子どもたちの考える力を育むコミュニケーションの魔法

AI技術が進歩し、事務的な作業はどんどん機械に置き換えが進められています。

この時代を生き抜くためには、しっかりと自分の考えを持って、自分の言葉にできる力を持っておくことが必要。

一方で、そのような力は簡単に身につくわけではありません。

生まれもった能力として、親御さんが特に意識しなくても、自分で考えられる子になる子もいます。

どう成長するか分からない中では、親御さんからの関わりの中で伸ばせられる可能性のあるものは、伸ばすことに繋がるであろう関わりができるに越したことはないと考える親御さんは多いのではないでしょうか。

そこで今回は、親としてどのような関わり方をするとお子さんの考える力へのアプローチになるのか。コミュニケーションの取り方を中心に説明していきます。

この記事を書いた専門家

日塔 千裕


公認心理師、臨床心理士

発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。

今の時代を生きる子どもたちは、あたり前のようにスマホやゲーム機、YoutubeやSNSがある中で生きています。

AIもどんどん進化し、便利な機器が身の周りにあたり前のように溢れている子どもたち。

タイパ=タイムパフォーマンスという言葉が若者で流行するほど、デジタルネイティブ世代はいかに短時間で満足感を得られるかということを求めている傾向があります。

考える力

さて、2019年からの学習指導要領の改訂においては、「生きる力」がテーマとなっています。

知識の詰め込みではなく、学んだ知識を実社会で活かすことができるようにすること

知識としてだけではなく、学びを活かそうとする力や未知の状況に対する対応力

などの育成に重きが置かれるようになったのです。

こちらの記事でも詳しく述べています。

情報が楽に手に入る。ただ、それらの情報が本当に正しいものか、最新のものかなど、昔であれば考えなかった視点で情報を精査するということが求められるようになっています。

AIの普及に伴い、さまざまな側面でAIに置き換えることは可能ですが、一方で、さらに高度な“考える”ということに関しては、人間だからこそできるスキルなのです。

そのような時代を生きていく子どもたちは、AIといかに共存し、AIでは担えない部分を担うことができる力を持っているかが重要になってきます。

そのため、いかに小さい頃から“考える”ように促すことができるかが大切になってくるのです。

“考える力”は、知識のように記憶すればよいというものではないため、ちょっとしたトレーニングで身につけられるというものではありません。

プログラミングやアート系などクリエイティブな習い事を通じて、自分で感じたもの・自分で創造したものを創る機会を重ねることで“考える力”にアプローチすることも可能でしょう。

音楽関係の習い事の場合には、譜面通りに演奏するということだけでなく、背景や音楽の印象などを考え、自分なりの演奏の仕方を考える機会があれば、“考える力”にも繋がるでしょう。

このように習い事でも内容によっては、“考える力”の育成には繋がります。

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お子さん自身が興味を持つのであれば、自分で創造することが求められるような習い事をしてみるのも方法でしょう。

ただ、習い事は、お子さん自身が興味をもつもので通わせる必要があります。

興味がないままに無理矢理させても、習い事そのもののスキルはもちろん、“考える力”も身についていきません。

決して簡単なことではありませんが、日常のコミュニケーションの取り方で“考える力”の育成に繋がるのです。

日常のコミュニケーション。つまりは、どのような会話を親子で行うかということです。

たとえば、

「手を洗ってきなさい」

「ご飯だよ」

「お風呂入りなさい」

「寝る時間だよ」

と親御さんからのお子さんへの声掛けがこのような声掛けばかりだったら、いかがでしょうか。

日常的に多くのご家庭でこのような声掛けは行われていることでしょう。

これだけしか会話がないことはないと思いますが、このような声掛け中心になってしまうと、ずっとこの声掛けが必要となり、お子さんは「指示されたからやる」という受け身状態になる可能性があります。

では、「今日は学校どうだった?」という声掛けは、いかがでしょうか。

上の「〇〇しなさい」「〇〇の時間だよ」などの指示と比べると、「どうだった?」と質問系にはなっていますね。

ただ、これに対してお子さんは何と答えるでしょうか。

おそらく「別に」「普通」。

中には「楽しかったよ」程度、答えてくれることもあるかもしれません。

お子さんが自発的に話すタイプの子で、その後に親御さんが「うん、うん」とお子さんの話をありのまま聞いてあげていたら、「今日は学校どうだった?」の質問に対して、その日の出来事をいろいろと教えてくれるお子さんもいるでしょう。

ただ、多くのお子さんは、「別に」「普通」などの回答が多くなっているのではないかと思います。

親御さん自身のことで考えてみてください。

毎日のように「今日は仕事どうだった?」と聞かれたら、どう答えますか。

仕事は行かなければならないこと、やらなければならないこと。

親御さん自身にとって、“日常”で“あたり前のこと”かと思います。

それに対して「どうだった?」と聞かれても…。

特別、大きな成果や達成感を得られるようなことがあったり、反対にすごくイライラするようなことがあったりしたりすると、聴いてもらいたいということもあるでしょう。

ただ、毎日同じ質問をされても、「いつもと同じだけどな…」と思う日も多いのではないでしょうか。

そうすると、何かあったとしても、いつも同じ質問をされていることで、その質問に対して拒否感に近い感情が湧いており、「まあいいや…」と思って、「別に」「普通」などと、その質問に答えないという関係性のパターンが出来上がってしまうのです。

