子育てをしていく中で、子どもとのお金との関係性については、ほとんどの親が迷う問題です。
お小遣いを渡すのか、いくらぐらいが適切なのか、使い道については制限した方が良いのか、等は、子育て相談の現場でもよく出会う悩みです。
各家庭や個人の価値観は異なるが、その中でも共通して有効となるような考え方や関わり方などをQ&A形式でまとめていきたいと思います。
この記事を書いた専門家
杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
目次
はじめに:子どもとお金
子育て相談の場では、
「子どもに最適なお小遣いの額ってどれぐらいですか?」
「お小遣いは、何歳ぐらいからあげたら良いですか?」
「お小遣い制ではなく、欲しいものがある時に渡していいですか?」
等のお小遣いにまつわる相談から、
「友だちが持っているからと高額な物を欲しがるのですが、買ってあげた方が良いですか?」
「子どもは習い事をしたいと言うのですが月謝が高額です。子どもに諦めてもらうのはダメですか?」
などの子どもにまつわる出費と家計に関するような相談まで、お金に関する相談を受けることがあります。
各家庭の経済状況はもちろん、保護者の価値観がそれぞれ異なりますので、残念ながら、何歳には何円のお小遣いが最適とか、子どもの習い事にかけるのは月収の何%が理想、と一言では言えません。
もちろん、ネットの記事などを見ていますと、目安として提示していることもありますが、あくまでも目安であって、それらの数字に振り回されることは危険です。
「なるほどね」ぐらいの目安にしておきましょう。
また、お金のことに関しては、今を楽しむためにお金をつかいたいという家庭もあれば、将来や不測の事態に備えてできるだけ貯蓄しておきたいという家庭もあります。
これらは価値観の違いであって、どちらかが正解というものではありません。
それらの多様な価値観があるが故に、唯一無二の正解を探そうとしてしまうと混乱してしまいます。
「あの人はこう言ってた」「自分の親はこうだった」「お友達の家はこうしてる」等の情報はどんどん増えていきますが、それはあくまでも、よその話、あるいは過去の話であって、今の自分の家族にそのまま当てはめる必要はありません。
今の自分の家族に合った、子どもとお金とのつきあい方を築いていく必要があるのです。
これから、子育て相談の中でお受けする、お金にまつわる質問と回答を提示していきます。
これらのやりとりを見ていただいて、今後のご家庭での方針の参考にしてもらえると幸いです。
子どもとお金に関するQ&A
子どものおねだりにどこまで付き合うべき?
質問1:子どもとスーパーに行くと、お菓子を買って欲しいとねだられます。そんなに高いものでなければ買ってあげたら良いかなという思いと、甘やかしてはいけないのではないかという思いとで葛藤します。そんなことで悩む必要はないのでしょうか。
回答1:
子どもが買って欲しいと言う時は、お金のことについて体験できる絶好のチャンスです。
もしくは、お金について「学習」できるチャンスだと考えてください。学習だと思えば、気持ちよくお金を使えるかもしれません。
子どもにとって、大人が商品を選んで、お金を払っておつりをもらう(あるいはクレジットカードを使ったり、電子決済をしたりする)という様子を見るのは、とても良い学習の場になっています。
初めはよく分からなくても、段々とお金や数字に興味を持つようになってきますので、お菓子売り場でお菓子が欲しいと言ってきて、買ってあげても良いかなと思えるのであれば、「今日は~円までね」と設定してみましょう。
もちろん、その額は、各家庭の経済状況等にもよりますし、売っているお菓子の価格帯にもよりますので、そこは子どもとも交渉してみてください。
買って良い制限額が提示されると、子どもは自然と値段を意識することになりますし、制限額以上の物は買えませんので、何かをあきらめたり、我慢することにもなります。
それらを踏まえたうえで、何か商品を選ぶという過程が非常に大切です。
この過程には、自分で選ぶ、我慢する、満たされるという子育てにおいて非常に重要な要素が含まれています。
たかが、お菓子を選ぶことにそんなに大げさなと思われるかもしれませんが、こういう小さい経験を積み重ねることがとても大切です。
