みなさんにとって、お子さんが学校に行くことはあたり前なことですか?
それとも、行く必要がないもの?
行かなくてもよいもの?
行かないという選択肢もあってもよいもの?
最近は、時代的な背景として、さまざまな考え方を持つ親御さんが増えてきています。
一方で、まだまだ学校は「行くべきもの」「行くことがあたり前」と考えている親御さんが大勢いらっしゃるのも事実です。
もちろん、あたり前のように学校に行く生活ができるに越したことはないと思いますし、学校に行くことがあたり前と考えている親御さんの価値観を否定するつもりもありません。
ただ、今、この記事をお読みいただいているということは、お子さんが何らかの理由に学校への行きにくさを感じていたり、すでに休んでいる状態だったりするのではないでしょうか。
本記事では、そんな親御さんの考え方の幅を広げ、心を軽くするような1つのヒントになればよいなと思ってお伝えさせていただきます。
この記事を書いた専門家
日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
あなたにとっての「学校」とは?
そもそも、学校とはどんな場だと考えているでしょうか。
勉強をする場所、協調性や社会性など他者と共存していくためのスキルを身につける場所、社会に出るために必要なスキルを教わる場所…。
「学校にはこれだけを求めている」と限定して考えている方はあまりいないとは思いますが、どこに重きを置いているか、何を優先度高く考えているかは親御さんによって異なると思います。
そして、それはお子さんにも言えることです。お子さんは、優先度とか、何をすることが重要だ、などと難しくは考えていないとは思いますが、好き嫌い、得手不得手はお子さんによって変わってきます。
親御さんは、勉強ということを優先度高く考えていても、お子さんにとっては友達と遊ぶことが何よりも楽しいと感じていたり、どうしても勉強の理解が追い付かず苦手意識が強くなっていたりということもあるでしょう。また、親御さんは友達といっぱい遊んでほしい、友達と遊んで社会性を身につけていってほしいと考えていても、お子さんは大勢の友達と遊ぶことよりも、一人で過ごすことが好きだったり、遊んでも少人数の関わりを好んだりするタイプだったりするでしょう。
このような親子の感覚のミスマッチというのは、さまざまな場面で実は生じているのです。親子であったとしても、別々の一人の人間なので、感じ方・考え方は異なるということです。もちろん感じ方・考え方が似ている親子もいますが、その場合は親御さん自身がお子さんの状態を理解でき、対応なども比較的親御さん自身で考えやすいと思います。
一方で、親子の感じ方・考え方が異なるタイプでは、親御さん自身の小さい頃の様子や感覚と違って、「何で?」とお子さんに対するいら立ちを覚えることが多いことでしょう。
また、夫婦の一方は子どもの感じ方・考え方と似ているけど、もう一方は異なる場合には、夫婦間の考え方のズレに繋がることもあります。
まず大前提として、子どもであっても、一人の人間であり、自分が感じていること、考えていることとは違う感性を持っているのだということを意識していただくことが大切となります。
お子さんが学校に行きにくい/行けない背景
お子さんが学校に行きたくないなどと言った場合、いじめられているのかといったことをまず確認する親御さんは多いかもしれません。それ以外にも、知的な発達面の遅れがあり、勉強についていけず学校がしんどい環境になっている。
反対に、ギフテッド・チルドレンなどの場合は、学校の勉強が簡単すぎて、スピードも遅く、つまらないと感じ、その状態でずっと着席して分かっている内容を聞かせられ続けるのがしんどいといった理由。
聴覚過敏があり、周りの人たちの声やちょっとしたザワザワした音が常に聞こえている環境が辛いという理由。
お子さんが興味のあることが、多くのクラスメイトが興味を持っているものと異なりすぎていて、話の合う子がいないというような理由。
いじめまでいかなくても、友達との間でトラブルが起きて、学校で友達と顔を合わせたくない、友達と遊びたいのに友達関係が上手く築けず、友達がいないのがしんどい、などといった理由。
ここに挙げたのは一部の例ですが、お子さんによって学校に行きにくい、行けない理由はさまざまです。
お子さん自身が理由を自覚していない場合やうまく言葉に出来ない場合も、もちろんあります。
また、行きたいとは思っていても、朝起きられないといった自律神経の不調によって生じている場合もあります。
お子さんが学校に行きたくないと言った場合、理由を確認する人は多いと思いますが、追及にならないように注意は必要です。
先ほどの通り、お子さん自身が自覚していなかったりうまく表現できない場合もあるので、追及しすぎると、「学校に行けないのはいけないこと」とお子さんが捉えて、学校に行くことがプレッシャーになり、再び学校に行くことへのハードルが上がることになりかねません。
子どもの環境は大人の環境よりも難易度の高いもの
冒頭で、学校に行くことはあたり前かどうかと話をしましたが、当たり前に学校に行けていることは正直、奇跡と考えてもよいのではないかと思います。
学校という場、特に公立の小学校・中学校は、大人になって経験するコミュニティよりも、難易度の高い環境ではないかと感じています。
大人になれば、仕事、住む場所、趣味活動、付き合う人など自分で選ぶことができます。完全にすべての面においてストレスフリーな環境に身を置くことは無理であっても、選択肢は子どもの時よりも広がっているはずです。自分の好きな仕事に付けていなかったり入りたい会社に入れなかったりしていたとしても、給与面であったり、待遇面であったり、通いやすさであったりなど、自分の生活の中の優先順位を決めて選んでいるはずです。そこの採用面接を受け、内定通知を受け取って入社を決めたのは、本人自身なはずです。また、大学や高校などの進学先では、受験を経て入学してきているため、学力レベルや専門として学びたい内容への興味など何らかの類似性は有する環境となります。
一方で、先ほど「特に」とお伝えした公立の小学校・中学校は、その地域に住んでいて同じ学年に生まれたというだけで区切られたコミュニティです。たまたまそこに住んでいた同じ学年というだけの共通点で、気に合う友達を見つけることができる方が奇跡ではないでしょうか。
共通点がない人と関係が築けないということではありませんが、大人のように自分で選んだ環境とは全く異なる条件の環境に子どもは身を置いているわけです。大人が好きな環境に身を置けているというわけでないですが、選択肢という点で大人になれば何らかの条件で選んでいる環境であることに対して、子どもはそうではないために子どもの身の置いている環境は難易度の高いものだと考えます。
また、選択肢という点においては、その環境が合わなかったときにも言えます。大人だから好きに環境を変えられるということではもちろんありませんが、選択肢という点では職場や住む場所など転職や引っ越しといった選択肢を持つことができます。
一方で、子どもの場合、引越を理由とした転校以外は、かなり難易度が高いものです。転校ではないにして、学校以外の居場所などを考えた場合に適応指導教室やフリースクールなどの選択肢もかなり限られてきます。都心であれば狭いなりにも全国的に考えればまだ選択肢はある方でしょう。地方になるとさらに選択肢はなく、学校に行かなければほかに通える場所はなく家にいるしかないという地域もあるでしょう。
まとめ
このように、子ども期の選択肢はかなり少なく、大人になって身を置くコミュニティ以上に子ども期のコミュニティの難易度は高いもの。それを前提として考えて、「こうでなければならない」という親御さんの思考の枠組みを外していけるとよいですね。
大人になった方が子ども自身で選んでいけるから、そこまでにどんな体験をさせてあげられるとよいかなと、幅広い視野で考えてあげましょう。
定期的には難しくても、1~2か月に1回はこれをする機会を作ろうなど頻度もご家庭の状況に合わせながら考えられるとよいでしょう。
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