小学校へ入学すると、これまでと異なり、文字や文章を読む機会が増えますよね。
文字や文章を読むことについて、入学当初は「これから読めるようになるだろう」「勉強が苦手なのかな?」という気持ちで見守っていても、徐々に子ども本人も保護者さまも不安になることがあるかもしれません。
今回は、文章の読み間違いの原因と言われている学習障害(LD)やADHDについて解説します。
学校で苦労することが少しでも減るよう、工夫できることも合わせてご紹介します。
この記事を書いた専門家
いけや さき
公認心理師、臨床心理士
精神科病院、療育施設、心療内科・児童精神科クリニックなど主に医療と福祉領域にて心理士として従事。発達障害の子どもたちや保護者、女性のメンタルヘルス等のサポートを行いながら、webライターとしても活動中。
目次
文章の読み間違いはなぜ起きる?怠けではない可能性
子どもの文章読み間違いの原因を検索すると、おそらく「学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)」の可能性が高いという記事が出てくるでしょう。
ここでは、学習障害(LD)とそれ以外にも考えられる原因を解説します。
- 学習障害(LD)の可能性
-
学習障害(LD:Learning Disorder)/限局性学習症(SLD:Specific Learning Disorder)とは、全般的な知的の遅れはないけれど、読み書きや計算などの特定のことが日常生活に支障をきたしている状態をいいます。
以下に学習障害の種類を挙げます:
・読字障害(ディスクレシア)
・書字障害(ディスグラフィア)
・算数障害(ディスカリキュリア)
そのほかにも図形模写が苦手な子もいれば、計画や推論が苦手な子もいます。
また、学習障害(LD)/SLDの子どもの「文字や文章が読めない」には個人差があり、以下のような困難を抱えている子どもが多いです。
・正確に文章を読む
・文字の認識
・文字と音の変換
・単語の理解
・聴覚記憶/短期記憶
鏡文字(逆さ文字)や文字がゆがんで見えることは学習障害(LD)の特徴として有名ですが、全員が鏡文字などになるわけではありません。
- 注意欠如多動性障害(ADHD)の可能性
-
注意欠如多動性障害(ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)とは、不注意や衝動性、多動性が特徴的な障害です。
読み間違いは、不注意や衝動性が原因の場合もあり、1行読み飛ばしたり、間違いを連発する、正しく読まずに言い慣れた言葉にしてしまうこともあります。
ADHDの子どもは集中力も続きにくく、持続的に繰り返し学習する必要のある勉強は、苦手になりやすい子が多いです。
- 学習障害(LD)やADHDの併発の可能性
-
学習障害(LD)やADHDは重複していることも多いといわれています。
ADHDは12歳までに診断されることが多い発達障害です。しかし、診断自体は小学校に上がった7歳以上(特に8〜10歳)でつくことが多いため、学習障害(LD)の精査の時期とも重なり、どちらか片方で診断されてしまうこともあります。
- そのほかの可能性
-
学習障害(LD)やADHDのほかに、以下のことが原因で「読み間違い」をしている場合もあります。
・ASD
・失読症
ASDの場合、読み間違いよりも漢字の書き取りを苦手としている子が多いですが、ADHD同様に併発しやすい発達障害の1つです。
失読症は、学習障害(LD)やADHD、ASDと異なる後天性の障害で「以前は読めていたけど、脳の損傷や病気で読めなくなった」状態を指します。
学習障害(LD)の主な症状や診断基準
自分の子どもが学習障害(LD)か気になる人は、まず以下の症状があるかをチェックしてみましょう。
今回は読み間違いについての記事ですので、ディスクレシアの診断基準を紹介します。
ディスクレシア診断簡易チェックリスト
読んでいるところがわからなくなる
読み飛ばしが多い
「あ」「お」など1文字ずつ読めても「あお」の理解は難しい
小さい文字(「っ」「ゅ」など)が認識できない
音読みと訓読みの使い分けが苦手
知的に遅れは見られない
スムーズに文章を読めない
文字を読めても理解が難しい
これらの原因の1つとして音韻処理と視覚情報処理の苦手さがあり、どちらか片方に困難を抱えている場合もあれば、両方の場合もあるとされています。
