要因の一つとして、子どものスポーツ活動にかける保護者の思いも多様であることが挙げられます。

保護者の負担が大きいチームには、子どものためには保護者は多大な負担を負うべきと考えられている保護者が集まっておられるのだと思います。

私個人は、保護者が子どもの犠牲になる必要はないとは思いますがそれぞれの方の価値観を否定するつもりはありません。

つまり、ご自身や家族の価値観や養育観に合う活動やチームを探すことが望ましいと思います。

「こんな活動の仕方はおかしい」と思っていても、そう思わない方にその思いをぶつけても、うまくはいかないことが多いです。

そのチームや活動を変えることには多大なエネルギーがいりますので、それよりは、より自分達に合った活動先を探すことをお勧めします。

スポーツ

回答:

保護者として違和感を抱くような指導者についていく必要はないと思います。

私はスポーツの専門家ではありませんが、子どもと接する仕事をするプロとして、良い指導者とは何かについて以下で触れてみたいと思います。

:子どもを一人の人間として見てくれるのが良い指導者です。また、子どもと対話ができるのも良い指導者であると言えますし、そのためには、指導者も自身の考えや思いを上手に言語化できなければいけません。

:たとえば「エラーするな」「シュートを外すな」というだけの指導は、指導ではありません。エラーしないためには「最後までボールを見てキャッチしよう」と技術的にどうすれば良いのかを専門的な知識から提示してくれるのが、良い指導者です。

:子どもが成功したか失敗したかに一喜一憂するのではなく、そこに至る過程を評価したり、失敗したとしてもチャレンジしたという過程を評価してくれるのが良い指導者です。

:「そんなことだから、お前はダメだ」という声かけを、子どものスポーツ指導の場面で聞くのは悲しいことです。プレイを失敗することと、その子の人格は関係ありません。子どもの人格を否定するような声かけをする指導者にとっては、「良いプレイをする=良い子」「プレイが下手=ダメな子」という図式になっていますので、「競技が上手い子が偉い」という価値観から、自然と子どもの中でも序列ができてしまって、いじめ問題などに発展するリスクも非常に高いです。

:スポーツ科学に限らず、子どもを取り巻く環境は常に変化し続けています。過去の自身の経験にしがみついているのか、常に研修を受けたりして新しい知識を習得しているのか、が指導者の良し悪しを決めていきます。

なお、体罰は虐待であり、子どもに良いことは何もありません。

それでも、保護者の方とお話していると、体罰容認派の方がいらっしゃいます。

もし、そのような指導者がいたら、すぐに逃げましょう!

none

回答:

保護者の方とお話しをしていると、スポーツに熱心に考えておられる方ほど、1つの競技を極めさせたい、そのために早期からその競技を始めさせたいという方が、私の周りには多いように感じます。

しかし、子どもの心身の発達のことを考えると、基本的には幼少期は多様な活動をすることが望ましいと言われています。

日本ではいまだに一つの競技に特化したクラブが普通ですが、欧米では地域に根付いたスポーツクラブがあり、子どもたちは色々なスポーツを体験するそうです。

なので、複数のスポーツを掛け持ちしたり、一つのスポーツをやめて別のスポーツを始めることは、何も悪いことではありません。

もちろん、こういう時も、親子がともに自分の思いを言語化して伝え合うことは必要です。

スポーツ

回答:

ビールを飲みながら、テレビでプロスポーツを観ている大人が、応援しているチームや選手がミスをした時に「こんなの、自分にでもできるのに、なぜできない?」とぼやいている姿が目に浮かびます。

スポーツは、周りから見ていたらとても簡単にできそうなのに実際にやったらできない、というものであることを頭に入れておきましょう。

ほとんどの場合、親はそのスポーツの素人だったりするのに口を出すから、子どもとしても腹が立つのは当たり前です(多くの親は、無意識のうちに、悪い指導者の条件を満たしていることが多いです)。

もちろん、周りから見ているからこそ気づくこともありますので、子どもが「見ていてどうだった?」とアドバイスを求めてきた時にのみ、子どもにアドバイスをするぐらいの距離感がちょうど良いです。

none

回答:

勝ちたいという気持ちが強いのは、悪いことではありません。

もちろん、楽しみたい気持ちが強いことも同様に、悪いことではありません。

ただ、”楽しい”というのは、【そのスポーツを行うことを楽しむこと】です。

その活動に参加して友だちと話していて楽しいとか、数人でふざけて楽しい、というのは、「スポーツ活動を楽しむ」というものではありません。

そのスポーツ活動に楽しみを感じる中で、勝ちたいという気持ちが強くなってくるのが理想的なのかもしれません。

勝利にこだわることの弊害は、結果だけに注目して、頑張った過程が評価されにくいからです。

どれだけ自分が頑張っても、相手がいる競技であれば、自分の努力が結果に結び付かないこともありますし、基本的にはいつかは負けてしまうものです。

子どもが勝利にこだわる場合は、負けてしまった時に、それまでの過程を評価してあげることを行っていきましょう。

スポーツ

今回はスポーツ活動に焦点を当てて、お話しを進めてきましたが、ところどころで親子の間での「言語化」というキーワードが出てきたことは興味深いですね。

体に焦点を当てていても、やはり、人間は体だけが独立して存在することなく、体と心と常にリンクしていることを忘れてはいけないようです。

子どものスポーツ活動で悩んだ時には、親子ともに自分の思いや考えを言語化できているかを振り返ってみても良いかもしれません。

さて、最後にあらためてお伝えしますが、スポーツ活動は絶対にやらなければいけないものではなく、「やっても良いし、やらなくても良い」ぐらいのスタンスで考えていきましょう!