お子さんが発達障害の診断を受けていたり、診断は受けていなくてもお子さんの発達が心配であったり、あるいはグレーゾーンと言われていたりするような場合、親御さんはさまざまな情報収集をしていることと思います。
本を読んだりネット検索をしたり…。複数の療育機関に通わせている場合もあるでしょう。
お子さんがどんな状態なのか、お子さんの行動の背景に何があるのか、どのような関わりが必要なのかなど、多くの情報を調べている親御さんが多いと思います。
今はネットで調べれば何でも情報が得られる時代ですから、一般的知識として得ている親御さんがほとんどです。
すぐに何でも調べられる一方で、情報が多すぎて何が正しいのか、何が自分の子どもに合っているのか分からないということが生じている場合もあると思います。
本記事では、子どもへの関わり方について、具体例を挙げながらヒントとなるステップを解説していきたいと思います。
こちら。
発達障害/発達凸凹とグレーゾーンに関する記事一覧はこの記事を書いた専門家
日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
「何をやってもうまくいかない…」と感じる理由とは!?
発達が気になるお子さんへの関わり方として、よく言われているのはこんなことがあると思います。
・ほめる
・視覚的手掛かりを使う
・見通しを立てる
・具体的に短く伝える
・肯定的表現で伝える
これらの1つひとつの意味は分かるし、どんな風にすればよいかも分かるけど、日常の中ではうまくいかない…という人が多いように思います。
というか、私の元に来られた方からはそのような話をよく聞きました。
多くの書籍やネットの情報として書かれているものは、お子さん側の視点のみで書かれており、発達特性のあるお子さんのことだけを考えれば、そのような関わり方ができることが望ましいです。
一方で、実際的な日常生活というのは、お子さん一人のために親御さんが付きっきりで面倒を見ているわけではなく、親御さん自身が仕事をしていたり、家事もしていて、きょうだいがいるご家庭もあったりするわけです。
そのようなマルチタスクをこなす中で、発達特性のあるお子さんに関わるわけですから、お子さん一人のためだけに使う時間とエネルギーは当然ですが消耗しますよね。
親御さん自身が頭ではこういう関わりができるとよいという方法を分かっていたとしても、常に実践できているかというと、このような状況からとても難易度の高いものなのです。
今、「常に」と書きましたが、お子さんのスムーズな行動・切り替えの促しや成長の促しには、一貫して同じ対応をしばらくの一定期間続けていくということが大切なのです。
ここが日常生活の一部として親御さんが行っていくことの難しさであり、親御さんにとって「何をやってもうまくいかない」と感じやすい理由だと思います。
親御さん自身の関わり方をスモールステップで考えよう
スモールステップという言葉を聞いたことがある人は多いと思います。
お子さんの成長を促すためにいきなり大きな目標を掲げて行うのではなく、小さな目標を立てて少しずつ出来るように促していくように考えることがスモールステップです。これはお子さんへの支援方法の1つの考え方ではありますが、親御さんの考え方にもあてはまることです。
いきなり全場面、どんな状況でも、やり方を変えて、子どもに必要だと言われる関わり方を同じように出来るようにしようと思っても、ほぼ100%つまずくことでしょう。
「まずは休日だけ意識しよう」「夜の時間だけはできるようにしよう」時間であったり場面であったり、まずはこの場面なら取り組めそうかなと親御さん自身が思える状況を1つ決め、その場面だけは意識して、その関わり方を出来るようにする。その場面で自然に出来るようになったら、ほかの場面にも広げていくというように徐々にステップを上げていくことが大切です。
本来であれば、このあたりの考え方や指針の定め方を支援者である専門家が行うべきだと私は考えています。
親御さんからさまざまな不安や心配などの話を聞く中で親御さんやお子さんの状況を把握し、「まずはここを意識していきましょう。ご家庭でもこの部分だけ実践してみてください」と日常生活に取り入れやすい方法の助言を行うことができるべきだと。
ただ、残念ながら支援に携わっている方々でもそこまで出来ている人ばかりではなく、これをお読みいただいている親御さんはそのような支援者に出逢えていないからこそ、ここにたどり着いたのではないかと感じます。
