子どもと一緒に遊んだり子どもの遊びを見ていて、「こんな一面があるんだ!」「こんなこともできるようになったんだ!」など、子どもの力や強み、成長を感じたことはありませんか?
勉強と遊びとは対極の存在ではなく、子どもは楽しく遊ぶことを通しても非認知能力や認知能力を伸ばしていきます。
この記事は、非認知能力と遊びとの関連に注目して、注意点やポイントも含めて解説します。

執筆:山崎 日菜乃
公認心理師・臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
非認知能力とは
非認知能力とは、知能検査や学力テストで測ることのできない心理特性をまとめて示すものです。
「心の力」、「社会を生き抜く力」とも言えるかもしれません。
例えば、
- 自分を認める力(自己肯定感)
- 心のしなやかさ(レジリエンス)
- 人と関わる力(共感力やコミュニケーション力)
など、非認知能力には非常に多くの要素が含まれています。
多岐にわたる非認知能力は大きく以下のように3つのグループに分けることができます。
- 自己を形成維持する力自分の感情や価値観、強みなどを認識したり、それらに基づく自信や心の安定を保つ力
- 様々な課題を適切に処理する力目標に向かうモチベーションを持ち、粘り強く課題に取り組む力
- 良好な対人関係を構築維持する力自分の気持ちを適切に表現したり他者の気持ちに共感したりしてお互いを尊重する力
非認知能力は、認知能力(知能や学力のような測定可能な能力)を発揮するための土台になるだけでなく、心身の健康や経済的安定性なども含めて、その人がいかに豊かに幸せに生きていけるかの一つの鍵を握っていると考えられています。
子どもの非認知能力について考える際の注意点
このように注目されている非認知能力ですが、非認知能力はどんどん高めればよいという単純なものではないということも重要なポイントです。
例えば、自尊感情が高すぎると自己中心的になったり、勤勉性が高すぎると完全主義的になったりして、かえって生きづらさに繋がってしまう可能性もあります。
また、非認知能力には非常に多くの要素が含まれているとお伝えしたように、非認知能力として捉えられている要素の中には、パーソナリティ(性格)とも言える要素も含まれています。
どのように自分と付き合うか、どのように課題に対処するか、どのように人と接するかといったことは、その人らしさとも言えますよね。
それらを非認知能力という視点ばかりで捉えると、パーソナリティ(性格)にも「こうあるべき」という正解があるように錯覚してしまうかもしれません。
しかしながら、パーソナリティ(性格)はその人の個性であり、正解不正解はなく、生産的であることが全てでは決してありません。
また、その人の置かれた状況や文脈によって、どのようなパーソナリティ(性格)がどう輝くかも変わってきますよね。
これらのことから、子どもの非認知能力について考える時には、「こうあるべき」にとらわれて子どもを評価したり無理に変えようとしたりしないように注意が必要です。
子どものありのままの姿やその子らしさをより意識して、子どもが持っている力や魅力を大事にしていただけたらいいなと思います。
非認知能力と遊び
子どもは身の回りの様々なものに興味を示し、面白いものを見つけると夢中で遊びますよね。
例えば、道端で木の棒を見つけたことから遊びが始まることもあるでしょう。
木の棒が戦いごっこに発展することもあれば、水たまりや虫をつついてみたり、地面にお絵描きが始まることもあるかもしれません。
このように、遊びのなかで子どもは自分らしく主体的に身の回りの世界や人と関わっていきます。
さらに、遊びに夢中になる中で、面白い!もっとこうしたい!どうしてこうなるんだろう?といったモチベーションや興味が生まれ、自分で考えたり試してみたり、時には人とも協力しながら楽しく試行錯誤をしていくでしょう。
こうした経験を通して、自分や課題、人との関わり方など、多岐にわたる非認知能力を伸ばしていきます。
非認知能力と遊びの関係の具体例3選
どのような遊びとどのような非認知能力が関わっているのか、いくつか具体例を挙げてみようと思います。
ここで挙げる関係性はあくまで一例でしかなく、遊び方や子どもの興味によって他の非認知能力と関わることもあるでしょう。
1. 読み聞かせ
子どもと隣に座ったり寝転んだりして読み聞かせをすることで、子どもと自然にスキンシップをとることができたり、同じ体験や感情を共有することができ、非認知能力のなかでも特に土台として重要なアタッチメントを築くことに繋がるでしょう。
