アサーション入門:親子のコミュニケーションを豊かにする方法 (1)

日常生活の中で、「自分の気持ちや意見を言えなくてもやもやする」「会話の後に後悔や疲れが残る」「この人と話すといつも感情的になってしまう」このようなお悩みはありませんか…?

コミュニケーションの方法や考え方を工夫してみると、それらのお悩みが軽くなるかもしれません。

そして、お子さんとのやり取りの中でも、この方法を活用することができます。

この工夫の方法を「アサーション」と言います。

本記事では、アサーションについて、練習方法も合わせて解説します。

この記事を書いた専門家

山崎

山崎 日菜乃


公認心理師、臨床心理士

心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。


「アサーション」とは自分も相手も大切にしながら、素直にコミュニケーションする考え方やスキルのことです。

アサーションでは、自分の考えや気持ちをその場に適切な方法で素直に表現し、相手にもそうすることを奨励します。

当然、感じ方や考え方は人それぞれでなので、初めからお互いの考えや気持ちが一致することは決して多くなく、相手の意見に賛同できなかったり、相手が自分の意見に同意してくれないこともあるでしょう。

アサーションでは、そうした小さな葛藤やもめごとが起こるのは当たり前のことだと考えます

そして、面倒がらずにお互いの意見や気持ちを出しあい、新たな提案をしたり譲り合ったりして、お互いにとって納得のいく結論を出そうとします

そうすることで、お互いを大切にし合ったというさわやかな気持ちが残るというわけです。


アサーションでは、コミュニケーションの方法を3つのタイプに分類します。アサーティブタイプ(アサーション)はその一つです。

以下の場面を例に、それぞれのタイプについて説明してみます。あなただったらどんなコミュニケーションを取りますか?

あなたは友達とカフェで楽しい時間を過ごし、そろそろ家で家事や仕事をしたいので帰りたいと思っています。

そんな時に、友達が「カラオケに寄ってから帰ろうよ!」と言いました。

あなたなら、なんて返しますか?以下のA〜Fで選んでみてください。

A「いいね、行こう行こう」

B「帰るのが遅くなると、夫が・妻が何て言うかなぁ」

C「今日は家でやりたいことがあって、そろそろ帰りたいんだよね。カラオケは今度にしない?」

D「30分だけでよかったら行きたい!どうかな?」

E「今からなんて、無理に決まってるでしょ」

F「私はもう帰るから!」

答えはこちら

・A/Bと答えた方ノンアサーティブ(非主張的)タイプ

・C/Dと答えた方アサーティブタイプ(アサーション)

・E/Fと答えた方アグレッシブ(攻撃的)タイプ

以下で、それぞれのタイプについて解説していきます。

ノンアサーティブ
  • 相手の意見や気持ちばかりを優先し、自分の意見や気持ちを素直に表現しない。
  • 我慢や恨みが積み重なって、劣等感や諦め、相手への軽蔑や怒りなどを抱きやすい。

やりとりの例:

「いいね、行こう行こう」(帰りたい気持ちを言わずに我慢する)

「帰るのが遅くなると、夫が・妻が何て言うかなぁ」(曖昧な表現や言い訳がましい表現をする)

アサーション
  • 自分の意見や気持ちを素直に表現し、相手の意見や気持ちも尊重する。
  • お互いのことを大切にできたというさわやかな気持ちが残りやすい。

やりとりの例:

「今日は家でやりたいことがあって、そろそろ帰りたいんだよね。カラオケは今度にしない?」

「30分だけでよかったら行きたい!どうかな?」

アグレッシブ
  • 自分の意見や気持ちばかりを押し付け、相手の意見や気持ちを無視・軽視する。
  • 会話の後味が悪かったり後悔を抱きやすく、相手との関係がギスギスしたものになりがち。

やりとりの例:

「今からなんて、無理に決まってるでしょ」(相手の意見を受け止めず否定する)

「私はもう帰るから!」(自分の意見を押し付ける)

