「先生!うちの子、算数が苦手でどんな勉強をすればいいのでしょうか!?」
小学校の先生をしていて、こんな相談を受けることはとても多いです。
親御さんにとって子どもが算数でつまずくことは、他の教科でのつまずきよりも大きな心配事になってしまうようです。
この記事では、子どもが算数を苦手になる理由やその解決法について提案します。
この記事を書いた専門家

植松 敬太
私立小学校教諭
算数教育に関して、大学・大学院で専門的に学び、日々教材研究や授業研究に取り組んでいる。小学校算数科教科書の編集にも従事。
子どもが算数を苦手になる理由
現実場面がイメージできない
算数は、高学年になればなるほど、より抽象的な内容が多くなります。
1年生の算数の問題は、自分の生活と身近で考えやすい物も多くあります。
しかし、学年が上がるにつれて、自分の生活ではあまり聞きなれない言葉や考え方が増えていきます。
大人にとっては身近であたりまえのことでも、子どもにとってはあたりまえではない。
そのような場面や内容に遭遇したときに、丁寧に扱わないと、だんだん子どもは算数が苦手になり、嫌いになるきっかけとなるでしょう。
単元のやり残しがある状態で次の単元が進んでしまう
算数の特徴の一つに、系統性が重視される教科であるということがあります。
つまり、新しい内容を学ぶ際に、前に習ったことを使って解くことが多いということです。
前の単元で学んだことをどれだけ理解しているかで、次の単元の理解度は変わってきます。
例えば、5年生で平行四辺形の面積を学ぶ際、読者のみなさんは、どうやって解くか覚えていますか。
もちろん、底辺×高さという公式を知っている大人にとっては、すぐに解けてしまいますが、公式を知らない子どもたちはどのように解くのでしょうか。
子どもはこの時、平行四辺形をある形に変形して解きます。それは長方形。長方形の面積は、4年生で学習済みだからです。
長方形の面積の学習をしっかり理解している子にとっては、平行四辺形を長方形に変形して考えればいいということに気づくことで、この時間の学習内容はほぼ終わりです。
しかし、長方形の面積の出し方を理解できていない子にとっては、結局平行四辺形の面積の出し方も理解できず、わからない問題が積み重なってしまいます。
系統性が重視されるため、学んだ内容がしっかり理解されていないと、どんどんわからない内容が積み重なっていくことになるでしょう。
算数は速く・簡単・正確にという価値観で捉えられてしまう
みなさんは、算数の授業で「は・か・せ」という言葉を聞いたことはありますか?
「は・か・せ」とは、速く・簡単に・正確に頭文字を取った言葉です。
地域によっては、はかせどんと言って、「どんなときも」を付け加えることもあります。
よく算数の授業では、計算問題などを解くときに、この3つのものさしで得意か不得意かを判断されることがあります。
しかし、計算問題をするときに、速くできる子もいれば、じっくり計算して遅い子もいるでしょう。
また、簡単にできる方法を考える子もいれば、ややこしい方法で解く子もいるでしょう。
様々な子どもがいる中で、「は・か・せ」だけに光を当てられると、そうでない子にとっては算数が苦手だと自分で決めつけてしまう可能性があります。
算数が苦手な子へのアプローチ
現実場面を想像できるように絵や図を活用する
算数の問題を読んで一度で理解できる子は、あまり多くありません。
しかし、問題場面を理解することは、問題解決する前の段階で意外と軽視されてしまうこともあります。
文章題などを読ませたとき、現実場面がイメージできているかどうか、解く前に確認することが大切です。イメージできていないのであれば、簡単な絵を描いて説明したり、図を描いて説明したりすることが効果的です。
もしくは、子ども自身に絵や図を描かせることで、イメージできているか確認することもできます。
適切な絵や図が描けていれば、そのまま問題解決していいでしょうし、描けなければ問題場面を把握させることから始めましょう。
また、問題解決した後に現実場面に戻ることも大切です。
例えば、現実場面をイメージできないと間違えてしまう問題に次のようなものがあります。
「140人で遠足に出かけるとき、30人乗りのバスを何台借りますか。」
このとき、140÷30=4あまり20となります。特に深く考えずに答えを4台としてしまう子もいます。
しかし、現実場面をイメージすると5台とする方がよさそうだということに気づきます。
また、優しい子は「5台のうち1台だけ20人だとさみしいよ!」などと考える子もいるでしょう。
そのときには、どのバスも平等に乗るためには何人ずつ乗ればいいかな?という問題に変えて考えることもできます。
子どもの素朴な発想を大切にし、柔軟に問題を変えることで、より多様な考えが出やすくなります。
現実場面をイメージすることは、苦手な子が理解しやすくなるだけでなく、より多くの子にとって算数を柔軟に考えるきっかけになります。
前の単元の内容に戻ってやり直す
算数は系統性が大切だということを書きました。
5年生の面積の例を出しましたが、もし4年生の内容がわからなければ、戻ってやり直すことも大切です。
先ほどの例で、長方形の面積が出せないのであれば、どうやって考えたのかもう一度考え直しましょう。
ちなみに、この長方形の面積の出し方については、公式が「縦×横」ということを覚えていても、なぜその公式で出せるのか理解している子は少ないことが多いです。
大人でも、改めてなぜ「縦×横」なのか考えると、わからないという方も多いかと思います。
私も教師になるまで、忘れていました。
この時、そういうものだからで終わってしまうと、算数が苦手になる子が増えてしまいます。
なぜだろうと、まずは大人も一緒に考えることが大切です。算数は、学年が上がると、意外と大人でもわからない問題が多くあります。
恥ずかしがらず、自分もわからないから一緒に考えようと言えば、子どもにとっては、「なんだ!大人でもわからないんだ!わからないことはわからないと言おう!」と思えるきっかけにもなるでしょう。
このような知的正直さは、何歳になっても大切です。子どもが主体的に学び続けられるよう、わからないことを正直に言える大人でいることが子どものためにもなると考えています。
多様な価値観を大切にする
算数の価値観を、「は・か・せ」だけで伝えると、そうでない子は苦手意識をもってしまうと書きました。
算数嫌いな子には、それとは違った価値観も伝えていくことが大切です。
例えば、じっくり問題を解いている子には、「あなたは一つの問題にそんなに時間をかけて、とても粘り強い子だね。研究者に向いているかもしれないよ!」といった言葉がけはどうでしょうか。
また、一見ややこしい方法で解いている子に対しても、「色々な解き方があるんだね。一通りだけではなくたくさん方法を考えられるなんて、頭が柔らかいな!」といった言葉がけをするのも一つの方法です。
子どもに対する価値づけ方一つで、算数が苦手な子というレッテルではなく違う価値観を伝える機会となります。
一つのものさしだけではなく、様々なものさしで子どもの個性を見出すことが、大切だと考えています。
おわりに
今回は、算数が苦手になる理由と、その子に対するアプローチについて書いてきました。
小学校では、学年が上がるにつれてだんだんと算数に対して苦手意識をもつ子が増えてしまいます。
しかし、算数が苦手になるきっかけを一つ一つ無くし、子どもが前向きに算数に取り組む機会を作ることで、確実に算数が嫌いな子を減らすことができます。
今回の記事が、小学生を子どもにもつ保護者のみなさまや、学校の先生方の一助になれば幸いです。