また、子どもがストーリーに引き込まれ、よく聞いて理解しようとする中で、楽しく集中力を鍛えることもできると思います。
特に子どもが好きな物語では、登場人物に心を寄せたり、物語の世界を存分に楽しむことで、共感力や想像力もたくさん刺激されることと思います。
読んでほしい本を子どもに選んでもらうこともおすすめです。
それによって自分の気持ちや選択が尊重されているという実感ができ自己肯定感に繋がったり、ルール(今日は2冊までなど)の中で選ぶことでセルフコントロールを発揮する機会にもなるでしょう。
2. ごっこ遊び
子どもは普段から様々な人の仕草や発言をよく観察していますよね。
お店屋さんごっこやおままごとなどのごっこ遊びでは、普段の観察力を活かしながら様々な役になりきって自由に遊びを展開することで、想像力や表現力も存分に発揮できるでしょう。
また、保護者の方や友だちと一緒に世界観を作っていくなかで、自分とは違う発想に触れたり、分かり合えた時の嬉しさや達成感を得られる機会にもなるでしょう。
このように楽しく人と関わったり協力したりする経験をすることでコミュニケーション力や協調性も育まれることと思います。
3. 自然遊び(水や土、植物などを使った遊び)
水や土、植物といった自然は、子どもが自由に見たり触れたりすることができるため、好奇心を開放して思いきり遊ぶことができます。
自然に触れるなかで、大きな砂山を作りたい!この花を集めたい!など、自分がやりたいことを見つけてそれに取り組む力である主体性、動機付けや、自然を何かに見立てて遊ぶことで創造性を発揮する機会にもなると思います。
また、砂山をもっと大きくするにはどうしたらいいか?どうすればたくさんの花を集められるか?といったこと試行錯誤したり考えたりする探究心や粘り強さも鍛えられるかもしれませんね。
常に変化し続けている自然はおもちゃでは得られないような刺激をもたらしてくれることでしょう。
一緒に遊ぶ、遊びを見守る際の2つのポイント
1. 子どもの楽しさと自由を大切にする
ここまで、遊びと非認知能力との関係をお話ししてきましたが、この能力を高めるためにこういう遊びをしなさい!こういう遊び方で遊びなさい!といった関わり方をすると、本末転倒になってしまいます。
なぜなら、遊びにおける重要な要素は楽しさや自由だからです。楽しさや自由は子どもが主体的に人や物事と関わっていくエネルギーになってくれます。
そのため、保護者の方が指示をするのではなく、子どもが思いきり遊べる時間や空間を作り守ってあげることが大切です。
勉強や習い事を詰め込みすぎず、子どもの自由時間を確保しましょう。
また、時には公園に行ったり散歩したり、外に出てお家ではできない遊びを思いきりするのもいいですね。
特別な道具や場所を用意しなくとも、自由な時間と空間、次に挙げる安心感があれば子どもは楽しく遊べることと思います。
2. 子どもに安心感を与える
楽しくのびのびと遊ぶためにもう一つの大切な要素は安心感です。
いくら自由な環境でも、危険があったり不安な気持ちでは楽しく遊べませんよね。まずは子どもに身の危険がないように、必要に応じて物の使い方や注意点を教えたりして安全な環境を整えてあげましょう。
また、子どもにとって、保護者の方が見守ってくれることや傍にいて一緒に楽しんでくれることは何よりの安心材料です。
例えば、なるべく子どもが見ているものを一緒に見たり一緒に遊んだり、遠くから見ている場合は笑顔を送ったり手を振ったりして、子どもに見守られているという安心感を与えてあげられるといいですね。
このように、自分の興味に対して保護者の方が一緒に目を向けてくれる、いいねと共感してくれる経験は安心感だけでなく喜びやさらなる意欲にも繋がり、子どもの遊びもより豊かに楽しくなることと思います。
おわりに
子どもは楽しくのびのびと遊ぶなかで様々な非認知能力を発揮したり伸ばしていくことでしょう。
また、家族や友達と一緒に遊び、楽しい時間を共有することは子どもの心のエネルギーになってくれるはずです。
特別な道具や場所を用意しなければと気負わず、子どもがやりたいことを自由にさせたり一緒にやってみたりして、子どもと楽しい時間を過ごせるといいですね。
参考文献
- あそびと非認知能力 あそびのもり ボーネルンド
- 非認知能力を鍛える遊びを親子で楽しもう!環境づくりのコツもご紹介 ベネッセ 教育情報サイト
- 川本 哲也(2023)教育における社会情緒的コンピテンスとその批判的考察 哲學150 163-186.
- 小塩 真司中谷 素之西山 久子川本 哲也平野 真理遠藤 利彦(2023)非認知能力 : 基本的な考え方,応用可能性,そして問題点 教育心理学年報63 227-237.