コミュニケーションのあり方は、相手や状況によって変わることも多いです。

例えば、会社ではノンアサーティブだけど家庭ではアサーティブでいられる、子どもにはアサーティブでいられるけど夫・妻にはアグレッシブになりやすい、などもあるかもしれません。

例に挙げた場面でも、友達との関係性によってコミュニケーションの仕方が変わるなぁと思った方も多いかもしれません。

会話の後に何となく後味が悪かったり、疲れや諦め、イライラを感じたりするのは、ノンアサーティブやアグレッシブなコミュニケーションになってしまったからなのかもしれません。

どのような場面で自分がどのようなコミュニケーションをとっているかに気付くことは、コミュニケーションによるストレスを減らし、気持ちよく人付き合いをしていくための大切な第一歩です。

アサーションの説明を読んで「そうできればいいのは分かるけど、できないから困っているんだよ…」と感じた人もいるかもしれません。

ここからは、アサーションの困りやすいポイントとそれを解消する練習アイデアをそれぞれ提案できればと思います。


まず、困りやすいポイントは以下の3つを想定します。それぞれの具体的なアクションを見ていきましょう。

「自分の気持ちがよく分からない」

「会話をしているうちに感情的になってしまう」

「アサーションをするのが怖い」



いざ相手を目の前にすると心のモヤモヤが言葉にならなかったり、思いが溢れて何を言いたいのか分からなくなってしまった経験をしたことがある人も多いかもしれません。

自分の気持ちや考えを知り、どの気持ちや考えを相手に伝えたいかを自分で把握できると、アサーションがしやすくなると思います。

具体的なアクション

:「私」を主語にしてみよう

自分の気持ちや考えをとらえるために、「私は」から始まるように文章を作る練習をすると、自分の気持ちや考えが明確になりやすいです。

例えば、

子どもが言うことを聞かず「何回言えば分かるの」とイライラした時。

・私は、子どもが言うことを聞かないと感じてイライラしている

・私は、子どもに何度も同じ注意をすることに疲れた

・私は、子どもが自分の話を聞いていないと感じて悲しい

このように、「私」を主語にすることで自分の気持ちや考えが分かりやすくなるだけでなく、その気持ちや考えを起こしているのは自分なのだということに気付くことができます

emotion

何より、自分の気持ちや考えを言葉にできると、すっきりできますよね。

慣れるまでは難しく感じるかもしれませんが、自分の気持ちや考えを把握する⇔それを表現するというサイクルを繰り返すことで、どんどん自分の気持ちや考えが掴みやすくなっていくと思います。



相手と意見や気持ちが食い違うと感情が昂って素直に話せなくなってしまったり、最初はアサーティブなコミュニケーションをしていても、だんだんヒートアップして感情的になってしまうこともありますよね。

感情を表現するのは決して悪いことではありませんが、それによって辛い思いをしたり悩んでいる場合もあります。

具体的なアクション

相手の発言や態度そのものよりも、背景にある気持ちや考えに意識を向けてみよう

相手の発言や態度で傷ついたり怒りがわくと、感情的なコミュニケーションのとり方になってしまいやすいですよね。

困りポイントその1に対して自分の気持ちや考えに焦点を当てたように、相手の発言や態度に対しても背景にある気持ちや考えに意識を向けると、相手の発言や態度そのものに感情を揺さぶられることを防ぎやすくなると思います。

気持ちや考えに意識を向けるとは具体的にどういうことか、例を挙げて説明します。

例えば、子どもから、門限を17時から19時までに延ばしてほしいと言われた時。

あなたも子どもも自分の気持ちや考えを素直に言うのがアサーションでしたね。

あなたは、子どもに対して「19時はもう暗いことも多いから心配だよ」と自分の気持ちを伝えたり、

「特別な日には19時まで遊んでいいから普段の門限は17時のままにしてほしいんだけど、どう?」「○歳になったら19時に延ばそうと思っているけど、どう?」などと新たな提案をするかもしれません。

