童謡「いちねんせいになったら」の歌詞にある「友達100人できるかな」に現わされているように、友達が多いこと、みんなと仲良くすることを正としている風潮があるのは否めません。
園や学校でもそのような指導が行われている傾向はありますし、保護者としても友達と仲良く遊べないこと、一人で過ごしていることが多いと不安を感じている方が多い傾向があります。
友達は、絶対にいないといけないものなのでしょうか?
休み時間に一人で過ごすことは子どもにとって悪いことなのでしょうか?
子どもが必要としていないのであればそれは問題はないことです。
この記事では、子どもが一人でいることの必要性と不必要性について、社会的スキル考え方の視点から解説していきます。

執筆:日塔 千裕
公認心理師・臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
休み時間に一人で過ごすことを不安に感じる背景
学年の変わり目は、新しい環境・クラスで友達とちゃんとやれているのかな?と不安や心配を感じている親御さんは多いことでしょう。
子どもたちにとっても、どんな環境になるのか、どんな人たちがいるのかな、今年もあの子と同じクラスだといいな…とドキドキをして、入学や新学期を迎えたことと思います。
童謡「一年生になったら」の歌詞にある「友達100人できるかな」に現わされているように、日本では友達が多いこと、クラスみんなと仲良くすることを“正”として風潮が否めません。
保育園・幼稚園、学校でも、そのような指導が行われていることが多くあります。
「友達と一緒にいることがあたり前」
「一人でいるのは寂しいこと、問題のあること」
そんな風に無意識に考えていないでしょうか。
ただ、子どもが休み時間に一人で過ごすことは、必ずしも悪いことではありません。
その子自身の性格や気持ち、発達の段階によっては自然なことであり、むしろ尊重されるべき側面がある場合もあります。
子ども自身が周りの子たちと遊びたいのに遊べない、輪の中に入れないのか。
子ども自身は一人でいることを気にしておらず、むしろ有意義な時間を過ごしているのか。
まずはそこを考えてみてください。
以下では、子どもが休み時間に一人で過ごすことが必ずしも悪いことではない理由を、5つの観点からお伝えいたします。
休み時間に一人で過ごすことの5つのプラスな理由
1. 一人でいることは、自己選択であり自己理解のあらわれ
子どもが一人でいる理由にはさまざまな背景があります。
単に「友達がいないから」ではなく、「今は一人で静かにしたい」「読書を楽しみたい」「好きなことに集中したい」といった、自分なりの過ごし方を選んでいる場合もあります。
このような自己選択は、子どもの自己理解の表れであり、自立心や主体性が育っている証拠でもあります。
しっかりと自分の“好き”や“やりたい”を持っていて、自分自身がどう過ごしたいのか、どう過ごすと勉強の時間との気分転換ができるのかなどを理解できていると言えるでしょう。
2. 内向的な性格や繊細さはその子の個性!
すべてのこどもが外向的で社交的なわけではありません。
人と一緒にいることでエネルギーを得る「外向型」に対して、静かな環境で一人の時間を楽しみ、エネルギーを回復する「内向型」のこどもも多くいます。
こうした内向的な性格は、決して劣ったものではなく、思慮深さや創造性、観察力といった豊かな内面を育む基盤でもあります。
一人でいる時間を好む子どもは、単に「人と一緒にいることが苦手」なのではなく、「一人の時間が心地よい」「集団の中では疲れやすい」と感じているだけかもしれません。
それはその子なりのバランスの取り方であり、無理に社交的なふるまいを求めることは、逆にストレスや不安を生む可能性もあります。
すでに子ども自身が自分のストレスケアの方法を獲得できていると言えるでしょう。
3. 友達関係は「数」ではなく「質」が大切
大人でもそうですが、人間関係の豊かさは必ずしも人数の多さではありません。信頼できる一人の友人がいれば十分という考え方もあります。子どもにとっても、「常にグループで行動する」ことが良いとは限りません。
一人で過ごしているように見える子でも、実は教室の外で信頼できる友達がいたり、特定の子と深い関係を築いていたりすることがあります。
また、子ども同士の関係は日々変化します。今は一人でいる時期でも、その状態が一生続くとは限りません。
休み時間には一人で過ごしていたとしても、クラスの活動には参加できて関係性を築くことができていれば、人との関係を築く力は十分持っていると言えるでしょう。
4. 一人の時間がもたらす創造性と集中力
一人でいる時間は、内省したり、物事に深く集中したりする貴重な機会です。
子どもが一人で絵を描いていたり、本を読んでいたり、空想の世界に没頭していたりする姿は、決して「孤立」ではなく、「創造的な時間の使い方」です。
こうした時間は、大人になってからも創造力や問題解決力、自己表現能力の基礎になります。
学校生活の中で、そうした「静かな時間」を尊重する姿勢は、子ども自身の成長に大きな力となってくるはずです。
5. 休み時間も「学び」の一部
休み時間は、ただの「遊び時間」ではなく、子どもたちにとっての重要な「学びの場」でもあります。
