いじめ問題で困られている方の相談に対応していると、どのようなケースであっても、相談者される方の多くが共通して悩まれている内容があると感じています。
そこで今回は、そのような共通の悩みを共有し、専門家からの回答や考え方を提示するQ&Aの形式で、いじめ問題にまつわる事柄を分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
この記事を書いた専門家
杉野 亮介
公認心理師、臨床心理士
教育支援センター、スクールカウンセラーとして教育分野で不登校支援等に携わった後、児童福祉施設で心理士として20年間以上従事。児童虐待を受けた子どもや発達凸凹のある子どもたちへの心理的支援、生活のケアを行う。
目次
いじめ相談の現状
私は、子どもや保護者あるいは関係者の方から、いじめ問題に関する相談をお受けする仕事を継続的におこなっています。
以前は直接的にお会いしてお話をうかがうことがほとんでしたが、最近では電話を使ったり、時にはSNSなどを活用して、ご相談をお受けすることもあります。
相談をお受けする形式は変化していますし、子どもを取り巻く環境も変化していますので、相談内容も大きく変化しているのではないかとお考えになられると思います。
もちろん、特にSNSの普及とともに、いじめ問題の内容も変わってきているところもあり、SNSの問題にどう対応するのかについては過去にはなかった問題です。
しかし、その一方で、本質的なところではほとんど変わっていないところもあるように思います。
以前も今も、相談者の方の多くが共通して悩まれている内容というものがあると感じるからです。
そこで、いじめ問題に悩まれている方の多くが共通して悩まれていたり疑問に思われることに対して、私なりの回答や考え方を提示することで、ほんの少しでも多くの方の力になれるのではないかと考えます。
読んでいただければ分かるのですが、この記事で出てきている質問は、特定のケースではなく、私が経験してきたことを踏まえ一般化されたものであるということは、ご了承ください。
こちらの記事でまとまっていますので、合わせてご覧ください。
いじめに関する包括的な内容に関しては、いじめ問題に取り組む際の大前提
Q&A形式に入る前に、私が考える、いじめ問題に取り組む際に大前提となるものについてお伝えさせていただきます。
いじめ問題に取り組むにあたって、最も大切なことは、「いじめ行為を正当化することはできない」「いじめても良い理由は存在しない」という価値観を関係者が共有することです。
この価値観が揺らいでしまうと、被害者を助けることはできないだけではなく、時には被害者を傷つけてしまうこともあります。
とても分かりやすい例が、「いじめられる側にも非があるのではないか」という言い分であり、この言葉は被害者やその家族をひどく傷つけます。
大切なことは、いじめ行為があり、傷ついた子どもが存在しているということであり、そのいじめ行為を正当化する理由は一切存在せず、その行為はただちにやめなければならないのです。
こういう話をした時に、「自分も被害者だったらからやり返した。それもダメなのか」みたいなことを言われることがあります。
被害を受けて傷ついたこと、腹が立って相手にやり返したいという気持ちはよく分かります。
しかし、いじめ行為という方法をとることは間違っているのです。
いじめ行為を部分的にも認めてしまえば、その連鎖は永遠に続いてしまいます。
また、いじめ問題は被害者はもちろん、多くの加害者の心にも傷を残します。
いじめ加害者が親になった時に、自分が過去にしてしまったことが呪縛のように蘇ってくるということもあるのです。
もし、あなたがいじめ問題について相談した時に、相手から「いじめられる側にも非があるのではないか」という主張が出たら、その人はいじめ問題を根本的に理解していない人であり、被害者を守ってくれない可能性が高いので、別の相談相手を探してください。
いじめ問題に関するQ&A
質問1:いじめられる理由
なぜ自分(あるいは自分の子)がいじめられるのかわかりません。何か理由があれば対応もできると思うのですが、心当たりがなくて困っています。
回答:
このような趣旨の質問を、子どもからも保護者からもよくいただきます。この質問は、現在のいじめ問題の本質をついていると言えます。
特に理由もないのに、ある日突然いじめ行為が始まり、わけのわからないまま、いじめられ続けるということが、今のいじめには本当に多いです。
なぜそのようなことが起こるのでしょうか。子どもが大人になる過程で、思春期に代表されるように、その時期は心身ともに不安定な時期であり、「自分だけが劣っている」「自分は変かも」「自分だけが取り残されるのではないか」という不安を多かれ少なかれ抱くものです。
それでもそういう不安を家族や友だちなどに相談して、何とかその危機を乗り越えていくことが理想です。
しかし、そういう不安を相談する相手がいなかったりすると、「あの子は変だけど」「自分は変ではない」という構図を作って安心しようとする動きが生まれます。
不安を抱き、うまく解消できない子どもたち同士でグループ化して、「あの子は変」というレッテルを貼る対象を探します。
