やりなさいと言われるとやりたくなくなる、ダメと言われるとやりたくなる…こんなご経験はありませんか。
また、お子さまが言った通りにしてくれなくて困ったことがある方も多いかもしれません。
今回は、こうした現象を理解するのに役立つ知識として「心理的リアクタンス」について解説してみます。
また、その知識を活用することで、言いたいことを伝える時や受け取る時の困り事やストレスを減らす工夫についても併せてご紹介させていただきます。
この記事を書いた専門家
山崎 日菜乃
公認心理師、臨床心理士
心理士としてメールカウンセリングに3年半従事し、家族関係の悩み、心身の不調、仕事の悩みなど、様々な困り事へのサポートを行う。アメリカ合衆国在住。
目次
心理的リアクタンスとは
心理的リアクタンスとは、人が自由を失ったり制限された時に自由を回復しようとする心の動きのことです。
この心理現象は、1966年にアメリカの心理学者Jack W. Brehmによって提唱されました。
具体的に、以下の2つの例をご紹介します。
やりなさいと言われるとやりたくなくなる
子供の頃、そろそろ勉強しようかなと思っていたところに親から「早く勉強しなさい」と言われて、途端に勉強する気がなくなってしまった経験はありませんか?
この場合、親から「早く勉強しなさい」と言われたことで、自分が持っているはずの勉強をしない自由や、勉強を始めるタイミングを決める自由が制限されたことになります。
すると心理的リアクタンスが生じ、親の言う通りではない行動をすることでそれらの自由を取り戻したくなったと考えられます。
制限されるとやりたくなる
“期間限定”や”お一人様○個まで”として売られている商品が他の商品より魅力的に見えたり、買いたくなったことはありませんか?
この場合、購入できる期間や個数が制限されることで、その商品を買うことのできる自由や、購入するタイミング/個数を決める自由が制限されたことになります。
すると、心理的リアクタンスが生じ、買えなくなるかもしれない商品の魅力が高まったり、実際にその商品を手に入れることで自由を取り戻したくなったと考えられます。
心理的リアクタンス理論における「自由」
ここまでの説明で自由という言葉が度々出てきましたが、心理的リアクタンス理論における自由とは、その人がすることができると思っている行動を好きなように実行したりしなかったりできる自由のことです。
例えば、休日の朝起きて、今日は何しようかな?と考える時、色々な行動が思い浮かびますよね。
まずはもう少し二度寝して、それから洗濯をしなきゃ、お昼はあのお店に食べに行こうかな…など。
そのように、自分にできると思っていた色々な行動のうち一つでも好きなようにできなくなったり、しにくくなったりすると、その人にとって自由が失われた/制限されたということになり、心理的リアクタンスが生じると考えられます。
心理的リアクタンスを活用する
伝える編
公共のトイレに、「きれいに使ってくれてありがとうございます」という張り紙が貼られているのを見たことはありませんか。
あのメッセージは、強制的なメッセージ(例えば「必ずきれいに使ってくださいね」)ではなく、読み手の自由を損なわない言い方になっていますよね。
そうすることで心理的リアクタンスが引き起こされるのを避け、読み手自身の意思できれいに使ってもらえるよう工夫されていると言えるのかもしれません。
このように、心理的リアクタンスの知識を使うことで、本当に伝えたいメッセージを相手に伝えるための工夫をすることができます。
その際ポイントになるのは、相手の意思や、自分のことは自分で決めたいという思いを尊重する伝え方をすることです。
以下に、具体的な工夫をいくつかご紹介します。
まずは相手の意見を聞く
こちらの伝えたいことを言う前にまず相手の意見を聞くことで、同じ内容を重ねて伝えてしまうことによって心理的リアクタンスが引き起こされるのを防ぐことができます。
例えば、そろそろゲームをやめてほしいと伝えたい時に、本人の意見を聞く前に「もうやめなさいよ」などと言ってしまうと、例えその時本人がゲームをやめようと思っていたとしても、心理的リアクタンスによって、やめたくなくなってしまうことが考えられます。
そのため、まずは「何時までの予定?」などと相手の意見を聞いてみるのがおすすめです。
この時、あくまで相手の意見を聞く態度を保ち、早くやめなさいという無言のプレッシャーを与えないようにすることがポイントです。
「私」を主語にする