自分の気持ちを理解し、どう過ごすかを選び、時には人と関わり、時には自分だけの世界に浸る——そのすべてが成長につながっています。
一人でいる時間も、子どもが「自分で選び、自分で考える」ための貴重な機会です。授業中にはみんなと同じことをするからこそ、休み時間は一人で過ごすことを選択している子もいます。
子ども自身の選択を尊重することが、子どもの自己肯定感や判断力にもつながっていくことでしょう。
「子どもが休み時間に一人なのではないか」と心配なとき
1. 一人でいることの背景を確認してみましょう
冒頭でもお伝えした通り、まずは”子ども自身がどう考えているのか”が最も大切です。
子ども自身が周りの子たちと遊びたいのに遊べない、輪の中に入れないのか。
子ども自身は一人でいることを気にしておらず、むしろ有意義な時間を過ごしているのか。
子どもと直接話をして、子どもの気持ちや考えを聞くことができるのであれば、それに越したことはありません。
それが難しいようであれば、担任の先生などに様子を聞いてみましょう。
この時、“休み時間に一人でいる”ことにばかり注目せず、授業中のこと、班活動や委員会、クラブ活動などまわりの人と一緒に取り組む必要があることなども、同じように聞いてみてください。
2. 子どもの発言は、否定せずに聴きましょう
子どもが一人で過ごしている理由や気持ちはさまざまです。
まず大切なのは、「どうして一人なの?」「友達作ったら?」といった否定的・誘導的な言葉を避け、本人の気持ちに耳を傾けることです。
「休み時間、どんな風に過ごしているの?」
「今日の〇〇の時間は、△△やるって言ってたよね。どんな感じだったの?」
「今日の委員会は、どんなことやったの?」
「一人で過ごしているときって、感覚とか感情とか、どんな感じなの?」
子どもからの返答は「そうなんだね」「そう感じたんだね」「そんなことがあったんだ」とありのままを受け止めてあげられるといいですね。
親御さんが返す言葉で「こうした方がもっといいんじゃないの?」「何でそんなこと言うの?」など指示的な声掛けや否定的な内容になってしまうと、子どもからの話を引き出すことが難しくなってしまいます。
3. “一人の時間”の価値を認める声かけをしてみましょう
一人でいる時間を選んでいる子どもにとって、周囲の「一人でいる=かわいそう」という雰囲気は大きなストレスになります。
もしかしたら、学校で友達から「いつも一人でいるよね」などと陰口のようなことを言われていたり、先生から「みんなと外で遊んでおいで」などと休み時間もみんなと遊ぶことを強要されるかのように感じる声かけをされていたりすることがあるかもしれません。
家庭の中でこそ、「自分のペースを大切にしていいんだよ」と肯定してあげることが重要です。
「一人で過ごすの、いい時間だよね」
「自分の好きなことに集中できるのは、ステキなことだよ」
「自分を大切にできてて、それってすごいことだよ」
このような言葉は、子どもの自己肯定感や、自分の選択に自信を持つ力を育てることにつながります。
4. 点ではなく、生活全体での子どもの人間関係に注目
今のクラスの中の休み時間という狭い範囲で考えるのではなく、子どもの生活全体で考えてみてください。
休み時間は一人で過ごすことが多かったとしても、
- クラスの班活動のようなときには話ができるクラスメイトがいる
- 給食の時間には班の子と楽しく話しながら食べている
- 同じクラスには仲の良い友達はいないけれど、別のクラスで放課後に時々遊ぶなど仲の良い子がいる
- 学校ではあまり仲良くしている子がいないけれど、塾や習い事が一緒の子とは仲良くしている
学校やクラスといった、自分で選択していない環境の中で、仲良くできる子を見つけるというのは奇跡に近いと言っても過言ではないでしょう。
今のクラスという子どもの一生からしたらほんの一瞬の時間である点で考えるのではなく、今の時期の生活全体という範囲を広げて考えたり、これまでの生活という線で考えたりして、子ども自身の人間関係の築き方やコミュニケーションスキルを見てあげられるとよいでしょう。
やるべきときのコミュニケーションスキルがあれば十分!
休み時間に一人で過ごしていることが多かったとしても、それは悪いことばかりではなく、さまざまなプラスの側面もあり、子どもの成長につながることもあります。
大切なのは、学校の中でみんなとやらなければならない活動、たとえば班活動や行事などのときに、必要なコミュニケーションが取れているかということです。
それも難しいようだということであれば、“生きづらさ”を抱えてしまう可能性があるため、担任の先生やスクールカウンセラーなどまわりの人のサポートも得ながら、お子さんが生きやすくする方法を考えていくことが必要かもしれません。
やらなければならない活動のときには、まわりの子たちとコミュニケーションを取って活動に取り組むことはできているということであれば、
- コミュニケーションスキルは持っている
- “やるべきこと”と“やりたいこと”は明確に理解している
- まわりに合わせる必要がない場面では自分の意思を貫く強さを持っている
- お子さんなりのストレスコントール方法をすでに獲得している
など、「長所がたくさん!」と捉えていただけるとよいでしょう。
これは、お子さんはすでにしっかりとした『生きる力』を獲得できているとも言えます。