「VUCAの時代」とは、現代の急速に変化し予測が困難な世界の状況を表しています。
VUCAの時代に直面する課題に効果的に対応するために、教育がその中心的な役割を果たすことが期待されています。
学びのあり方としては、特に可変であること、柔軟であること、創造的であることがポイントです。
子どもたちへの新たなサポートの形がどんなものかも含めて、具体的にみていきましょう。
VUCAの時代とは
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の4つの要素です。
教育においても、このVUCAの時代の特徴を踏まえた上で、子どもたちにどのように対応するかが重要な課題となっています。
まず、それぞれの要素に対応する世の中の状況を理解した上で、子どもたちや教育への影響も一緒に見ていきましょう。
変動性(Volatility)
技術の進化、経済の変動、環境問題など、世界は以前にも増して速いペースで変化しています。
たとえば、COVID-19パンデミックは、世界中の教育システムに未曽有の変動をもたらしました。
デジタル技術を駆使した遠隔教育が急速に普及し、教育資源のアクセシビリティが大きく向上した一方で、デジタルデバイド(情報技術、特にインターネットやコンピューターへのアクセスおよび利用能力において、個人や集団間に生じる格差)の問題も浮き彫りになりました。
変化や新しいものを受け入れていく姿勢がより必要になってきています。
不確実性(Uncertainty)
経済危機、政治的不安定性、パンデミック、戦争などが各地で発生しており、未来を予測することが困難になっています。
これからの社会で、どんなスキルが必要とされるか、不確実なため、教育カリキュラムは柔軟性を持ち、子どもが批判的思考、問題解決能力、適応力を養い将来に対応できるように設計される必要があります。
複雑性(Complexity)
グローバル化が進み、経済、社会、技術の相互依存が深まっています。単一の出来事が世界中に多大な影響を与えることがあります。
世界各地という範囲はもちろんですが、一人ひとりが持つ文化や価値観を理解し、多様性を受け入れる能力が教育分野においても求められます。
曖昧性(Ambiguity)
正しい答えがひとつではない、あるいは情報が不足している状況が増えています。また、情報が正しいかどうか、どの情報を取捨選択するかなど見極める必要があります。
新しい技術やイノベーションは、従来の枠組みを超えた機会も生み出していますが、それに付随する問題も発生しています。
子どもたちが不確実で大量の情報を基に意思決定をする能力や、異なる視点を統合する能力を育むことが重要です。
以上のように、これらのVUCAの状況や特性を考慮し、子どもたちがこれからの不確かで複雑な世界に対応できるように、情報リテラシー、批判的思考、柔軟性、創造性、コミュニケーションスキル、協働スキルなどを育んでいくことが必要になります。
「Education 2030」の主なポイント
OECD※は「Education 2030」というプロジェクトを通じて、2030年に向けての教育システムの改革を提唱しています。
この取り組みは、先にご紹介したVUCAの時代に適応し、子どもたちが未来の不確実性に対処できるようなスキルを身につけることを目指しています。
※OECD(経済協力開発機構)は、1961年に設立された経済的な発展と世界貿易の促進を目的とする国際的な組織です。加盟国は主に先進国で構成されていますが、非加盟国との対話や協力も行っており、国際社会における重要な役割を担っています。加盟国と協力して教育政策のイノベーションを促進し、持続可能な社会への貢献を強化する目的も持っています。
以下では、Education 2030が重視しているポイントをご参考に紹介します。
子どもたち中心のアプローチ
個々の子どもたちの教育的ニーズに焦点を当てた教育を推進し、全ての子どもたちが潜在能力を最大限に発揮できるような包括的かつ個別化された学びのアプローチを重視しています。
必要なスキルの再定義
批判的思考、創造性、コラボレーション、コミュニケーションなど(非認知能力)のスキルセットの育成に注力します。
教育内容と方法の革新
持続可能さ、デジタルリテラシー、グローバルなど、現代社会に必要な観点を学びの内容に盛り込みます。知識を単純に覚えるのではなく、例えば、アクティブラーニングや問題解決中心の学び、プロジェクトベースのアプローチにより子どもたちが実際に体験することを通して学ぶということを重視しています。
持続可能な発展目標(SDGs)との整合
教育を通じて持続可能な発展を促進し、国際社会が掲げる持続可能な発展目標(SDGs)達成に向けた教育の役割を強調しています。
