気をつけて!おにいちゃんおねえちゃんだからと言っていませんか?〜きょうだいの育て方ガイド〜

子どもが二人以上いる家庭においては、「きょうだい」にどう接して、どう育てていくことについて、難しさを感じることは多いことと思います。

また、一人っ子を育てている場合にも、「きょうだい」がいた方が良いのではないかと悩まれる方もいます。

そこで今回は、子育て支援においてキーワードの一つになる「きょうだい」について、親として心に留めておくと良いことをご紹介します。

この記事を書いた専門家

杉野

杉野 亮介


公認心理師、臨床心理士

教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。

子どもが二人以上いるご家庭では、きょうだいげんか、上の子が下の子に嫉妬する、下の子が上の子の真似をしようとして大変、等に困っているという相談をよく聞きます。

では、一人っ子なら良いかと言われると、一人っ子を育てている家庭からは「子どもが寂しくないか心配」「きょうだいを通して人間関係を学んだ方が良いのではないか」「経済的、あるいは精神的にもう一人育てる自信がない」という、悩みや不安を聞くこともよくあります。

きょうだいがいる方が良いのか、一人っ子の方が良いのか、という問いは、まったく意味の無い問いだと私は思います。

それぞれに良い面も難しい面もありますが、それらとどう付き合っていくかが大切であり、「片方が良くて、もう片方が悪い」ということではないのです。

どちらが良いと比較するものではなく、きょうだいがいる子どもが「私はきょうだいがいて、良かったな」と思ってくれたり、一人っ子の子どもが「私はきょうだいがいなくても、良かったな」と思ってくれるような子育てができるのが理想的だと思います。

さて、今回はきょうだいがいる場合について、述べさせていただきたいと思います。

きょうだいを育てる難しさとどう付き合っていけば良いのでしょうか。

私は仕事の中で、不適切な養育を家庭等で受けて育ってきて、保護された子どもが成長していく場に付き合っています。

その経験の中で、きょうだいというもの、特に大人が子どもに求める「きょうだい役割」のようなものの弊害について強く感じてきました。

私が接するのは、一般的なケースではないとは言えますが、その弊害を皆さんに知っていただくには十分な内容だと思いますので、ここで紹介させていただきます。

私が支援している子どもたちの中には、きょうだいで保護される子もいて、その子どもたちは、保護された後、非常によく似た様子を見せてくれます。

その中で特徴的なのが、きょうだいの中で一番年上の子どもです。

この子たちの多くは、家庭で親からの指示を受けてきょうだいの世話をしたり、家事をしたり、親の機嫌を損ねないようにきょうだい喧嘩を仲裁したりと、たくさんの役割を担ってきましたが、多くの場合は年齢不相応に多大な役割を担ってきたと言えます。

そして、保護されて、きょうだいの世話や家事は大人がやってくれるという環境に置かれると、興味深い変化が生まれます。

初めは誰もが大人に対して警戒心を示したり、試し行動をしたりします。

それでも、徐々に伸び伸びと子どもらしさを取り戻すのは、きょうだいの中で年下に当たる子どもたちです。

一方で、年上の子どもたちは、今まで自分が担当してきた役割がなくなると、何をしたら良いのかが分からなくなってしまい、手持無沙汰な様子を見せます。

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そして、年下のきょうだいに構いに行くのですが、年下の子どもたちは自由に遊びたいので、上の子が来ることを良しとしません。

「じゃあ、それぞれ好きにしよう」「自分も好きなことをしよう」とはならず、上の子は下の子の後をついていき、「それは間違ってる」「もっとこうした方が良い」等口を挟んだりして、上の子はなかなか自由になれません。

そうなってくると、我々支援者としては、時には、きょうだいだから、あえて離れて生活してもらい、上の子に自分と向き合ってもらうという方法をとることもあります。

保護された子どもたちを育てていくに当たって「自分は自分、他人は他人」という距離感を身に付けてもらうことがとても大切なことなのですが、特に、きょうだいの中で年上の立場をとっていた子どもたちの場合は、きょうだいに対して距離をとってもらうということが大切になることが非常に多いのです。

前述もしましたが、もちろん、このようなケースは一般的な家庭ではほとんど見られないケースです。

しかし、親や大人が子どもに対して押しつけた「きょうだい役割」が子どもの成長発達に強い影響を与えうるということは感じてもらえたのではないかと思います。

この記事を読んでいただいている方の中にも「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」と大人から言われたことが負の記憶として残っている方もいれば、そんな兄や姉に気を遣って、できない弟やかわいらしい妹を演じていた方もいるでしょう。

我々は、自分が育ってきた環境で身につけたものや、以前から社会に残っている価値観等から、無自覚に「きょうだい役割」についての考えを持っています。

お兄ちゃんやお姉ちゃんは下の子の面倒をみる、弟や妹は上の子の話を聞く、等と言われて違和感を覚える人はほとんどいないでしょう。

ただ、私は、多くの人が担ってきたであろう「兄」「姉」「弟」「妹」と役割から、もっと自由になった方が良いと感じています。

前述した、保護されたきょうだい達が見せる様子や、子育て支援の現場で多くの人が「きょうだい役割」について無意識に縛られて苦しんでいる様子から、「きょうだい役割」は不要なもので、大人はもっと意識的に「きょうだい役割」から自由になるべきではないかと思っています。

