過剰適応

学校生活には適応している。でも家では対応に苦慮することばかり。

学校の先生や相談機関などの支援者に相談するも、「学校ではいい子ですよ」などと言われ、理解してもらえない。

自分の関わり方が悪いのかなど自分を責めている方もいるかもしれません。

人は、多少なりとも、外の顔と内の顔があります。

それは子どもでも然りで、その差が激しすぎるお子さんも中にはいるのです。

ただ、それはお子さん自身が意識的にしているわけではなく、そのコントロールスキルに課題を抱えている状態です。

その実態の理解や、親御さんのフォローまで至っていないケースもあります。

親御さんにとって、こんな場合もあるんだ、自分の家庭だけではないんだと、ささやかですが心の支えになる指針をお伝えできればと思います。

この記事を書いた専門家

日塔 千裕


公認心理師、臨床心理士

発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。

学校生活や、家族以外の人の前では、「いい子」に振る舞う。でも、家の中、親の前では、対応に苦慮する言動が多い…。

学校の先生や相談機関などで相談しても理解してもらえず、親御さんが抱える苦労・悩みを受け止めてもらえない。

そんな親御さんにこれまで何度か出会ってきました。

学校の先生は学校生活を中心に見ているため、家庭での状況まで考えていくというのは役割として難しいところもあるかもしれません。

ただ、スクールカウンセラーや相談機関における支援者は、包括的な視点でお子さんのことを考えていく必要があるのですが、特定の場面の様子のみで「問題ありませんよ」「大丈夫ですよ」などと伝えてしまう場合も少なくないのが現状です。

ここで、学校ではいい子なのに、家での対応に苦労するタイプの子として、どんな子がいるのかご紹介していきたいと思います。

一概には言えないところではありますが、以下AとBがその一例です。

一つ目は、家庭内での行動が激しいタイプです。

学校では学年相応と言える範囲の多少の友達とのトラブルや問題はありつつも、それなりに学校生活には適応している。

言い方を変えれば、先生が個別に大きく手を煩わされることのない程度の言動で過ごすことができているタイプのお子さんです。

一方で、家の中では、泣き叫ぶ、喚き散らすなどの癇癪が激しかったり、親への極度に強い反抗的態度や暴言、場合によっては物を投げたり物にあたったりする場合があります。

4~5歳ころまでの幼児であれば癇癪(かんしゃく)を起すこともありますが、年齢が上がる中で徐々に頻度が少なくなったり程度が落ち着いてくることが一般的でしょう。

しかし、年齢が上がっても癇癪(かんしゃく)の頻度の低下や程度の軽減があまり感じられなかったり、外ではほとんどそのような行動がないのに、親の前だけ激しい癇癪(かんしゃく)を起こすというケースです。

また、思春期や反抗期として考えるには早すぎる小学校低学年ころのタイミングから強い反抗的態度や暴言が現れているお子さんの場合です。

過剰適応

2つ目は、家庭内での行動がおとなしいタイプ

家では寝ていることが多かったり、ボーっとしている時間が多く、何をするにも指示をして、その指示も何度も繰り返さないといけなかったり…。

無気力と言えるような状態のタイプの子です。

そこまで極端に無気力ではないにしても、学校へ行き渋ったり、学校に行かせることに苦労する、親と離れられず一緒に学校に行かなければいけないようなタイプの子もいます。

このようなタイプの子は、学校からは「来てしまえば出来ているので、連れてきてください」などと言われていることもあるでしょう。

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お子さんが現わす言動は異なりますが、背景・要因として共通項の1つに考えられるのは、外で頑張りすぎてしまっていることです。

人は誰もが内と外の姿を持っています。

ご自身のことで考えてみるとわかりやすいです。

ご家族に見せる姿と会社で見せる姿、昔からの友達など気心知れた人に見せる姿など、無意識的に見せる姿を変えていることと思います。

それは大人だとごく自然なことですし、どの姿でも無理をしすぎない範囲、どこかで無理をしたらその他の場面で切り替えられるような調整を行うなど、上手くバランスを取っているはずです。

このバランス調節機能が、このようなタイプのお子さんはうまく機能していない状態と言えるでしょう。

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それが故に、学校で頑張りすぎて無理をして疲れてしまい、家の中や親の前ではその疲れを発散するような言動あるいは無気力のような状態になってしまうのです。

