今回は、発達障害のお子様、保護者の方のサポートとして多くの親御さん、お子さんに関わってきた梶原幸恵さんにお話を伺いました。教育現場と子育て支援のリアルについてインタビューします。
梶原 幸恵氏 プロフィール
梶原 幸恵
保育士、ケアストレスカウンセラー、児童発達支援管理責任者
発達障害児をサポートする保育士として24年間児童養護施設、発達障害のお子様、保護者の方のサポートとして従事。その数1000人以上。子どもたちの無価値観や自己受容の問題、保護者の孤立感を感じ、親子サポートを開始。
公教育への課題感
─これまで梶原さんは色々なお子様と親御様に関わり、公教育に馴染めないお子さんやもいらっしゃったと思うのですが、教育についてどんな課題感を持ちましたか。
梶原さん:
例えば10年くらい前だと、学校というところは行くのが当たり前という風潮でしたよね。行きたくないという子どもには、行かなくなった時にどういう状況が待ち受けているか、などを子どもと話して、子ども自身が「行く」という選択をしていたことが多かったと思います。なので、当時は、学校に関して課題感をそれほど感じていなかった。
それが、発達障害のお子さんと関わり始めて、学校の在り方というものに関心を持つようになりました。彼らは学校の中ではほぼ放置状態と言っていいような環境にいました。そもそも先生たちの理解が乏しいです。全員とは言わないですが、そういう発達障害の子どもたちの人数が少ないからいいだろう、という前提で支援学級への先生も割り当てられていました。
というのも、支援学級へ配置される先生は専門家でもなく、大人数の学級がまとめきれない先生とか若くて経験の浅い先生が割り当てられている印象が強かったです。親御さんも子どもに関する特性を伝えることに苦労していました。
そういう状況に、教室長兼児童発達支援管理責任者として介入した時に、自分達のやり方が正しいとか、校長先生や教頭先生の思想の影響が大きいです。対応が全然違います。
確かに、今は発達障害やグレーゾーンについて少しは知る機会が増えてきたので教育システムも以前よりは改善されていると思います。ただ、もう少し分け隔てない体制が整うといいですよね。「多いから普通」になっちゃうだけなので、それぞれが違うところを認め合う社会ができてくるといいです。
発達障害のお子さんは、できることと苦手なことの凸凹が大きいだけで、むしろその凸凹の大きさを持っている偉大な人たちがいて世の中が発展してきたとも思っています。
発達障害のクラスは、本当にその子のためのクラスであればいいのですが、例えば先生たちが困るから、この子は別だから、という分離の考え方で整えられている気がします。子どもは、先生たちの感情にも敏感だから、そういう先生たちの信念も響いてくると思うので、本当の意味での交流とか助け合いができるといい社会ができてくるのだと思います。他者を認めることの心が育つといいなと思っています。
─そうですよね、多数じゃない人を認めてあげる重要性が高まっていると思います。現状は先生たちの負担も大きいので、対応できるようにするためには長い道のりなんだろうなと思いますね。先生という立場は、子どもたちにとって重要なキーパーソンだと思うのですが、これまで、いい意味で印象的な先生はいましたか?
梶原さん:
専門的な分野の第三者の機関が入ることがウェルカムな先生ですね。校長先生も教頭先生も一緒に入って、聞こうとする姿勢と熱意がある先生がいると、お子さんへの対応も変わります。
─なるほど、当事者意識はしっかり持ちながらも、自分ができないことを第三者に委ねるって勇気がいることだし、子どもたちにとって本当に意味のあることですよね。本当によくしたいと思っている先生なら、変えていくことに前向きなはずですね。
梶原さん:
そうなんです。「うちにはそんな子どもはいません」と言う先生もいたり、存在自体を認められていなかったし認めたくなかったという印象を持つ先生もいました。いろんな機関が呼びかけて、やっと対応に向き合うようになってきたという感じの道のりでした。
適切な教育情報の探し方
─親の持つ情報量が子どもの学びの機会の限界にもなっているという声もありますが、親への教育情報の提供や、適切な教育機会へリーチするために、望まれるものはなんだと思いますか?