例えば、年下の子の面倒をみて欲しいというのは、兄姉に限ったことではなく、弟妹にも求めるべきことです。

きょうだいでは、自分より下の子がいなくても、集団生活を始めれば、自分より年下の子と接する機会はあります。

そういう時には、きょうだい役割は関係なく、誰もが、年下の子には優しくして面倒を見てあげることが望ましいのは、至極当然のことです。

こう考えると、「お兄ちゃんだから、お姉ちゃんだから」という言葉は不要ではないでしょうか。

きょうだいがいれば、上の子が下の子に優しくして欲しいというのは、誰もが抱く思いです。

しかし、それは、上の子が「お兄ちゃん」や「お姉ちゃん」だからではありません。

大人はつい「あなた、お姉ちゃんなんだから、もっとこうして」という風に言ってしまうのですが、本当はそうではありません。

「私は大人として、親として、あなたにこうして欲しい。こう育ってほしい」という形のメッセージで伝えることが非常に大切です。

きょうだい

「お姉ちゃんだから」ではなく、「私は、あなたに、年下の子に優しくできる人になってほしい」と伝えてあげることで、子どもは自分が一人の人として大切に思われていると感じることができます

そして、同じようなメッセージを親が年下のきょうだいに伝えているのを見れば、年上の子も納得できるのです。

これはよく言われることですが、子どもを呼ぶ際には、名前で呼んであげることがとても大切です。

年上の子に対しては、つい「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼んでしまうことがありますが、それは極力避けましょう。

子どもだからこそ、一人の人間として尊重してあげることが大切ですし、そういう呼び方を意識することで、無意識のうちに子どもをきょうだい役割に縛り付けることを予防できます。

下の子が生まれたり、親に甘える様子を見ていると、上の子が赤ちゃん返りのような様子を見せたり(オムツをつけたいと言ってみたり、自分もミルクを飲みたいと言ってみたり、わがままを言ってみたり)、今まで以上に親に甘えを見せたり、下の子に嫉妬していじわるな態度を見せたりすることがあります。

それらの行動は、行動だけを切り取ってみれば、不適応行動や問題行動に見えますので、親としては不快に感じたり、それらの行動を修正したいと思います。

また、親の愛情が足りていないと感じてしまって、不安になってしまうこともあります。

しかし、子どもが見せる、これらの行動は不適応行動でも問題行動でもありません。

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自分のきょうだいが親に愛されている様子を見て、自分ももっと愛されたいと思うのは、ごく自然なことですし、気持ちが満たされずに怒るのも自然なことです。

その子が、この親にもっと愛してほしい、構って欲しいと思えるということは、良い親子関係が結ばれていると考えても良いでしょう。

逆に言えば、上の子が何の動揺も見せないとなると、少し心配になります。

退行して赤ちゃん返りをしている様子があるなら、それに付き合ってあげれば良いでしょう。

わがままも可能な限りで良いので対応してあげたいものです。

しかし、どの子の要求も全て満たすというのは不可能です。

どんな良いお母さんやお父さんでも、イラっとしてしまうこともありますし、ついため息をついてしまうこともあるでしょう。

子ども達の要求を満たせない自分たちを責める必要はありません。

満たそうとしてみることが大切ですし、それは子どもにも伝わります

もちろん、子どもを責めても良いことは何もありません。可能であればサポートをしてくれる親族や友だちに頼っても良いでしょう。

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親としての限界もあるし、その行動は許せないという行動もあるでしょう。

そういう時には、前述したとおりに「お兄ちゃんだから」「お姉ちゃんだから」ではなく、私はあなたにそういう行動はとって欲しくない、とか、こういうお手伝いをしてくれたらうれしい、という形で伝えていきましょう

もし、余裕があれば、「うらやましいって思うよね」とか、「自分もして欲しいよね」と寄り添ってあげる言葉を添えてあげられると良いですね。

皆さんにとって、どんな「きょうだい」が理想でしょうか?「きょうだい」において「良い」関係性とは、どんな関係性でしょうか。

私が「良い」とカッコをつけて表現したのは、「良い」が意味するものは人それぞれ、あるいは各家庭で、その価値観は異なるからです。

同じ親から生まれてきたと言えども性格が全くことなることも多いですし、今の時代はステップファミリーも増えていますので、各家庭における「良い」関係性というのは、それぞれ異なるでしょう。

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もちろん、家族全員の安全性が確保されて、みんなが安心して生活できるということは絶対に必要なことです。

その上で、きょうだい間で同じ趣味を共有したり一緒に遊ぶのも「良い」関係性ですし、それぞれ好きなものが異なってそれぞれの好みを尊重して一定の距離を保っているのも「良い」関係性だと思います。

好きなものが異なったりして、いわゆる性格の不一致があるのであれば、お互いに適度な距離をとれば良いのですが、ついつい「きょうだいは仲良くしなければいけない」「きょうだいは助け合わないといけない」などの価値観に縛られてしまうと、みんながしんどい思いをしなければいけません。

きょうだいの子育てに悩まれている方は、一度、ご自身の「きょうだい」観を振り返ってみることをお勧めします。

いつの間にか「きょうだいは、兄・姉・弟・妹は、こうあるべき」に縛られているかもしれません。

この記事を読んでいただいて、そういうことにも少し気付いてもらえたら幸いです。