「あなた」を主語にすると、命令形や強制するような言い方になってしまいやすいです。
そうすると心理的リアクタンスが引き起こされやすく、伝えたいことが伝わりにくくなってしまいます。
例えば、そろそろ宿題にとりかかってほしいと伝えたい時に「(あなたは)いつまでダラダラしてるの!」「(あなたは)早く宿題やりなさいよ」などと言うと、自由を制限されたと感じられやすく、心理的リアクタンスが生じて反発したくなってしまうことが考えられます。
その代わり、「(私は)そろそろ宿題を始めてほしいよ」「(私は)宿題が終わるのか心配になってきた」などと「私」を主語にした伝え方にすることで、命令や強制ではなく伝えたいことを伝えることができます。
この時、あくまで自分の気持ちを伝えるという姿勢を保ち、相手を思い通りにしようとしないことがポイントです。
受け取る編
メッセージを受け取る側の場合、例え相手のメッセージが自分にとってプラスになる内容や自分の意思と同じ内容だったとしても、心理的リアクタンスの影響で反発したくなってしまうことがあります。
例えば、恋人と別れようかなと考えていてそのことを友達に相談すると「そんな人とは今すぐ別れなきゃダメだよ!」と言われて、「本当にそうかな?恋人には私しか知らないいいところもあるし…」などと思って別れたくなくなってしまう。
このように、相手から強制や命令されたことをきっかけに心理的リアクタンスが生じ、もともとの自分の意思を見失ってしまうことがあります。
心理的リアクタンスの知識は、メッセージの受け取り手としてそうした事態を防ぐことにも役立てることができます。
心理的リアクタンスが起きた時にできる具体的な工夫をいくつかご紹介します。
自分のことは自分で決めることができると意識する
相手から命令口調や強制されるような言い方をされたら不快な気持ちになってしまいますよね。
心理的リアクタンスが起こるのも自然なことです。
そのような時でも、もともとの自分の意思を見失わないようにするためには、「自分のことは自分で決めることができる」「自分がどうするかを決められるのは自分だけだ」ということを意識してみるといいと思います。
例えば、先程の例では、「恋人と別れるかどうかを決められるのは自分だけだ」と意識することで、友達の意見を一旦横において、自分が本当はどうしたいかを落ち着いて考えやすくなるかもしれません。
今ある自由に目を向ける
時には、どうしても自分の自由が制限されてしまうこともあるでしょう。
人と関われば、強制や命令されたことをやらなければいけない時もありますし、いつも自由が守りきれるわけではありませんよね。
そのような状況で心理的リアクタンスが生じた時は、その制限の中で選べる自由に目を向けてみるのもいいと思います。
例えば、そろそろ好きな漫画でも読もうかなと思っていたところに「今すぐスーパーで卵買ってきて!」と言われた時、心理的リアクタンスの影響によって、今漫画を読むことがより魅力的に思えたり、言われた通りには行きたくないと感じることが考えられます。
それでも行かなければいけない時は、今からスーパーに行くという制限があっても選べる自由を考えてみると、ストレスが和らぐでしょう。
具体的には、スーパーから帰ってきてから漫画を読む、スーパーで好きなお菓子も買ってくる、スーパーまでいつもは歩いて行くけど自転車で行ってみる、好きな服を着て行ってみる、このような自由が思い浮かぶかもしれません。
そして、どの自由を行使するか決めるのは自分自身です。
自由が制限された時こそ、今ある自由に目を向けることで、心理的リアクタンスによるネガティブな影響を防げます。
おわりに
人は、自分のことは自分で決めたいという意思を持っていて、自分でした選択に価値を感じやすいと言われています。
心理的リアクタンスは、大切な自由を守るための心の動きでもあるのかもしれません。
心理的リアクタンスについて知っておくことで、言われた通りにしたくないという気持ちを理解しやすくなったり、相手や自分の自由を尊重するコミュニケーションに繋がるといいなと思います。
参考文献
Brehm, J. W. (1966) A theory of psychological reactance. New York: Academic Press.
深田 博己(1997) 心理的リアクタンス理論(1) 広島大学教育学部紀要. 第一部, 心理学 45 35-44.
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