非認知能力が高い子どもの家庭の特徴とは?育み方を専門家が解説

「子育てに正解はない。」

そんな言葉をよく耳にしますよね。実際に、子どもの個性や家庭の環境はそれぞれ異なり、誰かの「正解」が自分にも当てはまるとは限りません。

それでも、多くの家庭を見てきた中で共通して感じることがあります。

それは、「親子のあいだに活発なやりとりがある家庭ほど、子どもの成長が豊かで安定している」ということです。

親が一方的に教えるのではなく、子どもと一緒に考え、対話し、選び取っていく。

そのような相互の関わりの中で育まれるのが、近年注目されている「非認知能力」です。

この記事では、非認知能力とは何か、なぜそれが重要なのか、そして親子の関わりの中でどのように育まれるのかをご紹介していきます。

杉野

執筆:杉野 亮介


公認心理師・臨床心理士

教育支援センター、スクールカウンセラーとして不登校支援などに携わり、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。発達障害児の心理的支援などを行う。

「非認知能力を高めよう!」「認知能力よりも非認知能力だ!」

昨今、この非認知能力という言葉が広がりを見せていますが、初めてこの言葉を聞く人もいるでしょう。

文部科学省の定義では、

認知能力とは知的な力で、知識・技能、思考力等を含む。非認知能力は、意欲・意志、自覚し見渡す力、人と協力する力等を含む

認知と非認知は相互に関連し、支え合って育っていく

ものとされています。

分かりやすく言いかえると、非認知能力とは、意欲、自制心、計画性、忍耐力、協調性コミュニケーション能力等と言えるでしょう。

子育てがうまくいっているな、と感じる家庭に共通すること:「子どもの非認知能力を育てられているかどうか」。

以下では、どんな関わり方や家庭環境が子どもの非認知能力を育むのか具体的にみていきます。


結論から言うと、子育ての方向性について、親子で話し合うことができる家庭は、子どもの非認知能力が高い場合が多いです。

進路はどうするかという大きな分岐点ではもちろんですが、今日のおやつは何を食べたいか、誕生日プレゼントは何が良いか、どんな習い事をするか、等の日常的な選択の場面においても、親子がきちんと話し合えるような家庭が、「子育てがうまくいっている」ことが多いと感じています。

子育てとは、大人が一方的に子どもを動かしたり、逆に子どもの好き勝手な言い分を大人が全て聞いてあげるというものでもありません。大人と子どもとの相互交流ですよね。

長期的に見て、子どもの成長発達につながるやり方であればうまくいっていると捉えていいのです。

前述しましたが、各家庭、各親子が置かれている環境は異なっています。その中で、自分達にとって、どういう方向性で行くのか大人と子どもとで話し合っていく中で、自然とその家庭の「正しい」子育ての在り方が見えてくるのです。


では、親子の相互交流が活発な家庭では、なぜ子どもの非認知能力を伸ばすことができるのか?

以下で解説していきます。

自覚する力・意欲を高めることができる

親子の相互交流を通して、親は子どもに、「あなたはどうしたいのか」を問うことになります。

子どもは、自分がどうしたいか、何をしたいかと自問自答することになります。

これは一見楽なようにも見えますが、いざやってみると、なかなか大変な作業です。

あれもしたい、これもしたいという中から、子どもなりに何をしたいのかを考えて、自分はどんなことが好きなのかというところから始まり、どんなことは苦手か、自分はどんな人なのかというところまで考えていくことになります。

これが自覚する力を高めてくれます。

そして、自分が何をしたいのかを明確にするという作業を通して、意欲的に取り組むこともできます。

自分が何をしたいのかが明確になり、それを親に伝えることで親もそれをかなえてくれるという思いを持つことができるようになると、意欲を持って活動できる子どもになっていきます。

計画性を持てるようになる

親としては子どもにどう育ってほしいのか、子どもは自分が何をしたいのか、についてやりとりをすること、親子で目標を共有することができるようになります。

そうすることで、子ども中長期的な見通しをもって行動することを学ぶこともできます。

見通しを持って行動できるようになるということは、非常に大切なことです。

見通しを持たずに、場あたり的に行動することは子どもにとってはらしさかもしれません。

しかし、5分間頑張れば宿題を終わらすことができる、今勉強を少し頑張ればテストで良い点が取れるかもしれない、など見通しを持つことで、将来生きていくために必要な力も育まれるのです。

コミュニケーション能力が高まる

子ども達の多くは、親子でのコミュニケーションの在り方を土台にして、他者とコミュニケーションをとるようになります。

親子相互で自分の思いを伝えあう経験をして育ってきた子どもは、コミュニケーションのスキルだけではなく、自分の思いを明確に伝えることはもちろん、他者の言い分を受け入れたり、他者の気持ちを考えることができるようにもなります。

このような体験を通して、他者は自分とは異なる思いや考えを持っているということを、自然に受け入れることができていきます。

感情のコントロールができるようになる:セルフコントロール

親子で思いや考えが異なることがあるのは自然なことです。

親子の相互交流の中では、自分の言い分が通らなかったり、自分の思いとは異なる考えを聞いたりするような経験をします。

その中で、落ち着いて話をしないと相手には伝わらないことや、感情的に言葉を発してもコミュニケーションにはならないこと等を体験しながら、子どもは感情のコントロールを学んでいきます。

感情をコントロールするとは、ただ我慢するということではありません。

時には自分の感情を表すことも必要になりますが、「それは怒り過ぎ」とか「そうやって言ってくれたらよく分かるね」等の経験を通して、適切な表現方法ということも学ぶことができます。

粘り強さ、やりぬく力を身につける:レジリエンス

子どもが自分で「これをしたい」と言い、そのことについて親子で「すぐにやめるって言わないの?」「お金もかかるんだから、最低半年はやって欲しいんだけど、どう?」等の十分なやりとりができれば、子どもも子どもなりの覚悟でやりたいことに挑戦することができます。

親から一方的にやらされていることであれば、すぐにやめたいと言えますが、じっくりと話し合った上でのことであれば、子どもなりに親の思いも感じて、すぐにはやめるとは言いません。

この中で、粘り強さや、やりぬく力を身に付けていくことができます。

非認知能力について述べてきましたが、認知能力、非認知能力を問わず、子どもの育ちの土台には、大人への安心感があるということを忘れてはいけません。

親子で意見を言い合うことを通して、自分の言いたいことを言っても良い、自分は意見を聞いてもらう価値がある人間だという思いが、更なる安心感や自信につながっていきます。

安心できる、信頼できる親とのやりとりをするからこそ、子ども達は多くのことを学ぶことができるとも言えます。

参考文献

文部科学省(2021)中央教育審議会初等中等教育分科会幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会―第2回会議までの主な意見等の整理