我慢ができる人に育ってほしいというのは、多くの保護者の願いですよね。
しかし、どう育てれば良いのかという方法論については、「我慢を学ばせる」かのように、子どもに我慢を強いる方法が有効であると誤解されている方が多いかと思います。
本記事では、自身の臨床経験をもとに、我慢を強いる方法のデメリットや、我慢ができる子どもを育てるにあたっての必要な関わりについてご紹介します。
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杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
目次
我慢ができない子どもの特徴と原因
私の仕事の一つが、保護者と離れて暮らしている子どもたちと一緒に生活し、ケアをしていくことです。
この子たちは、親の病気や不慮の事故があったり、家庭で不適切な養育を受けてきたりしていますので、ほとんどの子どもたちは、小さい頃からたくさんの我慢を強いられて育ってきたと言っても過言ではありません。
そういう子どもたちがいるということを紹介すると、こういう環境で育ってきた子どもたちは、さぞ我慢強い子に育っているのだろうと思われる方がけっこういらっしゃいます。
しかし、残念ながら、実際はそうではないのです。
むしろ、この子たちの多くは些細なことでも我慢することが苦手です。
何かが満たされないという漠然とした飢餓感のようなものを抱え続ける一方で、自分が何を欲しいとか、何をしたいかが明確になりません。
プレゼントをもらえるという機会があると、「あれも欲しい」「これも欲しい」と欲しいものはたくさんありますが、実際に手に入れると数日で飽きてしまって、見向きもしないということがよくあります。
一緒に外出をして、「疲れたからアイスクリームでも食べようか」と大人が言うと、こういう子たちは「ありがとう」とは言えずに、「アイスだけ?もっと買ってよ」と言って大人の気分を害したりします。
このような子どもたちを20年以上見てきましたので、我慢をする経験を積み重ねるだけでは、人間は我慢ができるようにはならないと感じています。
我慢だけをする経験を積み重ねて、自分の思いを抑圧したりして、自分の欲求から目を反らすことができるようになっても、それは欲求の解消を先送りしているだけで消化はできていません。
そのため、その欲求は出口を求めて身体症状として出てしまったり、行動化して不適切な行動をとってしまったり、時には大人になってから自分の欲求をコントロールできずに問題を抱えたりしてしまうことにもなります。
子どもが我慢できるようになるメカニズム
では、自分の欲求とうまく付き合って、コントロールできる子どもたちはどのように育てられているのでしょうか。
どのような関わりをすることで、子どもが我慢ができるようになるのかということについて、ここでは触れていこうと思います。
最も大切なところは、我慢だけを強いてもうまくいかないというところです。
子ども達の成長を見ていくと良く分かるのですが、子どもは満たされた経験を重ねることで我慢ができるようになっていくのです。
満足した経験がないと我慢はできません。
もう少し正確に言うと、多かれ少なかれの我慢をした後に自分の欲求は満たしてもらえるという見通しがあれば、その時まで我慢できます。
なので、どうせ我慢しても自分の欲求は満たしてもらえないという思いが強くなってしまうと、今ここで自分の欲求を満たさないと次にチャンスが来ないと思ってしまうので、自分の欲求を抑えることができなくなってしまいます。
子どもが我慢できるようになる具体的な方法
それでは、子どもの欲求を満たしながら我慢ができるように育てることについて、更に具体的に触れて行きます。
「我慢ができた」経験の積み重ね
一つ目は、我慢ができたという認知や経験を積み重ねていくということです。
「この子は、全然我慢ができないんです」という保護者の相談を受けることがありますが、一緒に来てくれた、目の前の子どもは椅子に座って黙って聞いています。
「今は上手に座っていますね」とお伝えすると「でもね」と保護者は子どもが我慢ができない場面のことについてお話しされるということがよくあります。
このように、大人側がついつい子どもの我慢ができないところに注目してしまうということはよくあります。
例えば、スーパーに行って、子どもが「お菓子買って。1つだけ」と言っています。ここで大人が「お菓子ばっかり欲しがって。本当に我慢ができない子だ」と思うのと、「魅力的なお菓子がたくさんある中から1つを選ぶなんて偉い。1つを選んで、他の物は買わずに我慢するんだ」と思うのでは、子どもへの接し方は大きく変わってきます。
ここで、子どもに「1つだけ選んで偉いね。他のは我慢できたんだね」と伝えることで、子どもの中には我慢できた経験というものが積み重なって行きます。
これは非常に大切なことです。