“考える力”を育むための親子コミュニケーションのポイントは、以下の2つです。

質問型で伝える

会話をパターン化しない

この2つのポイントについて、以下で詳しく解説します。


「手を洗ってきなさい」という指示ではなく、「帰ったら、まず何やるんだっけ?」、忘れて何かをやり始めたら「あれ?何かやること忘れてない?」など、お子さん自身で手を洗うという行動を導き出すように働きかけていくのです。

また、お風呂や宿題などやるべきことをやるということに関しては、「〇〇は何時からやる?」などお子さん自身に時間を決めさせるのです。

お子さんが決めた時間になった際には、自分で決めたんだからやりなさいと、そこで多少の強制力を含めて指示に変えてOKです。

きょうだいがいる場合には、一人の希望だけでは家族全員のやるべきことが時間内に終わらないということもあるでしょう。

そのような場合には、それぞれの希望を聞いてスケジュールを立てられるとよいですね。親御さんも含めて、誰が何時に何をするかを決めて、特にお風呂のように交代でなければならないものは親御さんもそれを守っていくことは必要になります。

その日ごとに決める余裕がない場合には、週末など時間に多少のゆとりがあるときに、1週間分の予定を話し合って決められるとよいでしょう。

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実績的に実際の状況も記録に残しておき、1週間ごとに見直しの時間を設けて、修正していけると尚良いです。

年齢の高いお子さんであれば、「今日、仕事でこんなことがあったんだけど、あなただったらどうする?」などとお子さんに尋ねてみるのもよいでしょう。

お子さんの学校生活のことを聞くだけでなく、親御さんの日常(仕事)も共有することで、対等な扱いをして、経験のないことで考える力へアプローチすることになります。

取り組み始めた最初はとても根気のいることです。

ただ、習慣化していくと、お子さんたちも自分でスケジュールの考え方も分かってきたり、自分がどうしたいか、どんな感じだったら実践できそうかなどが掴めてくるので、考える時間の短縮や実践する際の声掛けから実行までも早くなっていきます。

なお、例えば質問型で伝えるようにしても、ふざけて大人の質問を真似して繰り返したり、逆質問をしてきたりする場合に、結局指示型になったりしてしまう場合もあるかと思います。

このようなお子さんは、やるべきことをやらせることを目的とするとなかなか難しく、一方でコミュニケーションを楽しんでるところがあります。

そのため、部分的には「やるべきことをやる」ということを一旦外して、コミュニケーションを楽しむ時間としてかかわる時間とやるべきことをやってもらう指示型で伝えるメリハリをつけるなどの方法が有用です。


先ほどの「今日は学校どうだった?」という例のように、同じ回答になる質問をしないということです。

「今日は○○があったと思うんだけど、どうだった?」などと少し場面を絞って聞いてあげましょう。

学校生活を日常としていない親御さんの目から見ていつもと違うことであったり、科目を限定して今日はこれについて聞いてみようと思うことであったり、質問の仕方を少しずつアレンジしてみてください

もちろん、たまには「今日は学校どうだった?」と全体的なことを聞いてみるのもOKです。

お子さんから話された内容は、ありのままを受け止めるように心掛けましょう

お子さんが話す内容を「こうじゃないの?」「こういうことでしょ?」などと否定に繋がるような反応・返答を見せると、お子さんは徐々に親御さんに対して話をしなくなります。

お子さんが聴いてもらえている、親御さんと話すことが楽しいと感じてもらうことが大切です。

会話が減ってしまうと、家庭の中で“考える力”にアプローチをかけていくことも難しくなります。

「そうだったんだね」

「そんなことがあったんだ」

「それで(どうなった)?」

「あなたはどう感じたの?」

などとお子さんが話す、ありのままを受け止めてあげ、興味を持って聞いてあげましょう。

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お子さんが話す内容が間違っていると感じる、考え方など修正したいと感じるような場面では、

 「そうだったんだ。そう感じたんだね。お母さん(お父さん)は、こんな風に感じるな」

とお子さんの考えは受け止める。でも、親御さんとしてはこう考える・感じるという別々の人間で考え方・感じ方の違いがあるという視点で伝えられるとよいでしょう。

慣れないうちは、ただでさえ忙しい中で、ちょっとした手間がすごい労力のように感じるでしょう。

ただ、このちょっとした手間を加えていくことで、お子さんの将来には活きる力となってくるのです。

まずは少し余裕のある休日だけは意識して取り入れてみるなど場面を区切って実践してみるとよいでしょう。

お子さんの“考える力”はちょっとしたトレーニングで身につくものではないとお伝えしましたが、親御さんにとっての、これらの関わり方も親御さん自身のコミュニケーションの癖ですので、簡単に変えることはできないと思います。

まずは少しずつ意識して取り入れる。お子さんと一緒に成長していこうという長い目で継続性を重視して考えていただけるとよいでしょう。