自分たちが安心したいだけなので、相手が誰でも構いません。
「あの子がこの前、おかしなことを言っていた」でも良いし、「あの子は男子とばかり話していて目立っている」でも良いし、「あの子はテストの点が一番低かった(あるいは高かった)」でも良いわけです。
とにかく、誰か一人をスケープゴート(身代わり、生贄)にして、その他大勢が安心したいだけだからです。
こういう時に、他の子と少し違っているところがあったり、集団で目立ちがちな、いわゆる「発達障害」の子はターゲットになりやすいわけです。
もちろんそれだけでは終わりません。
このグループ化した子どもたちは、常に不安を抱いているので、「私たちは一緒」「あの子は敵」ということを日々確認しなければ安心できませんので、スケープゴートにした相手に対して、みんなで一緒にいじわるなことを言ったり、嫌がらせをして、「やっぱり自分たちは仲間だ」「私たちは一緒だ」と確認し続けることになります。
そして、いじめられることに明確な理由はありません(少なくとも誰かに対して悪いことをしているわけではないことが多い)ので、言い換えれば、いつ誰がいじめられるかは分かりません。
とにかく誰か一人をターゲットにしたいだけなので、それまで対象にしていた子が学校に来なくなったり、別のグループと仲良くしたりすると、別の対象を見つける必要があり、こうして、いじめの対象がころころと変わることもよくあります。
自分がいじめられないためには、いじめる側に回る必要があり、そのためには、誰かいじめる相手を作り出す必要があるのです。
古典的ないじめ問題の考え方であれば、何らかの対人トラブルがあり、その軋轢からいじめの関係性が生まれて行きます。
しかし、今のいじめ問題の多くは、集団の中から、いじめという現象が起きて、そこに飲み込まれていると言えるでしょう。
そして、上記のような理解がない人は、何か原因を探して、その原因を除去することでいじめ問題を解決しようとします。
しかし、探しても探しても、それらしい原因はわからないことがほとんどです。
必ず原因があるはずだと思い込んでいる人は、そのうちに「いじめられる側にも非があるのではないか」という間違った考えに至ってしまいがちです。
質問2:いじめから抜け出したい
いじめ被害からとにかく抜け出したいのですが、どうすれば良いか分かりません。いじめに勝つためにはどうしたら良いでしょうか。
回答:
まずは、とにかくその場から逃げて、距離をとることです。
上記にもあるように、今のいじめ問題の多くは、理由や原因を探してもあまり意味がありません。
いじめられる側に全く非がないので、被害者だけで解決することはなかなか難しいものになっています。
いじめに勝つというのは何を意味するのかということは難しいのですが、いじめ現象の外に出るということが、いじめに勝つということに近いように思います。
いじめる側は何とかして、被害者に自分たちの相手をしてほしいわけなので、そういう人たちから距離を取って相手にしないということが一つのゴールと考えられます。
学校をしばらく休んだり、別の場所を探すというのも、「負け」ではないのです。
今では区域外通学の制度があったり、フリースクールがあったりして、一つの学校に行き続けなければならないということはありません。
質問3:いじめた相手に仕返ししたい/闘いたい
いじめから距離をとることの重要性はわかりました。しかし、被害者が不利益をこうむるのは納得いきません。仕返ししたいとすら思います。相手と闘うことは本当にダメなのでしょうか?
回答:
最終的には個々人の価値観や、各家庭の養育観にお任せすることにはなりますが、大切なことは、いじめられている当事者が「相手に勝ちたい」とか「仕返ししたい」と思っているのか、ということではないでしょうか。
子どもは「そっとしておいてほしい」「もういいよ」と言っているのに、保護者は納得いかずに戦いたいと言っている、という状況はよくあります。
「そんなんだから、いじめられるんじゃないの」と保護者が怒りの矛先を自分の子どもに向けてしまうという場面にも何度か遭遇しました。
こうなってくると、誰が子どもを苦しめているのかが分からなくなってきます。
私は、いじめ状態から距離をとることは、もちろん短期的に見れば不利益だとは思いますが、子どもの一生という長期的なスパンで見た場合に、それは決して「負け」だとは思えません。
一番大切なのは、子どもの命であり、心身の安全です。
そう考えると、大人のとるべき行動や態度というものはおのずと見えてくるのではないでしょうか。
質問4:いじめが原因で学校を休む子どもを受け入れたい
いじめが原因で、子どもが学校を休んでいます。子どもの話を聞いても、休むのも仕方ないなと受け入れることにしました。しかし、子どもに毎日毎日家にいられると、親もイライラしてきました。子どもを受け入れないといけないと分かっていても我慢の限界です。こんな自分が嫌になります。
回答:
これはいじめの問題だけではなく、不登校の問題として考えることもできますが、子どもが学校を休み始めた頃は、親は短期決戦だと思って、今はとにかく子どもを大切にしてあげようと思って、仕事を休んだり、子どもの要求にできるだけ答えてあげようと、色々としてあげます。
