子どもの才能を伸ばす声かけ〜「褒める」編〜

子どもの才能を伸ばす声掛けの1つとして「褒める」言葉が大事だということは、誰もが納得していることだと思います。

確かに褒められることで子どもは才能を伸ばし、ぐんぐん成長していく側面はあります。

しかし、褒める声掛けだけを妄信してはいけません。

なぜなら、褒める声掛けは、時に親子を縦の関係に縛り付け、子どもの才能の芽を摘んでしまう可能性があるからです。

この記事では、「褒める」声かけの効果と具体例に加え、褒めることが逆効果になる時の注意点も、幼児期・思春期といった発達段階別に解説していきます。

この記事を書いた専門家

相楽 まり子


公認心理師、臨床心理士

小中学校のスクールカウンセラーとして教育現場で経験を積む。現場で子どものケアには周りの大人へのサポートが欠かせないことを痛感し、産業領域でのカウンセリングも開始。子育てと仕事を両立する働き世代へのカウンセリングを得意とする。2児の母。

なぜ褒める声掛けだけでは子どもの才能を伸ばせないのか、その理由を知るためにも、まずは褒める声掛けが子どもに与えるプラスの影響について確認していきましょう。

【褒める声掛けの効果】

・共感性を高める

・反社会的な認知や行動を抑制する

・レジリエンスを高める

・自尊感情が高くなる

・他者への信頼感が高まる

上記以外にも、褒める声掛けが子どもにどれほど影響を与えるか、ここでは書ききれない程のポジティブな効果が多くの研究によって裏付けされています。

褒められることで、子どもは自分がこの世界に受け入れられている大切な存在なんだと、自己肯定感や基本的信頼感を確立させていきます

まさに人間の基盤ともいえる部分の構築に影響を及ぼす、大事な言葉がけだと言えます。

親子

しかし、この「褒める」行為に異論を唱えるのが、アドラーと呼ばれる心理学者です。

アドラーが提唱する理論は、「嫌われる勇気」という書籍でも一躍注目を浴びましたので、ご存じの方もいるかと思います。アドラーによると、人を育てるにあたって「褒める」も「叱る」も必要がないと言います。

なぜ叱るだけではなく、褒める必要もないと主張するのか?

それは、褒める行為には、評価する意味が含まれるから、だそうです。

確かに言われてみれば、褒めるという行為は相手を良い・悪いとジャッジするような意味を含みます。

そのため、幼いころから過剰に「褒められること」が正解と教え込まれると、下記のような反応が子どもに現れる可能性があります。

【褒める声掛けのデメリット】

・親の期待に応えるために行動するようになる

・他者からの評価に過敏になりやすい

・褒められるために自分を抑制する傾向が強まる

・ありのままの自分で良いという肯定感が育ちにくい

・自分の意志と反することを褒められると強い葛藤が生まれる

・「自分がどうしたいか」という気持ちが育ちにくくなる

褒めることは、親である私はあなたを評価する人間、子どものあなたは親である私に評価される人間、上下のある縦関係だ、そんな誤ったメッセージの発信として受け止められる危険が潜んでいるのです。

もちろん、絶対にそう受け止められるというわけではありません。

子どもの発達段階や褒めるタイミング、褒める以外の親の態度など、さまざまな要因が絡んだ結果、褒める声掛けのデメリットの方が際立ってしまうケースがあるのです。

ちなみに、アドラーは「褒める」「叱る」ではなく、「勇気づける」声掛けを大事にするよう説いています。(詳しい話はまた別の記事で解説します。)

