教育先進国と言われている国では、「競争させない教育の勝利」と言われるほど子どもたちの多様性を尊重する“インクルーシブ教育“への取り組みが進んでいます。
インクルーシブ教育は、全ての子どもが共に学び、成長できる環境を提供する教育のアプローチです。
多様性を受け入れ、個々のニーズに応じた教育を提供することで、全ての子どもの個別の教育的ニーズへの対応を目指します。
本記事では、正解がなさそうな教育システムのあり方について、インクルーシブ教育の観点から世界での取り組み状況と日本での動きをご紹介し、考えていきます。
インクルーシブ教育とは
インクルーシブ教育はもともと「特別な支援の必要な子どもと、そうでない子どもが平等に学びの機会を得られる教育システム」、「心身の特性の有無にかかわらず、子どもたちの多様性を尊重する教育方法」などと定義されています。
キーワードは、「平等」、「特性の有無にかかわらず」、「多様性」です。
障害者の権利に関する条約第24条の以下を参照してください。
障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。
共生社会の形成に向けた インクルーシブ教育システム構築のための 特別支援教育の推進 (報告)平成24年7月23日 中央教育審議会初等中等教育分科会P5より
日本でも、「多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学び」(令和4年9月 26 日 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する 学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 まとめより)が重視されてきている一方で、
発達障害とかグレーゾーンとかいうことばも認知されるようになり障害というイメージがピックアップされて、通常学級と特別支援学級のように分離して体制整備され、グレーゾーンやギフテッドの子どもたちの個別の教育的ニーズには対応しきれていないのが現状です。
イギリスの教育の歩み
世界の状況はどうでしょうか。
障がいの有無の概念を取り払って教育システムを構築している代表国であり、インクルーシブ教育先進国であるイギリスの例を見てみましょう。
イギリスが国家政策としてインクルーシブ教育に乗り出したのは、労働党ブレア政権下でした。
1993年教育法ならびに1994年の実施規則によって,特別な教育的ニーズに関する学校全体のコーディネートを行うことがすべての学校に義務づけられました。
「コーディネート」:行政や学校が子どもにとって必要な教育的ニーズがどのようなものかを家族と話し合い、子どもの発達特性や家庭の状況などを踏まえてまずは通常学級での配慮が行われます。それでも特別な教育的なサポートが必要と判断された場合、医師や外部の教育心理学者などの専門家などが介入するという仕組みです。
こちらの記事でイギリスの教育システムについて詳しく解説しています。
障がいの有無だけではなく学習への多様な教育的ニーズに着目し、どのようにサポートを行なっていくかを子どもを取り巻く全員が一丸となって考え取り組めている点が、日本との大きな違いだと言えます。
子どもを育てていくことを家庭だけの問題として分離せず、必要があれば第三者が家庭に介入する教育のエコシステムです。
イギリスも、ここまでの道のりは順風満帆ではなかったでしょう。
というのも、イギリスでは長らくギフテッドの子どもたちに特別なプログラムや教員向けの研修が提供され、エリート養成としてセレクティブな教育が積極的に進められてきました。
また、通常学級と障がい児などの特別学級も分離する考え方が当時はイギリスでも一般的でした。
それが最近になり、ギフテッドの子ども向けプログラムを廃止するなどより広範囲の子どもたちの権利保障という観点から教育を捉え直しているのです。
日本の状況
日本は他者への寛容さが低く、多様性を認めづらい社会と言われ、教育機会の選択肢の無さや多様性の許容度が問題視されています。
例えば、2023年度の世界幸福度ランキングでは日本の幸福度は137国中47位でした。
ただし、このランキング自体は、欧米諸国にとって都合のいい要素の組み合わせであるなどの声もあり、幸福度の実態を表したものであるかどうかは議論の余地があります。
ここで注目したいことは、ランキング自体ではなく、幸福度を測る指標の中に「他者への寛容さ」が含まれていて、日本はこの値が極めて低いということです。
日本の社会が多様性を認めづらいことを象徴している気がします。
世界幸福度ランキング教育環境ということにフォーカスすると、教育先進国と比べて教育機会の選択肢の無さや個別の教育的ニーズへの対応不足が背景にあるのではないでしょうか。
文部科学省で設置された「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 (第4回 )」の「有識者会議アンケート」では、全体のなんと48%の子供たちが学校教育において何かしらの「困難」を抱えているという結果も出ています。
▼参照したリンク
特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議:文部科学省 www.mext.go.jp
おわりに
「障がい」などのラベリングではなく、マイノリティの存在を認識し、多様性を受け入れていくことが、子どもたちの才能や発達特性に起因する学びの困難を減らしてくれるエッセンスになると思っています。
学力偏重、知識重視とも言われてきたこの日本でも、前述の通り文部科学省が動き出してもいて、公教育が見直され始めました。
学びの場の在り方が再考される大きなきっかけになる出来事ではないでしょうか。
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