お子さんが知能検査や発達検査などの心理検査を受けたことがある親御さんの中には、その結果を聞いて、普段家で出来ていることが出来ていない、子どもの力が十分に発揮されていないなど感じたことがある人もいることでしょう。
特に就学前~小学校低学年くらいまでの低年齢のお子さんを持つ親御さんの中には、そのように感じる方が一定数いらっしゃいます。
また、心理士など心理検査に携わる業種以外の支援者の中にも、心理検査に懐疑的な考えをお持ちの方もいらっしゃいます。
なぜ、そのような意見があるのでしょうか。
心理検査とは何か、また、なぜ心理検査の結果が子どもの状態を捉えきれないのか、その理由とこのギャップをどのように理解し、橋渡しをするかについて解説します。
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日塔 千裕
公認心理師、臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
目次
心理検査とは?
まずは心理検査とは何か。お子さんが受けることが多い心理検査について、簡単に説明します。
お子さんの場合、田中ビネー知能検査、新版K式発達検査、WISC(ウィスク)-Ⅳが主流となります。そのほか、WPSSI(ウィプシ)やKABC(ケーエ―ビーシー)などもあります。
今、挙げた名称の中では、新版K式発達検査が名称の通り、発達検査に位置付けられ、そのほかはすべて知能検査に位置付けられます。発達検査、知能検査などを総称した名称が心理検査となります。
発達検査と知能検査の違い
子どもが受けることが多い、発達検査と知能検査の違いはなんでしょうか。
発達検査と知能検査は、厳密に言えばもちろん測定されているものが異なりますが、専門家ではない親御さんとしては、お子さんの現時点の発達状態を知るものとして、大きな差はないものとの捉え方で問題はないと考えています。
結果として書面で渡されたり説明されたりする用語としては、発達検査の場合は「DQ」(発達指数;Developmental Quotientの略)、知能検査の場合は「IQ」(知能指数;Intelligence Quotient)と違いがありますし、その算出方法や意味も異なります。
子どもの状態を把握する目的だとほぼ同じで、DQもIQも平均が100であり、同年齢の子どもの集団の中でお子さんの発達レベルがどのような場所に位置しているかを表している数値という理解で問題ないです。
なお、この総合的な結果として算出されて表記されている数字がすべてではないので、お子さんの日頃の様子とこの数字が示す状態とに大きな乖離を感じられる場合には、後半にその理由を説明していますのでご覧ください。
強いて違いを言うと、発達検査の方が、発達段階において、より具体的に何が出来ていて、何がまだクリア出来ていないかという点が明確になりやすいです。
たとえば、手先の操作に関して、積木を積み上げたり、折り紙を折ったり、ビーズに紐を通したりなど実際に検査の中でやってもらって、どの程度、手先・指先の操作が発達できているかを見ていきます。
そのため、「今、この段階まで出来ているから、次はこれが出来るようになることを目標に、こういうことに取り組む機会を日常の中や療育の場面などに取り入れていけるとよいでしょう」とお子さんの発達を促す関わり方の指針がより具体的に把握しやすくなります。
つまり、今「何をすべきか」ということが具体的かつ明確になります。
一方で、知能検査に関しては、発達検査よりも包括的な能力を見ていくものになります。
名称に「知能」と付いている通り、言語能力、空間認識力、情報処理能力、論理的思考力などの認知能力を測定しています。包括的な能力を把握した上で、能力間の差といった凸凹があるかないかを確認し、子どもの得手・不得手を見ていきます。
発達検査では、今「何をすべきか」ということが具体的かつ明確になるとお伝えしましたが、知能検査でもそこは把握することできます。
ただ、知能検査では検査の構成上、発達検査のように一目瞭然の状態ではないため、どう検査を読み解いていくかが検査実施者の力量に委ねられてしまうところが否めません。
だからと言って、発達検査が確実に具体的な関わり方が分かってよいということではありません。
日本では、現在、主として、3~4歳頃までの乳幼児の場合に発達検査、4~5歳以降の幼児・小学生以降は知能検査を実施していることが多いです。
年齢だけで決められるものでもないので、どの検査をするかは医師や検査実施者が判断します。
心理検査そのものを受けることは、専門家の判断に基づいて実施することになります。
基本的には、病院であれば医師によって、相談機関であれば相談の中で要否が判断されます。そのため、親御さんがこの検査を受けたいと言って受けられるものではないのです。
心理検査は、人のごく一部の側面しか測定していない
さて、前提の説明が長くなりましたが、本題である心理検査の結果がどこまで信用できるのかという話に入っていきたいと思います。