子どものお小遣いの使い道に口を出すことについて
質問2:子どもに毎月一定額のお小遣いを渡しています。親から見ると、無駄遣いと言うか、不要な物ばかりを買っているように見えます。もっと考えてほしいのですが、子どもにはどう伝えたら良いでしょうか。
回答2:
これは、親の立場としては非常に共感できる質問です。
ただ、大切なことは、当の子ども本人がどう思っているかということです。
大人から見て、不要な物でも、子どもからしたら、とても大切な物なのかもしれません。
自分が大切だと思っている物にお金を使えるのは素晴らしいことですね。
お金を使って満足感を得るという体験はとても良いと思います。
一方で、子ども自身も「要らない物買ってしまったな」と思っているかもしれません。それはそれで一つの体験です。お小遣いを渡している意味がこういうところにあるとも言えます。
自分で選んで買ってみて、うまくいかなかったなと思う体験も失敗ではありません。そういう体験を積み重ねることができるのも、とても良いことです。
いずれにせよ、親や大人が一方的に「こんな、要らないものばっかり買って」という必要はありません。
今はお金のことを学んでいると思って、見守ってあげましょう。
質問3:子どもに毎月一定額のお小遣いを渡しています。しかし、計画性がなく、渡した日に全て使ってしまいます。計画的にお金を使えるようになって欲しいのですが。
回答3:
初めに確認しておくと、渡した日にお小遣いを全て使ってしまうことが必ずしも悪いことではないということです。
子ども自身の意思でそうしたければそうすれば良いですし、次のお小遣いの日まで、じっと我慢するという経験も素晴らしいものだと思います。
ただ、この質問では計画的に使えるようになって欲しいということなので、それを考えると、このお子さんには、毎月1回という形ではなく、もう少し分散して、毎週1回という形にしても良いかもしれません。
1回あたりの額は少なくなりますので、その都度使うのか、少し我慢するのかを自分で考える必要が出てきます。
もし、そうするのであれば、親としての考え(計画的に使えるようになって欲しい等)を明確に伝える必要があります。
子どものお小遣いの水準は?
質問4:子どもの話を聞いていると、おやつ代ということで毎日500円もらっている子がいるそうです。子どもとしては、自分もそうして欲しいというのですが、我が家にはそんな余裕はありませんし、そのようなやり方が良いのかと正直疑問に思っています。子どもにはどう伝えたら良いでしょうか。
回答4:
子どもとお金に関する相談ごとで多いのは、「よそはこうしているらしいけれど、我が家はどうしたらよいだろうか」という形式のものです。
単刀直入に言うと、「よそはよそ、うちはうち」で考える必要があります。
他人の家の経済状況は分かりませんし、価値観に口を挟む必要もありません。
よそのことをどれだけ気にしても、事態は何も良くなりません。
我が家はどうするかということに焦点を当てる必要がありますし、そのためには、子どもの年齢や発達段階にもよりますが、自分の家の経済状況を徐々に知っていってもらう必要があると私は思います。
もし可能であれば、自分のお子さんや、身近にいる子どもに、自分の親が毎月いくらぐらい収入があると思うかと聞いてみてください。
大人が思っている以上に、子どもは分かっていないというのが私の実感です。大人に教えてもらっていないのですから、分からなくて当然です。
その一方で、大人からの相談でよく聞くのが「私がこんなに頑張って稼いでいるのに、子どもは全く感謝していない」とか「子どもの塾の月謝のためにパートを始めたのに、子どもは全然勉強しなくて」等の、大人側の怒りです。
お怒りはごもっともですが、それだけでは子どもに分かってもらうのは難しいところがあります。
例えば、同じ「1万円」でも、親が毎月何十万円も稼いでいると思っている子どもと、パートで何時間も稼いでやっと手に入れたと感じている大人とでは、感じ方が異なってしまうのも無理はありません。
さて、先ほど私は自分の家の経済状況を子どもにも知ってもらうことも必要と述べました。
相談の場で、そうお伝えすると、多くの方は強く抵抗を示されます。
