アートの力〜自信と創造力、そして非認知能力を身につける〜

「アート」をツールとして、子どもたち学びを豊かにする取り組みが最近でも増えてきました。

アート活動は、単に色を塗り分けること以上の意味を持ち、子どもたちの認知機能の発達と、創造性の向上に大きな効果を与えます。そして、子どもたちの知的・感情的なソーシャルスキルの非認知能力の獲得に不可欠で、重要な役割も果たします。

本記事では、アート活動が、子どもたちの成長や学びにどのような素敵な効果をもたらすのか、また具体的な取り組み方についてご紹介します。

アートといっても、絵画や音楽、ダンスなど色々な分野がありますが、ここでいう「アート/芸術」とは、”ものづくり”や”表現”、”鑑賞”というような広い意味での芸術とします。

数学や英語などの学校教育での主要科目と比較すると、アートを学びに取り入れることの重要性を見落としがちですが、実際にはアートは子どもたちの成長に不可欠な要素です。

アート活動を行うことで、学業に限らず、子どもたちの全人的な成長(精神的、身体的、社会的、知的、創造的、共同課題などのスキルの発達を含む)も目指すことができるでしょう。

定期的なアートや美術教育が、子どもたちの批判的思考能力や創造性を高めたり※1、アート活動が子どもたちの自己表現と自尊心を向上させることが分かっている研究※2もあるほどで、非認知能力を育む際にも効果的だと考えられています。

アートは、子どもたちに、既にあるものの枠から飛び出して、創造的な考え方や見方を開発していく絶好の機会なのです。

批判的思考能力や革新的な問題解決能力の向上にも直結すると考えられており、「STEAM教育」のようなアートを取り入れた教育方法が教育業界に革新をもたらしているのもこのような背景があるためです。

特に、小学生から中学生の成長段階において、アートは非認知能力を育むツールとして有用です。

非認知能力とは、幸せな人生を歩んでいくために必要なスキルの一部を指します。

非認知能力はこちらの記事で詳しく紹介しています。

みんなと力を合わせたり(協調性)、最後までやり遂げたり(勤勉性)、創造的であったり(開放性)、認知能力以外のスキルを指します。

学業成績の向上、社会的な成功、精神的な健康にも良い影響を与えるとされています。

アートを教育に取り入れることによって非認知能力にどのような影響があるのか、また、この分野での重要な研究についても以下で紹介します。

まず一つ目の研究は、National Endowment for the Artsによって行われ、アート教育がリスクを抱える子どもの学業成績や社会的成果に及ぼす影響を深く掘り下げた研究※3です。

具体的には、アート活動への参加が学業成績の向上、学習意欲の促進、社会的スキルの向上にどのように貢献するかを調査しています。

研究の焦点は、アート活動に参加することで学生が直面する可能性のある様々な社会的、経済的障壁を乗り越え、より良い学業成績と社会的成功を達成できるかどうかでした。研究の結果、アート教育が子どもたちにとって非常に有益であることが示されました。

具体的な発見としては以下の通りです:

学業成績の向上: アートプログラムに参加することで、子どもの学業成績が顕著に向上することが示されました。アートが集中力、創造性、批判的思考能力を高めることにより、学業に対する彼らのアプローチを変える可能性を示しています。

社会的スキルの向上: 芸術活動への参加は、子どもの自尊心、自己表現、チームワークのスキルを向上させることが分かりました。これらのスキルは、学業だけでなく、生涯を通じて彼らの社会的成功にも重要です。

社会への参加: アート教育は、子どもたちがさまざまなコミュニティとより積極的に関わり、ボランティア活動や市民活動に参加する傾向があることを示しました。アートが、子どもにより広い社会への責任感を育むことを示しているのです。

精神衛生: 芸術活動に参加することは、子どもの精神衛生にも良い影響を与えることが示されています。アートを通じて自己表現を行うことで、ストレスや不安を軽減し、全体的な幸福感を高めることができます。

アート教育が学業だけでなく、子どもの精神的、社会的健康にも多大な利益をもたらすことを明らかになりました。

2つめにご紹介する研究は、ジェームズ・S・キャタラルによる研究※4です。約25,000人の中学生を対象にしたデータベースを用いて、アートに深く関わることがどのように学業や社会参加に影響を与えるかを分析しました。

芸術教育に深く関わる子どもが、後の学業成績とコミュニティへの参加において優れた結果を示すこと、特に、低社会経済状態の子どもが「芸術豊かな」学校に通った場合、大学進学、成績、雇用、そして最終学位の水準において、明確に有益であることが示されました。

この研究は、アートが社会的スキルや自己認識の向上に直接関連していることを強調しています。

研究の主な発見は以下の通りです:

