WISC結果の活かし方|家庭でできる工夫を専門家が解説

検査結果の説明を受けたあと、その場で「具体的には何をすればいいんでしょうか」と聞けた親御さんはいらっしゃいますか?
その場では聞けず、帰り道に、ふと「結局どうすれば?」という問いが浮かんでくる、または日常に戻ってから「こんな場面ではどうしたらいいんだろう」と別の疑問が湧いてくる方が多いかもしれません。
この記事では、そんな方のために、WISC-Vなどの知能検査の結果を日常生活の具体的なステップに落とし込むための工夫をお伝えします。
もちろん、すべてのお子さんにぴったりあてはまる答えは存在しません。
数字を手がかりに「わが子には何が必要か」を考えるための視点として、少しでも多くの方の参考になるよう、専門家が具体的にご紹介します。
この記事を書いた専門家

日塔 千裕 ひとう ちひろ
公認心理師・臨床心理士
発達障害や発達に心配がある子どもへの心理検査や子どもの指導、親御さん向け講座などを通して、親子をサポート。学校問題・親子関係など幅広い相談を受け、1万件を超える相談に応じる。
「取扱説明書」という発想:強みと配慮ポイントを整理する
検査結果を「診断」として受け取ると、どうしてもネガティブな読み方になるかもしれません。
「ここが低い」「ここが弱い」という見方に引っ張られてしまうからです。
でも、検査結果は診断書ではなく、「この子の頭の使い方はこういう特徴がある」という取扱説明書です。
検査結果を上手に活用できるように、以下の2つのリストを手元に作ってみることをお勧めします。
「強みリスト」
どの指標が高いか、どんな場面で力を発揮しやすいか。言語理解が高い、推理力が高い、空間認識が得意、などお子さんの強みをまとめたリストです。
「配慮が必要な場面リスト」
どの指標に負荷がかかりやすいか、どんな場面で困りやすいか。書くことに時間がかかる、時間制限がある場面が苦手、複数の指示を同時に処理するのが難しい、などをまとめたリストです。
「配慮が必要な場面」とは
なお、「配慮が必要な場面」を考えるうえで、1つ押さえておきたい視点があります。
その指標が同年齢集団と比べても低い場合と、同年齢集団と比べると平均的だけれど本人の中で相対的に低い場合とでは、アプローチの方向が変わります。
同年齢集団と比べて低い場合は、「何があればできるか」という視点で、周囲からの配慮や環境調整を考えることが中心になります。
本人の努力だけでカバーするには限界があるため、外側の仕組みを整えることが優先です。
同年齢集団と比べると年齢相応の力はあるが本人の中で相対的に低い場合は、本人が自分の特性を理解したうえで、「自分にはどんな工夫が合うか」を一緒に考えていくアプローチが有効です。
周囲からは困りごとが見えにくい分、まず子ども自身が「苦手と感じる場面がある」ということを認識できるようにサポートすることが出発点になります。
この2つのリストは、学校への共有や新しく別の専門家と相談する際にも役立ちます。
「この子はこういう子です」という説明がしやすくなりますし、親御さん自身の頭の中も、整理されていくと思うので試してみてください。
強みを育てる日常の工夫
苦手となる力を上げる、つまり、苦手の克服に目が向きがちですが、苦手を強みでカバーする、強みを伸ばすという視点も大切になります。
強みを発揮できる場面が増えることで、自己肯定感が育ち、苦手な場面への耐性も自然と高まっていきます。
言語理解が高い子
議論・読書・言葉遊びを日常に組み込むことがポイントになります。
家族での対話の中で「なぜそう思うの?」と理由を言葉にする機会をつくったり、本は興味の向く分野を自由に選ばせるなど、「言葉で考える」機会をたくさん作ってください。
流動性推理が高い子
「なぜ?」を歓迎しましょう。また、答えを急がず、一緒に考えるプロセスを楽しむことが重要です。
試行錯誤できる遊びや実験、パズル、謎解きなど、法則・パターンを自分で発見できる体験がポイントです。
視空間が高い子
空間・造形・設計系の活動が大切です。
ブロック、工作、絵、地図づくり、建築系のゲームなどが考えられます。
「つくる」「組み立てる」「設計する」ことへの欲求を満たしてあげるようにしてください。
凸凹と付き合う日常の工夫
強みを伸ばす一方で、負荷がかかりやすい場面への配慮も必要です。
ここでの工夫は「苦手を克服させる」ためではなく、「消耗を減らす」ための工夫となります。
ワーキングメモリーが低い子
頭の中の作業台が狭い分、外部に記憶を補う仕組みをつくることが有効です。
- やることリストの見える化
- ホワイトボードやメモの活用
- 口頭だけでなく文字や図で指示を伝える
「忘れた」を責めるのではなく、「忘れないための仕組み」を一緒につくるという発想がポイントになります。
処理速度が低い子
時間的な余裕を確保することが最も重要です。
「速さより正確さ」を認める声かけを意識してください。例えば、「丁寧にやれているね」「じっくり考えられているね」などです。
時間制限のある場面では、事前に「時間がかかっても大丈夫」と伝えるだけで、パフォーマンスが変わることがあります。
指標間の差が大きい子
「できること」と「できないこと」を分けて評価することがポイントです。
得意な場面での力を認め、苦手な場面では「難しい場面だったね」と寄り添いましょう。
同じ子どもの中に、突出した得意と著しい苦手が共存していることを、親御さん自身が腑に落として関わることが、まず第1歩です。
学校・家庭・専門家での連携方法
学校での困りごとがある場合、学校での生活にお子さんがしんどさを抱えている場合、検査結果を学校に伝えることは、大切な一歩ですよね。
ただ、「WISCの結果です」と数値を渡すだけでは、先生にとって使いにくい情報になってしまうことがあります。
大切なのは「日常の言葉に翻訳して伝えること」です。