「この子は、全然我慢ができないんです」と親に言われ続けている子どもが「そんなことはない!絶対に我慢できるようになる」と反骨心で頑張ることは、残念ながらありません。
自分は我慢できる子なんだという自己イメージを育てていく必要があるのです。
我慢できたあとの良い体験
二つ目は、我慢した後に欲求を満たしてもらうという体験を積み重ねることです。
我慢ができない子の多くは「今」「ここで」自分の欲求を満たすか、永遠に満たされないか、という二つの選択肢しか持っていません。
そうではなく、我慢したら欲求を満たしてもらえるという体験が必要です。
初めから「あと1年経ったら買ってあげるね」と言われて我慢できる子どもはいませんので、まずは短時間の我慢体験から積み重ねましょう。
たとえば、子どもとスーパーに行ったら、入ってすぐの所にある「ガチャガチャ」の前で子どもが止まって「これ欲しい」と言って、親としても買ってあげても良いかなと思うとします。
そこで「お買い物が終わったら、1つ買ってあげる」と提示します。
ご想像の通り、買い物中は「まだ」「早くして」と急かされることはありますが、「買い物が終わるまで、我慢しようね」と返していきます。
「良い子にしてたら買ってあげる」という条件付きの約束は、をするのであれば、「良い子」ではなく、どういう行動を親が求めているのか、どういう行動をしたら買ってあげないのか、等を具体的に提示してあげる必要があります。
さて、無事に買い物が終わったら、「お買い物の時に我慢できたから、約束通り、ガチャガチャしていいよ」と伝えます。
ここで絶対にやってはいけないのは買い物が終わってから「お買い物の時にうるさかったから、今日は買いません」ということです。
どうしても親として許せないことがあったのであれば、その時点で「この行動は許せないから今日は買えない」と伝えるべきです。
後から言われてしまっては、子どもは我慢したのに買ってもらえなかったという経験を増やしてしまい、我慢しない方が良いということになってしまうのです。
もちろん、お家の経済状況や養育観によっては、すぐに満たせない欲求もあります。
それでも、「お誕生日の時に買ってあげる」とか「今度の日曜日には買えるよ」など、明確な見通しを提示し、大人がそれを守ることで、子どもは我慢したら自分の欲求は見たしてもらえるとか、我慢した方が得という感覚を身に付けて行きます。
なお、「これを子どもに買い与えることはできない」とか「その行動はさせられない」と大人が判断することもあります。
そういう時には「またいつかね」等で誤魔化すのではなく、はっきりと「うちは、これを買うことはできない」「それはさせられない」と伝えることをおすすめします。
それでも欲しい、やりたいというのであれば、その気持ちが分かるように親に説明してほしいと伝えて行きましょう。
親と交渉するのか、それは面倒くさいからあきらめるのか、いずれにせよ、最終的には子どもが決断したという形にするのが望ましいです。
余談ですが、「ガチャガチャ」って、欲しいものが手に入らないことが多いですよね。
やってみたものの「これ、欲しくなかった」「もう一回だけ」ということにもよくなります。
そういう時には「ガチャガチャ」をする前に「欲しくないのが出るかもよ」という見通しを伝えたり、「欲しくないのが出ても、今日はもうしないよ」と約束しておくのが効果的です。
欲しいのが出なくて悲しんでいても「1回だけっていう約束を守れて偉かったね」と評価してあげたり、「次は~の時にしようね」と伝えてあげてください。
なお、私は自分の子どもが「ガチャガチャ」をする時には、「お家に帰ってから開けよう」ということにしています。
そうすれば、「お家まで我慢して偉かったね」とも言えますし、もう目の前に「ガチャガチャ」の機械がないので、欲しいものが出なくても「もう一回する」と言うこともほとんどありません。ご参考までに。
おわりに
最後になりますが、我慢について考える時に、押さえておきたいポイントは、「~したいとか、~が欲しいという欲求を持つということは、人間として自然なことである」というところです。
何かを手に入れたり、行動してみることで、子どもは必ず、そこから何かを学びます。
それは大人から強制されたものではなく、自主的に行っていることなので、自然と学ぶことができます。
大人が良かれと思って買い与えた本よりも、自分で欲しいと思った本の方が子どもは読むでしょう。
ほとんどの子どもは、小さい頃は、何らかの欲求を持っています。
しかし、欲求が満たされない経験を積み重ねると、子どもはあきらめてしまい、何も欲しくない、何もしたくないとなってしまいますし、無気力で勉強も何もしたくないとなります。
一度こうなってしまうと、ここから回復していくのは非常に時間がかかることが多いです。
子どもが「~が欲しい」とか「~がしたい」と言う時が、親としては子どもが成長するチャンスだと思ってみてはいかがでしょうか。
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