不登校、保健室登校や小学校への行き渋りのきっかけは人間関係だけではありません。
特に、小学校1〜4年生くらいの子は、授業についていけないことに苦痛を感じ、学校が嫌になる傾向もあります。
また、その中には発達障害の傾向を持つお子さんも多くいることでしょう。
そこで今回は、心理検査「WISC-Ⅳ」の4つの側面をもとに、発達障害児の学習支援の方法を解説します。
ご家庭でできることだけでなく、学校でもできることもご紹介しますので、先生方もぜひ参考にしてみてください。
こちら。
発達障害/発達凸凹とグレーゾーンに関する記事一覧はこの記事を書いた専門家
いけや さき
公認心理師、臨床心理士
精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。
子どもが授業についていけないのはどうして?
小学校に通う子どもが授業についていけないと感じる原因は、以下の5つが考えられます。
1.勉強に興味がわかない
2.勉強の楽しさがわからない
3.集中力が続かない
4.授業内容が理解できない
5.勉強方法がわからない
すべてに当てはまる発達障害の子どももいれば、部分的に当てはまる子もいるので、「自分の子どもはどうかな?」と考えながら読み進めてみてください。
勉強に興味がわかない
幼稚園や保育園はどんなことをする場所でしたか?
場所によっては勉強のカリキュラムもありますが、多くの場合は、お絵描きや折り紙、運動、音楽、積木やブロック遊びなどが中心。
発達段階に合っているものであり、さらに必要なスキルを手に入れるために大事なことなので何も間違っていません。
だからこそ、前提として子どもが小学校に入って40~45分間の授業を受けることは初めての体験。
興味がわく子もいれば、苦手意識や不安を感じたり、興味がわかない子がいるのも当然なのです。
特に、発達障害の子は、初めてのことに対して苦手意識を持ちやすかったり興味・関心の幅が狭いことがあり、結果的に「勉強に興味が湧かない」という状態になっていることもあります。
勉強の楽しさがわからない
大人にも得意・不得意があるように、当然子どもにも得意・不得意があります。
勉強のなかで得意・不得意がある子もいれば、運動が得意で勉強が苦手な子、芸術系が得意で勉強が苦手な子もいますよね。
一方で、勉強の面白さや楽しさにまだたどりついていない可能性もあります。
勉強することが当然と思わず、本人の興味関心を引き出し、楽しさを見つけてあげることも大切です。
発達障害の子どもは、そうではない子ども以上に、得意不得意の差が大きいこともあります。
「これができているのに何で?」と思わず、子どもの得意不得意を丁寧に見つけ、認めてあげましょう。
集中力が続かない
集中するためには物事に対する集中力だけでなく、座り続けるための姿勢保持の力も必要です。
一般的に小学校4年くらいまでの子どもの集中力は「約15分」「年齢×2~3分」といわれているので、40~45分授業に参加できているだけでも奇跡と思ってあげる方がいいでしょう。
このあと紹介するWISC-Ⅳは60~90分ほどかかる知能検査ですが、ずっと同じことをするのではなく、数分ごとにやることが変わります。
しかしそれでも、発達障害の子どもは30分経過するとソワソワしたり、一気に集中できなくなることもあるのです。
その背景には、単なる集中力以外に、座り続けるための前庭覚と固有受容覚という感覚が発達しきっていない場合が原因であることもあります。
授業内容が理解できない
集中力はあっても、理解力が追いつかない場合もあります。
はじめて聞く言葉の情報処理がゆっくりな子もいるでしょう。
また、基礎知識や経験が不足しているときにも内容が少し難しく感じるかもしれません。
そうすることで、聞くことはできても頭に入ってこない、理解しきれないことが起きます。
ほかにも授業内容を理解するには、さまざまなスキルが必要です。
WISC-Ⅳの検査項目を例に、小学校の授業のどのような場面でどんなスキルが必要か以下にまとめました。
言語理解
:理解力や推理・推論する力、思考力など
例)先生の説明を聞いて、得た情報から処理し、応用させる
知覚推理
:目で見た情報を把握する力や情報に合わせて体を使う力など
例)黒板や教科書、プリントに書いてある情報を読み取り、書いたり理解する
ワーキングメモリー