たとえば、「言語理解が高くて処理速度が低い」という結果を、「言葉での説明はよく理解できますが、書く作業には時間がかかります。板書の書き写しより、内容の理解を優先して見ていただけると助かります」という形で伝えるなどです。
こうすることで、先生が具体的な配慮をしやすくなります。
先生に伝えるポイントは、「できること」と「難しいこと」を具体的な場面とセットで伝えることです。
「どんな場面で力を発揮しやすいか」「どんな場面でつまずきやすいか」を、日常のエピソードと一緒に共有できると、学校側も動きやすくなります。
検査を受けた機関にもよりますが、親御さんに渡された報告書とは別に、学校向けの報告書を作成していただける場合もあります(ただし、別途費用が発生する可能性はありますので、直接、検査を受けた機関に確認してみてください)。
親御さんが自分で説明するのは難しいと感じる場合には、まず学校の先生が気になっていることを確認。そして、それを検査を受けた機関の専門家に伝えて学校向けの報告書を作成してもらう、という方法もあります。
その報告書を学校に提出することで、学校で検討いただきたい対応を伝えやすくなり、親御さんが全部を翻訳して伝える負担を減らすことにはつながるかもしれません。
専門家との継続的な関わりも、できる範囲で大切にしてください。
検査は受けて終わりではありません。
検査自体は頻繁に受ける必要があるものではありませんが、子どもは成長します。
子どもの成長・環境の変化によって、困りごとも変化します。
定期的に相談できる専門家がいることは、親御さんにとっても大きな安心になることでしょう。
子ども自身の「取扱説明書」としても
検査結果を活かすのは、親御さんだけではありません。
年齢に応じて、子ども自身が自分の特性を理解できるようにサポートすることも大切です。
「自分はこういう場面が得意」「こういう場面は負荷がかかりやすい」という自己認識が育つことで、困ったときに助けを求める力や、自分に合った環境を選んでいく力につながります。
ただし、検査結果の報告書をそのままお子さんに見せることはお勧めしません。
数値が一人歩きしてしまうリスクや、子ども自身が数字に縛られてしまうリスク、そして本当に理解してほしい得手・不得手の部分が伝わりにくくなる可能性があるからです。
特に小学生の頃は、数値を見せることはお勧めしません。あくまで日常生活に即した言葉で伝えることが基本です。
「あなたは言葉で考えるのがすごく得意だよ」
「書くのはちょっと時間がかかるけど、それはそういう頭の使い方をしているからだよ」
「こんなところが苦手だけど、こういうことがあればできるよね」
そういったシンプルな言葉で十分です。
子どもの日常の場面と結びつけながら、具体的に伝えることを意識してください。
中学生以降は、子ども自身の自己理解の深まりや、困り感の程度によって、数値も含めて説明を行う場合もあります。
ただし、これは慎重に検討が必要です。
数値を伝える場合も、小学生と同様に日常生活に即した内容を伝えることは必須です。
「この数字がこういう意味で、だからこういう場面が苦手なんだよ」という形で、数値が日常と切り離されないよう丁寧に説明することが大切です。
大切なのは、苦手を「欠点」としてではなく、「特性」として伝えること。「できないのではなく、そういう特徴がある」という枠組みで自分を理解できた子どもは、自己肯定感を保ちながら、自分なりの工夫を考えられるようになっていきます。
「自分はこういう人間だ」という理解は、長い人生の中で何度もその子を助けてくれます。
数字はゴールではなくスタート地点
WISC-Vの数字が何を意味するのか、どう読むのか、日常にどう活かすのかをお伝えしてきました。
数字はゴールではありません。スタート地点です。
「IQ130」という数字は、それだけでは何も教えてくれないですが、その裏にある知能の特徴を読み解き、わが子の強みと困りごとを理解して初めて「この子には何が必要か」という問いに向き合えるようになります。
強みリストを作ってみる、先生に1つ伝えてみる、「今日はどんな場面がしんどかった?」と聞いてみる。
検査結果を受け取ってから大切なのはこうした一歩だと思います。
この記事が、その一助になれば幸いです。
参考文献
- Gilman, B. J., Peters, D. B., Silverman, L. K., Lovecky, D. V., Kearney, K., Rogers, K. B., Amend, E. R., & Rimm, S. B. (2026) Use of the WISC-V for gifted and twice exceptional identification: Strength-based indexes address discrepant scoring and uninterpretable Full Scale IQs. SAGE Open, 16(1).
- Lovecky, D. V. (2023) Different Minds: Gifted Children with ADHD, ASD, and Other Dual Exceptionalities (2nd ed.). Jessica Kingsley Publishers.
- National Association for Gifted Children (2018) Use of the WISC-V for Gifted and Twice Exceptional Identification (Position Statement, Approved August 2018).
- 文部科学省(2021年12月17日)「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 論点整理」
- 文部科学省(2022年9月26日)「同 審議のまとめ〜多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として〜」

