「すごい!」「信じられない!」そんな感動を味わう瞬間、ありますよね?
これを英語で表すと、この感動を「Awe(オウ)」といいます。
驚きや畏敬(いけい)を感じた瞬間、人は自然と「Awe(オウ)…!」と声が漏れる―まさにこの「Awe(オウ)」体験が、今脳科学の分野で話題です。
この記事では、子どもたちが大自然に触れることで、彼らの脳がどう変わり、どんなプラスの効果が生まれるのかをご紹介します。
目次
Awe(オウ)体験って何?
「Awe(オウ)体験」とは、自然の壮大さや未知の現象に対して感じる「畏敬」や「驚嘆」の感情です。
簡単に言うと、ものすごく壮大で圧倒されるような経験をしたときに感じる「わぁ〜!」という感情のこと。
たとえば、富士山のような巨大な山を見上げた瞬間、夜空一面に輝く星々を見た瞬間、または果てしなく広がる海を前にしたとき、そんな心を揺さぶるような体験が「Awe」です。
脳に起こるAwe体験による5つの変化
最新の脳科学では、このAwe(オウ)体験が単なる感動ではなく、脳に深く良い影響を与えることがわかっています。
例えば、心理学者のダッカー・ケルトナー(Dacher Keltner)博士を中心としたカリフォルニア大学バークレー校の研究では、
Awe(オウ)体験が私たちの精神的健康にどう影響を与えるかを調査し、Awe(オウ)を感じた瞬間には前頭前野が活性化し、幸福感や充実感が増加するだけでなく、社会的なつながりや協調性も強まることが明らかになっています。※1
さらに、バークレー大学の研究では、地球の広大な映像を見た参加者が、アイデアを生み出す能力や問題解決能力が高まることが確認されました。※2
このように、Awe(オウ)体験は非認知能力の多くの側面も向上させることがわかっています。
では、子どもたちが大自然と触れ合うことで、具体的にどんなメリットがあるのか?
以下で具体的に5つの変化を見てみましょう。
ストレスがふっと軽くなる
自然に触れると心が落ち着く…そんな経験ありませんか?実はこれ、ただの気分じゃないんです。
大自然は脳にリラックス効果を与え、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減少します。
特に、Awe(オウ)体験では、脳が「おお!すごい!」と感動してストレスが一気に解消。
テスト勉強や友だち関係で悩んでいる子どもたちにとって、大自然はまるで無料のセラピストです。
集中力と注意力がパワーアップ
大自然を目の当たりにすると、脳が普段とは違うレベルで働き始めます。
特に前頭前野が活性化し、集中力や注意力がグンとアップ。
美しい風景や珍しい動物たちに目を奪われることで、脳が「この情報、重要!」と判断し、注意力がシャキッとします。
学校で「集中しなさい!」と言われてばかりの子も、自然体験でぐっと集中力が鍛えられますよ。
創造力が刺激される
「ワクワクする発想」は自然の中でこそ生まれるもの。
壮大な景色や星空を眺めていると、子どもたちの想像力がぐーんと広がります。
先ほどご紹介したように、自然に触れると脳の創造的な部分が刺激され、新しいアイデアが次々と湧いてくることもわかっています。※2
つまり、大自然は子どもたちのクリエイティブな脳をバッチリ鍛える絶好の場所なのです!
他者とのつながりが強まる
トロント大学の研究では、Awe(オウ)体験によって「自分が世界の一部である」という感覚が強まり、自己中心的な考えやエゴが薄れることが明らかになりました。※3
人は自分を広大な世界の一部だと感じるとき、自然に謙虚さを持ちやすくなります。
この感覚が深まると、周囲への感謝や社会への貢献意欲が湧きやすくなり、その結果、脳の働きもより活発になります。
子どもたちが自然の中で家族や友だちと一緒に過ごすことで、協力する大切さやお互いを支え合う気持ちがより育まれるということです。コミュニケーション能力もどんどん鍛えられますね。
感情のコントロールがうまくなり、体も健康になる
子どもたちが自分の感情をコントロールできるようになるのは、親にとっても大きな助けですよね。
Awe(オウ)体験は子どもたちのストレスを軽減させ、穏やかな気持ちを保つ手助けにもなります。
大自然の中でリラックスすることで、子どもたちは自分の感情をうまく表現し、コントロールできるようになると、友だちとのケンカやストレスがかかる状況でも、落ち着いて対応できるようになるわけです。
さらに、研究によれば、Awe(オウ)を感じた人々は炎症反応を引き起こすサイトカイン(細胞と細胞の間で情報伝達をするたんぱく質)のレベルが低下し、身体的な健康も改善する可能性があることが示されています。※4
どんなタイプがAwe体験をしやすいの?