学習障害(LD)の心理検査の種類
学習障害(LD)なのかをチェックする方法は、先程紹介したチェックリストのもとであるDSM-5(「正式名称はDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」)を活用した問診や、心理検査を行なうパターンが多くみられます。
まずは、全般的な知的の遅れがないかをWISC-Ⅴ(知能検査)でチェック。
知的の遅れがないことを確認したら、以下のような心理検査を用いて学習障害(LD)かどうかを見ることが多いです。
・K-ABC
・標準読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)
・PRS LD児・ADHD児診断のためのスクリーニングテスト
・LDI-R (保護者が回答する質問紙)
など
K-ABCは学習障害(LD)のための検査ではないですが、習得度尺度に語彙や読み書き、算数の項目があります。学習障害(LD)の可能性がある子の支援に活用しやすい検査です。
標準読み書きスクリーニング検査(STRAW-R)は、日本初の小学生の読み書き障害を評価する指標として作成されました。現在は改訂版が出ており、中学生や高校生も受けられます。
そのほかの検査も含め、検査を受けられる医療機関や教育機関はあるので、支援方法を探すためにも一度受けてみるといいかもしれません。
読み間違いの工夫と対処法
読み間違いの原因を踏まえて、子どもの状態に合った支援を行なうことで、子どもにとって「勉強=苦痛」という気持ちが和らいでいくでしょう。
以下では、原因別の対処法をお伝えします。
- 学習障害(LD)の場合①:字は読めるけど、読み間違いが多い場合
-
長い文章になると読み間違いや読み飛ばしのある子どもは、視覚的理由もあれば理解力の弱さが原因の場合もあります。
例えば視覚的理由の場合、文字や文章をまとまりとして認識する力が弱い子や、「林」「木」「森」など似ている文字との形の識別が苦手な子がいます。
まずは形の識別の確認や、長い文章ではなく「/(スラッシュ)」などを途中で入れてあげて少しずつ読める練習をしていきましょう。
理解力が弱い場合は、語彙数を増やしたり、文字と意味の繋がりを理解できるようにするのも有効です。ゲーム感覚で楽しく文章を理解する練習もいいかもしれませんね。
- 学習障害(LD)の場合②:読み間違いの前に、読めない文字が多い場合
-
ひらがなの読みが苦手な子は、言葉の音を記号(がっこう→〇■〇〇)やイラストと組み合わせて覚えるといいでしょう。
ひらがなができて、カタカナや漢字の読みが苦手な子なら文字を分解して部品を組み立てるように覚えたり、カタカナならひらがなをヒントにしてもいいでしょう。
- ADHDの場合
-
ADHDの子どもの場合、目と手の協応や眼球運動の課題や衝動性、不注意の影響が多いとされています。
目と手の協応は?
目の動きに手など身体を合わせる力が、目と手の協応です。
ADHDの子どもは、ノートに書き写す力や必要な情報をキャッチすることの弱さなども見られます。
この場合、有効なのがビジョントレーニングです。ビジョントレーニングとは、目で見た情報を正しく判断する力や、自分の思うように身体を動かす能力を高める方法のこと。専門家に相談するのが一番ですが、プリントなどをネットで入手することも可能です。
衝動性や不注意が影響している場合は?
読むスピードを少しゆっくりにする、補助線やマーカーで読み間違いしやすいところにしるしをつけるのもいいですね。また、定規や下敷き、紙などでほかの文字を隠す方法もいいでしょう。
徐々に指でなぞる、指で隠すなど、自分の身体だけを使って工夫できるようにしておくのも大切です。
書き取りが苦手な子はASDの場合も
書き取りが苦手な子の場合はASDや学習障害(LD)とASDの併発の可能性も考えられます。
たとえば自己流の書き方にこだわったり、書くことへの意味を見出せずに書かない子もいるようです。書き取りはまた別の機会に解説します。
おわりに
今回は対処法も解説しましたが、無理に勉強させたり、苦手を克服させようとするのは逆効果である場合があります。
できることを認めていったり、どうすれば少しでも楽しく学習できるのかを一緒に考えることで、子どもは親に安心感を抱きます。
子どもの支援は保護者さまだけで抱えず、専門家に相談しながら一緒に子どものサポートをしていきましょう。