幼児の頃、子どもは本当に純粋で素直です。

親や周りの大人が「すごい!」「えらい!」と褒めてくれると、それが嬉しくて褒められた行動を繰り返し、ぐんぐんと才能を伸ばしていきます。

一方で、親の意図と違う行動をとった時は褒められない、全く認めてもらえないといった対応を顕著にされると、子どもは下記のように学習する場合があります。

「自分の考え・意志は受け入れられない。自我を出してはいけないんだ。」

すると、子どもは親に褒められる言動をなるべくしようと行動を制限するようになります。

心理学用語でいう「過剰適応」の状態に陥ります。

こうして、本来その子が持っているありのままの個性・才能の芽が育ちにくい環境を作ってしまうのです。

これは非常に残念なことです。

褒めることは悪いことではありません。

ただし、「この行動が唯一の正解」という厳しいメッセージとセットで褒める声掛けを使うことで、子どもをコントロールしようとしていないか、親は注意が必要です。

単純に褒めるだけでなく、本人の個性や意志を尊重する声掛けや関りもできているか、振り返ってみましょう。

思春期に入ると子どもも成長しますので、親が「いいね!」とほめることに反発する子も出てきます。

より複雑な心理が理解できるようになったことで「褒めておだてて、親の思い通りに自分を動かそうとしているのでは?」と感じる子どももいるからです。

特に、自分の個性が出せていない、抑圧されているような感覚があると、子どもは大きく反発する可能性が高いです。これが思春期の反抗です。

反抗期にしっかり反発して自我が出せる子はまだ良いです。

思春期になっても特に反発なく、親が褒めることだけが行動基準や目的になってしまっていると、成人後、社会に出てから問題がより大きくなって本人を苦しめる場合がしばしば起きます。

自分を抑圧しすぎて、自分というものが自分で分からない、空っぽのような感覚を大人になってから強く抱き、もがき苦しむケースも少なくありません。

もし反抗的な態度があった時は、頭ごなしに抑えつけて突っぱねるのではなく、本人が何を必死に訴えようとしているのか、親を含め周囲の大人はまず冷静に耳を傾けてあげることが大事です。

安易に使ってきた褒める声掛けだけでなく、もっと別の、ありのままの子どもを認めてあげられる声掛けを増やしていく必要があります。

具体的にどんな声掛けが他にあるのか、詳しくは別の記事で解説します。

褒める声掛けの注意点について知ると、子どもを褒めるのは難しい、やめようかな、そんな風に不安を感じた方がいるかもしれません。

でも、注意点を理解した上であれば、褒める声掛けをやめる必要はありません。

大人であっても、純粋に誰かに褒められることは嬉しいことですから、褒められる経験を子どもから奪う必要はないでしょう。

褒める声掛けのネガティブな要素をそぎ落とし、効果的に褒めるためのポイントについてまとめました。

ポイントを参考に、お子さんの得意や夢中なものに対しては、どんどん褒めて、才能をのばしてもらいましょう。

【褒める声掛けを行う効果的なタイミング】

・素晴らしい言動があったその直後、随伴的に褒める

【褒める対象】

・結果や人物(能力)よりも、努力の過程を褒める声掛けがより効果的

褒める声掛けは、子どもの才能を伸ばす方法として、非常にシンプルで使いやすい言葉がけです。

実際にポジティブな効果もたくさんあります。

ただし、子どもの個性を無視していたり、親の思い通りにコントロールしようとしていたり、そんな親の姿勢が透けて見えてしまえば、褒める声掛けの効果は半減どころかマイナスにもなりかねません

目の前の子ども、等身大の子どもの姿をしっかりと見据えましょう。

「親や周囲の評価を気にしすぎていませんか?」

「親に褒められることが子どもの行動の目的になってはいませんか?」

少しでもそんな素振りが子どもにみられたら、「褒める」を多用し子どもをコントロールしようとしていないか、親自身の言動を振り返る必要があるでしょう。

そもそも、子どもの才能を伸ばす声掛けは「褒める」だけではありません。

わざわざ褒めなくても、子どもが親の評価なんて気にせず自発的に夢中になっている何かがあれば、そこにこそ重要な子どもの才能の芽があるのではないでしょうか。

親が良い・悪いと評価する縦関係ではなく、子どもと同じ目線に立つ横の関係で、子どもがキラキラした目で見ている先を、共に見つめてあげましょう。

参考文献

・佐々木 真吾(2021)「褒めるか叱るか曖昧な状況での親の養育態度がレジリエンスと保育観の発達に及ぼす影響」名古屋女子大学 紀要

・村田, 育也(2018) 「アドラー心理学に基づく教育談議の試み」 福岡教育大学大学院教育学研究科教職実践専攻(教職大学院)年報

・青木 直子(2005)「ほめることに関する心理学的研究の概観」名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 心理発達科学 52