Awe(オウ)体験をしやすい人の特徴として、「吸収傾向(absorption)」が高いことが挙げられています。
吸収傾向とは、外部の刺激や体験に対して深く没頭できる特性を指し、こうした人々は、Awe(オウ)を感じる感覚がより強くなることが分かりました。
具体的には、吸収傾向の高い人は、目の前に広がる壮大な自然や芸術作品、あるいは感動的な出来事に対して、より深く心を動かされやすく、その結果としてAwe(オウ)体験をしやすいという結果が得られています。※5
以下では、Awe(オウ)体験をしやすい人の特長をあげてみます。
好奇心が強い人
:好奇心旺盛で、未知のものに対して興味を持つ人は、Awe(オウ)体験をしやすいです。未知の大きな現象や自然に直面すると、好奇心が刺激され、その結果、Awe(オウ)の感情が生まれやすくなるからです。
自己認識が柔軟な人
:自分自身に対する固定観念や枠組みにとらわれず、状況や新しい経験に応じて自己の認識を柔軟に変化させられることです。他人からの意見や評価、新しい経験を受け入れて、自分の価値観や考え方を適応させたり、見直したりできる人は、新しい体験に対してオープンなのでAwe(オウ)を感じやすいです。
感受性が豊かな人
:感受性が高く自分の感情にも敏感な人は、自然や芸術に触れた際に、強く感動しやすい傾向があります。外部の刺激に対して強い反応を示し、Awe(オウ)体験をより深く感じるためです。
要するに、感受性が高く、深く体験に没頭できる人ほどAwe(オウ)体験を感じやすいということです。
Awe(オウ)体験による効果をアップするためには、好奇心を大切にしたり、感性を豊かにしていくこともポイントです。
子どもにも「Awe(オウ)体験」を
それでは、どうやって子どもたちにこのAwe(オウ)を、より効果的に体験させてあげればいいのでしょうか?
いくつか簡単な方法をご紹介します。
◯近くの自然に連れていく
遠くまで出かけなくても、実はすぐ近くに自然はあります。
例えば、近くの公園でちょっと散歩をするだけでも十分にAwe体験は可能です。
四季折々の風景を楽しむことで、日常の中にちょっとした感動を見つけることができます。家族でピクニックや川遊びに出かけるのもおすすめです。
◯自然キャンプやアウトドアイベントに参加する
子どもたちがより深く自然に触れ合えるキャンプやアウトドアイベントも大変有効です。キャンプでは、仲間と協力してテントを張ったり、食事を作ったりといった体験を通して、子どもたちの自主性や協力精神が育まれます。
◯ドキュメンタリーや博物館で自然を学ぶ
自然に出かけられないときでも、ドキュメンタリー映画や博物館の展示を通じて、自然の素晴らしさに触れることができます。
特に、宇宙や深海など、普段なかなか目にすることのない世界は、子どもたちの好奇心を強く刺激します。
なお、研究でも、大自然の広大さ・美しさが感じられる動画を見ることでも、Awe(オウ)体験ができることがわかっています。※5
◯感動を家族でシェアする
子どもたちが感じた感動を、ぜひ家族で話し合いましょう。
「どんな景色が一番すごかった?」といった質問をすることで、彼らの感受性がさらに深まります。家族での共通体験を通じて、家族の絆も強くなります。
おわりに
壮大な滝や、グランドキャニオン、雲海、ベートーヴェンの交響曲第9番、モネの「睡蓮」、子どもの誕生、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのスピーチ、宇宙から見た地球・・・―これらに共通するもの。
それは、人々に「Awe(オウ)」という感情、つまり畏敬や驚嘆をもたらすことが多いものです。
私たちの理解を超える壮大さや美しさに触れたとき、Awe(オウ)という神秘的で魅惑的な感情を引き起こします。
この感情は、恐怖と感動という2つの側面を持っていて、私たちの心と体に強烈な印象を与え、時には人生を変えるきっかけになることもあります。
特に、心身の発達時期である子どもにとってAwe体験とは「すごい!」と感動したときに起こる脳と心の覚醒です。
忙しい日々の中でも、少しの時間を見つけて自然に触れる機会を作り、子どもたちに感動体験をプレゼントしてみてください。
自然は、子どもたちの未来を輝かせる最強の「先生」なのです。
参考文献
Why Do We Feel Awe? By Dacher Keltner | May 10, 2016
※2 The Emerging Science of Awe and Its Benefits
The miracle and mystery of awe: Why it’s good for mind and body
※3 Awe, the Small Self, and Prosocial Behavior
※4 The development of the Awe Experience Scale (AWE-S): A multifactorial measure for a complex emotion
※5 ‘Standing in Awe’: The Effects of Awe on Body Perception and the Relation with Absorption
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