しかし、残念ながら、多くの場合は長期戦になります。
そうなってくると、親もいつまでも仕事を休むわけにもいきませんし、家でダラダラしているように見える子どもを見るとイライラしてくるのも自然なことです。
子どもに無関心であればイライラすることすらありません。
子どもと向き合っているからこそ、イライラしてくるのです。
こういう時に、親は子どもにどう声を掛けたらよいのかが分からなくて、子どもも親の様子は察知しているけれどどうしたら良いのかが分からなくて、家にいるけれど、心身を休ませることができていないということになりがちです。
子どもが家で過ごすようになるのであれば、家で過ごすなりの最低限のルールを親子で共有することをお勧めしています。
例えば、午前中は自分の部屋で過ごしてほしい(勉強してもいいし、しなくても良い)、夕食は家族と一緒に食べてほしい、買い物は手伝ってほしい、等々。
その家庭の状況にあわせて、親としてはこうしてほしいと思っているということを伝え、子どもの意見も聞いて、決めてみてください。
可能であれば、「この家事はあなたに任せる」ということがあっても良いでしょう。
子どもも子どもなりに肩身が狭い思いをしていますので、何かお手伝いでもして「ありがとう」と言われた方が、安心して家にいられるでしょう。
また、仕事に限らず、趣味なども、親は親の生活を継続することはとても大切です。
「あなたのために仕事をやめた」「趣味もやらない」と言われても、うれしさもありつつ、子どもには負担が大きすぎます。
親は親、子どもは子ども、ここの境界線は、どんな時でも保っておく必要があります。
最も良くないのは、子どもが傷ついたからと言って、何でもかんでも子どもの言い分を受け入れてしまうことです。
親として、人として、それは受け入れられないというところは明確にして、保っておきましょう。
質問5:いじめている相手の親と話したい
子どもの話を聞くと、ある特定の子から嫌がらせを受けているようです。相手の子の保護者とは面識があるのですが、直接的に話をした方が良いでしょうか?
回答:
こういう相談は、相手の親とは比較的仲が良いので話せばわかってくれそうというレベルから、相手の親に何か言ってやらないと気が済まないというレベルまであります。
共通しているのは、保護者同士のやりとりで問題を解決することは非常に困難であるので、避けた方が良いということです。
学校などの第三者を入れて、話し合うことを基本的にはおすすめしています。
保護者同士となると、いくら穏やかに話し合っていたとしても、それぞれの価値観が異なってしまえば、価値観の押し付け合いになるだけで、「相手はわかってくれない」と双方のわだかまりのみが残りやすいです。
また、どれだけ話し合ったとしても、結論がなく、一向に解決しないということにもなりがちです。
質問6:いじめを学校に話したい/話が通じない
いじめ問題を学校に相談しました。しかし、担任の先生の話に納得がいきません。教頭先生や校長先生にも話をしたいと思うのですが、「モンペ(モンスターペアレント)」と思われないか不安です。
回答:
まず前半部の担任の先生の対応が、ということに関しては、その対応がその先生の個人プレーなのか、組織としての考え方に基づいたものなのかを聞いてみることをお勧めします。
「先生がこうおっしゃいましたが、それは先生個人のお考えですか?それとも、学校としての方針と考えてもよろしいのでしょうか?」という感じです。
いじめ問題は学校全体で取り組んでいただくものですが、残念ながら、いじめ問題が起きたのは担任の指導力不足という思い込みから、自分のクラスで起きた問題を学校で共有できていない先生もいらっしゃいます。
そのため、できる限り、複数の先生に同席してもらったり、話を聞いてもらうことが望ましいと言えます。
後半の「モンペと思われたら・・・」という話は、本当によく聞きます。
モンスターペアレントというのは、ご存知の通り、不当な要求をする保護者のことですが、いじめ問題(あるいはいじめかもしれない問題)を学校に相談することは、保護者として適切なことであるので、まったく心配する必要はありません。
また、これは不本意かもしれませんが、私個人は、自分の子どもを守ることができるのであれば、自分がモンスターペアレントと呼ばれるぐらいは受け入れても良いかなとも思っています。
周りからどう言われようと、思われようと、それは一時的なものですが、子どもの傷つきは長期間にわたって残ってしまうことがあるのです。
終わりに
現在のいじめは、事故のような側面があって、いつ、どこで、誰が被害者になるのかが分かりません。
だからこそ、いじめ問題に遭遇した時の心構えのようなものを少しでも知っておいてもらえたら、何らかの助けになるのではないかと思います。
私なりの経験の中から、皆さんのお役に立てそうなものを提示しましたが、こういう時はどうしたら良いのか知りたい等のご意見やご質問がございましたら、教えていただけると嬉しいです。
こちら。
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