子どもは、あなたの提案に同意する権利もあれば、さらに自分の気持ちや考えを言ったり、別の提案をする権利もあります。

子どもも素直に気持ちや考えを話してくれればよいのですが、もしも「はぁ、ほんとお父さん/お母さんって頭かたいよね」などと攻撃的な発言や態度を繰り返されては、こちらも怒りがわいてきてしまいますよね。

そんな時は、発言や態度の背景にある気持ちや考えを意識する練習のチャンスかもしれません。

例えばこの場合だと、子どもの発言や態度の背景には、希望が通らなくてイライラした気持ち、正論を言われて悔しい気持ち、門限が早いから周りの友達関係についていけていないのではという考えや焦り、などがあるのかもしれません。

このように背景にある気持ちや考えに意識を向けると、それをきっかけに、お互いの気持ちや考えに焦点を当てたコミュニケーションに切り替えやすくなり、攻撃的な発言や態度が自分にまで伝染するのを防ぐことができます。

例えば「お父さん/お母さんの意見を聞いてどんな気持ちになった?」や、「門限を延ばしたいと思った理由が知りたいな」などと子どもに気持ちや考えを話すよう促すのもよさそうです。

そして、子どもの気持ちや考えを聞いて、あなたも自分の気持ちや考えを話すことができます。攻撃的な態度をとられてどんな気持ちになったかも、素直に伝えてみてもいいかもしれませんね。

また、相手や自分の状態によっては「少し時間をもらってもいいかな?」とコミュニケーションを仕切り直すのも一つの方法だと思います。



このコラムを読んでおられる方の中には、これまで誰かに気持ちや考えを伝えた時に嫌な思いをした経験や、子どもの頃から「人に迷惑をかけてはいけない」「断るのは悪いことだ」「目上の人の意見は絶対」などと言い聞かされてきた経験がある人も多いかもしれません。

アサーションをいざ実行しようとすると、過去の様々な経験の影響から、迷惑にならないだろうか、相手を怒らせたり嫌われないだろうか、空気を悪くしないだろうかなどと思って怖くなってしまうのは自然なことだと思います。

具体的なアクション

安心して話せる相手からアサーションを試してみよう

あなたが一番安心して話せる相手は誰でしょうか。

まずはその相手とのコミュニケーションからアサーションを試してみるのがおすすめです。

もし安心して話せる人が思い当たらない場合は、普段からアサーションをしている人を探して、その人に対して試してみるのがいいと思います。

特に初めは勇気がいると思いますが、思いきって自分の気持ちや考えを素直に言ってみましょう。

trust

そして、このようなことを観察してみましょう。

・自分の気持ちや考えを素直に言ってみて、どんな感じがしましたか?どんな気持ちになりましたか?

・その後のコミュニケーションはどうなったでしょうか?

安心できる相手へのアサーションとこれらの観察を繰り返すことで、あなたが恐れていることや教え込まれてきたことの威力がだんだんと小さくなったり、よりバランスのとれた考えに調整されていくのではないかと思います。

また、練習を重ねるほどアサーションのスキルが身に付いたり、アサーションの考え方が自分に馴染んで、より自然にアサーションができるようになっていくと思いますよ。

今の自分のコミュニケーションについて振り返ってみたり、アサーションのスキルや考え方を取り入れてみることで、日々のコミュニケーションや人付き合いがより気持ちよくできるようになるといいなと思います。

気になる練習が見つかった方は、ご家族やご友人と一緒に取り組んでみるのも楽しいかもしれませんね。

コミュニケーションのお悩みに限らず、困り事はあなた一人で解決しなければいけないわけではありません。

なんだか上手くいかないと感じたり、辛い時や困った時には一人きりで抱え込まず、身の回りの人に話したり専門家に相談することも検討してみていただけたらと思います。

参考文献

平木典子, 自分の気持ちをきちんと〈伝える〉技術, PHP研究所, 2012