学業成績と社会的参加の向上:アートに携わる子どもは、後の人生で学業成績と社会的参加の両方においてより良い成果を示しました。この関係は、社会経済的地位(SES)をコントロールしても維持され、特に低SESの子どもにおいてはその関係が強まる傾向が見られました。

低SESの子どもにとっての有効性:アート教育が豊富な学校に通った低SESの学生は、アート教育が乏しいあるいは無い学校に通った同等の子どもと比較して、大学進学率、成績、雇用状況、最終学位のレベルにおいて顕著な優位性がありました。また、ボランティア活動や政治参加においても積極的に取り組む傾向があることも示されています。

この研究は、学業成功と社会参加という従来の教育の目標を超え、公教育の有効性を測る重要な指標として、公共生活への準備もまた重要であるという点を指摘しています。

アート教育が、学業成績だけでなく、社会的、個人的成果にも長期的にポジティブな影響を与えることが示されています。

教育政策や学校のカリキュラムを設計する際には、アート教育の統合と強化が重要であるとの強いメッセージとなるでしょう。

アートを通じて、子どもたちは自己表現のスキルを学び、複雑な感情を処理する能力を高め、周りの人とのコミュニケーション能力を向上させることができます。

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これらのスキルは、学業における成功だけではなく、人生全般にわたって役立つものだと簡単に想像できると思います。

以上で紹介したように、子どもたちがアートに触れ合うことで様々な効果が期待されますが、大人としては子どもたちに対してどのようなプロセスや環境を用意すべきなのでしょうか。

以下で具体的にご紹介します:

自由な表現を促す

もっとも重要なポイントです。まずは、自由であるということです。

子どもたちが自由にアート作品を創ることは、創造力を刺激するだけでなく、創造性を形にするというなかなか難しく、やりがいのある活動です。

大人から何か指示をしたり、制限をしたりしません。

大人は、安全な環境であるかを確認したり、質問をされたときにガイダンスをするなど最低限のサポートを行うのみです。

子ども自身のアイデアを自由に表現したり、思うように行かなかった時にどうするか、自分自身で考え、試す機会を作りましょう。

多様な素材と技術の活用

デジタルアートなど、様々な形態のアートのツールや表現方法があることをガイダンスすることで、子どもたちの興味を引き、新しい技術を学ぶ機会にもなります。

例えば絵画であれば、筆や絵の具など特定のツールを扱うことが難しかったり環境の制限がある場合でも、タブレットとお絵描きアプリを使えば、欲しい色が手軽に手に入り、簡単に作り変えたりすることもできます。

最初は、それぞれの子どもが快適で、集中でき、取り組みやすいツールと環境であるかという観点も重視しましょう。

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プロセスを重視する

完成した作品だけでなく、制作過程に注目しましょう。

子どもがアート活動をしている一瞬一瞬に、創造性や個性が詰め込まれています。

試行錯誤したり、思うようなものが創れなかった場合でも、子ども自身がそのプロセスを楽しみ、自分でも期待していなかったアウトプットに対してポジティブな見方をできるかどうかが重要です。

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感情表現を促す

アートを通じて感情を表現することで、子どもたちが自己理解を深め、自信を育むことができます。

思うように表現できなかった時でも、その作品に子どもたちなりのストーリーや意味を付けるよう促すことで創造力を養い、客観的に自分自身を見つめることができます。

「この色は何を表しているのかな?」「この形は喜びの感情なのかな?」など、子どもの表現したものを言語化してもらいましょう。

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アートは、創るのも鑑賞するのも、正解がないことが素晴らしいのです。

多くの学校で実施されているような美術の授業のように、先生たちが「今日はこれを描きます。これを使って、こう描きなさい」というような指示はしません。

私たち大人も、子どもの頃に適切なアート教育を受けた人は多く無いと思います。子どもたちの創作活動や鑑賞のプロセスから多くを学び取り、創造性をアップしていきたいですね。

“Every child is an artist. The problem is how to remain an artist once he grows up.
すべての子どもはアーティストです。問題は、大人になってもアーティストでい続ける方法をどう見つけるかです。

Pablo Picasso -パブロ・ピカソ

アートでの自由な遊びは、子どもたちの感覚を刺激し、多面的な能力の発達を助けてくれることがご理解いただけたかと思います。

自由な枠組みで何かを創るというプロセスは、子どもたちにとって最も価値のある学びであり、脳の発達を助け、心の栄養になり、自尊心や創造性までも強化します。

アートを通じて子どもたちが自分自身を表現し、自己認識を深めることもできるのです。
アートは、子どもたちが世界を理解し、自己表現をするための最適なツールの一つなので、ぜひ学びに取り入れてみてください。