子どもは発達途上なので、どのお子さんにおいても、バランス調節機能の未熟さがあります。

ただ、学校では出来るけど家では全く出来ないなどの場面が限定的であったり、場面により極端な言動の差がある場合には、やはりそのバランス調節機能に課題を抱えていると考えた方がよいでしょう。

このような言動は、お子さん自身の持つ特性の現れであり、親御さんの育て方や関わり方によるものではありません。

「学校ではいい子」とは、言い方を変えれば、学校で過剰適応しているとも言える状態です。

このようなタイプのお子さんの相談を受ける際によく使われる表現なので本記事でも「いい子」と記載していますが、「いい子」という言葉は大人にとって都合のよい言葉です。

大人の言うことを聞く、大人の思い通りに行動できる、大人の手を煩わせることが少ないといった子どもの場合に用いられる言葉ですね。

果たして、そのような子どもが本当の意味で「いい子」となるのでしょうか。

それは、大人の意を汲みすぎている、年齢に合わず空気を読みすぎている、周りに合わせすぎているという状況と言えます。

大人にとっては扱いやすい子どもかもしれませんが、お子さん自身の将来を考えるとどこかのタイミングで躓きや支障が出てくるリスクも高くなります

親御さん自身への影響がなくても、お子さん自身が苦しむことになることが十分にあり得るのです。

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親御さんにとっては、今とても苦労していると思いますが、親御さんの前では、発散する言動を表出することができているという状況と言えます。

そして、長い目で見て、過剰適応による将来のリスクを減らすための課題克服に向けた対応を今から行うことができる、という希望とも捉えられるのです。

と言っても、そんなに前向きに考えられない!という方もいるでしょう。

なかなか周りの方に理解されずにお一人、あるいはご夫婦のみで抱えてきている方も多いことと思います。

親御さんが抱えている悩みや今までの葛藤など親御さん自身の気持ちの吐き出しとともに、家庭の中でどうお子さんに接していくとよいかなど親御さんの伴走者として一緒に考えることは可能ですので、専門家に相談することをおすすめします。

学校で過剰適応してしまうお子さんの特性としては、

などがあります。

どのような背景があるかはお子さんによって異なる部分もありますが、このようなタイプのお子さんに比較的共通して必要なものを1つ挙げさせていただきます。

それは、まずは自分の気持ちや考えを言葉にする力を引き出すということです。

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癇癪(かんしゃく)や反抗的な態度が生じている最中は難しい場合も多いですが、必ずどこかで落ち着いているタイミングがあるはずです。

甘えてくるようなタイミングもいいでしょう。

そのようなときに、お子さんの感情や気持ちに触れるような話題をしてみてください。

話題はどんなことでも大丈夫です。

いろんな話題を通して気持ちを言語化するトレーニングをしましょう。

感情や気持ちというのも、ポジティブなものとネガティブなものの両方の要素が盛り込まれていることが望ましいです。

楽しかった・面白かった・嬉しかったこと、嫌だった・つまらなかった・疲れたことなど、両方の感情や気持ちです。

例えば、まずは1週間という期間を決めてやってみましょう。

お子さんから表現された内容は「そう感じたんだね」とただ受け止めてあげることが重要です。

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ここで、やってはいけないことを2点お伝えしておきます。

親御さんの考えで「こうじゃないの?」「こうでしょ?」などと伝えること

癇癪(かんしゃく)や反抗的な態度を反省をさせること

お子さんが、親御さんにも合わせなければならなかったり、責められていると感じてしまうと、親御さんに素直な気持ちを吐き出しにくくなってしまうからです。

他にも、一日の終わりにその日を振り返る一言日記を書くことをルーティーンとするのも方法の一つです。

その際には、先ほどご紹介したような「ポジティブな気持ち」と「ネガティブな気持ち」の両方の感情語を選択肢として書いて選べるようにしていくとよいでしょう。

簡単に身につけられるスキルではないので、長期的に継続していくということが大切です。

手を繋ぐ

今回は、ご家庭でできる方法を中心にお伝えしましたが、専門家に助言を仰ぐのも方法の一つです。

Gifted Gazeの専門家相談も選択肢の一つとしてご活用ください。