教師の役割の再考
教師が、変化する教育ニーズに応えるための専門性向上と能力開発を支援することを重視します。
このようにEducation 2030は、各国の教育システムが直面する現代的な課題に対応するためのこれらの指針を打ち出し、必要とされる学びの将来像を描いているわけです。
VUCAの時代の教育のあり方
VUCAの時代に直面する課題に効果的に対応するために、それぞれの業界がいろいろな役割を求められていますが、「教育」がその中心的な役割を果たすと期待されています。
先に、「Education 2030が重視しているポイント」をご紹介しましたが、この中の必要なスキルの再定義と教育内容と方法の革新に注目して、子どもたちがVUCAの時代に対応していくためにはどんなサポートや教育機会が必要なのか、具体的にみていきましょう。
可変的な学び
VUCAの時代には、状況が常に変化するため、学びも可変的でなければなりません。
情報技術の進展により、知識の取得方法が多様化し、オンライン学びやアプリを使用した自己主導型学びが増えていますが、固定された教科書だけでなく、多様な情報源から柔軟に知識を得る必要があります。
デジタル技術は学びのツールとして非常に有効ですが、使用する場合にはメリットとデメリットをきちんと認識することが必要です。
例えば、子どもたちがChatGPTをツールとして利用することには賛否両論ありますが、良し悪しを理解しながら活用していくことがポイントなのです。
もっというと、大人がその良し悪しをわかっていないと、子どもに適切なガイダンスをすることができずにせっかくの学びの機会を逃してしまいます。
人間が発明したいいものをどんどん学びに取り入れていくことは、変化に迅速に対応できるよう、柔軟性と適応力を育むために必要な姿勢です。
柔軟な学び
不確実性と複雑性の高い環境では、柔軟な思考が求められます。問題に対して一つの解答ではなく、複数の多様な視点から考える能力が必要です。
従来の、正解があって知識中心の学びから、批判的思考や問題解決スキルを重視する方向へのシフトの必要性を意味しています。
子どもたちが自分の興味や強みに基づいて学べるように、主体性と当事者意識を持った学びの態度を育むことが重要です。
一つの答えや方法に固執するのではなく、複数の視点やアプローチを考慮する柔軟な思考を育てることにつながります。
将来の不確実性に対応するために、何が起こりそうで何がリスクなのか、そのリスクは何をすれば取り除いたり受け入れたりすることができるのかなど、複雑な問題を理解し、それらに対する多角的な解決策を考える能力が必要ということです。
創造的な学び
曖昧な状況や未知の問題に対処するためには、創造性が不可欠です。
既存の枠を超えた思考が求められるため、教育現場でも創造性を養うことが重要になっています。
「インテーディシプリナリー教育」(複数の学問にまたがる教育法)や、「STEAM教育」(アートや音楽などを取り入れた芸術教育がSTEM教育と統合された教育法)のようなアプローチが注目されているのもこのためです。
少し話題が広がりますが、ここで、面白い動画をご紹介しましょう。有名な経営者の一人であるソフトバンクの孫正義氏の講演です。
この「SoftBank World 2023」の講演では、AIがさらに進化した10年後の世界について語っています。
先に、子どもたちの学びをサポートしていく立場の我々大人たちが、VUCAの時代において意識・行動改革をしていかなければならないと示唆する痛烈なメッセージです。
「SoftBank World 2023 孫 正義 特別講演 AGIを中心とした新たな世界へ」
おわりに
VUCAの時代において、私たち大人の役割は非常に重要です。
先で述べたように、変動性、不確実性、複雑性、曖昧さの特徴を持つ現代社会では、子どもたちが必要とするスキルセットが大きく変化しています。これに伴い、大人としての行動変容も必要となります。
変化する社会について継続的に学び、理解を深めていく姿勢と、子どもたちの興味や能力を尊重し、固定された成果や進路ではなく、多様性と可能性を重視することで新しい問題への免疫や受容力が高まっていきます。
単に知識を伝えること以上のものを求められるため、これは親にとっても、子どもたちをサポートするための新しい方法を学び、適応する機会です。
子どもたちがこの複雑な世界で成功するために必要なスキルと能力を育めるように、VUCAの時代を受け入れる覚悟を持ち、また、この時代を楽しみたいですね。
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