しかし、私は親子で金銭感覚をある程度共有するためには、それが一番有効だと感じています。
子どもが中高生ぐらいになれば、大人が1か月働いて、いくらぐらいの収入があり、そこから税金等でいくら引かれて、ローンの支払があったりしたら、手元にいくらぐらい残るのか、ということを伝えても良いと思います。
そこから食費がかかって、習い事にいくらかかってと計算していけば、自分の塾の月謝の価値も分かるでしょう。
もちろん、これが最善の方法なのかはわかりません。
ただ、私が感じるのは、大人側は自分の経済状況を子どもに伝えていないのに、子どもにそれを理解してほしいという気持ちが強くある時に、親子のすれ違いは生まれやすいということです。
今では学校でもお金のことについて学ぶ機会は増えていますが、子どもに自分の家の状況を知ってもらうこともよい学びだと思います。
これは私の実体験ですが、「うちはお金がないから」と何となく誤魔化していた時期と、収入と支出を説明した後では、子どもがお金の価値を意識して生活してくれるようになりました。
子どもに話を聞いてみたところ「お金がないと聞いて焦った」「うちは、もう終わりなのかと思った」とのことで、子どもに無用な不安を抱かせてしまったと反省しました。
子どもがお金を盗るようになった
質問5:親の財布から、子どもが勝手にお金を持って行って使っていることに気付きました。それほど高額ではないのですが、子どもにどう声をかけたら良いのでしょうか?
回答5:
これは、親子の関係性を見直した方が良いというサインだと思いますので、子どもと話し合う必要があります。
一般的には、子どもが本当に求めているのはお金ではなく、親の愛情ではないかと解釈ができますが、もちろん、それも全てのケースに当てはまるわけではないので、各家庭で子どもと話をしてもらう必要があります。
まずは、財布から勝手にお金を持って行っていることに気づいたこと、それは絶対にいけないことは明確に伝える必要があります。
子どもも、いつかはばれると思っていますので、気づいたらすぐに声をかけましょう。
その上で、いじめ等で、子どもが他者からお金を要求されていないかというところは確認する必要があります。
それから、なぜ子どもは親に「お金が必要なんだけど」とか「どうしても欲しい物があって」と相談できなかったのか、については考える必要がありますし、大人側としては、そこは反省する必要があります。
大切なことは、これからどうしていくのかということです。
子どもとしては勝手にお金を持って行くのは良くなかった、親としては子どもが相談を持ちかける関係性を作ることができていなかったのは良くなかったと、親子で共通認識を持った上で、どうすれば良いのかを考えていきましょう。
お小遣いの方法を変えるのか、お小遣いの額を変えるのか、等について親子で話し合うことできれば、乗り越えることはできるでしょう。
おわりに
いくつかの相談と回答を紹介してきましたが、共通して言えるのは、親(大人)と子どもとの関係性の中で、お金を扱っていくことが非常に重要であると言えます。
お小遣いの額は各家庭で異なって当然です。
しかし、どの家庭においても共通して大切なことは、大人が渡したお金を子どもがどう使ったのかについて関心を持って、そのことについて親子で話し合ったりすることです。
100円のお菓子を買っても、数千円のゲームソフトを買っても、大人が「買ってみてどうだった?」「良いの買えた?」など、興味を持っていれば、子どもがお金に関するトラブルに巻き込まれることは少ないでしょう。
親子の関係性の中で、物事を扱っていくのは、お金の問題に限ったことではありません。
親子それぞれが考えていることを言い合い、双方の言い分を調整しながら進めていくことが、子育ての過程において最も大切なことだと言えます。
お金のことに関しては、親子で話し合うことに抵抗感を持たれることが多いように感じます。
しかし、親子と言えども、自分が思っていることを言わなければ、相手には伝わりません。
もし何か気になっていることがあれば、「ちょっと気になってるんだけど」と声をかけてみてはいかがでしょうか。
子どもも、お金を通していろんなことを学べるチャンスです。
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