:聞いた情報を一時的に記憶して、処理・表現する力など
例)反復練習で覚えたり、読み書き計算をしたり、集中力を持続させる
ワーキングメモリーに関する記事は処理速度
目で見た情報を理解して処理する力の速さなど
例)黒板の文字や図の書き写したり、時間内にプリントを終わらせる
勉強方法がわからない
「授業内容が理解できない」で解説したWISC-Ⅳの能力差によって、子ども本人に合う勉強方法や集中できる環境も異なるでしょう。
特に小学生は学習する経験が浅く、どう工夫すれば理解できるかわからない場合があります。
「わからないことがわからない」という子もきっと多いですよね。
そのときに相談できる相手が子どもたちには必要となります。
一方で集中できる環境については、WISC-Ⅳだと行動観察でしかわからない範囲です。
授業中やご家庭での様子を観察して、さまざまな方法を試しながら合うものを探す必要があります。
家庭編:授業についていけない子どもにできること
授業についていけない理由を見つけてあげることは、親だからこそできます。
子どもの話を聞き、想定できること(上記の5つの原因)に当てはまるか考えてみて、必要に応じて医療機関や療育機関にも頼りましょう。
ただし、学習状況は学校にしかわからないこともあります。
担任の先生やスクールカウンセラーなど、学校と連携をとることも忘れずに。
そのうえで、ご家庭で子どもと一緒に勉強する時間を作ったり、楽しみながら勉強する工夫をしていくといいですね。
このとき意識してほしいことは「苦手を克服させる」よりも先に「得意を見つけてあげる」を大事にしてみてください。これは苦手を放っておくのではありません。
得意がわかれば自信がつき、学習意欲があがったり、得意分野のスキルを活かして苦手なことに挑戦する力がつくからです。
プリント問題ができるようになる前に、図鑑や本、動画、絵カードなどで関心を持たせ、「もっと知りたい」「できるようになりたい」と工夫する方がいい子もいます。
また、水族館や動物園に行った経験から理科が好きになった子もいます。
経験できることをいっぱいさせてあげて、興味関心の幅を広げてあげましょう。
学校編:授業についていけない子どもにできること
学校でできる工夫の1つは環境づくりです。
たとえば、座席の位置を見やすい前側にしたり、集中しやすい一番後ろや壁側にする方法もあります。
子どもによって異なるので、勝手に決めずに話し合いましょう。
ほかにも、以下のような工夫はどうでしょうか。
・説明を簡潔に短くする
・大事なことを伝える際に「これから大事なことを3つ言うよ」と予告する
・重要なことは口で言うだけじゃなく文字にして書く
・必ずメモしてほしいことは授業が終わるまで消さずに残す
・前回の授業の復習時間を作る
特に「説明を簡潔に短く」や「大事なことを言うねと予告する」は親も実践しやすい方法です。
しかし、このように書いていますが、小学校の先生は全教科教える必要があるため、工夫できるように準備したり勉強する時間はなかなか少ないかもしれません。
学校で授業の工夫や個別支援が難しい場合は、家族や医療機関、学校で相談し合って通級指導教室などに行く方法もあるでしょう。
療育も小学生以上なら宿題を一緒にやってくれるところや、勉強方法を教えてくれるところもあります。
また、近年は発達障害の子ども向けの塾や家庭教師も増えています。
親だけでなく、先生も発達障害に関する知識を身につけられる機会が増えると、今後の授業にも役立つかもしれませんね。
まとめ
授業についていけない、勉強が楽しくない状態が続くと子ども自身が「自分はできない子なんだ」と思ってしまい、学習意欲を下げることにつながります。
授業のことに限らず、新たなことに挑戦する意欲も減りかねません。
そうならないように、学校や家庭にとどまらず、活用できる手段は積極的に活用していきましょう。
Gifted Gazeも子どもの今と未来のための相談先の1つとして、お気軽に頼ってくださいね。
参考文献
松田昭憲.落ち着きのない児童の、WISC-Ⅳ知能検査による分析~学校で有効な具体的支援の検討~
平子雅張ら.発達障害児に対する通級指導教室の役割とその重要性についての検討
こちら。
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