「競争させない教育の勝利」〜インクルーシブ教育に学ぶこと〜

教育先進国と言われている国では、「競争させない教育の勝利」と言われるほど子どもたちの多様性を尊重する“インクルーシブ教育“への取り組みが進んでいます。

インクルーシブ教育は、全ての子どもが共に学び、成長できる環境を提供する教育のアプローチです。

多様性を受け入れ、個々のニーズに応じた教育を提供することで、全ての子どもの個別の教育的ニーズへの対応を目指します

本記事では、正解がなさそうな教育システムのあり方について、インクルーシブ教育の観点から世界での取り組み状況と日本での動きをご紹介し、考えていきます。

インクルーシブ教育はもともと「特別な支援の必要な子どもと、そうでない子どもが平等に学びの機会を得られる教育システム」、「心身の特性の有無にかかわらず、子どもたちの多様性を尊重する教育方法」などと定義されています。

キーワードは、「平等」、「特性の有無にかかわらず」、「多様性」です。

障害者の権利に関する条約第24条の以下を参照してください。

日本でも、「多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学び」(令和4年9月 26 日 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する 学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 まとめより)が重視されてきている一方で、

発達障害とかグレーゾーンとかいうことばも認知されるようになり障害というイメージがピックアップされて、通常学級と特別支援学級のように分離して体制整備され、グレーゾーンギフテッドの子どもたちの個別の教育的ニーズには対応しきれていないのが現状です。

世界の状況はどうでしょうか。

障がいの有無の概念を取り払って教育システムを構築している代表国であり、インクルーシブ教育先進国であるイギリスの例を見てみましょう。

イギリスが国家政策としてインクルーシブ教育に乗り出したのは、労働党ブレア政権下でした。

子どもを育てていくことを家庭だけの問題として分離せず、必要があれば第三者が家庭に介入する教育のエコシステムです。

イギリスも、ここまでの道のりは順風満帆ではなかったでしょう。

というのも、イギリスでは長らくギフテッドの子どもたちに特別なプログラムや教員向けの研修が提供され、エリート養成としてセレクティブな教育が積極的に進められてきました。

また、通常学級と障がい児などの特別学級も分離する考え方が当時はイギリスでも一般的でした。

それが最近になり、ギフテッドの子ども向けプログラムを廃止するなどより広範囲の子どもたちの権利保障という観点から教育を捉え直しているのです。

日本は他者への寛容さが低く、多様性を認めづらい社会と言われ、教育機会の選択肢の無さや多様性の許容度が問題視されています

例えば、2023年度の世界幸福度ランキングでは日本の幸福度は137国中47位でした。

ただし、このランキング自体は、欧米諸国にとって都合のいい要素の組み合わせであるなどの声もあり、幸福度の実態を表したものであるかどうかは議論の余地があります。

ここで注目したいことは、ランキング自体ではなく、幸福度を測る指標の中に「他者への寛容さ」が含まれていて、日本はこの値が極めて低いということです。

日本の社会が多様性を認めづらいことを象徴している気がします。

世界幸福度ランキング
World Happiness Report 2023 The World Happiness Report is a publication of the Sustainabl worldhappiness.report

教育環境ということにフォーカスすると、教育先進国と比べて教育機会の選択肢の無さや個別の教育的ニーズへの対応不足が背景にあるのではないでしょうか。

文部科学省で設置された「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 (第4回 )」の「有識者会議アンケート」では、全体のなんと48%の子供たちが学校教育において何かしらの「困難」を抱えているという結果も出ています。

▼参照したリンク
特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議:文部科学省 www.mext.go.jp

「障がい」などのラベリングではなく、マイノリティの存在を認識し、多様性を受け入れていくことが、子どもたちの才能や発達特性に起因する学びの困難を減らしてくれるエッセンスになると思っています。

学力偏重、知識重視とも言われてきたこの日本でも、前述の通り文部科学省が動き出してもいて、公教育が見直され始めました。

学びの場の在り方が再考される大きなきっかけになる出来事ではないでしょうか。