「手を繋いでくれなくなったな」「口の聞き方が、生意気になってきたな..」
子どもが思春期に突入したかな?と思うキッカケは、ご家族それぞれ。
でも、保護者がおさえておきたいポイントは、共通しています。
小学校中学年(プレ思春期)以後の子どもをお持ちの保護者向けに、小児科医が医学的・心理学的な視点に基づいて解説します。
この記事を書いた専門家
白井 沙良子
医師、日本小児科学会専門医
都内クリニックでは、乳幼児健診や育児相談も担当。医療記事執筆や企業セミナーなどを通じて「エビデンスに基づいた育児情報」の発信を行う。
思春期は「心のへその緒」を断ち切るとき
「思春期」と聞くと、ネガティブなイメージがある方も、少なくないと思います。
とにかく親や先生の言うことを聞かない、「うっせえな!」「うぜー!」などの暴言。友だちと悪ふざけばかり。
でも医学的・心理学的に「思春期」をみると、「成長に必要なプロセス」というポジティブな面があります。
反抗できるのは、心から信頼できる相手だからこそ、なんです。
生まれてずっと一緒に過ごしてきた、お母さんお父さん。
もちろんイヤイヤ期、小さな反抗や口ごたえなど、小さなお子さんなりの「自我」を感じることは、今までもあったでしょう。
ただしそれは「お母さんお父さんと、自分とが、常に一緒でいたい。同じ価値観を共有していたい。」という欲求の裏返しでもありました。
というか、乳幼児期の子どもにとって、親と自分の考えや価値観が違う、ということは、そもそも想像もしていないし、受け入れられない事実なんです。
小さな子どもにとって、あくまで自分は「親の分身」なんですね。
一方で、小学校中学年くらいになると、少しずつ自分や周囲を客観視する力が伸びてきます。
すると「あれ?自分は、お母さんお父さんと、全然わかり合えないことがあるな」と気づき始めます。
本格的な自我の目覚めに入っていくのです。
こうして子どもが「親の分身ではない自分」を確立するために「思春期」という過程が必要になります。
自分とは違う価値観をもった親を、疎ましく思い、避けたい気持ち。一方で、自分にとっては唯一の存在である親と、離れることへの不安や心細さ。
この対立するアンビバレントな気持ちの中で揺らぎながら、自分が本当に大切にしている価値観に気づき、一人の人間として独立していきます。
「あっち行けよ!」とか言ながら、心の中では「あっち行かないで。そばにいて。」と思ってるんです。
生まれたときに、赤ちゃんとお母さんのへその緒を切りますね。
それになぞらえて、思春期とは「親と子の、心のへその緒」を断ち切るとき、という表現があります。
今まで素直でかわいかった子どもが豹変していくさまを見るのは、保護者もしんどいですが、子どもも不安定で苦しい時期なんですね。
思春期の子ども対応「3つの軸」
「思春期は、こうしたらラクに乗り切れるよ!」みたいな、魔法のメソッドはありません。
親子の関係や、家庭の状況はケースバイケースですし、ある日急に思春期が始まったり終わったりするような、時間で区切られたイベントでもないからです。
ただし「思春期の子ども」に対して、保護者がどう接するか、を医学的・心理学的に分析してみると、意外とシンプルな3つの軸におさまります。
認められてる感
1つめのコツは、何よりも「子どもに『自分は認められているんだ』と感じさせること」です。
例えば「ほんとサイテーだよ!」とか「やってらんねーよ!」みたいな暴言であっても「へー」「そうだね」「大変だよね」「つらいのに每日頑張ってるよね」など、「とりあえずそのまま受け止める」というイメージです。
これは心理学では「マズローの欲求5段階説」などと呼ばれるものです。
人を支えるピラミッドの一番下、基礎になるのは、生理的欲求(最低限の食料や住居など)、その上に、安全の欲求(心身の安全、経済的な安定など)、さらに所属の欲求(家族、友人など)があり、その上に承認欲求があります。
なお自己実現欲求や自己超越といった、自分が成長したり、社会に貢献したりするためにチャレンジする意欲というのは、このさらに上にきます。
つまり「どんな自分でも、とりあえず認めてほしい」という承認欲求が満たされてこそ、成長や自立が実現するのです。