梶原さん:
今いろんなところでいろんな方が、それぞれの形で情報発信やサポートをしていると思うんですよ。ただ親御さんから声が上がるのは、どこにこの問題の対処法を聞いたらいいのかわからないということです。これに悩んだらどこに相談したらいいのか、窓口がとにかくわからないと言うのが大きな問題です。「こうなった時にはここに聞いて」という基準さえわからないので、例えば国として、特定のトピックスにこの窓口、という情報が整備されると、もっと親御さんが簡単にアクセスして情報が得られやすいのだと思います。
─そうですよね。まずは広く相談したいのに、少し調べると医療機関に繋がったりして、極端ですよね。日本は医療機関と教育機関が連携して、単なる「手のかかる子」を無駄に医療機関につないで、発達障害として認定され、投薬されています。深刻な問題行動があるお子さんの場合は別ですが、本当は投薬してはいけない子どもにもそういう対応がされている現状に危機感を感じています。
梶原さん:
特に、他害行動がある子どもとかは問題視されがちです。関係機関からするとお薬飲ませましょう、という方法になりやすいのですが、本当に解決方法はそこなのか、という疑問がありました。
不適切な行動の制御が効かない場合であっても、子どもが自分で考えて制御できる部分はどこなのか、どうやればいいのかを考えて教えることが先決だし、大事です。
例えば、放課後デイサービスをたくさん利用しているお子さんがいて、問題行動が深刻だったのですが、その時は睡眠が足りていないことが原因でした。親御さんもは関係機関から「薬」と言う解決方法を提示されていましたが、親御さんご自身としては違和感もあったと言います。
要因をきちんと把握できることで、より安全により健全に子どもの不適切行動を減らすことができます。
─親御さんは、他の人に迷惑かけるという緊急度と危機感が大きいので、すぐに効果が出る投薬という方法を受け入れがちですが、不適切行動にはパターンや環境の原因があるので、まず要因を知って改善することが子どもたちにとって根本的で本当に必要なアクションですよね。
子どもたちにとって必要な学びとは
─今の時代において、子どもたちにとって必要な学びとはどのようなものだと思いますか?
梶原さん:
学びの準備としてですが、まずは自分を大事にすることです。自分を大切にする事で、必然的に他の人の考えも受容することが出来るようになると思います。他の人を大事にするというのは、道徳のような授業でも学ぶと思いますし、確かにそれは大事です。ただ、その前に、自分を満たすことも大事ではないでしょうか。自分自身を置いてけぼりにしてまで人を大事にすることは大変なことだし、そうすることで自分を枯渇させる可能性もあります。
自分を大事にするという根本的なことができるようになると、不登校とか無価値観がもっと減ってくるだろうし、不登校がこれだけ増えている状況は、誰かを大事にすることに過剰にフォーカスしていたことの結果でもあると思います。どれだけ今の教育が合っていないかがわかります。
次に、人との関わり方を大事にすることです。少しずつ増えてきてはいるけど、一方的な講義スタイルの授業をメインとするのではなく、ディスカッションのように「私はこう思う、あなたはこう思うのね」という体験が大事だと思います。
あとは、お金に関する教育です。今日本の事業のなかに株とかも入れてきたと聞いていますが、低い利息で最終的には貯金しましょう、みたいな授業らしいです。
日本の中だから気がつかないと思いますが、世界に出た時に日本のお金の価値をきちんと理解することが大事です。
自分でどうやって資産を守っていくか、日本の経済を担っていく子どもたち自身で学んでいくことが望ましいと思います。
いかにお金というものを有益なものに変えていくかの意識、考え方を変えていく教育でないと意味がないという危機感も感じています。
子どもも大人も学びにいかないといけないですね。
─お金の話となると、怪しい話も多いから、安心してどこに情報を聞きに行かないといけないのかという情報も欲しくなりますよね。
民間企業に期待する役割
─民間企業に期待する役割はありますか?
梶原さん:
今民間企業や課題感のある保護者の方など、それぞれがいろんな発信をしていると思うし活動も多様になっていると思います。必要だから増えていっていると思うんですよね。
学校は確かに教える場所だし義務教育だけど、私は絶対そこに行かなければいけないとも思っていないです。親御さんやお子さんが孤立しない居場所となるような場所の方が大切だと思います。一番は、感覚優位があるお子さんの場合など、其々のお子様に合う場所が大切だと思います。
あとは才能とか個性を伸ばせる場ですね。安心して過ごせる環境で、いろんなツールを用いて、持ち味を活かした学び方ができる場所が重要になってくると思います。
それから、親以外の大人と関わる機会がすごく必要だと思います。親御さんの価値観だけではなく、いろんな大人の価値観や考え方の中で選んで、育っていく環境が大事だと思います。
─ほんとですね。先生や保護者以外にも、社会に出ていろんな方面で活躍している面白い大人と触れ合うことが、どれほど子どもたちにとって意義のある経験になるかは、幼い頃の自分自身の経験からも言えます。
梶原さん:
親御さんたちも、そういう大人たちがいれば一人で頑張らなくていい、と思えるので、必要ですよね。
編集部から
いかがでしたでしょうか。
今回は、教育と子育て支援の現状に光を当て、発達障害を持つ子どもたちとその親御さんが直面している課題への理解を深め、改善に向けた考え方をご紹介しました。
梶原さんの経験に基づく洞察に、共感いただける方も多いのではないでしょうか。
今後の教育と支援のあり方について、重要な道標になることを期待しています。
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