ご家庭の状況、お子さんの特性はさまざまであり、その相互作用によって、今優先的に考えられるとよいことは変わってくるため、このような文章の中でお読みいただいている方に完全にフィットする対応方法・考え方を提示するのは難しいですが、考え方のヒントとして活用いただければと思います。
お子さんへの教育方針の優先順位を考えよう
現時点でのお子さんへの躾や教育方針として、親御さん自身が最も大事にしたいこと、最も今身につけてほしいと考えていることは何でしょうか。
たとえば、基本的生活習慣の自立、友達と仲良く遊ぶこと、挨拶などの礼儀作法、お箸の持ち方や姿勢など食事マナー、決められた宿題を行うなどの勉強習慣…。どれもきちんと出来てほしいし、どれも身につけていってほしいという親御さんがほとんどかと思います。
でも、先ほどお伝えしたスモールステップの考え方で、まず目標とすべきことを絞っていくということが大切なのです。なので、“最も”大事にしたいというものを見つけるために優先順位を考えてみてください。
先の将来を考えて不安になり焦る気持ちも最もですが、焦れば焦るほど親御さんの想いとお子さんの成長が反比例してしまう可能性があるため、1段ずつ階段を上るイメージで進めていくことが大切となります。
夫婦では、最も大事にしたいと考えることが異なることもあり得ます。夫婦で話し合いができ、1つのものに決めて足並みを揃えて対応できるに越したことはありませんが、それが難しい状況の場合もあるでしょう。
そのような場合は、「私はこの部分ではこうするけど、あなたはそこに関しては口を出さないで。代わりに、あなたはこの部分ではこうしてもらったらいいから、私は口は出さない」と場面によって役割分担をすることも方法です。
優先順位を考えた上で、実際にどう対応していくかということを少し具体的事例を含めながら説明していきます。
たとえば、お箸の持ち方や食事中の姿勢など食事マナーが気になるという場合で考えてみましょう。食事中、お箸や姿勢というのは常に行っている状況なので、お箸も姿勢もとなると食事中、ずっと注意をし続けてしまう状況になりかねません。注意が続くと食事場面が嫌な雰囲気になり、食事を楽しめません。食事を楽しい時間にすることは忘れないでいただきたいです。姿勢は体幹機能の弱さがあるため、体幹を鍛えるトレーニングを日常的に取り入れるようにするなど別の時間で考え、食事時間はクッションなどを用いて姿勢を維持しやすい方法を見つけられると良いです。
そうして、まずは姿勢への注意は控え、お箸の持ち方のみに焦点を当てていきましょう。気をつけなければいけない点としては、お箸の持ち方が崩れる度に注意すると、食事時間での注意の回数が増えてしまいます。なので、1回の食事の間で注意は3回までなど親御さんの中で回数の基準を作れるとよいでしょう。
注意の仕方についても、
ステップ①は「お箸はこう持つよ」と具体的に持ち方を伝える。
持ち方自体は分かってきたらステップ②で「お箸の持ち方はどうだったっけ?」とお箸というヒントは与えつつ、お子さんに考えるように促す。
その声掛けでも出来るようになってきたら、ステップ③で「あれ?なんか食べ方おかしくない?」などとさらに抽象的な表現にして、お子さんが自分でお箸に意識を向けることをできるようにするというようにステップを上げていけるとよいでしょう。
小学生であれば、よく親御さんから聞くのは勉強時の姿勢もあります。姿勢を意識させ、かつ宿題も正確に取り組むとなると、お子さんにとっては階段を何十段も一気に登るように求められ、宿題への集中力の低下という逆効果になることもあり得ます。宿題に取り組めているのであれば、姿勢は目をつぶるということが必要です。
姿勢の方が大事、優先と考える場合には、宿題が最後まで取り組めなくても出来たとこまでで学校に持って行かせることになるかもしれないことを踏まえて、姿勢への声掛けを行うというように、どちらを優先するかと天秤にかけていくことが必要になってくるでしょう。
おわりに
このように聞くと、とても気が遠くなると感じる方もいることでしょう。
周りの子どもたちの発達を見て、比べてしまい、焦ってしまう方もいると思います。
比べてはいけない、比べても意味はないと思っていても、焦る気持ちや不安な気持ちは当然のことです。
親御さんからのアプローチで大きな成長を促すことができるのは主に小学生までで、長く見ても中学生まで。
そこまでに着実に一歩ずつ進むことができるようにするためには親御さん自身の考え方をスモールステップに分解してゆっくりと長期戦で考えていくことが大切です。
こちら。
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