まず大前提として、先に述べたように心理検査から把握できるものは人間のごく一部の側面ということを認識しておいてください。
そもそも人間という生き物は、とても高度な能力を持ち、さまざまな能力を複合的に用いて日常生活を送っています。たとえば、言語面で考えてみると、まずは多くの言語的知識を記憶(ストック)しておくことが必要です。
さらに、周りの人から言われた言葉を理解して、自分のストックの言語的知識と照合・検索をかけて、正確な意味の理解をしていきます。
そして、自分が伝えたいことも考え、文章を構成し、表出していきます。
これらを一瞬のうちに行っており、もっと言えば、同時に相手の表情や声のトーンなどを読んでいたり、明確に言語化はされていない文脈を把握しようとしたりなど、言語的な面以外の能力もフル稼働しているはずです。
人間の持つ1つずつの能力を分解して測定することは不可能であり、すべての能力を測定することも不可能なのです。
それが、心理検査から把握できるものは人間のごく一部の側面でしかないということです。これがまず大前提の1つ目です。
心理検査の結果に現れるものは、最上段まで獲得できたスキルのみ
心理検査の大前提の2つ目は、初めての場所、初めての人との間での対応力を見ているということです。
人があるスキルを獲得していくプロセスとしては、まず同じ場面で出来、どんな時でもどの場面で出来るようになると、次に異なる類似の場面でも出来るようになり、さらにどんな場面でも同じスキルを発揮出来るようになるというステップがあります。
たとえば、言葉を覚え始めの赤ちゃんが、「ちょうだい」という言葉と手を出される動作を一緒に見て、持っていたものを目の前に渡すことが出来た。でも、最初は「ちょうだい」の言葉そのものをまだ理解できておらず、言葉+動作で理解している段階です。
これが理解が深まっていくと、手の動作がなく「ちょうだい」と言葉を伝えられただけで、持っているものを渡すことなんだと理解していきます。
さらに言うと、最初の段階では、お母さんが言うと出来るけど、お父さんが言うと出来ないなどの人が変わると出来ないという段階もあります。
「ちょうだい」では出来ても、やってもらいたい行動が同じでも「ください」と言葉が異なると出来ないという段階もあり、「ちょうだい」がいろんな場面で出来るようになってと、「ください」も同じ意味なんだなと理解してきて、言葉が違っても同じ行動が出来るというようにステップが上がっていきます。
成長にはこのようなステップがあり、心理検査では、この最上段の初めての場所、初めての人で発揮できる段階までクリア出来たものが結果として示されている状態です。
そのため、親御さんからみて、「これ、家では出来てるけど?」と思うものがあった場合、まだ言葉や場所、方法などの限定がある段階に位置しており、全場面・どんな時でも発揮できるステップまではまだ至っていないという発達途上段階にいると考えてもらうとよいでしょう。
つまり、発揮できていないとか、出来ていないという判断ではなく、その部分が最も今、お子さんの成長を促すアプローチを行えるとよいスキルということです。
検査に取り組むためのスキルに課題がある子の結果は、あくまで参考値でしかない
そして、最後の前提3つ目です。心理検査を行うにあたって、検査の性質上、検査者の指示に応じる力や集中力が求められます。
心理検査は、乳児の検査を除き、検査者が課題を伝えて、それを実施してもらって、どのように出来るかという反応を見て評価していきます。
場所見知りや人見知りが激しいような、親御さんと離れることへの不安が非常に高いお子さんも同じく、初めての人からの指示に応じるということが難しくなります。
また、さまざまな課題を行うため、最低でも30分はかかり、年齢によっては1時間程度かかります。
その時間、集中するだけの力を持っているかによって、どこまで検査を実施できるかが変わってくることがあります。
このような指示に応じる力や集中力に課題のあるお子さんに関しては、心理検査の結果としては十分に測定できません。
このようなタイプのお子さんに関しては、実施できた課題から算出された評価はあくまで参考値でしかありません。
取り組める内容はそのときの状況やお子さんの気持ちなどによって変わる可能性はありますが、「最低限、このレベルの能力くらいはどんな場面・どんな人との間でも発揮できる可能性はある」という程度の参考値です。
まとめ
心理検査は算出される結果だけでなく、さまざまな課題への反応や検査者とのやり取りなどの行動面も評価して、お子さんへの関わり方や成長を促すアプローチを行うポイントを検討していくことが大切となります。
このようなタイプのお子さんに関しては、特に心理検査の結果として算出された数値で表される能力水準ではなく、行動面・他者とのやり取りに重点を置いた関わり方・サポート方法を考えていくことが大切です。
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