ここで「そんな口の聞き方しないの!」「あんたが、ちゃんとやってないからじゃないの?」など、子どものネガティブな感情を評価したり、原因探しをしたりすると、子どもは「自分の感情を受け入れてもらえた」とは思えません。
承認欲求が満たされないままでは、何か新しいことにチャレンジしたいと思ったり、家族や友人、社会のために貢献したいと思ったりする気持ちは生まれません。
親としては悔しい感じもしますが(笑)、「どんな汚い口の聞き方でも、あんたは私の子だ。毎日がんばってんな!」くらい、少し上から目線でも良いので、ドンと受け流しましょう。
「私は今、この子の承認欲求を満たしてあげてるんだな、偉いな〜!」くらい、保護者の方が、自分自身を褒めても良いですね。
それも難しければ、子どもの笑顔の写真を壁に貼るのも良いとされています。
「あんたは、家族の一員だよ!」ということを暗に示して上げる作戦です(レッジョ・エミリア・アプローチにおけるドキュメンテーションの概念にも通じますね)。
自分イケてる感
2つめのコツは「子どもに『自分、イケてんじゃないか?』と感じさせること」です。
これもなんか悔しいですよね(笑)。
生意気な口を聞いている子どもに、さらにイケてるなんて思わせたら、もっと調子に乗るんじゃないか、とも思ってしまいます。
でも1つめの「認められてる感」にプラスアルファ、おまけをつけてあげるイメージで、実はとても大事なプロセスです。
たとえば、部活やテストなどで、普段よりも良い成績が残せたとき。
「どうしてそこまで頑張れたの?」「努力したからじゃない?」「さすがだね」など、まぐれではなく「自分の努力があってこそ良い結果になったんだよ」という自信につなげてあげる声かけがベストです。
そんな良いことなんて起こらないよ、という場合は、プチお手伝いも有効です。
絶対にできるだろ、という「テレビ消して」などをさりげなくお願いして、やってくれたら「ありがとう」。これで良いんです。
自分で決めてる感
3つめのコツは、保護者など周りからの押し付けではなく、いかに「子ども自身が、自分で決めた」と思わせるか、です。
心理学でいうところの「自己効力感」ですね。
小さなことだと「今日は宿題、何時までに終わらせたらいいと思う?」などです。
家庭のルールも、本人と交渉して決めるのが、思春期は肝心です。
もちろん保護者がトップダウンで「こうしろ」は命令するのはラクでしょう。
ただし「自分で決めて、自分で守っている」という感覚がないと長続きしません。
心理学上も「自分で決めたことは(人に言われたことよりも)最後までやろうとする」という一貫性の法則があります。
子どもの意思決定の記事は「親だけ」でがんばらなくていい
「こんなの、簡単にできたら誰も苦労しないよ」と思いますよね。おっしゃるとおりです。
繰り返しになりますが、思春期は「心のへその緒を、断ち切るとき」。物理的にも心理的にも、親子とも痛みを感じながら独立していくのに、簡単な近道はありません。
でも、こんな大変な作業、保護者の方だけでがんばろうとしなくて良いのです。
親を疎ましく思う思春期には、家庭以外にも、安全基地・居場所があることが、むしろ大事です。
どうしても親子は上下のタテ関係がベースになりがちですが、学校の友だちや先輩、塾の友だちや先生など、ヨコのつながりや、ナナメのつながりがあることが、思春期には欠かせません。
ピア・プレッシャーといって、親よりもこうした家庭以外の交友関係から、大きく影響を受けるのが思春期です。
「自分から離れていってるってことは、家庭以外に、ちゃんと居場所があるのねきっと」と思えると、反抗期の子どもへの見方が少し変わってきます。
家庭以外のコミュニティを信頼する気持ちも、思春期には必要なエッセンスなのかもしれません。
参考文献
木村玄司「何を言っても聞かない思春期の我が子が「ちょっと頑張ってみようかな」と言い出すシンプルな3つの秘訣」ロングセラーズ、2018年
大塚隆司「マンガでわかる! 思春期の子をやる気にさせる親のひと言」総合法令出版、2011年
水島広子「10代の子を持つ親が知っておきたいこと」紀伊國屋書店 、2011年
白井先生に相談したい方はこちら
\この記事についてLINEのチャットで質問/