【専門家が解説】ASD(自閉スペクトラム症)とは?子どもの特徴と対応方法

ASD(自閉スペクトラム症)とは?子どもの特徴と対応方法

小学校に入って集団生活をしていると、お子さんの特性が目立って感じたり、お友だちとうまく関わったり、勉強面でも偏りが見られるなどの場面で親御さんとしては不安が出てくるかもしれません。

この場合、発達障害かどうかという視点だけでなく、丁寧に背景を見ていくことが大切です。

この記事では、さまざまなASDの特性を理解するための視点を親御さんからの質問も踏まえながらご紹介します。

ASD(自閉スペクトラム症/Autism Spectrum Disorder)は、「コミュニケーションの取り方」や「こだわりの強さ」「感覚の感じ方」などに独自の傾向が見られる、主に生まれつきの脳の発達の違いに基づく特性です。

「自閉症スペクトラム」とも呼ばれることもあります。

ASDという名前は「障害」というイメージを持たれがちですが、私たちが理解すべきなのは、一般的な社会の中では少し目立って見える“感じ方”や“考え方”のスタイルがある、ということです。

決して“劣っている”わけではなく、“異なっている”という視点を持ちましょう。


ASDの傾向はお子さんによって異なりますが、以下のような行動が特徴的です。

  • 周囲の人の気持ちや意図をくみ取るなど対人関係に苦手が見える
  • 言葉どおりに受け取ってしまい、冗談や比喩が伝わりにくい
  • 急な予定変更、予想外の出来事、環境の変化に強いストレスを感じたりパニックになる
  • 特定の物事や自分の関心ごとにとても強い興味とこだわりがある
  • 音や光、肌触りなどに過敏(あるいは鈍感)なことがある

こうした特徴は「甘え」や「わがまま」ではなく、主に生まれつき脳の情報処理の仕方の違いによるものです。

以上のように、ASDの特性によって対人理解に困難が見られる場合があり、それが結果として“空気が読めない”と表現されることがあります。


ASDは、「スペクトラム(連続体)」という名前の通り、症状や困りごとの現れ方に強弱の幅があることを意味しています。

明確に診断がつく場合もあれば、診断には至らないけれど「特性として傾向がある」というケースもあります(いわゆる“グレーゾーン”)。

「ASDの診断がある=すべてが同じ」というわけではなく、お子さん一人ひとり、それぞれ特性の違いがあります。

ASDの特性に限らず、子どもが”空気が読めない”と言われる背景には、以下の通り2つの可能性が考えられます。

社会的経験の不足(環境要因)

1つ目は、社会的な経験が不足していた場合です。

幼少期に同年代との交流が少なかった、集団での活動が限られていた、といった場合には社会性の獲得が進みにくくなることがあります。

これは単にASDの特性に起因するものではない点、注意が必要です。

表情やしぐさ、場の雰囲気から相手の気持ちを読み取る力は、繰り返しの経験を通して育まれるものです。

家庭で言葉だけで教えるには限界があり、実際にいろんな人と関わる体験が重要になります。

想像力の特性(神経発達の傾向)

2つ目は、ASD(自閉スペクトラム症)に見られる「想像力の困難さ」によるものです。

日常のやり取りの中で、以下のようなことが家庭内でも見られるようであれば、ASDの可能性が示唆される場合があります。

  • 冗談が伝わりにくい
  • 曖昧な表現が理解されにくい
  • 相手の気持ちを想像するのが難しい

家族間ではスムーズにコミュニケーションが取れている一方で、集団生活の中で「空気が読めない」と言われる場合、それは特性というよりも「経験の差」に起因している可能性があります。

他者との関わりを意図的に増やし、経験値を積んでいくことで、状況の理解力や対人スキルが向上することも多くあります。

一方で、家庭内でも「やり取りが噛み合わない」「何度も同じ注意が伝わらない」といった感覚がある場合には、専門家の視点を取り入れてみることも一つの選択肢でしょう。

いずれの場合も、「空気が読めない」ことを一面的にとらえず、環境要因と個人の特性の両面からアプローチしていけると良いです。

ASDの診断を受けているお子さんが中学受験を検討する際は、進学先の学校について、学習環境との相性やサポート体制があるかないかを慎重に見極める必要があります。


ASDのあるお子さんは、強いこだわりや特定の思考パターンを持つことがあり、時間配分や問題の取捨選択が苦手な傾向があります。

集団塾では刺激が多く、学習ペースが合わない可能性もあるため、個別指導塾や発達特性に理解のある学習支援が適しているケースが多いです。


中学受験の目的は「子どもが安心して学べる環境を選ぶこと」であり、必ずしも偏差値やブランドに重きを置く必要はありません。

通学のしやすさや、学校の支援体制(合理的配慮の実施状況など)を事前に確認し、安心して通えるかを重視してください。

必要に応じて、地域の教育相談窓口で情報収集や進路相談を行い、適切な支援が受けられる学校を探すことも有効です。

ASDの傾向を持つお子さんは、一定のルール性や視覚的な刺激に強く惹かれる傾向があるため、ゲームに没頭しやすいことがあります。

しかし、ゲームへの夢中は発達特性に限らず、一般的な現象でもあります。以下の方法を試してみてください。


  • 一貫したルールの設定と可視化:紙に書く、ホワイトボードにスケジュールを記載するなど、視覚的にわかる形で明確化します。
  • ルールの自動化:デジタル機器にスクリーンタイム制限を設定する、夜間に自動で電源が切れるようにするなど、実行を補助する仕組みも有効です。
  • ルールの意義を説明する:なぜそのルールがあるのか(例:睡眠の重要性)をデータや具体例を用いて繰り返し説明し、理解を促しましょう。

ASDの特性として、口頭での注意だけでは伝わりにくいケースがあります。

実際には「聞いていない」のではなく、「意味が理解できていない」「記憶に残りにくい」といった理由が背景にあることもあります。


日常生活に著しい支障が出ている場合(例:睡眠不足、登校困難など)、ゲーム依存症の可能性も視野に入れ、専門機関への相談を検討できると良いでしょう。

子ども自身が、やめようという意志があるのにやめられない場合は注意が必要です。

診断名にこだわるよりも、「わが子の特性」をよく観察し、生活の中で安心できる関わり方を模索することが、もっとも重要です。

育ち方に個人差があるのは当然のことであり、他のお子さんとの比較は参考程度に留め、異なる個性として受け止めていく視点が求められます。

診断の有無に関わらず、相談できる療育機関や子育て支援の窓口をあらかじめ探しておくこともお勧めします。

信頼できる医療機関や支援者とつながることで、不安や迷いも共有しやすくなりますし、診断がつかない時期でも、子どもに必要な支援や関わりは始めることはできます。

「できること」に目を向け、子どもの反応を一つずつ見守る時間を大切にできると良いですね。

こちらの動画では、臨床心理士・公認心理師の相楽まり子先生が詳しく解説しているので合わせてご覧ください。

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